[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
部屋に入ってきたエルフの表情を見て、彼はとっさに机の上の本に目線を戻す。エルフの表情はかなり怒りに満ちていて、不機嫌なことは容易に想像がついた。
件のエルフは、別に感情に乏しいタイプではない。それは知っている。が、ここまであからさまに怒りを見せるのは、それほどあることでもない。
基本的に、仲間のエルフはその種族の通り、温厚なほうである。ただ、「変化を好まない」というところから大きく外れているため、エルフらしさを感じないだけだ。事実、コレまでエルフが心底怒っていたのを見たのは、2回しかない。
彼は異種族が好きではないが、エルフの賢さを認めている。エルフの判断ミスで痛い目にあったことが無いとは言わないが、その判断に助けられたことのほうが圧倒的に多い。それに、彼とエルフの知的好奇心方面の好みは似ていたので、そういう意味では、仲間内で一番信頼しているといえる。
そのエルフのかなりの不機嫌な顔に、彼は暫らく最近の自分の行動を振り返ってみる。怒らせるようなことがあっただろうか。何か非があったら即座に謝ろう。このエルフは敵に回さないほうがいい。
というわけで、暫らく考えてみたがエルフの怒りに触れるようなことは何も心当たりがない。
そしてエルフのほうは無言のまま、彼の机の前にある、仲間内からは大層評価の低い、彼お気に入りのソファに座ったままである。ただ、座っているだけでも不機嫌な空気というものが彼の元までひしひしと伝わってきているので、ただ事ではないのだろう。
「アーチー」
いつもに増して低いエルフの声に、彼は内心動揺しながらもなんとか平然としたつもりの顔を向ける。実際自分がどんな顔をしているか分かったものではないのだが、ともかく、平然としているつもりだ。
「なんだ」
「あの女は何とかならんのか」
その怒りの声に、彼は暫らく考える。この城に居る女性は少ない。フィリスと、レジィナと、クレア。それからリズとその母親。とはいえ、後者二人がエルフの怒りに触れるようなことをすることは、多分無いだろう。それにどちらかと言えば、エルフのほうがリズを苦手としている。
「誰のことだ」
「お前に話に来てるんだ」
苦々しい声でエルフは告げる。フィリスだ、と内心思ったがそれは口にしない。もしかしたらエルフのこの怒りが演技で、彼女の差し金なのかもしれない。真っ先に名前を挙げた、ということを言質に取られ何かされるとか、何かを同意する羽目に陥るかもしれない。そもそもこのエルフ、あの女の味方をすることがある。
「スイフリーにしては歯切れの悪い切り返しだな」
彼の言葉に、エルフが勢い良く立ち上がった。ソファだったからよかったものの、普通の椅子であれば多分椅子はけたたましい音を立てて倒れていたことだろう。
そのままエルフは彼の前まで歩いてくると、ばん、と机を両手でたたく。
「フィリスだ!」
「ああ」
今更思い至った、というような声を出す。エルフの怒りはどうやら本物らしい。ここまで余裕の無いエルフを見るのはそうあることではない。彼は現在、自分にアドバンテージがあることに気付き、内心ほくそ笑む。これもそうそうある話ではない。
「で? フィリスが何かしたのか?」
「お前なんでもいいから今すぐフィリスのところへ行って、結婚しようだの好きだだのそういう台詞の一つも吐いてこい!」
彼はエルフのあまりの発言に、訝しげな目を向ける。
「スイフリー、自分が今何を口走っているか理解してるか? もしかしてフィリスに何か弱みでも握られたのか? 君らしくないじゃないか」
「喧しい」
にやりと笑って見せると、エルフは低い声でそれだけ言うと彼をにらみつけた。
そういう反応は彼女で慣れているので、今更うろたえたりはしない。エルフとしては珍しいな、と思う程度だ。
「ともかく、フィリスが何か君を怒らせるようなことをしたのであれば、わたしではなく本人に掛け合うのが筋というものではないかね?」
びし、と指を突きつけ言うと、彼は再び本に目を落とす。話はコレで終わり、でいいはずだ。
「そもそもお前がはっきりしないのが悪いんじゃないか」
エルフは恐ろしく低い声で、ゆっくりとした口調で話しだす。
「?」
彼はエルフを見上げる。エルフが小柄とはいえ、こちらは椅子に座っているので見上げることになるのだ。
「お前が、フィリスのことを宙ぶらりんにして放っておくから、奴の標的がこっちに変わったんだ」
「おまえ、それは逆恨みってやつだ」
彼は呆れた声を出す。少し前、彼女がエルフと女神官のことについてうだうだと意見を述べていったのを思い出す。そういうことに関してはピカイチの行動力を持つ彼女が、実際に動き始めただけなのだろう。だとすれば、下手に手を出さないほうが賢明だ。
