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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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善 / 不善

「手紙が届きました」
そういって、封書を渡される。
「あ、サンドくんからだ」
彼女の嬉しそうな顔に、神官は少し微笑む。
「差出人の名前は違ったようでしたが?」
「うん。サンドっていうのは、愛称かな? わたしはそっちのほうが好きなんだけど。オランで劇をしてたんだ」
彼女は少し遠い目をする。ソレは懐かしいものを思い出すような、それでいてどことなく寂しそうな目。
「今はなさっておられないんですか?」
「うん。サンド君ね、アノスの貴族だったことがわかって、引き取られたの。赤ちゃんの時に攫われたみたい」
「そうですか」
神官は少し複雑な表情で彼女を見た。
「凄く、演技が上手かったんだよ。クレアさんも知ってるんじゃないかな? このお城にも情報を集めに来たって話だったし」
神官は少し記憶をたどり、やがて頷く。
「スイフリーさんとパラサさんが追いかけていた劇団ですね」
「うん、そう。サンド君ね、スイフリーの役だったんだ。すっごく上手かったんだよ。本人はちょっと背伸びした感じの、でもとっても素直ないい子でね、そんな子なのに、スイフリーの底意地の悪さっていうか、いざというときのはったりのかませかたっていうか、ともかく堂に入ってて凄かったんだよ。初めての舞台だなんて思えないくらいだったんだ」
嬉しそうに彼女は喋る。
神官はその話をにこにこと聞いていた。
「わたしね、小さい頃、役者になりたかったんだ。居た劇団の大きい小さいに関わらず、わたし自身が全然ダメだったんだけど。唄は何とかなったんだけど、演技が出来ないの。何か、騙せないんだよね。自分のことも、他人のことも。なりきれないっていうか」
彼女はそこで照れた笑みを浮かべ、頭をかく。
「言い訳かもしんないけど」
「人を欺かないのは良いことですよ」
「ソレは演技をする人に対してはフォローになってないよ」
神官の言葉に、彼女は今度こそ面白そうに笑う。それから、彼女は神官を見た。
「クレアさんは? 小さい頃、何になりたかった?」
神官はきょとんとして彼女を見る。
「立派なファリス神官ですけど」
「ああ」
彼女はその返答に、自分が聞くまでも無い事を聞いてしまったのだということに漸く思い至る。
「そっか。クレアさんは夢をかなえたんだ」
「いえ。まだまだですよ」
神官は困ったような笑顔を見せた。
随分、丸くなったなあ、と彼女は思う。
自分の資質もあるかもしれないが、彼女はこの神官を最初からそんなに嫌いではなかった。真っ直ぐなところなんかは、普段つるんでいる仲間の事もあって、とても好感が持てる。
とはいえ、その真っ直ぐすぎるところが、最初はかなり危なかったのもまた事実。
そのせいで、仲間が殺されそうになった。
真面目で一直線なのは、思いつめちゃうということで、それはそれで危険なのかもしれない。
「あのさあ」
彼女は神官を見る。
「何でスイフリーを助けようと思ったの?」
彼女は長い間不思議に思っていたことを神官に尋ねる。
この神官は、自らが邪悪だと判定した仲間のエルフを牢に入れた。
なのに、アレは間違いだったかもしれない、といって助けてくれた。
そのせいで、自分が不利益をこうむるのは、多分分かっていたはず。
今なら、聞けるかもしれない。
「私が誤認したわけですけど、無実の人が処刑されるのは、あってはなりません。ファリス様も、善を不善というのは不善だとおっしゃいましたし」
あくまで真顔で神官は答える。
「うん、そこは聞いたんだけど」
彼女は首を傾げてみせる。この神官は、啓示で神の声を聞き、仲間のエルフを助けるに至ったのだとその時も言った。主張は勿論変わっていない。彼女はきっと、何度聞いても同じ答えを返すだろう。ソレが真実だから。嘘はつかないから。
