泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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イリーナは宿のベッドにうつぶせに寝転がり、むう、と頬を膨らます。
「ファリス様に誓って、絶対に振り回したりしないのに……」
予告されていたとはいえ、大好きなグレートソードを宿預かりにされ、彼女は少し……かなり不満を感じていた。
宿の人間一人では、彼女の剣はもちろん動かすどころか持ち上げることすら困難だ。だから、せめて自分で保管庫まで運ぶといってみたのだが、それも防犯上の理由できっぱりと断られ(やんわりと断るわけではないあたりに、ファリスらしさを感じる)悲しみ倍増、といった感じだ。
「大丈夫やって、盗られたり無くされたりせんって」
パラサが運ばれていくグレートソードを泣きそうな顔をして見送るイリーナに声をかけていたのだって、多分聞こえていなかっただろう。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと返してくれるわよ」
「わかってます、わかってます、そんなの」
悲嘆にくれている、といっても過言ではない様子のイリーナに、マウナは半ば呆れたように声をかける。
「ファリス様の御許で、そんなことをされるわけがありません」
「じゃあ、そんなに心配しなくてもいいじゃない」
「それとコレとは話が別なんです」
小さく鼻をすすり、イリーナはベッドに突っ伏した。
「なんか、ちょっと中毒?」
「恋人と離れ離れになるって、こういう気分でしょうか。マウナ、クラウスさんと離れているのはどういう感じですか?」
「別にクラウスさんとはまだそこまで深い仲じゃないし、イリーナが今感じてる感覚がどういう感じか私には分からないし、比較はできないんじゃないかしら」
マウナのもっともな言い分に、イリーナは盛大なため息をついた。
と、部屋にドアをノックする音が響く。
「誰かしら?」
はーい、と返事をしてマウナがドアを開ける。ノックの主はクレアで、彼女はベッドに突っ伏すイリーナを見てぎょっとしたような顔をした。
「イリーナはどうしたんですか? 何処か具合が悪いのですか?」
「まあ、悪いと言えば……悪いような」
マウナは歯切れの悪い返答をする。
「大変。何か魔法を」
「そういうのじゃ治らないっていうか……グレートソード欠乏症です」
慌てた声のクレアに、マウナは最後のほうは恥ずかしそうに俯きつつ、小声の早口で説明する。
クレアのほうはそれで理解したのか、一つ頷いてから、いつもの真面目で硬質な声に戻し、マウナを見る。
「これからの予定が決まりましたので、ご説明します。少し大きい部屋を用意しましたので、そちらにお集まりいただきたいのです」
「分かりました。ほら、イリーナ! 元気を出して!」
「ふぁい……」
「おそーい! 俺様待ちくたびれちまったぞ! ペナルティだ! 何かおごれ」
「うるさいわよ」
部屋には既に他の全員が集まっていて、遅れてきたイリーナとマウナに早速ヒースが文句を飛ばす。元気に(というかいつもどおりに)文句を返したのはマウナだけで、イリーナは心ここにあらず、と言う顔でふらふらと歩くと、椅子にぺたん、と座り込んだ。
「あれー? イリーナどうしたの? 元気ないじゃん」
ノリスの声に、イリーナはのろのろと視線をそちらに向け、大きくため息をついてみせる。
「本当に調子が悪そうだぞ? 大丈夫か?」
ガルガドも本当に心配そうな視線を送る。イリーナはいつも元気、病気など風邪すらひかない、というイメージが先行するせいか、ここまで元気がないと流石に心配だ。
イリーナはごつん、と音を立てて机に突っ伏す。
「イリーナ姉ちゃん、大丈夫か?」
眉をよせ、パラサは立ち上がりかける。
と。
「ああ、ファリス様。私は知らない間に何かしたのでしょうか。グレートソードを持ち歩くことは罪だったのでしょうか。確かに私はグレートソードを手に入れるためにちょーっと欲深だったかもしれません。だからって取り上げるなんてあんまりです」
抑揚の無い声でぼそぼそと呟く。
「彼女は何を言っているのだ?」
不可解、といった顔でスイフリーは答えを求めるようにその場にいた全員の顔を見渡す。
「単純に言って、グレートソード欠乏症だな。愛しい愛しいグレートソード、初恋の君グレートソード。夢にまで見て手に入れた最新の業物、それを取り上げられて悲嘆にくれているのだ」
ヒースが呆れたような声で返事をする。
「兄さんには私のこの、張り裂けそうな胸のうちなんてわからないんです」
「もともと張り裂ける胸なんてないじゃないか」
「明日の朝グレートソードが帰ってきたら、真っ先に兄さんを真っ二つにします」
「すみませんごめんなさい俺様が悪かったです許してください」
■祝日だったので、うっかり24日が月曜日だったのをわすれていました。
おくれましたが、53話。
めりーくりすまーす。
「ファリス様に誓って、絶対に振り回したりしないのに……」
予告されていたとはいえ、大好きなグレートソードを宿預かりにされ、彼女は少し……かなり不満を感じていた。
宿の人間一人では、彼女の剣はもちろん動かすどころか持ち上げることすら困難だ。だから、せめて自分で保管庫まで運ぶといってみたのだが、それも防犯上の理由できっぱりと断られ(やんわりと断るわけではないあたりに、ファリスらしさを感じる)悲しみ倍増、といった感じだ。
「大丈夫やって、盗られたり無くされたりせんって」
パラサが運ばれていくグレートソードを泣きそうな顔をして見送るイリーナに声をかけていたのだって、多分聞こえていなかっただろう。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと返してくれるわよ」