「お前がさっさとまとまってくれれば、周りをみている意味が消えるだろう?」
エルフが、少し懇願口調になってきた。ちょっとコレは面白いかもしれない。
「そうか? フィリスは自分他人関係なく恋愛話が好きだから、自分がまとまったからといって周囲に向ける目があまくなるとは思えない。むしろ自分がまとまってしまったらこの幸福を他人も享受すべきだと考え、スイフリーへの攻撃はますます強まるのではないだろうか? わたしのためにも、君のためにも、この話題はつつかないに越したことは無いと思うが」
エルフは答えない。もしかしたら「それもそうかも」程度には感じたのかもしれない。
「それに、少し前、スイフリー自身言ったではないか」
「何を」
「わたしに、フィリスに捨てられないでよかったな、と。アレはどういう意味だったのだ? 基本的に男女が恋愛でくっつくのが幸せだという発言だろう? だとしたら、君がまとまることも、君自身が肯定しないとおかしいじゃないか」
エルフの顔つきがすーっと冷めていく。怒りを通り越して呆れたのか、それとも怒りが突き抜けて表情がついていかなくなったのか、どちらなのか見極めるのは困難だ。
「あのな」
エルフの声はどこまでもフラットで、感情をうかがい知ることはできなかった。
「それは同種族の間でのみ言えることであって、現在、フィリスが目論むわたしの状況には全く当てはまらない」
「お前誰とくっつけられそうになってるんだ?」
「分かってることをわざわざ聞くな」
確かに分かっている。彼女は女神官の名前をストレートに挙げていた。
ただ、彼は本当に女神官がこのエルフを好いているのかどうか、未だによくわからないのだが。
「スイフリー」
声掛けにエルフは彼の顔を見る。鋭い目にはっきりと不信感を募らせて。
「君自身が答えを出すべき問題だろう? わたしとフィリスの問題に摩り替えても、意味はない」
エルフ自身、そのくらいは分かっているのだろう、と彼は思う。
自分が、彼女との最終的結論をなんとなく理解しつつも未だ受け入れられないのと同じで。
「わたしは」
エルフがぼそりと呟く。
「わたし自身が人間であるか、あれがエルフであれば、多分アーチーほどには先送りしない」
彼は意外な返答に思わずエルフの顔をまじまじと見る。エルフは真顔で、別に茶化してそう言ったのではない、と直感的に理解する。
「わたしが人なら、残っている時間はせいぜい数十年。だとしたらそろそろ急がなければ行けない時期だろう。そしてあれがエルフなら、とりあえず将来を視野に入れて、互いに選別時代に入っても問題は無い。百年ほど付き合えば、その後も上手くいくかどうかの見極めはできる。もしダメでもまだ次に余裕はある。だから問題は無い。もしくは」
「もしくは?」
立て続けに予想外の言葉が返ってきて、彼は自分の脳内がぐるぐる渦巻いているような錯覚に陥りながらも、エルフに先を促す。結論がどこへ行き着くのか、ただそれが知りたかった。
「もしくはわたしがもう年老いたエルフなら。……もしかしたら悩まないのかもしれないな」
「どういう意味で?」
「秘密だ」
エルフが一瞬だけ悲しそうな顔をしたような気がして、彼は暫らく黙る。
エルフのほうも黙ったので、部屋の中には沈黙だけが存在した。
と、唐突にエルフが口を開く。
「フィリスはいい奴だ。お前認めてやってもいいんじゃないか?」
「クレアさんだって、いい娘さんだ」
「言っただろう、種族が違うんだ。確かにエルフと人はその壁を越えられるが、越えたところでいいことなんて全く無い」
「決定事項か? それとも言い訳か?」
「さあな? ただ意地を張ってるだけのお前よりは深刻ではある」
「失礼な」
彼は顔を引きつらせ、エルフを見る。エルフのほうは怒りは収まったのだろうが、今度は酷く疲れた顔をしていた。
「互いに不幸になる選択など、ナンセンスだろう?」
それだけ言うと、エルフは部屋を出て行ってしまった。
取り残されて暫らく。
彼は漸く「ああ」と思い至る。
つまりエルフは。
結末を認めるのが怖いのだ。
到達するのが、怖いのだ。
自分と同じで。
■火曜日はラブシックの日。金曜日は泡ぽこの日。
いつから? とりあえず今月だけ。先月は違った。来月は分からない。
ということで、日も変わって火曜日になったのでアップしておきます。
ますますこの話が何処へ行きたいのか、自分が一番よくわからない、という状況になっております。
まー、なるよーになるんじゃないですかねー(無責任発言)
コレまでだってそうだったさ。
あ、ところでアリアンロッドルージュの件ですが、脳内で昨日色々文章が思いついたのは事実です。
多分書くことは出来るでしょう。
しかし4巻を読んで今の妄想が正しいのかどうか、それを見極めてからじゃないとにんともかんとも。
ところでルールを全然知らんのだが。アリアンロッド係に頼んでみるかなあ。GMやってくれーって。