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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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冷 / 熱

城の麓には、領地があり領民が居る。
その小さな村で、エルフは珍しく彼と差し向かいで酒を飲んでいた。
明日には城にたどり着く。そのおかげで同行者のグラスランナーは浮かれきっていて、すでに心あらずといった感じになっている。同様に、彼の同行者である少女も、久々の「わが家」に浮かれており、その二人組みで最後の仕上げと言わんばかりの勢いで村の小さな雑貨屋に買い物に出かけていった。
取り残されて、エルフと彼は一緒に居るだけの話である。
「それにしても、大荷物ですね」
彼は呆れたような笑顔をエルフに向ける。
「わたしの荷物ではない。はとこの子のだ。大半はクレア宛の土産だ」
「へえ」
彼はにまにまとした笑顔をエルフに向ける。
「あなたは何か?」
「何が」
「お土産やプレゼントを」
「何も」
その返答に彼は「おや」という顔をする。
「一度くらいは」
「全然。はとこの子がコレだけ渡しているのだから、必要ないだろう」
「……駄目ですよ、それじゃ。女性はプレゼントに弱いんですから」
エルフは冷めた目を彼に向ける。視線だけで「で?」と先を促したつもりだったが、彼からは返答が無かった。というのも、彼は窓の外を歩いていく若い女性に暫らく見とれていたからだ。
「……」
呆れた眼差しで暫らく彼を観察する。大体の行動パターンは分かっているが、相変わらず、結局のところどちらが彼の本質なのかは、分かっていないような気がした。
つまりは、落ち着いた聖職者なのか、駄目な破戒僧なのか、だ。大半の行動は後者なのだが、根本的な考え方は前者に近い場合が多い。
「で、何でしたっけ? そうそう、プレゼントですよ。女性のハートをゲットするには、必要不可欠です」
「別にそういうもんはいらない」
「まあ、あなたの場合、放っておいても、ねえ?」
含むような言い方に、エルフは彼を見る。何を言いたいのか、彼はにやにやと笑っているだけだ。どちらの意味でとられたのだろう。自分としては心なんていらない、という意図で返答したのだが。
人間は複雑怪奇だ、と思う。別にエルフが複雑ではないわけではないのだが。単に里に居るときには見えていなかっただけだろうか、とエルフは少し考える。
「結局どうするんです? フィリスあたりは虎視眈々と狙ってますよ。わたくしは、この件については放っておくのが一番だと一応忠告したんですけどね、それはそれとして、気にはなります」
「放っておくのが一番だと思っているなら、放っておいてくれ」
エルフは疲れたような声で返答する。
どうしてこの件について、色々言われなければいけないのか。
放っておいてほしい。
放っておけば、きっと、感情は消えていくだろう。
返答の無い質問が宙に浮いてしまうように、反応のないものはいつか忘れ去られる。
瞬間的なものなのだ、人の時間など。
だからこそ。
「わたくしは、単純に、好奇心として、あなたが今後どうするのかが知りたいわけです」
「そんな好奇心捨ててしまえ、破戒僧が」
「あなたにとってはね、一瞬かもしれませんけど」
そこで彼は一度言葉を切って、テーブルに用意されていたつまみを口に放り込む。動きだけ見ると、やはり聖職者には見えない。この国はファリス信者ばかりでラーダ神官は肩身が狭いだろうが、それにしたってもうちょっと聖職者然としていなければ、ただただラーダの評価を落とすだけではないだろうか、とエルフは考え、ああ、自分も似たようなものか、などと思い至る。
取り繕ったってボロがでるだけなら、取り繕わないほうが正しいのだろう。多分。
「時間って、やっぱり長いですよ」
彼はそこで久々に真面目な顔をするとエルフを見つめる。
「もし、クレアさんが真剣になっていたら、あなたも真剣にお答えすべきですよ。もちろん、今までのように分かっていなくて不安定なら、今までの対応でいいかもしれないですけどね」
「真剣に考えていたのだが」
「おや、そうだったんですか」
真剣な顔は数秒と持たず、すぐに好奇心丸出しの笑顔を見せる。結局彼の本質がどちらなのか、今日もエルフには確定ができそうに無い。
「あれは思い込んだら見境なく一直線に進むことしかできないだろう?」
エルフは少し前のことを思い出す。魔術師に指摘された感情を、自分で確かめることなくエルフにぶつけてきた、その単純さと言うか考えなしというか、ともかく立ち止まると言うことができない彼女。
「……ファのつく神のもと、その善悪判断ラインに従って皆で行動していた時はそれでよかったのだろう。今の名代職だって、その正直で勤勉という美徳の元信頼して頼んでいるわけだし、決してその性格が全て悪いとは言わない。純粋であるということについては間違い無いだろうな。だからこそ」