「わかってます、わかってます、そんなの」
悲嘆にくれている、といっても過言ではない様子のイリーナに、マウナは半ば呆れたように声をかける。
「ファリス様の御許で、そんなことをされるわけがありません」
「じゃあ、そんなに心配しなくてもいいじゃない」
「それとコレとは話が別なんです」
小さく鼻をすすり、イリーナはベッドに突っ伏した。
「なんか、ちょっと中毒?」
「恋人と離れ離れになるって、こういう気分でしょうか。マウナ、クラウスさんと離れているのはどういう感じですか?」
「別にクラウスさんとはまだそこまで深い仲じゃないし、イリーナが今感じてる感覚がどういう感じか私には分からないし、比較はできないんじゃないかしら」
マウナのもっともな言い分に、イリーナは盛大なため息をついた。
と、部屋にドアをノックする音が響く。
「誰かしら?」
はーい、と返事をしてマウナがドアを開ける。ノックの主はクレアで、彼女はベッドに突っ伏すイリーナを見てぎょっとしたような顔をした。
「イリーナはどうしたんですか? 何処か具合が悪いのですか?」
「まあ、悪いと言えば……悪いような」
マウナは歯切れの悪い返答をする。
「大変。何か魔法を」
「そういうのじゃ治らないっていうか……グレートソード欠乏症です」
慌てた声のクレアに、マウナは最後のほうは恥ずかしそうに俯きつつ、小声の早口で説明する。
クレアのほうはそれで理解したのか、一つ頷いてから、いつもの真面目で硬質な声に戻し、マウナを見る。
「これからの予定が決まりましたので、ご説明します。少し大きい部屋を用意しましたので、そちらにお集まりいただきたいのです」
「分かりました。ほら、イリーナ! 元気を出して!」
「ふぁい……」
「おそーい! 俺様待ちくたびれちまったぞ! ペナルティだ! 何かおごれ」
「うるさいわよ」
部屋には既に他の全員が集まっていて、遅れてきたイリーナとマウナに早速ヒースが文句を飛ばす。元気に(というかいつもどおりに)文句を返したのはマウナだけで、イリーナは心ここにあらず、と言う顔でふらふらと歩くと、椅子にぺたん、と座り込んだ。
「あれー? イリーナどうしたの? 元気ないじゃん」
ノリスの声に、イリーナはのろのろと視線をそちらに向け、大きくため息をついてみせる。
「本当に調子が悪そうだぞ? 大丈夫か?」
ガルガドも本当に心配そうな視線を送る。イリーナはいつも元気、病気など風邪すらひかない、というイメージが先行するせいか、ここまで元気がないと流石に心配だ。
イリーナはごつん、と音を立てて机に突っ伏す。
「イリーナ姉ちゃん、大丈夫か?」
眉をよせ、パラサは立ち上がりかける。
と。
「ああ、ファリス様。私は知らない間に何かしたのでしょうか。グレートソードを持ち歩くことは罪だったのでしょうか。確かに私はグレートソードを手に入れるためにちょーっと欲深だったかもしれません。だからって取り上げるなんてあんまりです」
抑揚の無い声でぼそぼそと呟く。
「彼女は何を言っているのだ?」
不可解、といった顔でスイフリーは答えを求めるようにその場にいた全員の顔を見渡す。
「単純に言って、グレートソード欠乏症だな。愛しい愛しいグレートソード、初恋の君グレートソード。夢にまで見て手に入れた最新の業物、それを取り上げられて悲嘆にくれているのだ」
ヒースが呆れたような声で返事をする。
「兄さんには私のこの、張り裂けそうな胸のうちなんてわからないんです」
「もともと張り裂ける胸なんてないじゃないか」
「明日の朝グレートソードが帰ってきたら、真っ先に兄さんを真っ二つにします」
「すみませんごめんなさい俺様が悪かったです許してください」
■祝日だったので、うっかり24日が月曜日だったのをわすれていました。
おくれましたが、53話。
めりーくりすまーす。
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■5
アノスの首都、ファーズは美しい都市である。
大理石を多用した白い町並み、ステンドグラスからの幻想的な光、祈りの時間に流れる鐘の音。その全てがファリスの栄光をたたえるものであり、ファリス信者が大半を占めるこの国では、その風景は誇りでもある。
逆に言ってしまえば、ファリス信者でなければ、ただ美しいと感じられる町並みであり、それよりも特に冒険者であれば、その堅苦しい雰囲気であるとか、自分たちに向けられる好奇の目であるとか、杓子定規的で全く柔軟性のないシステムであるとか、その他もろもろ不慣れな事が多発して正直やりにくい国である、とも言える。
つまり、オーファンから来た冒険者たちにとって、ファーズの評価は真っ二つになった。
「すばらしいです!」
と何もかもに感動するのは勿論イリーナ。見るもの全てに何となくファリスの正義を感じているような気がする。
ヒースもファリス信者の端くれ、流石に堅苦しさには居心地の悪さも感じるが、ファリスの総本山に来て悪い気はしない。
正直に居心地が悪いのは、他の神を信仰するドワーフの二人組み。
勿論何かがあったわけではないのだが、疎外感を感じないわけではない。特にガルガドの場合、マイリー信仰の厚いオーファンから来たわけで、感じる落差はかなりのものがあった。バスのほうは、その点まだマシで、初めて見る町並みに新たなサーガのタネが無いか探すくらいの余裕はある。
エキューもどちらかといえば、あまりこの街は好きになれなかった。何となくやりづらい、そんな気持ちにさせる街だ、と思う。ついでに言えば、他の街ならまだ冒険者がたくさん居て、エルフやハーフエルフを見る機会もあるのに、この街では冒険者が少ないせいで彼等を見かけないし、エルフにいたっては神を信じない種族、見ることはほぼ絶望的だ。