「何ていうのかな。何で、神様に聞こうと思ったの? かな? そもそも、スイフリーに汝は邪悪なり! って言ったのも、ファリス様に尋ねたみたいなもんでしょ?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、どうして?」
暫く神官は黙った。困ったような、とも、深く考え込むような、とも取れる表情で。
「牢に入れる、と言ったところで、彼はすぐに承諾したでしょう? 思えばソレが違和感の始まりだったような気がします。普通、悪人というのは言い逃れをしようとするものですし、事実私がそれまで知っていた悪人というのは、皆一様に言い逃れをしようとしました」
神官は唐突に喋りだす。どこか、自分に言い聞かせているようにも思える。
「それに、仲間であるあなた方が、必死に私を止めようとしました。悪い事は確かにするけど、大きな悪いことはしていない、だとか。呪いには人に伝播していく種類のものもあり、それに違いない、であるとか」
彼女は頷く。
あの時は、仲間のエルフの無実(多分)を証明するのに必死だった。
「悪人が、その仲間を助けるために色々言うことはあるかもしれません。しかしあなた方が悪人でないことは確かです。であれば、悪人である彼を救おうとするでしょうか。もしかしたら、あなた方が言うように、彼は悪人ではないのかもしれない。あなた方は、とても真剣に、真摯に、彼を助けようとしていた。それを見て、私は」
そこで神官は一度言葉を切る。暫らく躊躇していたようだったが、やがて口を開くと、続けた。
「とんでもない間違いをしたのではないか、と怖くなったのです。認めるのはとても怖かった。私は一度もファリス様を疑ったことはなかったですし、そういう日が来るなんて思っても居なかった。結果は……呪いに反応しただけでした」
「後悔してるの?」
「いいえ、とんでもない。私は多分、事務的過ぎたのです。全てをファリス様に頼って、自分では何も考えていなかった。きっとファリス様はそれをとがめようとなさったんです。……たぶん、スイフリーさんは、ファリス様が私に下さった試練であり、導き手なのです。他の方がどう言おうと」
彼女は笑いそうになったが、何とかそれをこらえる。
相手の神官は真面目に答えてくれたのだ。どう考えても、仲間のエルフが神からの使いだとは思えないが、それは主観の問題であって、自分が口を挟める問題ではない。
しかし、神官のほうは彼女が何とか笑わないよう努力していることに気付いたのだろう。
「少なくとも、視野は広がりました。いい意味でも、悪い意味でも」
と、どこか諦めたような笑顔で肩をすくめて見せた。
「きっとね、そのうち『人を疑うようになったか、良かった良かった』とか言われるようになるよ」
彼女はすこし口を尖らせて言う。自身、前に話題のエルフから言われたことがある。
「言いそうですね」
言うと、神官はその様子を想像したのか、困ったような顔で笑ってみせた。
「スイフリーの印象って、かわった?」
「ええ。思っていたほど、悪い人ではありませんでした。本人は嫌な顔をするかもしれませんが……結構人がいいですよね。お人よしとまでは言いませんけど。かわいいところがある、というか。本質的には、悪い人ではありません。善人かと尋ねられたら、即答はしかねますけど」
彼女は暫らく、神官の顔をまじまじと見つめた。神官のほうは首をかしげ、「何か?」と尋ねたが、彼女は曖昧に返事をするばかりで、明確には答えない。
「とりあえず、スイフリー、エルフね」
彼女が言うと、「では、いいエルフです」と神官は真顔で訂正した。
それを見て、彼女は立ち上がる。
「それじゃ、わたしはコレ読んで返事を書かなきゃ」
彼女が受け取った手紙を見せると、神官も立ち上がった。
「書き終わったら教えてください。手紙を配達できるよう、手配をします」
「うん、ありがとうクレアさん」
彼女は礼を言うと、神官と別れて自分の部屋を目指す。

