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フィリスは目の前に広がる光景に、思わず顔をしかめると呟く。
地下への階段をおりると、小さな部屋にたどり着いた。部屋は壁も床も、天井までもが、赤黒い色に塗りつぶされている。しかもその壁や床には、同じように赤黒い管のようなものが枝分かれして張り付いている。その管の太さは様々で、枝分かれした先のほうは細くなっている。まるで浮き上がった血管のように見えた。
唯一、階段の右手側だけは壁になっておらず、屋敷を分断した壁と似た材質でできた格子がはまっている。格子の向こうにも、似たような小部屋があり、やはり階段があるのが見えた。向こう側に振り分けられた面子が気付けば、そのうち階段を下りてくるだろう。
「何だか蒸し暑いですね」
イリーナはあたりを見ながら口をへの字にする。
「そのうえ、この壁なんか濡れてないか?」
ヒースは壁を注意深く観察してから、首をかしげる。
「うかつに触らないほうがいいぞ。……聞いてるか、イリーナ」
「聞いてますよ」
イリーナがむっとした声で返事をしたとき、格子の向こう側から声が聞こえた。見ていると、ランタンをもったノリスを先頭に、向こう側になってしまった仲間たちが降りてくる。
「にゅ! 姉ちゃん!」
パラサの声に、全員が格子越しにこちらを見た。
「無事だったにゅ?」
「ええ、おかげさまで。パラサさんたちも、ご無事でしたか?」
「もちろんだにゅ」
「それにしても、……その帽子は何事ですか?」
クレアの視線が、パラサの帽子に注がれる。彼の帽子は今、コモンルーンのライトのせいで灯り代わりになっていた。
「地下は明るいほうがいいっしょ? それでライト使ったにゅ。ランタン落っことして火事になったら困るから。……姉ちゃんたちにもライトとなえようか?」
「ランタンがありますが……おねがいしましょうか?」
クレアが振り返る。
「そうですね。じゃあ、ノリスの鉢巻にでも」
「あ、便利そう」
グイズノーの返答に、指名されたノリスが笑顔になる。
「もしモンスターがいたら、灯りでめだってうっかり囮、なんてならないかな」
エキューが苦笑する。パラサが振り返ってスイフリーを見た。
「はとこ……まさか?」
スイフリーは物凄い勢いで視線をそらし、返事をしない。
「はーとーこー! 返事するにゅ!」
「普通に戦えば避ける、魔法も怖くない、その上盗賊で先頭を歩く、囮以外の何だと言うのだ」
「はとこ、心が真っ黒すぎ……」
「スイフリーさん、あとで話し合いをしましょう」
パラサの呟きと、クレアの宣言が重なる。
「合流できたら話くらいは聞いてやろう」
スイフリーはそういうと、格子越しにガルガドを見る。
「とりあえず、先に情報交換だけはしておこうじゃないか」
「生贄……」
ガルガドたちからもたらされた言葉に、マウナはめまいを感じた。もしかしたら出られない、というのは絵から類推して心構えをしてはあったが、その理由が生贄だったとは。
「外に出られないのかあ」
レジィナは思わず顔を天井に向ける。生贄になれば、もちろん外には出られないだろうが、実際言葉だけの時点ではただの脅しだと思っていた部分もあったから、そういう絵の存在は裏づけがついたようで嫌な感じだ。
「この先に生贄を必要とする何かがいるってことになるのか?」
ヒースはため息混じりに言うと、小部屋から唯一繋がっている細い通路を見た。通路の奥のほうは暗くてどうなっているのか分からないが、見える範囲の壁などは赤黒く、妙な管も張り付いている。ずっとデザインは変わらないのだろう。
「そうかもしれんし、そうでもないかもしれない」
アーチボルトが答える。
「屋敷のからくりは自動的に発動するもので、もう打ち捨てられた場所、という可能性もないわけではない。その場合は、何も奥にはいないだろう。もちろん、からくりを動かした何者かがいる、という可能性もある」
「ただ、生贄であるわたしたちは勝手に認識され、解除は所定の方法と言うのだろう? 全自動の可能性のほうが高いかも知れんな」
スイフリーはため息をつく。
「でられますかね?」
「そこまでは分からない。とりあえず道はあるようだから、進むしかなかろう。壁や床がなにやら濡れているから、それに注意しつつお互い進もう、健闘を祈る」
二組の冒険者たちはそれぞれの小部屋から通じる通路を進み始めた。
■大丈夫、あと3分は金曜日!(笑)
遅れてごめん! 残念無念!(笑)いやだからまだ金曜日!
