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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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泡ぽこ 73
青い小鳩亭に「いつもどおり」が戻ってきた。
つまりは、マウナがウェイトレスとして忙しく働き、偉そうな魔術師がレアな焼き鳥を注文しては頭をはたかれ、豪華な食事を楽しむ能天気なシーフが居て、目をハートにして輝かせる傭兵が居て、ファリス神官が地響きとともに現れ、マイリー神官がシーフを見てはため息をつき、王宮にいつ招かれてもおかしくない吟遊詩人が歌を朗々と歌い上げる、そんな日常だ。
彼らが居なかったほぼ半年の時間にも、ここでは時間が流れていたはずだったが、それを感じさせない暖かさが小鳩亭にはあったし、それが彼らを安心させているのだろう。
「今回の旅のこと、やっぱり歌にするの?」
パンを口に放り込みながら、ノリスがバスにたずねる。
「そうですな。ファリスの猛女、聖地に赴く。いい題材です」
「あの屋敷のことも?」
「それはまだ迷っております。罠にはまった冒険者たちが機転を利かせて脱出する、というのはなかなか魅力的な題材ですが、何せ相手が相手ですし」
「ああ、そうだなー」
バスの返答に、ヒースが頷く。
「軍師がどうの、は言いにくいわなー」
「途中で通った国々の見聞を曲にすることは出来ますし、アノスの英雄たちの話も作ることはできますし、勿論、イリーナの法王様との謁見も題材になりますし、新しい曲はいくらでも作れますぞ」
「じゃあ、新曲リサイタルやらなきゃね!」
新しい曲も勿論楽しみだが、それに付随する副収入にマウナは目を輝かせる。
「そういえば、マウナが最後に貰った包みって何だったんですか? フィリスさんに頂いていたやつ」
「ああ? あれ?」
マウナの顔が笑顔になる。朗らかな笑顔ではなく、どことなく締りの悪い笑顔であることから、なんとなく内容は知れた気がしないでもない。
「小鳩亭がね、一回火事でなくなって再建されたっていうのを調べてくれてたみたいでね、再建したあとも大変だろうからって、寄付金だったのよー。あとねえー、キレイなブローチだとかー」
「何で私にはそういうのないんでしょう」
ほくほくとした笑顔のマウナに、イリーナは恨めしい顔をする。
「って言っても、再建費用は家にだから私のじゃないのよ」
「でもブローチを頂いたんでしょう?」
「イリーナの分も入ってたわよ」
そういいながら、マウナはポケットから小さな包みを出す。イリーナは受け取って中を確かめると、満面の笑みを浮かべた。
「ファリス様の聖印です! キレイー」
「馬子にも衣装ってところだな」
「ぬか喜びの地への片道切符、プレゼントしましょうか? 兄さん」
「とっても良くお似合いでございますイリーナサン」
カクカクと体を揺らしながら答えるヒースに、一同は笑顔を見せる。
「なんか、帰って来たーって感じがします」
「そうねー、アノスはキレイだったし、オランも面白かったし、途中ドキドキしたし楽しかったけど、やっぱりココが一番ねー」
イリーナの言葉に、マウナが頷く。
そんな話をしていると、全員の前にエールの入ったジョッキが並べられた。
「お母さん?」
マウナが見上げると、彼女は笑顔で「わたしたちからだよ」と答えてウインクする。
「えー、ではー」
ヒースが立ち上がり、全員を見回した。そして咳払いすると口を開く。
「俺様たちの無事の帰還とー、イリーナの野望達成ー、ほかー、諸々を祝しましてー」
そこで全員がジョッキを持ち、にま、と笑いあう。
「かんぱーい」
バスの試作の新曲を聞きながら、彼らはまたコレまでどおりの日常に戻って行く。
新しい冒険へと。