彼はそこで一度言葉を切る。
自分がなにかとてつもなくまずいことを言うのではないかという気がする。
もし、そうだとしたら、多分自分は酔っているのだ。
そういうことにしたい。
「止めてやる者が必要なのだ。わたしが友愛団にさらわれたとき、あれはわたしも切り捨てるつもりだったのだろう? それを皆はとめてくれた。それと同じだ」
「あの時は本当にあなた切り捨てられそうな勢いでしたからね。流石に恐ろしかったですよ。でも、その時点から考えれば、柔らかくなったのもまた事実でしょう? まあ、今でもお堅いですけどね」
そこが可愛いところです、と彼は続ける。その言葉になんとなくエルフはむっとしたものを感じたが、それは言わないことにした。
「あれがわたしとのことを見定めて見境無しに突き進むようになったら、わたしのほうが冷静になってとめてやるべきだろう」
「優位に立ちたいわけですか?」
「は?」
「一緒に我を忘れてしまうという選択肢だってあるでしょう? 彼女だけがあなたに熱中していて、あなたはそれを見ていたいわけでしょう? と言うことは優位に立ちたいってことじゃないですか? フェアじゃないでしょう」
「……」
「アーチーとフィリスも、似たようなものですけどね、フィリスはあれで我を忘れたことは無いですし、アーチーは自分の心の中も含めて、全て否定することでフィリスとの仲を認識しています。そしてフィリスもそれを理解しています。あの二人はもう、互いにどういう気持ちかよく分かった上で、どちらが先に折れるかというゲームをしているに過ぎませんよ。あなたとはちょっと違うわけです」
「奴らは同じ種族だから、障壁なんかないだろう? それこそ気持ちだけの問題だ。わたしは、我を忘れるわけにはいかない。エルフと人が一緒になっても、いいことなど無いんだ。流れる時間が違うし、子だって差別の対象だ。一時的な気の迷いで、背負うには重過ぎる」
彼はエルフの言葉に反論しようと口を開く。
が、それより先にエルフの言葉が続いた。
「そんなもん、負わせるわけにはいかない」
「え?」
「なんでもない」
思わず聞き返した彼の声に、エルフは我に返ったように話を切り上げる。
「ああ、でも、子どもが問題なのは分かりますね。ハーフエルフは人の世界でもエルフの世界でも生きにくいのは確かです。でも、全員が全員、不幸なわけでもないですよ。結局はどれだけ周囲に恵まれるかだ、という意味合いでは、人の子も、エルフの子も、ドワーフの子も、グラスランナーの子も、ハーフエルフの子も、変わらないんじゃないですかね。スタートで少々不利なのは認めますけど」
彼はそういうとエルフを笑顔で見た。
「相当の覚悟は要りますけどね」
「他人事だと思って」
「実際他人事ですから。ただ、あなたが真面目に考えているのが分かったのはちょっとした収穫ですね。もっと感情的に否定しているのだと思っていました。彼女のこと、苦手ですからね、あなた。嫌ってないくせに」
「やかましい」
エルフが苦い顔をしたところに、同行者たちが帰ってくる。
「あれ、スイフリーどしたの? グイズノーと喧嘩でもしたの?」
少女がきょとんとした顔で、彼らを見比べる。
「ええ、ちょっとした口論を。なんとわたくしの勝利で終わりました」
「それ、はとこが手ぇ抜いたんとちゃう?」
彼の返答に、グラスランナーが笑う。同行者たちが帰って来たことで、彼の追及は止まるだろう。エルフは内心胸をなでおろす。

嫌ってないくせに。

その言葉に、エルフはそっとため息をつく。
自分の心など、とうに分かっている。
だからこそ、次の一歩を踏み出してはいけない、と思う。
最初から不幸になると分かっている道など、歩く必要はない。

いずれ消えてなくなるのだ。
こんな不確かな熱は。




■11月も、とりあえず火曜日はラブシックの日、金曜日は泡ぽこの日で行こうかと。
……うん、変える意味合いを見出せなかった。
ラブシックの書きためもあったし。……いや、もうこれでなくなったんですけどね。

ところで、今回のラブシックの仮題は「スイとグイ」でした。
ぐりとぐらっぽいよね。気のせいかね。

そしてこの話はどうなるのか、自分でも全く不透明です。
思いついたラストシーンまでたどりつくのでしょうか。
既に意味が見出せなくなってひさしいこの話、まーもーこのままフェードアウトでも一向に構わんかーなどとおもっています。そのくらいどうでもいいくらいの気持ちでいないと、きっとかけなくなります。そういう性格。

ところで昨日ARRのSSSをUPしてみました。(←どうでもいいけどこの文章暗号みたいだ)
突込みが無いということは、可もなく不可もなく、とりあえず拒否られはし無かったというふうに前向きに検討しておきます。

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