というわけで、暫く地下室探検が続きますよー。
べつになんてことない地下室ですよー。
期待しちゃだめですよー。
部屋に入ってきたエルフの表情を見て、彼はとっさに机の上の本に目線を戻す。エルフの表情はかなり怒りに満ちていて、不機嫌なことは容易に想像がついた。
件のエルフは、別に感情に乏しいタイプではない。それは知っている。が、ここまであからさまに怒りを見せるのは、それほどあることでもない。
基本的に、仲間のエルフはその種族の通り、温厚なほうである。ただ、「変化を好まない」というところから大きく外れているため、エルフらしさを感じないだけだ。事実、コレまでエルフが心底怒っていたのを見たのは、2回しかない。
彼は異種族が好きではないが、エルフの賢さを認めている。エルフの判断ミスで痛い目にあったことが無いとは言わないが、その判断に助けられたことのほうが圧倒的に多い。それに、彼とエルフの知的好奇心方面の好みは似ていたので、そういう意味では、仲間内で一番信頼しているといえる。
そのエルフのかなりの不機嫌な顔に、彼は暫らく最近の自分の行動を振り返ってみる。怒らせるようなことがあっただろうか。何か非があったら即座に謝ろう。このエルフは敵に回さないほうがいい。
というわけで、暫らく考えてみたがエルフの怒りに触れるようなことは何も心当たりがない。
そしてエルフのほうは無言のまま、彼の机の前にある、仲間内からは大層評価の低い、彼お気に入りのソファに座ったままである。ただ、座っているだけでも不機嫌な空気というものが彼の元までひしひしと伝わってきているので、ただ事ではないのだろう。
「アーチー」
いつもに増して低いエルフの声に、彼は内心動揺しながらもなんとか平然としたつもりの顔を向ける。実際自分がどんな顔をしているか分かったものではないのだが、ともかく、平然としているつもりだ。
「なんだ」
「あの女は何とかならんのか」
その怒りの声に、彼は暫らく考える。この城に居る女性は少ない。フィリスと、レジィナと、クレア。それからリズとその母親。とはいえ、後者二人がエルフの怒りに触れるようなことをすることは、多分無いだろう。それにどちらかと言えば、エルフのほうがリズを苦手としている。
「誰のことだ」
「お前に話に来てるんだ」
苦々しい声でエルフは告げる。フィリスだ、と内心思ったがそれは口にしない。もしかしたらエルフのこの怒りが演技で、彼女の差し金なのかもしれない。真っ先に名前を挙げた、ということを言質に取られ何かされるとか、何かを同意する羽目に陥るかもしれない。そもそもこのエルフ、あの女の味方をすることがある。
「スイフリーにしては歯切れの悪い切り返しだな」
彼の言葉に、エルフが勢い良く立ち上がった。ソファだったからよかったものの、普通の椅子であれば多分椅子はけたたましい音を立てて倒れていたことだろう。
そのままエルフは彼の前まで歩いてくると、ばん、と机を両手でたたく。
「フィリスだ!」
「ああ」
今更思い至った、というような声を出す。エルフの怒りはどうやら本物らしい。ここまで余裕の無いエルフを見るのはそうあることではない。彼は現在、自分にアドバンテージがあることに気付き、内心ほくそ笑む。これもそうそうある話ではない。
「で? フィリスが何かしたのか?」
「お前なんでもいいから今すぐフィリスのところへ行って、結婚しようだの好きだだのそういう台詞の一つも吐いてこい!」
彼はエルフのあまりの発言に、訝しげな目を向ける。
「スイフリー、自分が今何を口走っているか理解してるか? もしかしてフィリスに何か弱みでも握られたのか? 君らしくないじゃないか」
「喧しい」
にやりと笑って見せると、エルフは低い声でそれだけ言うと彼をにらみつけた。
そういう反応は彼女で慣れているので、今更うろたえたりはしない。エルフとしては珍しいな、と思う程度だ。