旅のお楽しみ程度のアクセントだが、それが全く無いのはそれはそれでつまらないというか残念でならないというか。
マウナもどちらかといえば、居心地が悪い。きちんとした服装の人たちが歩いているのは、好感が持てる。しかしその彼等から自分たちに向けられるのは好奇の目であり、さらにはソレがハーフエルフという自分に対する差別の目に感じられてくる。オーファンで自分は随分暖かに接して貰っていたのだな、と感じる。
ちなみにノリスはどちらの感想もあまり抱かなかった。街は綺麗だし、見るものは珍しい。けど、仕事はやりにくそう。まあ、住む事は無いんだし、見物していけばいいか、といったところである。
「久々に来たが、相変わらずだな」
スイフリーが口をへの字にしてぼやく。
「はとこには悪い思い出しかないもんねえ」
「喧しいわ」
そんな会話をよそに、レジィナはオーファンの冒険者たちを見る。
「最初はなれないかもしれないけど、なれちゃえば大した事ないよ。悪い人たちじゃないんだ、悪い人たちじゃ」
「ルールさえ守れば問題ないわよ。あんな目、気にしないでいいのよ」
フィリスはそれとなくマウナを自分の背に隠しながら言う。
「ありがとうございます」
「いいのよ」
「では、私は神殿へ向かいます。イリーナの到着の報告や、その他連絡など済ませてきます」
クレアは硬質な声で宣言する。
「私も神殿見てみたいです」
イリーナの挙手に、クレアは困った顔をした。
「そうですね、一般信者ならただの巡礼として簡単に入ってもらえるのですが……イリーナは正式な客人ですし」
「今回は遠慮しとけ、イリーナ。正式に招待されたときにあっちこっち見て回ればいいだろ」
「……わかりました」
ヒースの言葉にうなずきつつも、非常に残念そうな顔をするイリーナに、クレアは軽く頭を下げる。
「では我々はいつもの宿に居るから。何かあったら連絡してくれたまえ」
「わかりました」
「姉ちゃん、送っていこうか?」
パラサがクレアを見上げる。彼女は少し微笑むと、「大丈夫ですよ」と返答する。パラサは残念そうな顔をしたが、すぐに立ち直る。
「じゃ、またね、にゅ」
■……昨日が金曜日だったんですね(苦笑)
どうも曜日感覚がぬけているというか……。
通常日記にも書きましたが、先週の土曜日に親知らずを抜いたら、ドライソケットという症状を引き起こし、今週一週間ずーっと歯が痛いという状況になっていたのですよ。
もうねー、思考能力が奪われます。
一日過ぎるのが長かったですわ(苦笑)
さて、今回からアノス編です。
つまりあとちょっとで終りです。
そんなこんななのですが、WEB拍手で、大理石のキレイな街ということはソーミーに立ち寄るんですかー? と尋ねていただいて初めて、ソーミーとファーズをごっちゃにしていたことが判明しました。
まあ、大きく問題はなかろう、ということでそのままアップしちゃうことにします。
アノスの首都、ファーズは美しい都市である。
大理石を多用した白い町並み、ステンドグラスからの幻想的な光、祈りの時間に流れる鐘の音。その全てがファリスの栄光をたたえるものであり、ファリス信者が大半を占めるこの国では、その風景は誇りでもある。
逆に言ってしまえば、ファリス信者でなければ、ただ美しいと感じられる町並みであり、それよりも特に冒険者であれば、その堅苦しい雰囲気であるとか、自分たちに向けられる好奇の目であるとか、杓子定規的で全く柔軟性のないシステムであるとか、その他もろもろ不慣れな事が多発して正直やりにくい国である、とも言える。
つまり、オーファンから来た冒険者たちにとって、ファーズの評価は真っ二つになった。
「すばらしいです!」
と何もかもに感動するのは勿論イリーナ。見るもの全てに何となくファリスの正義を感じているような気がする。
ヒースもファリス信者の端くれ、流石に堅苦しさには居心地の悪さも感じるが、ファリスの総本山に来て悪い気はしない。
正直に居心地が悪いのは、他の神を信仰するドワーフの二人組み。
勿論何かがあったわけではないのだが、疎外感を感じないわけではない。特にガルガドの場合、マイリー信仰の厚いオーファンから来たわけで、感じる落差はかなりのものがあった。バスのほうは、その点まだマシで、初めて見る町並みに新たなサーガのタネが無いか探すくらいの余裕はある。
エキューもどちらかといえば、あまりこの街は好きになれなかった。何となくやりづらい、そんな気持ちにさせる街だ、と思う。ついでに言えば、他の街ならまだ冒険者がたくさん居て、エルフやハーフエルフを見る機会もあるのに、この街では冒険者が少ないせいで彼等を見かけないし、エルフにいたっては神を信じない種族、見ることはほぼ絶望的だ。
旅のお楽しみ程度のアクセントだが、それが全く無いのはそれはそれでつまらないというか残念でならないというか。
マウナもどちらかといえば、居心地が悪い。きちんとした服装の人たちが歩いているのは、好感が持てる。しかしその彼等から自分たちに向けられるのは好奇の目であり、さらにはソレがハーフエルフという自分に対する差別の目に感じられてくる。オーファンで自分は随分暖かに接して貰っていたのだな、と感じる。
ちなみにノリスはどちらの感想もあまり抱かなかった。街は綺麗だし、見るものは珍しい。けど、仕事はやりにくそう。まあ、住む事は無いんだし、見物していけばいいか、といったところである。
「久々に来たが、相変わらずだな」
スイフリーが口をへの字にしてぼやく。
「はとこには悪い思い出しかないもんねえ」
「喧しいわ」
そんな会話をよそに、レジィナはオーファンの冒険者たちを見る。
「最初はなれないかもしれないけど、なれちゃえば大した事ないよ。悪い人たちじゃないんだ、悪い人たちじゃ」
「ルールさえ守れば問題ないわよ。あんな目、気にしないでいいのよ」
フィリスはそれとなくマウナを自分の背に隠しながら言う。
「ありがとうございます」