「次は西部諸国の五大神祭りですねー」


■なんか、泡さんたちの後日談を描くと蛇足な気がするので、泡パートは書きません。
と、いうわけで、「泡ぽこ」は、本日、73話にて最終回!(笑)
中途半端!
とはいえ、長々とお付き合いありがとうございました。

次はとりあえずアチフィリを模索しようとおもってます。
そして泡ぽこパート2は、現在のんびり考え中。
キーワードはごちゃごちゃ、ゲート、ハードロックに幻の塔。
……ほんとにそんな話になるのか!?(笑)

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泡ぽこ 72
「今度こそ、勝負あり、だの」
ガルガドが二人の間に腕を下ろす。試合は終わり、という合図だ。
「うう、負けてしまいました」
少し悔しそうにイリーナが呟き、剣をしまう。
「でも、本当に互角だった。たまたま勝っただけだね、私」
レジィナも苦笑すると、剣をしまう。会心の出来、という勝ち方ではないからか、それほど嬉しそうには見えない。
「ホント、たまたま。神様がちょっとこっちを指差した感じ?」
困ったような笑顔で言うレジィナに、グイズノーが笑いかける。
「おや、神様とは。どうです? ラーダ様を信仰してみては」
「何を言うんですか! ファリス様ですよ! 世界に正義と秩序をもたらしてくださる上、ヒース兄さんでも信者になれる心の広さですよ?」
「なんだとぅ!? 『でも』って何だ、『でも』って!」
すかさず勧誘し始めたグイズノーに、イリーナは反論する。そしてその内容にヒースが色めきたったが、それを軽くイリーナは無視した。
「ラーダの心の広さだって相当なものにゅ」
「破壊坊主が高僧だからなあ」
パラサとスイフリーの言葉を、グイズノーは聞こえない振りでさらりと流す。
「戦いの神・マイリーに決まっとろう? レジィナは偉大な戦士なのだから」
ここぞとばかりガルガドが参戦した。
「あ、いや、別に特定の神様ってことでもないんだけど」
レジィナは一歩後ずさると引きつった笑みを浮かべる。
「気になる神様とか、居られないんですか?」
イリーナがずい、と一歩前に出た。
「んー、そうだなあ」
レジィナはぐるりとあたりを見回したあと、首を少しかしげた。
「芸術の神様かな?」
「お目が高い」
すかさずバスは言うと、ぽろん、と竪琴を鳴らして見せた。目がキラリ、と輝いた気がする。
「……姉ちゃん以外の神官サマは、みんなガツガツしてるんやね」
「……誤解です、多分。……皆じゃないです」
パラサの呟きに、クレアは遠い目をして見せた。


結局、試合を観戦しただけなのに妙に疲れてしまったが、スクロールを使っての帰還は予定通りその日の午後執り行うことになった。
「はい、これ。テレポートのスクロール」
フィリスは大した感慨もなく、そのスクロールをヒースに手渡す。
「どっから持ってきたんだ?」
「それは秘密よ」
ほほほ、とフィリスは笑って見せる。実際のところ、宝物庫などではなく単に自分の部屋なのだが、その辺はごまかしておいたほうがロマンもあるというモノだろう。
「でも、結構値が張るんじゃないですか? 本当にいいんですか?」
マウナがおそるおそる尋ねる。
「いいのよ、気にしないで? 金額なんて大したもんじゃないし、多分もうすぐ私には必要なくなるし」
フィリスはにっこりと笑って見せる。実際、スクロールとしての現物研究は随分前に終わらせてあるし、もう少し経験を積めばテレポートまで手が届きそうな気がする。ある程度まで実力を伸ばしてきたのだ、もうテレポートはただあこがれるだけの存在ではなくなりつつある。
「お、俺様だってもうすぐいけるぞ、その高み!」
「アンタはまず眠りの雲を覚えなおしなさいよ」
低い声でマウナが言うと、ヒースは床にのの字を書きながら、ぶつぶつと何事か文句を言い始める。もう慣れたもので誰も何も言わないが。
「じゃあ、魔法を覚えたらそっちの国にも遊びに行くようにするわ。例えば新婚旅行とかで」
「誰と誰のだ」
「あらー、誰と誰かしらねえ?」
アーチボルトの言葉に、フィリスは返答して悠然と笑う。
「あとコレ。マウナに私から。向こうに着いたらあけてみてね」
フィリスはそういうと、マウナにそれほど大きくない包みを手渡す。妙に重いが、マウナは笑って感謝を述べ、それをすぐに開けるようなことはしなかった。
「ほんじゃ、スクロール使うぞー。皆忘れ物とかないかー?」
漸く立ち直ったヒースが仲間を見る。全員、それぞれに頷いて準備が出来たことを知らせた。
「じゃ、世話になったな。俺様だってテレポート覚えたら自慢しに来るからな!」
「兄さんが来るときはついてきます! また試合しましょう!」
「あはは、私がここに居たらね」
イリーナの言葉にレジィナが頷く。
「では、また!」