とりあえず、途中でお姉さんの部屋に行って、今の話を聞かせてあげよう。

そんなことを考えながら。



■クレアさんサイドスタート(笑)
気付けば、クレアさんのほうをかいてないなあ、と思い至ったというか。
ノープランで書いてますから、こんなもんですよ。
時系列だって微妙に不明ですよ(笑)

……考えて書くと、大体失敗するんです(経験あり)

そしていつも題名に悩む。
あ、こっそり初回の「小春日和に。」のタイトル変更したいです。統一したい。
思いついたら突然変えます。大体そういう感じです。
タイトルって、難しいですよね?

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一瞬 / 永遠

「にゅう、姉ちゃん、はとこにそんな事言っちゃったの?」
場所は城の台所。大きなテーブルの端に座ったグラスランナーが、苦笑交じりに彼女に言う。といっても、視線は自分の手に向けたまま。グラスランナーは絹さやの筋を一個一個丁寧に取りながら話している。
「だーって、腹が立ったんだもん」
口を尖らせる彼女を一瞬だけみて、グラスランナーは困ったように笑う。とはいえ、手は止めない。小さいが器用な手は、次々と作業を終えていく。
「そりゃ、パラサはクレアが好きだから、わたしがすることは不満かもしれないけど」
「そんなことないにゅ。俺はクレア姉ちゃんが、はとことどーにかなりたいって言うなら、協力するにゅ」
「へ?」
彼女はまじまじとグラスランナーを見た。
クレアのことが大好きで、いつもクレアを最優先しているグラスランナーが、そういうことを軽く言うとは思って居なかった。
「俺はねえ、クレア姉ちゃんには幸せになってもらいたいにゅ。だから、姉ちゃんが望むんなら、協力はするよ。俺がお呼びじゃないの、分かってるしー」
最後のほうは少々自虐的に言うと、グラスランナーは首をかくんと傾げて見せた。
「でーもー、別に今どうこうしたいわけじゃなさそうだし、放っておくにゅ。クレア姉ちゃんが望んだときに、はとこがへそ曲げてたら、クレア姉ちゃんが気の毒にゅ」
「それはそうなんだけどー。クレア、自分がどう思ってるのか、気づいてないかもしれないって思わない?」
「ん、そこがクレア姉ちゃんの可愛いトコにゅ」
にぱ、とグラスランナーは笑った。
「……パラサ、アンタ何気にウチの男どもの中では一番大人よね。人間だったら放っておかないのにィ」
彼女が冗談めかして笑うと、グラスランナーは声を立てて笑った。
「俺が人間だったとして、姉ちゃんと初めて会ったとき、俺お金持ちじゃなかったから、お呼びじゃないっしょ。アーチーに行くっしょ」
「あ、それはそうかもしれない」
悪びれもせず彼女はあっさりと肯定する。グラスランナーはもう一度笑う。
彼女の、こういうあっさりとしていて、裏表の無さがいいと思う。可愛いところだ。一途だし、いい女なのに、アーチーは見る目が無い。なんて思うけど、ソレは口にしない。
「ともかくー、もし姉ちゃんが、はとことクレア姉ちゃんをくっつけたいんやったら、はとこを突っついても無駄にゅ。はとこ臆病だからさー、色々自分で言い訳考えて動かないって」
「臆病?」
彼女は意外そうな目でグラスランナーを見た。グラスランナーはうん、と頷く。いつの間にか、筋を取っていた絹さやは籠いっぱいになっていて、仕事は終わっている。
「だって、臆病じゃなかったら、自分に害が及ぶ前にどうにかしようって作戦立てないにゅ。寸前で食い止めるどころの話じゃないっしょ、最初から無かった事にするくらいの勢いっしょ? 俺、はとこと二人で旅した時も、凄かったんだから、予防予防で」
グラスランナーは苦笑して彼女を見上げる。
「はとこにとっては、クレア姉ちゃんなんて未知の生物と同じにゅ。女の子、ってだけで理解不能気味なのに」
「そうなの?」
「はとこ、たまにフィリス姉ちゃんの発言も分かってないにゅ」
心当たりがいくつかあって、彼女は苦笑するしかない。
「しかも、クレア姉ちゃんは神様信じてて、人を疑わなくて、話に裏が無いかなんて考えなくて、自分が不利益をこうむるって分かってても、信じた道を突き進んじゃうにゅ。はとこが理解できるわけ無いにゅ」
「あー」
いちいちごもっともな指摘に、彼女は笑う。
何せあのエルフは、神様を信じなくて(これはエルフだから普通だけど)、人はとりあえず依頼人でも疑い、話に裏が無いか確認してから行動をするかどうか決め、しかも自分には絶対不利益にならないようにする。
「だからねー、臆病者のはとことしては、なるべく近づきたくないのは当然にゅ。まあ、エルフって長生きするから、臆病になるのも当然かもしんないにゅ。長い人生、ん? エルフ生? ともかく、心も体もなるべく傷つかないようにしてなきゃ、やってけないにゅ。俺らみたいに気楽に生きればいいのにー」
最後のほうは茶化すような口調で言うと、グラスランナーはひょい、と椅子から飛び降りる。そしてまだ座ったままの彼女を見た。