「いいのよ」
「では、私は神殿へ向かいます。イリーナの到着の報告や、その他連絡など済ませてきます」
クレアは硬質な声で宣言する。
「私も神殿見てみたいです」
イリーナの挙手に、クレアは困った顔をした。
「そうですね、一般信者ならただの巡礼として簡単に入ってもらえるのですが……イリーナは正式な客人ですし」
「今回は遠慮しとけ、イリーナ。正式に招待されたときにあっちこっち見て回ればいいだろ」
「……わかりました」
ヒースの言葉にうなずきつつも、非常に残念そうな顔をするイリーナに、クレアは軽く頭を下げる。
「では我々はいつもの宿に居るから。何かあったら連絡してくれたまえ」
「わかりました」
「姉ちゃん、送っていこうか?」
パラサがクレアを見上げる。彼女は少し微笑むと、「大丈夫ですよ」と返答する。パラサは残念そうな顔をしたが、すぐに立ち直る。
「じゃ、またね、にゅ」
■……昨日が金曜日だったんですね(苦笑)
どうも曜日感覚がぬけているというか……。
通常日記にも書きましたが、先週の土曜日に親知らずを抜いたら、ドライソケットという症状を引き起こし、今週一週間ずーっと歯が痛いという状況になっていたのですよ。
もうねー、思考能力が奪われます。
一日過ぎるのが長かったですわ(苦笑)
さて、今回からアノス編です。
つまりあとちょっとで終りです。
そんなこんななのですが、WEB拍手で、大理石のキレイな街ということはソーミーに立ち寄るんですかー? と尋ねていただいて初めて、ソーミーとファーズをごっちゃにしていたことが判明しました。
まあ、大きく問題はなかろう、ということでそのままアップしちゃうことにします。
間道ではその後何事もなく、一行は間道を抜けて再び街道に出る。間道への入り口は巧妙に隠されており、一見何もないように見える。
「なるほど、入り口は最初こんな風に隠されていたんだな。そりゃ、探す気がなきゃ見落とすな」
ヒースは納得したように頷くと、イリーナを見た。
「ではイリーナ。入り口が見えるようにこの辺の草を刈っちゃってくれやがりなさい」
「なーんか、納得いかないんですよねー」
言いながらも、イリーナはその大きなグレートソードを構える。
「何を言うか。この道がこのまま隠されていたら、悪事に使用されるかもしれないんだぞ? 邪悪がはびこることの無いよう、先に手を打っておくことも必要というものだ。ファのつく神の神官として、正しい行いと言えるだろう。正直草木が刈られるのを見るのは心が痛いが、ここはひとつ正しい行いのために目を瞑ろうではないか」
スイフリーの流れるような言葉に、イリーナは大きく頷く。
「わかりました! ではこの辺の木々をなぎ倒しておきますね!」
「道なんてどこにあるか関係なく、悪事に使うこともそうでないこともありますよね」
「まだファリスといえないのか」
「なんであの程度で丸め込まれるんだ……」
グイズノーは鼻で笑い、アーチボルトは呆れたようなため息をつく。ヒースは仲間の純粋さと言えば聞こえのいい単純さに思わず泣きまねをする。
三者三様の反応をすべてスイフリーは無視したし、イリーナは木を切るのに忙しく全く話を聞いていなかったが。
たいした時間もかからず、間道に入り口ができる。
「いい仕事をしました! ファリス様も見守ってくれていることでしょう!」
額の汗をぬぐいながら、イリーナが会心の笑顔を見せる。
「俺、イリーナ姉ちゃんをみてて、ファリスがわかんなくなってきたにゅ。姉ちゃんとちょっと違わない?」
パラサが困惑したような複雑な顔で遠くを見る。
「力押しって所ではそう変わらないんじゃないか?」
「正義を貫くために、力が必要なこともあります」
スイフリーの感想に、クレアが言い返す。
「んー、剣を振るう凛々しい姉ちゃんもステキだから、まあ、いいにゅ」
「なるほど、入り口は最初こんな風に隠されていたんだな。そりゃ、探す気がなきゃ見落とすな」
ヒースは納得したように頷くと、イリーナを見た。
「ではイリーナ。入り口が見えるようにこの辺の草を刈っちゃってくれやがりなさい」
「なーんか、納得いかないんですよねー」
言いながらも、イリーナはその大きなグレートソードを構える。
「何を言うか。この道がこのまま隠されていたら、悪事に使用されるかもしれないんだぞ? 邪悪がはびこることの無いよう、先に手を打っておくことも必要というものだ。ファのつく神の神官として、正しい行いと言えるだろう。正直草木が刈られるのを見るのは心が痛いが、ここはひとつ正しい行いのために目を瞑ろうではないか」
スイフリーの流れるような言葉に、イリーナは大きく頷く。
「わかりました! ではこの辺の木々をなぎ倒しておきますね!」
「道なんてどこにあるか関係なく、悪事に使うこともそうでないこともありますよね」
「まだファリスといえないのか」
「なんであの程度で丸め込まれるんだ……」
グイズノーは鼻で笑い、アーチボルトは呆れたようなため息をつく。ヒースは仲間の純粋さと言えば聞こえのいい単純さに思わず泣きまねをする。
三者三様の反応をすべてスイフリーは無視したし、イリーナは木を切るのに忙しく全く話を聞いていなかったが。
たいした時間もかからず、間道に入り口ができる。
「いい仕事をしました! ファリス様も見守ってくれていることでしょう!」
額の汗をぬぐいながら、イリーナが会心の笑顔を見せる。
「俺、イリーナ姉ちゃんをみてて、ファリスがわかんなくなってきたにゅ。姉ちゃんとちょっと違わない?」
パラサが困惑したような複雑な顔で遠くを見る。
「力押しって所ではそう変わらないんじゃないか?」
「正義を貫くために、力が必要なこともあります」
スイフリーの感想に、クレアが言い返す。
「んー、剣を振るう凛々しい姉ちゃんもステキだから、まあ、いいにゅ」
その後も旅は順調に続く。