「ともかく、フィリスが何か君を怒らせるようなことをしたのであれば、わたしではなく本人に掛け合うのが筋というものではないかね?」
びし、と指を突きつけ言うと、彼は再び本に目を落とす。話はコレで終わり、でいいはずだ。
「そもそもお前がはっきりしないのが悪いんじゃないか」
エルフは恐ろしく低い声で、ゆっくりとした口調で話しだす。
「?」
彼はエルフを見上げる。エルフが小柄とはいえ、こちらは椅子に座っているので見上げることになるのだ。
「お前が、フィリスのことを宙ぶらりんにして放っておくから、奴の標的がこっちに変わったんだ」
「おまえ、それは逆恨みってやつだ」
彼は呆れた声を出す。少し前、彼女がエルフと女神官のことについてうだうだと意見を述べていったのを思い出す。そういうことに関してはピカイチの行動力を持つ彼女が、実際に動き始めただけなのだろう。だとすれば、下手に手を出さないほうが賢明だ。
「お前がさっさとまとまってくれれば、周りをみている意味が消えるだろう?」
エルフが、少し懇願口調になってきた。ちょっとコレは面白いかもしれない。
「そうか? フィリスは自分他人関係なく恋愛話が好きだから、自分がまとまったからといって周囲に向ける目があまくなるとは思えない。むしろ自分がまとまってしまったらこの幸福を他人も享受すべきだと考え、スイフリーへの攻撃はますます強まるのではないだろうか? わたしのためにも、君のためにも、この話題はつつかないに越したことは無いと思うが」
エルフは答えない。もしかしたら「それもそうかも」程度には感じたのかもしれない。
「それに、少し前、スイフリー自身言ったではないか」
「何を」
「わたしに、フィリスに捨てられないでよかったな、と。アレはどういう意味だったのだ? 基本的に男女が恋愛でくっつくのが幸せだという発言だろう? だとしたら、君がまとまることも、君自身が肯定しないとおかしいじゃないか」
エルフの顔つきがすーっと冷めていく。怒りを通り越して呆れたのか、それとも怒りが突き抜けて表情がついていかなくなったのか、どちらなのか見極めるのは困難だ。
「あのな」
エルフの声はどこまでもフラットで、感情をうかがい知ることはできなかった。
「それは同種族の間でのみ言えることであって、現在、フィリスが目論むわたしの状況には全く当てはまらない」
「お前誰とくっつけられそうになってるんだ?」
「分かってることをわざわざ聞くな」
確かに分かっている。彼女は女神官の名前をストレートに挙げていた。
ただ、彼は本当に女神官がこのエルフを好いているのかどうか、未だによくわからないのだが。
「スイフリー」
声掛けにエルフは彼の顔を見る。鋭い目にはっきりと不信感を募らせて。
「君自身が答えを出すべき問題だろう? わたしとフィリスの問題に摩り替えても、意味はない」
エルフ自身、そのくらいは分かっているのだろう、と彼は思う。
自分が、彼女との最終的結論をなんとなく理解しつつも未だ受け入れられないのと同じで。
「わたしは」
エルフがぼそりと呟く。
「わたし自身が人間であるか、あれがエルフであれば、多分アーチーほどには先送りしない」
彼は意外な返答に思わずエルフの顔をまじまじと見る。エルフは真顔で、別に茶化してそう言ったのではない、と直感的に理解する。
「わたしが人なら、残っている時間はせいぜい数十年。だとしたらそろそろ急がなければ行けない時期だろう。そしてあれがエルフなら、とりあえず将来を視野に入れて、互いに選別時代に入っても問題は無い。百年ほど付き合えば、その後も上手くいくかどうかの見極めはできる。もしダメでもまだ次に余裕はある。だから問題は無い。もしくは」
「もしくは?」
立て続けに予想外の言葉が返ってきて、彼は自分の脳内がぐるぐる渦巻いているような錯覚に陥りながらも、エルフに先を促す。結論がどこへ行き着くのか、ただそれが知りたかった。