挨拶が終わるとともに、ヒースがスクロールを広げて何事かを言い始める。
やがてその言葉は力をなし、やがて独特の浮遊感のようなものが一瞬。
次にふわりと、小さな落下の感覚。
全てが終わると、目の前には懐かしい青い小鳩亭があった。





■漸くオーファンに戻ってきましたよ。うふふふふ。
というわけで、次回最終回です。

次回作については、思案中。
仕事がかわったので、まだどの様に余暇が使えるかよー分からんのです。
余裕をみて書き溜めてから、ぼちぼちやろうかとおもってます。

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泡ぽこ 71
暫らく、大剣を持った少女たちは無言で相手を見据えあう。
技量は互角。
身体能力はイリーナに分があるぶん、少しイリーナのほうが有利になるだろう。レジィナは装備品でこそイリーナを凌駕するが、身体能力はいたって平凡だ。

(さて、どうしようかな)
レジィナは考える。普通にやっていては、勝負は決まらないだろう。
自分は確かにイリーナより身体能力は劣る。しかしその差を埋めてあまりある装備品を持っている。でも、そのおかげで勝った、とは言われたくないし思いたくもない。
誰の目に見ても鮮やかに「勝った」と思えるような勝ち方でなければ意味はない。

(どうすればいいでしょう)
同じくイリーナも考える。あまり思考は得意ではないが、全く考えないで突っ込んでいけば、いつか自滅するということは分かる。相手のレジィナは、技量ではほぼ互角だ。しかし、いい大剣を持っている。そしていい鎧を着ている。自分の物だってこの世にまたとない逸品であるのは間違いない。しかし、レジィナのものは、それとはまた違う。今となっては手に入らない貴重なものだろう。そのせいで負けた、なんて絶対に嫌だ。

自分の能力ではどうしようもないところで、勝負がつくのでは意味が無い。

息を一度大きく吸い込むと、イリーナは気合とともに声を上げ、前へ大きく踏み込むと、大剣を振り下ろす。人の持てる限界を超えた、鉄の塊ともいえる剣が、その重みに加え技量も伴って、恐ろしいまでの速さで振り下ろされる。空気が切り裂かれる低い音。
確実に、切っ先は首に向かっていく。
レジィナは避けるために体をひねり、そしてバランスを崩しよろめいた。
「お姉ちゃん!」
リズの声に反応するように、レジィナの剣が動く。バランスを崩した彼女の持つ剣は、ちょうど振り上げられてイリーナの首筋に迫った。
互いに首筋にぴたりと剣を向けたまま、再び彼女たちはにらみ合う。
既に手加減であるとか、試合であるとかいう概念はヒートアップした彼女たちの脳裏には残っていないように見えた。
ふう、と誰かが大きく息を吐いたのが聞こえた。