エレミア・オランを抜け、アノスへの街道を順調に進んでいるところだ。
その道中は穏やかなものだった。街道をただ歩いてきただけだから、せいぜい山賊や山犬、蛇くらいが相手だったからだ。もちろん、相手にはならない。
オランでは数日滞在したが、大して変わったことは無かった。オーファンの冒険者たちにとっては初めての街だったから、見るもの聞くもの新しく随分楽しんだようだった。
もちろん、アーチボルトは誰も実家に寄せ付けなかったし、フィリスは実家に寄り付かなかった。
そのような経緯を経て、アノスへの道を進んでいる。
「そろそろアノスですね! ああ、どんな都なのでしょう! きっとファリス様の栄光に満ち溢れているんでしょうねー」
憧れの土地が近づくにつれてイリーナのテンションはどんどん上がる一方だ。
「まあ、そうだな、ファリス信者ばかりだからなあ」
スイフリーがげんなりした顔でため息をつく。
「アノスの都はファーズですよね!」
「お、イリーナ、ちゃんと知ってるとは珍しい」
意外、という表情でヒースはイリーナを見た。いつもなら鉄拳が飛んでくるような言葉だったのだが、機嫌がいいのか気にしなかったのか、ともかく鉄拳は飛ばなかった。
「ファーズって、どんなところ?」
ノリスの質問にクレアが答える。
「取り立てて変わったところはありませんよ」
「へえ」
「そんなことは無い」
スイフリーが苦い声で言う。
「とりあえず、全体的に白い。大理石が使われた建物が多いからだ。道を歩けば居るのはファリス信者ばかり。商売する気がないのか威圧的な店員。格式にばかりこだわって流動的でないシステム。どこが普通だ」
「何か、大変そうなところだね」
ノリスが顔を顰める。
「名物はアノスまんじゅう、1こ1ガメルにゅ。ただ見るだけなら綺麗な街にゅ」
「他の名物っていえば、見つけられない友愛団だとか、音楽堂?」
「友愛団は名物じゃないにゅ」
「それより先に大聖堂とかあげるべきじゃないですかね?」
パラサとフィリスの掛け合いに、グイズノーが苦笑する。
「ああ、初めてだとちょっと面食らうかもしれないが、宿にとまるときは武器を預けるシステムだ」
アーチボルトの言葉に、イリーナは途端に嫌そうな顔をする。
「えええええ、武器を預けるんですか!? グレートソードを!?」
「不都合でも?」
クレアがきょとんとイリーナをみる。
「うー、うー、確かに法皇様のいらっしゃる街で武器をふりまわすのは……でもグレートソードと離れるのも……」
「……あんな金属の塊、もてる店員がいるのだろうか」
「オレが何人集まったらもてるかなあ? 1ダースくらい?」
「わたし3人でもきびしいかもしれん」
「わたくしなら2人……いえ、3人必要ですかね」
パラサとスイフリー、そしてグイズノーがイリーナのグレートソードを見てため息をついた。
「みなさんが非力なだけですよ!」
「や、それは絶対無い」
エレミア・オランを抜け、アノスへの街道を順調に進んでいるところだ。
その道中は穏やかなものだった。街道をただ歩いてきただけだから、せいぜい山賊や山犬、蛇くらいが相手だったからだ。もちろん、相手にはならない。
オランでは数日滞在したが、大して変わったことは無かった。オーファンの冒険者たちにとっては初めての街だったから、見るもの聞くもの新しく随分楽しんだようだった。
もちろん、アーチボルトは誰も実家に寄せ付けなかったし、フィリスは実家に寄り付かなかった。
そのような経緯を経て、アノスへの道を進んでいる。
「そろそろアノスですね! ああ、どんな都なのでしょう! きっとファリス様の栄光に満ち溢れているんでしょうねー」
憧れの土地が近づくにつれてイリーナのテンションはどんどん上がる一方だ。
「まあ、そうだな、ファリス信者ばかりだからなあ」
スイフリーがげんなりした顔でため息をつく。
「アノスの都はファーズですよね!」
「お、イリーナ、ちゃんと知ってるとは珍しい」
意外、という表情でヒースはイリーナを見た。いつもなら鉄拳が飛んでくるような言葉だったのだが、機嫌がいいのか気にしなかったのか、ともかく鉄拳は飛ばなかった。
「ファーズって、どんなところ?」
ノリスの質問にクレアが答える。
「取り立てて変わったところはありませんよ」
「へえ」
「そんなことは無い」
スイフリーが苦い声で言う。
「とりあえず、全体的に白い。大理石が使われた建物が多いからだ。道を歩けば居るのはファリス信者ばかり。商売する気がないのか威圧的な店員。格式にばかりこだわって流動的でないシステム。どこが普通だ」
「何か、大変そうなところだね」
ノリスが顔を顰める。
「名物はアノスまんじゅう、1こ1ガメルにゅ。ただ見るだけなら綺麗な街にゅ」
「他の名物っていえば、見つけられない友愛団だとか、音楽堂?」
「友愛団は名物じゃないにゅ」
「それより先に大聖堂とかあげるべきじゃないですかね?」
パラサとフィリスの掛け合いに、グイズノーが苦笑する。
「ああ、初めてだとちょっと面食らうかもしれないが、宿にとまるときは武器を預けるシステムだ」
アーチボルトの言葉に、イリーナは途端に嫌そうな顔をする。
「えええええ、武器を預けるんですか!? グレートソードを!?」
「不都合でも?」
クレアがきょとんとイリーナをみる。
「うー、うー、確かに法皇様のいらっしゃる街で武器をふりまわすのは……でもグレートソードと離れるのも……」
「……あんな金属の塊、もてる店員がいるのだろうか」
「オレが何人集まったらもてるかなあ? 1ダースくらい?」
「わたし3人でもきびしいかもしれん」
「わたくしなら2人……いえ、3人必要ですかね」
パラサとスイフリー、そしてグイズノーがイリーナのグレートソードを見てため息をついた。
「みなさんが非力なだけですよ!」
「や、それは絶対無い」
■オラン―アノス間の街道の名前って、何だっけ?