「もしくはわたしがもう年老いたエルフなら。……もしかしたら悩まないのかもしれないな」
「どういう意味で?」
「秘密だ」
エルフが一瞬だけ悲しそうな顔をしたような気がして、彼は暫らく黙る。
エルフのほうも黙ったので、部屋の中には沈黙だけが存在した。
と、唐突にエルフが口を開く。
「フィリスはいい奴だ。お前認めてやってもいいんじゃないか?」
「クレアさんだって、いい娘さんだ」
「言っただろう、種族が違うんだ。確かにエルフと人はその壁を越えられるが、越えたところでいいことなんて全く無い」
「決定事項か? それとも言い訳か?」
「さあな? ただ意地を張ってるだけのお前よりは深刻ではある」
「失礼な」
彼は顔を引きつらせ、エルフを見る。エルフのほうは怒りは収まったのだろうが、今度は酷く疲れた顔をしていた。
「互いに不幸になる選択など、ナンセンスだろう?」
それだけ言うと、エルフは部屋を出て行ってしまった。
取り残されて暫らく。
彼は漸く「ああ」と思い至る。
つまりエルフは。
結末を認めるのが怖いのだ。
到達するのが、怖いのだ。
自分と同じで。
■火曜日はラブシックの日。金曜日は泡ぽこの日。
いつから? とりあえず今月だけ。先月は違った。来月は分からない。
ということで、日も変わって火曜日になったのでアップしておきます。
ますますこの話が何処へ行きたいのか、自分が一番よくわからない、という状況になっております。
まー、なるよーになるんじゃないですかねー(無責任発言)
コレまでだってそうだったさ。
あ、ところでアリアンロッドルージュの件ですが、脳内で昨日色々文章が思いついたのは事実です。
多分書くことは出来るでしょう。
しかし4巻を読んで今の妄想が正しいのかどうか、それを見極めてからじゃないとにんともかんとも。
ところでルールを全然知らんのだが。アリアンロッド係に頼んでみるかなあ。GMやってくれーって。
アリアンロッド・リプレイ・ルージュを読みました。
お勧めしてくださったかた、ありがとうございます。
まだ1巻だけですけどね。コレは二次創作がしやすそうな気がしました。
本気ではまったら、やりかねません。
これまでそういう人生を送ってきてますのでね、自分の半月後がどうなってるか分かったものじゃ有りません(笑)
はまったら行動早いほうなのです。
後先考えないのです。
あ、これは趣味方面だけの性質ですけどね。
つまり何が言いたいって、
本当にルージュの二次が入る場合、ここは「SW別館」から「TRPG別館」に名前が変更になります(笑)
ということですよ。
■ところで。
へっぽこさんたち、全然かいてなくてすみません。泡ぽことは別に。
たとえば泡さんたちはラブシックとか、単発かいてるじゃないですか。
へっぽこ、書かずにいてごめんなさい。
一度謝っておきたかったので(たまにへっぽこさんたちで検索にひっかかってまして、大層申し訳ない気分になります)
でもねー、へっぽこさんたちは、泡さんたちに比べて書きにくいのです。
泡さんたちは、リプレイが4冊。番外リプレイが1本。小説1冊。しかも自分がはまり込んだカプリングあり。
物語に隙間が一杯あって、結構なんでもやれるイメージなのです。
たとえば、リプレイ最終話(連載のほう)は、アノスのお城に定住しはじめて2ヶ月は何にもしてないんです。(2ヶ月くらいたったある日、人魚がやってくる)
ここはなんでも妄想しほうだいなわけです。
ところがへっぽこさんたちは、リプレイだけで10冊。短編長編小説がかなり。
CDがあって、しかも小説は未だ連続中。
あのパーティーにはカップリングはいらないので(仲良しコンビとか、いたずら組みとかは大歓迎)
どうしても、書く隙間が見つけられません。
やってる方々はすごいなあーと。
