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大木の傍の草の上に転がって、目を閉じる。
木漏れ日をまぶたの裏で感じる。
木々が風に葉を躍らせ、草がふわりと自分を包んでいく感覚。
その時間が好きだった。
自分は森の一部なのだ、と再認識する。
人の街は嫌いではない。まだまだ自分の見知らぬものがあると思うとそれだけで楽しい気分になる。
が、やはり、根本のところで自分は人の街に相容れないのだ、とこういうときに感じる。
仲間たちは何を言うかわかったものではないから、こういうことを言ったことはないし、多分これからも言うことはないだろう。自分の評価が、エルフとしては地を這っていることくらい、聞かなくても知っている。別に気にしないが、気分のいい事でもない。
暫く意識を森に同化させ、ただ精霊たちがささやきを交わしているのを感じ取る。
内容より、その行為が重要だから、別に会話に入ったりはしない。
ふわふわとした、なんとなく心地のいい時間。
半分眠っているのかもしれない。
と。
一直線に向かってくる足音がする。自分の命を狙っている相手なら、こんな足音を立てたりしない。こんな一直線に、堂々と、何の迷いもなく歩くわけがない。
この足音を知っている。だから別に警戒しない。
足音はすぐ傍で止まる。
ふわり、風が吹く。
エルフは片目だけ薄く開けて相手を確認する。予想通り、金色の髪をした神官が隣に座ってこちらを見ていた。
青味のかかった、深いグレーの瞳が一瞬だけ神官を見て閉じられる。
気にされていないのだ、と思う。
胸の奥が一瞬だけ冷たくなった気がした。
神官は暫らく、横になって目を瞑ったまま動きもしないエルフを観察する。
鋭い目も、閉じてしまえば威圧感を感じない。銀色の少し長めの髪が、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いている。同じ色のまつげが、意外に長いことを知る。尖った顎のライン。白く抜けた肌。力を入れれば折ることができるのではないかと思えるほど華奢な体。
こうしてみてみれば、エルフが人外の美しさを持っているのを再認識できる。
ただ、普段はその鋭い目つきであるとか、邪悪な言葉も平気に口にするようなことがあいまって、感じられないだけだろう。
「何か用か?」
エルフが目を閉じたまま尋ねる。
「いえ、特には」
「さよか」
「私は、あなたのことが、好きなんだそうですよ」
「……は?」
神官の突然の言葉に、エルフは流石に目を開ける。
「私は、あなたのことが、好きなんだそうです」
「……」
呆けたような顔でまじまじとエルフは神官を見た。
「えっと、ちょっと待ってくれ、何が何だって?」
言いながらエルフは起き上がる。地面に胡坐をかいて、神官をまじまじと見た。その髪に草の欠片がついたままになっているが、気にならないようだ。
「私が、あなたのことを、好きなのだそうだ、と」
「何度も言われんでも、言葉としての意味は重々分かっているのだが」
エルフは左手で眉間の辺りを押さえ、右手を神官に見せる。待て、という意味だろうと神官は解して、暫らくエルフの言葉を待った。
「内容を理解しがたいというか……」
エルフは本当に混乱しているのだろう、と神官は思う。ずっと左手で眉間を押さえたままだ。いつもならすぐに言葉を吐き出す口から、まだ明確な言葉は出てこない。
「まず最初に聞いていいか? 何故伝聞形なのだ?」
「フィリスさんにそう言われました」
エルフはまじまじと神官を見た後、大きなため息をつく。
「無批判に受け入れるな、ちょっとは自分で考えてから口にしろ。あれは恋愛至上主義者で些細なことでも全て恋愛関係に話を持っていくんだぞ、ほとんど捏造と言ってもいい。他人が全員、真実だけを語ると思うな。あんたの人生これまでそうだったかもしれないが、基本的に他人は嘘をつく」
「人を疑うのはよくありません」
「あんたがそう言うのはよくわかっているし、美談としてとてもいい話だと思うが、とりあえず、知識として感情と切り離して覚えておけ」