ま、いいや。
次回からアノス編!
ま、いいや。
次回からアノス編!
歩き始めて暫らく。
「どうしてあの家がルキアルの策略だと思ったのだ?」
一行の中程を歩くスイフリーにガルガドは尋ねる。
「単に魔物がいただけ、という可能性は考えなかったのか? 手がかりはなかったはずだが……」
「私も知りたいです!」
しゅた、と右手を挙げてイリーナが会話に参加する。スイフリーは面倒くさそうに二人を見た。
「長くなるぞ?」
「かまわん。どうせ時間はたっぷりあるからの」
「なるべく分かりやすくお願いします!」
二人の答えに、スイフリーは大きくため息をついてから、話し始める。
「あの家が何物か考えた。単なる魔物なのか、策略で用意されたのか。いつ使えるとも分からない危険なものを策略で用意するのはリスクが高すぎる。と、いうことは、もとからあったのだろう。となると、これはなぜここにある。道は使われてないが、整備されたあとがある。つまり家は最初は普通だったが途中からおかしくなった。理由はどうだっていい」
「まあ、理由に関係なく、存在するからの」
ガルガドは大きく頷いた。
スイフリーはそれを見て続ける。
「となると、この家は邪魔なはず。さっきも言ったが、間道が使えれば戦略上有利なのに、使えないのだからな。では、邪魔なものはどうしたい?」
「邪魔な邪悪なものは排除あるのみです!」
力強い回答に、スイフリーは一瞬引きつったような笑みを浮かべて、それから真顔になる。
「そうだな。コレが自分の国にあったらどうするか想像してみた。邪魔なものは取り除きたいはずだ。しかしできていない。つまり、この家はそれなりに強いか、厄介な能力があるということになる。となると、それなりに力がある者が行くしかない。しかしそれはリスクが高い。必ず家を排除できるとは限らないからだ。そうなったとき、力を持ったものが居なくなってしまう」
二人が大きく頷いたのを見て、スイフリーは一度大きく息を吐いてから更に続ける。
「そこへ力があって邪魔な奴が通りかかった。そうしたら、そいつらを使えばいい。どっちがなくなっても、自分にとっては利益だ。さて、コレで大体考えはまとまった。わたしがこの程度考えるのだから、あのお方も似たようなことを考えるだろう。可能性は最初に立ち返って2つ。魔物か策略か。まあ、策略で考えたほうが安全だからここまでそっちで考えてきたわけだが」
「安全ですか?」
「警戒をしている、ということだろう」
首をかしげるイリーナに、ガルガドが解説する。
「単なる魔物である場合、見張りは居ない。策略によってこちらが動かされたのであれば、結果を見届けている者がいるはずだ。だとしたら、くり返しになるが、何処かに見届けている奴がいると考えたほうが安全側。だから、家から出たらすぐに周囲を警戒、とはとこに伝えた。そしたら本当に斥候がいた。あとはそいつをつかまえて答えあわせをするだけだ。ちょっとハッタリかまして問い詰めたら、案外あっさり認めてくれて、その辺はラッキーだったな」
「つまり、どういうことですか?」
「悪いほうに悪いほうに考えていったら、当たった、ということだの」
「我々は冒険者。危険を売りつけられるのが商売だ。そこを生き残ろうというのだから、常に最悪パターンを考えておくのが安全というものだ」
途中でついていけなくなったのか首を傾げるイリーナと、どちらに呆れているのか、ともかく呆れたような声を出すガルガド。そしてそれに対して反論になっているのかいないのか、微妙な返答をするスイフリー。
「まあ、無事だったんだから、筋道なんてどうでもいいじゃない」
能天気な声で言うノリスに、ガルガドは大きなため息をつく。
「有能なシーフがほしい……」
■書いてる最中に、スイフリーが何を言いたいのか理解できなくなった、なんて秘密だったら秘密だ。
■宣伝。
この一個前の記事に、一日遅れで「ラブシック」更新してあります。
気になっている方はそちらも合わせてどうぞ。
「どうしてあの家がルキアルの策略だと思ったのだ?」
一行の中程を歩くスイフリーにガルガドは尋ねる。
「単に魔物がいただけ、という可能性は考えなかったのか? 手がかりはなかったはずだが……」
「私も知りたいです!」
しゅた、と右手を挙げてイリーナが会話に参加する。スイフリーは面倒くさそうに二人を見た。
「長くなるぞ?」
「かまわん。どうせ時間はたっぷりあるからの」
「なるべく分かりやすくお願いします!」
二人の答えに、スイフリーは大きくため息をついてから、話し始める。
「あの家が何物か考えた。単なる魔物なのか、策略で用意されたのか。いつ使えるとも分からない危険なものを策略で用意するのはリスクが高すぎる。と、いうことは、もとからあったのだろう。となると、これはなぜここにある。道は使われてないが、整備されたあとがある。つまり家は最初は普通だったが途中からおかしくなった。理由はどうだっていい」
「まあ、理由に関係なく、存在するからの」
ガルガドは大きく頷いた。
スイフリーはそれを見て続ける。
「となると、この家は邪魔なはず。さっきも言ったが、間道が使えれば戦略上有利なのに、使えないのだからな。では、邪魔なものはどうしたい?」
「邪魔な邪悪なものは排除あるのみです!」