だって一年あまりの冒険でアレだけ本数があるっていうことはー
1ヶ月にどんだけ冒険してるんだーってことでー
なんか全然隙がみつかんないー。
日常とかの妄想もねー、別にする必要が無いでしょう。
原作でちゃんとやってくれてるから(生活感ばっちりだものあのリプレイ)
うーん、なにか思いっきりはじけられそうな何かを見つけられないかなー。
もっかい読み直せばなにか思いつくかなー。
とか、そんな感じです。
以上、つぶやき。
「はとこはズルイにゅ」
木の上から降ってきた声に、エルフは舌打ちをする。
「何が」
「だって、さっきの、姉ちゃんに結論全部任せるってことっしょ?」
エルフは目を開けると、木を見上げた。グラスランナーの居場所はすぐに確認できる。グラスランナーが本気で隠れているわけではなかったし、エルフにとって森の木々は友達だったからだ。
「盗み聞きは趣味が悪いぞ」
「盗み聞きなんてしてないにゅ」
大して気を悪くした風でもなく、グラスランナーは答える。確かにエルフはグラスランナーが頭上に居ることを知っていた。そういう意味では、盗み聞きとは言わないかもしれない。かといって、聞かせたいわけでもなかったが。
「姉ちゃんが、はとこのコト好きだって結論付けたらどうするん?」
「言っただろう、断るさ」
「さっき認識しないうちに断っちゃってたにゅ」
「そうだな」
「んー」
グラスランナーは木の枝に二つ折りになるようにぶら下がり、顔をエルフに向ける。
「はとこは臆病だから、姉ちゃんが認識しないうちに芽を摘み取っちゃいたいのかもしれないけどさ」
「誰が臆病だ」
「確かに認識してないっていうのは無いのと同じだから、最良だと思ったのかもしれないけどー。だったら考えろとか言わんでほしかったにゅ」
エルフはグラスランナーの顔をまじまじと見る。
「ではどうするべきだったというのだ?」
「それははとこと姉ちゃんの問題だから、俺が何を言ってもしょうがないにゅ」
「お前何が言いたいんだ」
「んー」
グラスランナーはまた考えるような声をだし、それから器用に木の枝に寝そべる。
「俺はねえ、姉ちゃんのことが本当に好きなんにゅ」
「知ってる」
グラスランナーの、神官への熱の入れようといったら、それはもう、物凄いものがある。どうやら、グラスランナー自身はもっと手足が短いほうが本当は好みらしいのだが(種族的に考えて、当然かもしれないが)それをも凌駕する何かがあの神官にはあるらしい。エルフには全くそれが何だか分からないのだが。
「だから俺はさあ、姉ちゃんには幸せになってほしいにゅ」
「殊勝なことだ」
「だから姉ちゃんが、本当にはとこが好きだって結論だしたら、ちゃんとはとこには向き合ってほしいなあ、と思うのにゅ」
「だから、結論としては断るといってるではないか。クレアに幸せになってほしいんだろう? だとしたら、エルフであるわたしを選択するのは進められない」
「はとこのその理屈も分からないことは無いにゅ。でも、俺にとっての答えとしては、ぜんぜん認めらんない」
少しグラスランナーの声が低くなる。グラスランナーがそれなりに腹を立てているのだ、とエルフは理解した。
「ではどうしろというのだ? わたしに主義主張を曲げて恋人になれとでも言うのか? 人生に付き合ったとしてもせいぜい数十年、エルフには短いからな」
「そんな決着の付け方したら、俺ははとこの首を掻っ切る」
「クレアに幸せになってほしいんだろう?」
「だからにゅ」
エルフはそこで理解不能という意思表示のつもりで、顔を顰めて見せた。グラスランナーはそんなエルフを見て、わざとらしいため息をつく。
「はとこが、エルフとして人間の姉ちゃんを評価する今の思考を捨てて、スイフリーって個人としてクレア姉ちゃん個人を評価してほしい、って俺は言ってんの。エルフじゃなくて。人間じゃなくて。はとこが、姉ちゃんの性格だとか行動だとかで判断して、それでも好きくなれないって言うんだったら、それは仕方ないにゅ。エルフ同士や人間同士や、グラスランナー同士でもあることやもん」