「かたっぽだけ長生きなのって、残るほうと残すほう、どっちが不幸?」

彼女はまじまじとグラスランナーを見て考える。
「どっちかなあ?」
「人間の50年はかなり長いし、俺らグラスランナーにとっても50年ってわりと長いけど、エルフにとったら50年ってたいした長さじゃないっしょ。……はとこがクレア姉ちゃんとの50年のために、その一瞬のために、残りの時間を全部かけちゃえるくらいの何かがなかったら、はとこからは動かないと思うにゅ。もし、二人をどうにかしたいなら、けしかけるならクレア姉ちゃんのほう」
「大好きなクレアが、スイフリーとくっつくの、あんたはホントに平気?」
「俺? 俺の弱いところはさぁ、クレア姉ちゃんが大好きなのに、はとこのことも好きなことにゅ」
グラスランナーはもう一度にぱりと笑うと、「クレア姉ちゃんに用意できたって言ってくるー」といいながら、スキップで部屋を出て行った。




■S×Cというカテゴリ名が、あからさまな上、それといってSのエルフとCの人が絡んでないことに気付き、急遽カテゴリ名を変えてみました。
新しいのは「Lovesick」
恋に悩むとかそういった感じの意味合いな単語っす。何処で聞いてきたんだっけか、こんな単語。

そしてこの話は何処に行こうというのか。
到着地点までの道のりもわからぬまま、その時その時思ったことを適当に書き連ねております。
いつもどおり、とも言います。

 