「そこまでにしとけ」
宣言したのはガルガドだ。
「これ以上続けると、どっちかが死んでしまう」
その声が聞こえていないのか、それとも無視しているのか、二人はまだ動かない。
「終わりだって言ってるぞーイリーナ」
「嫌です」
ヒースが呆れたように声をかけると、イリーナからは明確に拒否の返事が返される。
「お前いい加減に……」
再びヒースが何か言おうと口を開いたとたん、二人がまた動いた。
互いに体を相手の剣先をかわすようにひねりつつ、その切っ先で相手に切りかかる。
その刃は、互いの肩に浅い傷をつけ、血を流させる。
同時に、イリーナはバックステップでレジィナから間合いを取り、レジィナは飛び起きる。
そしてまた、剣を構えて見据えあう。
「やめろって! おやっさんも止めただろ!」
「兄さんは黙っててください! 戦いのことも分からないくせに!」
少し鋭さを増したヒースの声に、イリーナの反論。
「いよいよやばくなったらホールドでもかけろ」
小さな声でアーチボルトがスイフリーに言う。
「恨まれるから嫌だ。あっちの精霊使いに頼め」
スイフリーは半瞳になって即答する。
「もしくはお前が止めに行け」
「純粋に一対一なら多分勝てるが、二人相手はキツイ無理だ」
「なら見守るかしかないだろう」
既に観客たちのほうは、どちらかが倒れるまでこの戦いは終わらないのだろうと予測していた。下手をするとどちらかが死ぬかもしれないのだが、それを上手く止める術も思いつけない。ただ「止める」だけなら方法もなくはないが、スイフリーの言うように恨まれるだけだ。
「全くあほらしい。だから止めたのに」


観客の意図など、全く解せず二人は向き合う。
とはいえ、左肩からの出血は二人を焦らせるには十分なものであった。互いに実力もあれば、さらに扱う大剣もすばらしい切れ味を持っている。浅く斬らせたつもりでも、随分な傷になっていた。腕を伝う血は剣を握る手を滑らせるし、力だって入れづらい。出血が長引けば、腕の感覚も鈍るし体温も下がる。
(次の一撃くらいが、ラスト)
気合とともにイリーナの剣が振り下ろされる。
ぎりぎりのところにまでひきつけ、それから身をかわす。
(避けた!)
(かわされた!)
レジィナの顔に笑みが、そしてイリーナの顔に焦りが、それぞれはっきりと映し出される。
「だぁあ!」
おおよそ乙女ではない声とともに、レジィナの剣がイリーナの鎧の胴を捉えた。鈍い音とともに、金属同士がぶつかり合い火花が散った。




■次回は試合後。
どうかな? レジィナ活躍できた? 会長!
活躍できてなくても、もう知らないからね! 無理だからね!(笑)


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泡ぽこ 70
乾いた空には白く薄く雲が存在し、風に吹かれて移動していく。
大地は踏みしめられ硬く、時折砂煙が舞い上がる。
二人の女はそれぞれの武器を手に対峙し、無言のまま相手を見据える。
あたりは無音で、張り詰めた空気だけが存在した。

……のは彼女たちの周りだけで、野次馬たちは緊張感の欠片も持ち合わせず二人の様子を見守る。
「どっちが勝つのかな?」
「イリーナじゃない?」
心配そうな顔のマウナに、ノリスが軽い声で返答する。
「どっちが勝つかなあ?」
「さあ? どっちでもいい。昨日のアーチーの発言どおり、どっちが先に当てるかだけの違いだろ」
好奇心の目を向けるフィリスに、スイフリーがあくび交じりに答える。
「賭けますか?」
「くだらない」
グイズノーの言葉も一言で切り伏せ、スイフリーは再びあくびをする。全く興味がないのだろう。
「俺はレジィナ姉ちゃんが勝つと思うにゅ。なんだかんだで魔法の武器は強いって」
「でもイリーナは一撃がすごいぞ。なんつーかもう、人外魔境だ」
「ヒース後で殺されるんじゃない?」
「ぐさっとやって、ヒーリングでぽん……」
そんな会話が聞こえていないのか、もしくは聞こえていても無視しているのか、当の本人たちは未だに無言でただ相手を見据えている。
「二人とも準備はいいかの?」
二人の間、中ほどに立つガルガドが重々しい声で二人に尋ねる。
「大丈夫です、いつでも」
答えて、イリーナが大剣を掲げるように構える。
「私も、大丈夫」
同じようにレジィナも答えると、大剣を担ぐように構えた。
同じ大剣とはいえ、イリーナのものはレジィナのものよりはるかに大きい。対して、レジィナのものはイリーナのものより鋭い光を放つ。
先に動いたのはイリーナだった。力の入った掛け声とともに、大剣が振り下ろされる。空気を切り裂く音が低くうなりを上げる。
レジィナはそれを避けると、大剣を横になぎ払った。イリーナのがっしりした鎧の胴を捉え、金属同士がぶつかり合う音が響く。が、イリーナは眉一つ動かさない。
「やりますね」
「そっちこそ」
に、と笑いあう二人。
風の吹く低い音。