力強い回答に、スイフリーは一瞬引きつったような笑みを浮かべて、それから真顔になる。
「そうだな。コレが自分の国にあったらどうするか想像してみた。邪魔なものは取り除きたいはずだ。しかしできていない。つまり、この家はそれなりに強いか、厄介な能力があるということになる。となると、それなりに力がある者が行くしかない。しかしそれはリスクが高い。必ず家を排除できるとは限らないからだ。そうなったとき、力を持ったものが居なくなってしまう」
二人が大きく頷いたのを見て、スイフリーは一度大きく息を吐いてから更に続ける。
「そこへ力があって邪魔な奴が通りかかった。そうしたら、そいつらを使えばいい。どっちがなくなっても、自分にとっては利益だ。さて、コレで大体考えはまとまった。わたしがこの程度考えるのだから、あのお方も似たようなことを考えるだろう。可能性は最初に立ち返って2つ。魔物か策略か。まあ、策略で考えたほうが安全だからここまでそっちで考えてきたわけだが」
「安全ですか?」
「警戒をしている、ということだろう」
首をかしげるイリーナに、ガルガドが解説する。
「単なる魔物である場合、見張りは居ない。策略によってこちらが動かされたのであれば、結果を見届けている者がいるはずだ。だとしたら、くり返しになるが、何処かに見届けている奴がいると考えたほうが安全側。だから、家から出たらすぐに周囲を警戒、とはとこに伝えた。そしたら本当に斥候がいた。あとはそいつをつかまえて答えあわせをするだけだ。ちょっとハッタリかまして問い詰めたら、案外あっさり認めてくれて、その辺はラッキーだったな」
「つまり、どういうことですか?」
「悪いほうに悪いほうに考えていったら、当たった、ということだの」
「我々は冒険者。危険を売りつけられるのが商売だ。そこを生き残ろうというのだから、常に最悪パターンを考えておくのが安全というものだ」
途中でついていけなくなったのか首を傾げるイリーナと、どちらに呆れているのか、ともかく呆れたような声を出すガルガド。そしてそれに対して反論になっているのかいないのか、微妙な返答をするスイフリー。
「まあ、無事だったんだから、筋道なんてどうでもいいじゃない」
能天気な声で言うノリスに、ガルガドは大きなため息をつく。
「有能なシーフがほしい……」
■書いてる最中に、スイフリーが何を言いたいのか理解できなくなった、なんて秘密だったら秘密だ。
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気になっている方はそちらも合わせてどうぞ。
「取引ということですね。……しかし、私はお察しの通りただの斥候、たいした権限もありません。何もお約束などできませんよ?」
「たいしたものは期待しない。わたしの要求は微々たる物だ。我々はただ、普通に、ロマールを無事に出たい。だから、この先何もせずわたしたちをこの国から出してくれれば良い。もともとそちらの案では、我々が消えるか、家が消えるか、どちらもが消えるか、のどれかに行き着けばよかったはずだ。目的は果たせているのだから、こちらの要求などたいしたことではあるまい?」
スイフリーはそこで余裕綽々、といった笑顔を向ける。本人、もしかしたら愛想笑いのつもりかもしれないが。
「誰か他にコイツに要求したいことはあるか?」
「特にはないな。無事に出られるんだったら、それでいい。スイフリーの要求だけで十分だろう」
アーチボルトは大きく頷く。
「えー? このでっかい家倒したんだよ? 報酬とかもらわないの?」
「魔晶石だってたくさん使ってたのに」
ノリスとマウナが意外そうな、残念そうな声を上げる。
「気にしちゃだめよ、あんなのたいした物じゃないんだから」
「いつもどおりだよね?」
「必要経費範囲内でしょう」
フィリス、レジィナ、グイズノーのそれぞれがけろりと言い放つ言葉に、マウナはとても複雑そうな顔をして思わず空を見上げる。同じ冒険者のはずなのに、この金銭感覚の違いは何だろう。
「では我々からの正式な要求は、ロマール国内でこれ以上我々にちょっかいをかけてこないこと。これだけだ。報酬も慰謝料も請求しない。間道だって好きに使うがいいさ」
スイフリーはそれだけ言うと、もう興味もないのか男から離れる。
「放っておいてももうすぐノームちゃんはお前を放す。そうしたら思いっきり走れ。さっさと目の前から消えて報告にいってくれ」
男が走り去ってから、エキューはスイフリーを見る。
「口封じしておかなくてよかったの?」
その目はいつもとは違い、すこし危険な色を帯びている。
「その必要がどこにある」
「こっちのことが全部筒抜けってことでしょ? なんか向こうの一方的な勝ちで、こっちは負けってことになるし」
「もともとあのお方はそれなりの実力の冒険者はチェック済みだろう。戦争になったしりたときに、一番動きが読めず面倒なのが実力のある冒険者であることはまちがいないからな。今更だ」
スイフリーは肩をすくめ、ため息をついて見せた。
「それに」
アーチボルトがその言葉を引き継ぐ。
「今回はあの斥候がきちんとルキアルに報告をすることが重要なのだ」
「さすがアーチー。わかってるなあ」
スイフリーが口を吊り上げて笑う。