グラスランナーの主張に、エルフは少しだけ黙る。
反論要素をいくつか考えてみたが、上手く頭の中でまとまらず、言葉として口から出すことはできなかった。
しばらくどちらも黙って、風が吹く音を聞いたり、草が揺れるのを見守る。
二人がどんな話をしていても、世界は変わらない。
「はとこはさ」
グラスランナーが不意にまた喋りだす。
「エルフっしょ。だから、姉ちゃんとの壁を越えられるにゅ。俺がどんなに頑張ったってぜーったいに越えられない種族の壁を、はとこは越えられちゃう。俺どんなにうらやましいか。不幸になるとかそんなの、後回し」
「後回しってお前、結構重要だぞ?」
エルフは意図的に後半の言葉にだけ返答をする。その間に、グラスランナーは木の上から飛び降りてきた。地面に着地するまでに一回転し、着地しても音はしなかった。
「種族を言い訳にすんのだけはやめて」
グラスランナーはエルフの顔をじっと見る。
エルフはそれでも返答しなかった。
「はとこ」
「何だ」
「俺ははとこのことも好きにゅ」
「何言ってるんだ?」
唐突に切り替わった言葉に、エルフは訝しげな顔でグラスランナーを見た。
「なんとなく言っとこうと思ったにゅ」
に、とグラスランナーは笑うと、「じゃあ、俺は部屋に戻るにゅ」と宣言し、建物のほうへ走っていった。相変わらず、すごい速さで。
「そうは言われてもなあ」
取り残されたエルフは呟くと空を見上げる。
自分が「エルフらしくない」などという評価をされているのは知っている。
が、そんなこと言われても自分はエルフであるし、事実「エルフらしくなくなった」のは人間の住む町に出てきてからだ。染められたことは別に後悔していない。
しかし、140年暮らしたエルフの村で染み付いた、その生活に対する基本的な考え方や価値観まで、すぐに切り替えられるわけもない。
単純に結論付けられる話じゃない。
「苦手ではあるが、嫌うほどでもない」
呟く。
言葉はシルフの背にのって、でも決して相手には届かない。
■火曜日にラブシックと泡ぽこの両方を更新したので、今回もそうしてみました。
順番を逆にして。
この話は本当に何処へ行くのでしょうね。
自分でもドキドキしながら(主につじつまがあうかどうかで)話を書いてます。
決めちゃうと、かけなくなるタイプなので(笑)
いや、勿論、はずしちゃいけないラインくらいは考えてあるんですけどね。
そのラインをどう走るかは決めてないので、書いてて楽しいです。
エントランスにも見た目は何もない。が、一面に敷かれていた豪華な絨毯をめくると、玄関近くに地下への階段が隠されているのが分かった。
「これ、とりあえず今までの中で一番の進歩だよね?」
レジィナが階段を見下ろしながら眉を寄せる。階段の行き着く先がどうなっているのか、暗くてココからは分からなかった。
「行くかどうか、ですよね」
グイズノーの声はどこまでも「行きたくない」ことを主張する。しかし、感情的には行きたくなくとも、これ以外の打開策を思いつかないのもまた事実だった。
「虎穴にいらずんば虎児を得ず、ですな」
バスが楽しそうに言う。
「一体どのような英雄譚を作れるでしょうか」
「黄色っぽい感じはしないけど、何だかいやな感じはするね。狂った精霊とか居そう」
流石のノリスも、少々声に明るさがない。
「一応他のルートも探してみて、なければ行ってみるしかないだろうの。一応クソガキが挙げていた、屋根裏も探ってみよう」
結論から言うと、屋根裏からは何も見つけることはできなかった。唯一の収穫といえば、屋根裏にも屋敷を断絶した壁がご丁寧にも出現していることが分かったくらいだ。
「これはもう、あのヤな感じの地下に行くしかないね」