「……互角なの? あれ」
よく分からない、といった風情でフィリスはアーチボルトに尋ねる。彼女は戦士としての経験はほとんどないから、よく分からないのだ。アーチボルトは質問に重々しく頷いただけで、言葉を発しない。
「ふうん」
あたりの静けさに、フィリスは口を尖らせるようにして返事をすると、再び戦いに目を向ける。「すごい」のだろうことは分かるのだが、「何が」すごいのかは良く分からない。
ただ、二人とも怪我をしなければいいな、と思うだけだ。

再び、イリーナが動いた。今度はレジィナの体を捕らえたが、魔法の鎧に阻まれて有効打にはならなかったようだ。彼女の動きはその剣に合わせたかのように大きく、剣を振るった後に少し動きが止まる。レジィナはそれを狙ったかのように攻撃を繰り出すが、頑丈な鎧に阻まれて決定打を出せないで居る。
「やりますね」
「そっちこそ」
互いに笑みを浮かべながら語り合う様は、可憐な少女二人というよりは、歴戦の親父のような渋みがある。
「何か大きく間違ってる気がする」
再びフィリスは呟いたが、誰も賛同しなかった。もしかしたら、口に出したら終わりなのかもしれない。





■残り3話となりました。
これと言って、その後の予定は決めてません。
アチフィリに力を入れつつ、今後は何をしましょうかね。

またコラボですかね?
何かリクエストがありましたら、どうぞ。
参考にさせていただきます。

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泡ぽこ 69
「じゃあ、明日、試合してみよう」
レジィナの提案に、イリーナが頷く。
「あんまり勝負にならんのではないか?」
アーチボルトの苦い顔に、レジィナは「何で?」と首を傾げて見せた。
「だってそうだろう。実力は互角だ、見てる限りそう思う。となれば、どちらが先に攻撃を命中させるか、というだけの話になる。イリーナはレジィナより動くのは早いが、命中率がいまいちだ。レジィナはイリーナより動きは遅いが、ほぼ命中させる。ここだけ聞くとレジィナが優勢に聞こえるが、イリーナは敵を捕らえさえすれば威力は絶大、その上あの物々しい鎧からも分かるが攻撃を止める力もある。レジィナは魔法の武器鎧を持っているから、一撃はかなりのものだし攻撃もたいてい止める。いつまでたっても決定的な一撃でも出ない限り試合は終わらない」
「永遠の戦い……た、楽しそうです!」
「……どこが」
目を輝かせるイリーナに、ヒースは冷めた眼差しを向ける。
「彼女はファリスの神官ですよね?」
「そのはずにゅ」
グイズノーの質問に、パラサがへらりと笑う。正面でノリスがつられてへらっと笑った。
「基本的にやるだけ無駄なのだ、わかったかね?」
びしりと指を突きつけられ、レジィナはむっとした顔をする。
「いいじゃない、やらせてあげれば。本人たちの納得って重要よ? レジィナのためなのよぅ?」
フィリスから反対などさせるかといわんばかりの威圧感が発せられる。しかしアーチボルトは慣れたもので、そう大して気にしてない様子で続けた。
「まあ、利益にはならないが、訓練にはなるだろう」
結局押し切られている辺り、アーチボルトも結局は怖かったのかもしれない。
「はとこ、俺、だいぶ前に俺に化けた悪魔と戦ったことあったけど、姉ちゃんたちの試合もあんなかんじにゅ? そやったら、やっぱり、他からの介入がなかったらずーっと試合してんじゃない?」
