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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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目の前の神官に、ああ、可愛いなあ、と思う。
同時に、少しだけ、胸が痛い。

「でね、これがオランのお土産にゅ」
「ありがとうございます」
大広間のテーブルに向かい合わせに座って、グラスランナーはカバンから次々と土産を出しては、名代をやってくれている神官に手渡す。一つ一つに律儀に「ありがとうございます」と返事をするのが、彼女らしい。
この土産を渡すという行動は、何度も繰り返されるうちに半ば儀式めいて来ていて、グラスランナーは一つ一つに説明をつけては物を渡し、神官はそれにいちいち返事をする、というのが決まりごとになってきていた。
決まりごととはいえ、その間は彼女の視線も意識も、全てグラスランナーは独り占めにできるわけで、彼にとっては至福の一時とも言えた。
が。
今日の彼女は少々それも上の空。
いつもなら、その間だけでも独占できたその視線は、時折他所に向けられる。
その先に何があるのか、確認するまでもないから、見ない。
彼女が見る方向には、窓がある。
そこはとても日当たりがよくて、ソファが一式置かれている。
そのソファを物凄く気に入っている人物が居て、そこで現在その人物が転寝をしていることをグラスランナーは知っている。
彼女は、時折それを見るのだ。

少しだけ、柔らかい視線で。

彼女の、真っ直ぐな視線が好きだ。
強い意志が現れた、とても澄んだ茶色の瞳が好きだ。
きりっとした表情も、硬く結んだ桃色の形のいい口も、堅いものの考え方も、ちょっと融通の利かない性格も、そのくせ間違ったことはすぐに認められる潔さも、何もかもが好きだ。
それが、自分のものにならなくても、そんなことはどうでもいい。
幸せになってほしいと思う。
隠されていた優しさが、どんどん見えてくるようになった、その態度の軟化はとてもいいことだと思う。
けど、やっぱり。

他の男をみる視線が優しいのは、楽しいものではない。

 

いくつものみやげ物が机の上に積み上げられていく。
その様子はいつもどおり。彼女は少し苦笑しながらそれを受け取る。この儀式めいたやり取りを、彼女はそれほど嫌いではなかった。きっと、昔の自分だったらあまり好きにはなれなかっただろうとも思う。
昔の同僚が見たらどう思うのだろうか。
軟弱になったというのだろうか。
それとも、よかったと笑うのだろうか。
少し考え、それはあまり意味のない思考だと気付く。重要なのは過去に評価されることではない。
ともかく、この受け取り作業は嫌いではない。
これをすると、彼らが無事に帰って来たのだと実感できる。受け取るプレゼントは価格も大きさも重要性も様々で、時々貰うのも気が引けてしまうような高価な品から、何に使うのかよく分からないものまで様々ある。
多分、これはグラスランナーなりの心遣いなのだろう、と彼女は考える。
高価なものばかりだと、自分が受け取らないというのを彼はわかっていて、ガラクタを混ぜているのだろう。
もしかしたら、ガラクタも本命なのかもしれないが。
が。
現在、その楽しいはずの作業に彼女は困惑している。
右手の、そう遠くないところにエルフが居る。それ自体は別に珍しいことではない。
窓際の、陽だまりにあるソファは彼のお気に入りで、城に居るときの大半を彼はそこで過ごす。そしてその半分の時間は眠って過ごす。もう半分は読書だ。そのどちらか位しか、できることはないスペースでもあるが。
ただ、気付いてしまった現在となっては、それは彼女にとって少々困った事態でもある。
視界の端、ぎりぎりに彼が見える。
少し視線を動かせば、しっかりと見られる。
まじまじ見るのはどうかと思うが、時々しか逢えないから見ておきたい気分でもある。
が、あんまり見るのもきっと気を悪くするだろう。
そもそも、自分はあまりあのエルフに好かれていない。
かといって、彼が目を覚ませば、その視界に自分が入る。
それが何だかとても恥ずかしい気がして仕方がない。
目を覚ましたらこの部屋から出よう。
「姉ちゃん」
唐突にグラスランナーから声がかかり、彼女は慌ててそちらを見る。
「は、はい、何でしょう?」
声が裏返ったのが恥ずかしい。
一体自分はどうしてしまったのだろう。
そして、どうなってしまうのだろう。
「ちょっとお散歩行かない?」
にっこりとグラスランナーが笑う。
もそり、とエルフが視界の端で動いたのが見えた。
「はい! 行きましょう!」
逃げるように立ち上がる。
何だか自分がとても情けない。
「にゅ。じゃあ、行こう」
グラスランナーは椅子からひょい、と飛び降りると、すぐに彼女のほうへ回ってきた。そしてその小さな手を差し出す。
何の疑いもなく、その手を握る。暖かい。
グラスランナーがとても嬉しそうに笑う。
自分は、こういうことはできないだろう。
臆面なく手を差し出すことも。
そんな風に幸せそうに笑うことも。