「罠かなあ?」
「もう罠にはかかった後だと思いますよ」
ノリスとエキューの会話に、グイズノーは肩をすくめる。
「だって、わたくしたちは生贄なのですからね」
「ホラーだね」
レジィナが深々とため息をつく。それから、断絶した向こう側を思わず見る。もちろん、壁に遮られ何も見えないが。
「お姉さんたち、大丈夫かなあ。生贄って知らないから、朝まで待機、とかしてないといいんだけど」
「いきなり壁が現れて閉じ込められた、という状況ですからね。生贄だと知らなくてもアーチーとスイフリーが躍起になって謎解きをしているでしょう。まあ、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回してる可能性もありますが。現実的なフィリスが居るから、なんとかなってるんじゃないですかね」
「だといいけど」
レジィナは大きくため息をつくと、持っていたランタンに火をつけた。
などと、レジィナが大きくため息をついているころ、西側に取り残された面々も地下への階段を発見した上で、会議の真っ最中であった。
「罠なんだろうなあ」
ため息をつくヒースに、スイフリーは答える。
「屋敷に入った時点で罠に引っかかったと考えるべきだな」
「ぐだぐだ言っていても始まりません! とりあえず行ける所は行ってみましょう!」
握りこぶしのイリーナの肩を、マウナは思わずぽん、と叩く。あまり突貫していってもいいことはなさそうな気がしているからだ。地下からは黄色くは無いものの、あまり良い感じのしない空気が流れてきている。
「他にルートはないし、ここが出口に続いているって信じて進むしかないのかしら」
フィリスはため息をつく。デイルが興味なく床に寝そべったままあくびをしたのが見えた。
「ヒントは他に無い。屋根裏もルートなし、とくればもう行くしかあるまい。絵からいうと、屋敷の訪問者は外に出てこなかった。何かこの先にあると考えるのが妥当だろう」
「たとえば、何にゅ?」
「暗黒神官とか、根城にしてそうよね」
「邪悪ですね! 殲滅です!」
「絵の訪問者が招待客なら、毎度毎度暗黒神官もいるやもしれんが、我々はそうではない。暗黒神官はいないかもしれんな」
アーチーが重々しく頷きながら言う。
「ろくでもない魔法生物なんかなら居るかもしれないな。主の部屋は書物がたくさん置けるようになっていたから、研究施設だった可能性もなきにしもあらず、だ」
ヒースが言うと、イリーナが首を傾げる。
「でも、大広間とかありましたよ?」
「客を油断させるためかもしれんだろうが」
「何か居るとしたらろくでもないものだろう。何も居ないとしたら……」
スイフリーは言いかけて、ふと黙る。何かを考えているのか、あごに手を当てた。
「はとこ、どうしたにゅ?」
「いや、このラインは考えたくないな」
「にゅ?」
「出口が無くて、ここで朽ち果てる」
「やーめーてー」
低い声でパラサは抗議する。
「が、出口がないとしてだ」
「その可能性でも考えるんですか」
マウナが嫌そうな顔をする。冒険者である以上、望めないのかもしれないが、それでもできれば平穏無事な人生を歩みたい。こんな小鳩亭から遠いところで人知れず死ぬのは絶対イヤだ。
「なければどうなる?」
「絵と辻褄はあうな、という話だけだな。出口があるないに関わらず、何もしなければジリ貧なのは同じ。我々は冒険者、危険を買うのが仕事だ。このルートを行ってみるしかないだろう」
「色々考えて、挙句力押しになるっていうのは、そろそろ改めたいわね」
フィリスは大きくため息をつく。
「じゃ、行くにゅ」
■本放送(笑)のほうでは、ついにアノス入りしました。
このころから、ルールが分からなくて友人に聞きまくるようになってます。
どうも戦闘ルールが思い出せないとか、ルンマス系ルールが思い出せないとか。
やってないと忘れるものですね。