パラサがスイフリーを見上げる。
「非力なグラスランナー同士の殴り合いなんぞと一緒にならんだろ。お前クリティカルもしなかったし。……レジィナたちのはもっと殺伐とする」
「そぉかー」
パラサの納得に、レジィナは頬を膨らませる。
「しないよ、だって殺さないもん。本気で戦うけど、殺すつもりはないもん」
「本気でやりあってるうちに頭に血が上って本気の一撃を繰り出さないとも限らんじゃないか」
スイフリーが言い終わるか終わらないかというタイミングで、低くドン、と大きな音がした。見ればレジィナの拳が机にある。怒りのあまり彼女は思いっきりテーブルに拳をたたきつけたのだろう。
「やるったら、やるの」
「……好きにすればいい」
顔を引きつらせるスイフリーに、レジィナはにっこりと笑顔を向けた。
その後ろでバスが妙に満足げに笑っていたが誰も何も聞かなかった。


試合が決定した後、城の中を色々案内してもらったのだが、イリーナは心ここにあらずといった感じであまり何があったか記憶がないようだった。
対して、マウナはきらびやかな内装や歴史を感じさせる重厚感あふれる空間に圧倒されていて、互いに部屋にもどったときには何がなんだか分からない、という状況に陥っていた。
現在、約束どおりイリーナの部屋にマウナは遊びに来ていたが、互いに交わす言葉もない。イリーナは明日に向けてなのかいつもの日課なのか、ともかく剣の手入れをしているし、マウナはマウナで城の中を思い出してはため息をつき、イリーナにあてがわれた自分よりも豪華な部屋の中をあちこち見て回ってはため息をつく、のくり返しであるからだ。
一通り部屋を見終わったマウナは、ふかふかのベッドに腰掛けてイリーナを見る。
「ねえ、勝てるの? 明日。怪我だけはしないでよ」
「怪我しても治せますから」
「あんまり慢心しないほうがいいって」
「マウナがお金を数えていると幸せなのと一緒で、私も剣を振るえるときが幸せなんです」
「一緒かなあ」
「一緒ですよぅ」
満面の笑みで答えられると、そうなのかもしれない、と思えてくる。この天真爛漫さが実は一番の武器なんじゃないだろうか。
「マウナは何が一番気になりましたか?」
「場所を教えてもらえなかった宝物庫」
すかさず答えたマウナに、イリーナは「邪悪っぽいですよ」などと返答する。
「邪悪とか言わないでくれる? 単純に、好奇心よ。魔晶石をバンバン使いつぶして、魔法の剣や鎧を普通に使って、お城までもってるような冒険者よ? お金は使えるときに使っちゃおう、とかいってる人たちよ? 単純に、どんなもの持ってるのか気になるの! 別にほしいとかじゃなくて、見たいの。例えば、宝物庫に誰も使ってない魔法のグレートソードとかあったら? 気にならない?」
「激しく気になります」
「そういう感じよ」
即答したイリーナに、マウナは勝ち誇った笑顔を向ける。
「ね?」




■すっかりアップするのを忘れてました。1週間ぶりのごぶさたです。申し訳ない。
そしてまたレジィナは活躍しないのであった。
一応これは、「レジィナを活躍させようの会」の運動の一環だったのに。
……アーチーを以下略のときはまだ上手くいった(様な気がする)のに。

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