「そもそものルキアルの策では、家がなくなろうが、我々が食われようが、それが我々に『ルキアルの策だ』と気付かれないままに遂行されることが重要だったのだ。もちろん、斥候なども捕まらないのが前提なわけだ」
「あのお方が単独で使う密偵は皆どっか間抜けだにゅ」
パラサの言葉に、アノスの冒険者たちは一様に苦笑してみせた。
「まあ、それはともかく。今回はあの斥候があのお方の所へ報告へ行くと、我々が策に気付いたということが伝わるわけだ」
「なるほど、どうあがいてもあっちの一方的勝利だったはずの策を、引き分けに持ち込んだってのを伝えさせるんだな」
「正解だ」
ヒースの解答に、アーチボルトは満足げに頷いて見せた。
「またうらまれるんだ……」
げんなりするレジィナに、「有名税みたいなものよ」とフィリスは悠然と笑う。
「では、エレミアで間道があることを伝えないといけませんね!」
「必要ない。ばれてるのが分かっている道を使うほど、無能ではないさ。入り口は我々が開けてきた。出口も空けていけば、いずれどこかの冒険者が見つけて広まる」
イリーナにアーチボルトは答えると、ぐるりと一度全員を見た。
砂埃で多少汚れてはいるが、皆無事だ。
「では、行くか」
■気付いたら、今日は月曜日でした。
おそくなりましたが、49話、お届けです。
ネタばらしはまだつづきます。
ところで、本放送は、終わりました。
「たいしたものは期待しない。わたしの要求は微々たる物だ。我々はただ、普通に、ロマールを無事に出たい。だから、この先何もせずわたしたちをこの国から出してくれれば良い。もともとそちらの案では、我々が消えるか、家が消えるか、どちらもが消えるか、のどれかに行き着けばよかったはずだ。目的は果たせているのだから、こちらの要求などたいしたことではあるまい?」
スイフリーはそこで余裕綽々、といった笑顔を向ける。本人、もしかしたら愛想笑いのつもりかもしれないが。
「誰か他にコイツに要求したいことはあるか?」
「特にはないな。無事に出られるんだったら、それでいい。スイフリーの要求だけで十分だろう」
アーチボルトは大きく頷く。
「えー? このでっかい家倒したんだよ? 報酬とかもらわないの?」
「魔晶石だってたくさん使ってたのに」
ノリスとマウナが意外そうな、残念そうな声を上げる。
「気にしちゃだめよ、あんなのたいした物じゃないんだから」
「いつもどおりだよね?」
「必要経費範囲内でしょう」
フィリス、レジィナ、グイズノーのそれぞれがけろりと言い放つ言葉に、マウナはとても複雑そうな顔をして思わず空を見上げる。同じ冒険者のはずなのに、この金銭感覚の違いは何だろう。
「では我々からの正式な要求は、ロマール国内でこれ以上我々にちょっかいをかけてこないこと。これだけだ。報酬も慰謝料も請求しない。間道だって好きに使うがいいさ」
スイフリーはそれだけ言うと、もう興味もないのか男から離れる。
「放っておいてももうすぐノームちゃんはお前を放す。そうしたら思いっきり走れ。さっさと目の前から消えて報告にいってくれ」
男が走り去ってから、エキューはスイフリーを見る。
「口封じしておかなくてよかったの?」
その目はいつもとは違い、すこし危険な色を帯びている。
「その必要がどこにある」
「こっちのことが全部筒抜けってことでしょ? なんか向こうの一方的な勝ちで、こっちは負けってことになるし」
「もともとあのお方はそれなりの実力の冒険者はチェック済みだろう。戦争になったしりたときに、一番動きが読めず面倒なのが実力のある冒険者であることはまちがいないからな。今更だ」
スイフリーは肩をすくめ、ため息をついて見せた。
「それに」
アーチボルトがその言葉を引き継ぐ。
「今回はあの斥候がきちんとルキアルに報告をすることが重要なのだ」
「さすがアーチー。わかってるなあ」
スイフリーが口を吊り上げて笑う。
「そもそものルキアルの策では、家がなくなろうが、我々が食われようが、それが我々に『ルキアルの策だ』と気付かれないままに遂行されることが重要だったのだ。もちろん、斥候なども捕まらないのが前提なわけだ」
「あのお方が単独で使う密偵は皆どっか間抜けだにゅ」
パラサの言葉に、アノスの冒険者たちは一様に苦笑してみせた。
「まあ、それはともかく。今回はあの斥候があのお方の所へ報告へ行くと、我々が策に気付いたということが伝わるわけだ」
「なるほど、どうあがいてもあっちの一方的勝利だったはずの策を、引き分けに持ち込んだってのを伝えさせるんだな」
「正解だ」
ヒースの解答に、アーチボルトは満足げに頷いて見せた。
「またうらまれるんだ……」
げんなりするレジィナに、「有名税みたいなものよ」とフィリスは悠然と笑う。
「では、エレミアで間道があることを伝えないといけませんね!」
「必要ない。ばれてるのが分かっている道を使うほど、無能ではないさ。入り口は我々が開けてきた。出口も空けていけば、いずれどこかの冒険者が見つけて広まる」
イリーナにアーチボルトは答えると、ぐるりと一度全員を見た。
砂埃で多少汚れてはいるが、皆無事だ。
「では、行くか」
■気付いたら、今日は月曜日でした。
おそくなりましたが、49話、お届けです。
ネタばらしはまだつづきます。
ところで、本放送は、終わりました。