もらい物であり、小さいといえども城は城。
城壁内はかなり広く、散歩をするには十分すぎる広さがある。
犬舎や厩舎はもちろんあるし、それらが運動するための庭もある。村の人に手伝ってもらってやっと手入れのできる庭園もあるし、城に住んでいる少女とともに作り始めた畑もある。果樹園もあるし、散歩中景色に飽きることもない。
手を引かれて歩きながら、その景色を楽しむ。
もちろん、名代として留守を預かる間にも散歩はしているし、その隅々までどこに何があるか知っている。もしかしたら、城主である彼らより、自分のほうがよっぽどどこに何があるかわかっているかもしれない。
色々と他愛のない話をしながらその庭を歩く。
グラスランナーの今回の旅の話がメインで、彼女はただその話を聞いて相槌を打つだけだ。グラスランナーの話はいつも派手で、多分その内容のいくつかは脚色されているのだろうが、それでもなんとなく、彼らならそういうたびをするかもしれないな、と思わせる。それが彼女にとっては面白い。
自分でも驚くほど丸くなった、と思う。
グラスランナーがある木の下で唐突に立ち止まった。
彼女にとって、その木は思い出のある木。
数ヶ月前、エルフと話をした場所。
思い出すだけで、なんてことを言ってしまったのかと恥ずかしいばかりの、あの。
「姉ちゃん」
「はい」
「もっと気楽にしてていいと思うにゅ」
「え?」

思わずグラスランナーを見る。彼は彼女を見上げて、目が合うとにっこりと笑った。
「オレねえ、姉ちゃんの事が大好きにゅ。だから姉ちゃんにはいつも笑ってて欲しいんにゅ。ついでにはとこの事も嫌いじゃないにゅ」
「……」
何を答えたらよいのか、わからずにグラスランナーをただ見つめる。
「あんまり見つめられると照れちゃうにゅ」
茶化すように言うと、彼はするすると木に登っていく。全く危なげない様子に、ただ感心してその様子を見守る。随分高いところまで行って、彼は漸く木登りをやめた。ずっと見ていたからこそ、場所は分かるが、もし急に木の下に連れてこられて、「さあ、どこにいるでしょう?」などと尋ねられたらきっと見つけられないだろうな、と思う。
「姉ちゃんは、はとこの事、好き?」
「……よくわかりません。好きなような気もしますし、そうでもないような気もします」
口を付いて出た言葉は、自分でも意外だった。
たどり着いたつもりで居たけれど、本当はたどり着いていなかったのだろうか。
それとも、自分は嘘をついているのだろうか。
「自分の気持ちが分からないなんて初めてで、自分でもどうしていいのか良く分からないです。何だかとてもあやふやな気分です。この気持ちは何なんでしょう。義務感なのか愛着なのか、執着なのか愛情なのか、殺意なのか好意なのか」
「空回りだねえー」
声が空から降ってくる。
顔が見えなくて良かった、お互いに。そう思う。
きっと表情が見えていたらこんな話はしない。
そうか、それで彼は木に登ったんだろう。
「ああ、でも、何だかちょっと、顔を合わせるのは恥ずかしいような気分です。平静でいられないというか」
暫く、声は降ってこなかった。
「はとこと、もっと喋ってみるといいと思うにゅ。顔を合わせるのがいややったら、背中合わせとかででも。割と面白いにゅ。からかうと」
「からかうんですか」
「あとね、いろんなこと知ってる」
「そうですね」
「喋ってみたら、結構いろんなことが簡単になるにゅ」
「そうですか」
「うん」
そういうと、グラスランナーはするすると木を降りて、彼女が手の届く範囲まで戻ってきた。
「オレね、姉ちゃんのこと好き」
「私も、パラサさんのことが好きですよ」
グラスランナーは驚いたように目を大きく見開いて、耳まで赤くなると、そのまま木からぼとりと落ちた。
「あ、だ、大丈夫ですか」
「びっくりしたにゅ」
あはは、と笑って。
「オレは姉ちゃんの味方やからね」
「?」
首を傾げてみせると、グラスランナーは勢いをつけて立ち上がる。
身軽な事だ。
「じゃ、戻るにゅ」
「そうですね」



■というわけで、ラブシックは水曜日に移動です。
んー、今回のは失敗したかなー(苦笑)
まあ、色々書くから、あたりの日も外れの日もあるわな。
外れないに越したことはないけど。ははは。

今後はラストに向けてどんどん輪を狭くしていく、予定です。
あくまで予定。きまぐれなのでどうなるか分かりません。

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