エルフの言葉に、神官はすこし不服そうに眉を寄せる。
「では、私はあなたのことが、好きではないのでしょうか?」
「そんなの知るか。そういうのは自問自答して答えを出すものだ」
そこで神官は黙って、暫らくエルフの顔をまじまじと見つめる。
エルフは居心地が悪いのか、少しだけ後ずさった。
どうもこの意思の強い、曲がったことを許さない視線が、苦手だ。
「当事者に聞けば分かるかと思ったのですが」
「わたしは当事者ではない」
「相手として名が挙がっているのに?」
「それはクレアとフィリスの中でだけだろう? わたしは直接関係ないのだ、この場合」
言いながら、本当は仲間の神官やグラスランナーまでもが自分たちをくっつけようとしている、という事実は忘れることにする。
この辺を説明するとなると、余計にややこしい。
「そうなのですか」
「そうだ」
返事をすると、エルフは黙る。
神官も同じように黙った。
時折吹き抜けていく風に、神官は目を細めて髪を押さえたりするが、基本的に二人は動くこともせず、話す事もせず、ただ座ったままだった。
「ええと」
神官が口を開く。
正直、話はもう終わったものだと思い込んでいたエルフは内心驚きながら、視線だけを神官に向けた。
「私はどうしたらいいのでしょう」
「わたしに聞くなよ」
エルフは視線を神官からはずすと、ため息をついた。
「あなたは、先ほど自問自答して答えを出せといいました」
「言ったな」
「考えてみることにします」
「考えることについて、わたしが止める権利はない」
「結論が出たら、お伝えすべきですか?」
「そういうところも含めて自問自答すればいい。その上で言いたかったら言えばいいし、言う必要がないと思えば言わなければいい。そういうものだろう」
「そうですね」
神官は少し笑う。
「ただ」
エルフは神官を見ないままで言葉を続ける。
「クレアの結論がどういうところに落ち着くにせよ、わたしは多分首を縦に振らないと思う。エルフと人が幸せになれるわけがない」
「そんなの、やってみないとわかりませんよ」
神官の答えに、ああ、本当は自覚が無いだけでそれなりに答えは出ているのではないか、とエルフは気付くが、口にはしない。
そういうのは、放っておいてもそれこそ魔術師あたりが指摘するだろうし、そのうち本人もたどり着くだろう。
わざわざ、伝えるまでも無い。
「分かるさ」
「なぜですか?」
「時間が違う」
神官はエルフの答えに、眉を寄せた。
意味を考えているようにも見えるし、単に怒っているようにも見える。
「では、それも考慮に入れて考えてみます」
「せいぜい頑張ってくれ」
エルフは話は終わり、と言わんばかりに木にもたれるように横になると、再び目を閉じた。
しばらくたっても足音は聞こえなかったが、エルフは目を開けたりしない。何かいらないものを見そうだ、と思う。
と、突然暖かいものが手の甲に触れた。
「?」
目を細く開けると、隣に座ったままの神官が、エルフの手に触れている。
「何だ?」
「触ったら折れそうだな、と」
「折るなよ」
「折りません」
神官はむっとした顔で答えると、勢いをつけて立ち上がる。
「結論は必ず出します」
「わかった」
足早にエルフのもとから立ち去って、もうすっかり見えなくなったところで神官は足を止める。エルフに触れた右手をまじまじと見つめ、ゆっくりとその場に座り込む。
触ったら折れそうだと思ったのは事実。
が、それ以上に、単に触れてみたかった。
綺麗だ、と思ったから。
触れてみたい、と思ったから。
エルフの手はとても冷たかった。
それがとても印象的で、
何だか無性に悲しかった。
■スイフリーを美形として書いて、なんだかとてつもなく違和感を感じていたなんて公然の秘密だ。
エルフの手が冷たいという表記ですけどね。
確か2chのなりきり板で、ルーイさんの「リーダーは体温低そう」という発言と、それに対するグレゴリーさんの「エルフは長命ってことは、代謝が低いってことだから、体温低いのはありかもしれないねー」という返答がもとになってます。
なんか妙に納得したから。
さてこの話は何処へむかっているのでしょう。