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幸 / 不幸

「あら、じゃあ、わたしアンタのこと、好きよ」
窓の外から唐突に聞こえた声に、彼は足を止める。彼女の声はどこまでも楽しそうで、イキイキとしていた。
『好き』
その言葉を、どれだけ彼女から聞かされただろう。時に真面目に、時にふざけて。あまりにも言われすぎて、その重みも嬉しさも当の昔に吹き飛んでしまったけれど。
いつも彼女がそういう相手は自分で、邪険に扱ってきたのは確かだが、それでも、その言葉を他人に向けられ、彼は何となく息苦しいものを感じた。
彼女の興味が他人に移ったのであれば、それは好ましい事ではないか。
彼はそう考え、しかし足は動かない。
相手は誰なのだ。
何を自分はこんなに焦っているのだろう。
彼女の話し相手が男性と決まったわけではないではないか。彼女なら、女友達にだって軽く『好きよ』なんていうに決まっている。
何を。
こんなに。
「では、わたしもお前のことが好きということになるな、フィリス」
色々な予測、というより願望は見事に打ち砕かれる。
返事をしたのは仲間のエルフだった。すこし面倒くさそうな返事ではあるが、きちんと相手をしている。彼は少なからず衝撃を受けた。あのエルフが、茶化さず好きだという言葉を相手に贈るとは思っても居なかった。
すこし混乱する。
誰が誰になんだって?
「そうでなかったら、一緒にいたりしない」
続くエルフの言葉に、彼女がくすくす笑っているのが聞こえる。
「あらあら、愛されててよかったわぁ」
鼻にかかったような甘えた声で、彼女は笑いながら言う。
「好ましい、というだけだぞ」
「充分よ」
エルフの苦い声にも、彼女はめげずに続けた。自分と彼女の会話は、他人から見たらこういう感じなのだろうか。もっとつれないのだろうか。
「でもねえ」
彼女の声がすこし曇る。
「いつまでつづくのかしら」
「さあな」
「いつまでつづけるの?」
「さあな」
聞いているのかいないのか、それでもエルフは一応返事をする。
無視しないだけ、自分より良心的かもしれない、と彼は思う。
「ねえ」
「何だ」
「何が足りないのかな?」
問いかけに、暫らくエルフは返事をしない。多分返答を考えているところなのだろう。困った顔をしているのか、真顔で考えているのか見てみたい気がするが、それをしたら立ち聞きをしているのがばれてしまう。
「わたしはヤツではないから明確に返答できない」
「そんなのわかってるわよぅ」
彼女は口でも尖らせているのだろう、と顔も見ていないのに表情を思い浮かべる。
「でも、似たような立場でしょ」
「全然違う」
「一緒じゃない、答えを出してないってところでは」
「一緒にするな」
返答に、彼女が納得の行っていないような低いうなり声を出す。
「お前たちほど、単純じゃない」
エルフはぼそりと言う。
「単純とは言ってくれるじゃないのよ」
幾分低い声で彼女が言うと、エルフがため息をついたのが聞こえた。
「アーチーは単に、認めたくないだけというか、意地を張っているだけだろう?」
何を言うか。
好いたことなど一度もない。
反論したいができるわけもなく、彼は歯軋りする。まさかそういう風に理解されているとは考えもしなかった。
「そうかしら。単純かしら。だって自分の気持ちすら認めないやつに、認められなきゃいけないのよ? 結構こんがらがってない?」
「同じ人間同士じゃないか。まとまるまとまらないはアーチーの腹積もりひとつだろう?」
「わたしには決定権がないわけ?」
「お前はアーチーが好きで決定してるんだろう? だったら、あとは相手だけじゃないか」
エルフが疲れたような声を出す。それに対して、彼女はまだ食い下がった。
「アンタは異種族だからダメって?」
「困難が多い、といっている」
「好きになっちゃったら、そういうのは関係ないのよ?」
「わたしはお前ほどパッショネイトじゃないんだ」
呆れにも諦めにも似たような声でエルフが答える。
「あの子があんなに一途に好いてくれてるのに、何が不満なの? わたしだってこんなに一途なのに、アーチーは何が不満なの?」
「アーチーのことはわたしにわかるわけないだろう」
「じゃあアンタはなんなのよ」
「エルフと人では幸せになれない」
「それって、誰が決めたの?」
「誰って」
エルフはそこで言葉をとめる。随分長い間、どちらも声をあげない。
エルフが考え込んでいるのか、それとも回答を放棄したのか。
「誰が決めたの」
彼女の声。
「昔からそう相場は決まってる」
返答になっていないことを、エルフはぼそぼそと呟くように答える。
「昔っていつよ」
「少なくとも、わたしはエルフと人とで幸せになっているのを見たことがない」
「たった140年でしょ」
「お前よりは長生きだ」
「その大半森の中じゃない。あんたどれだけ人とエルフのカップル見たのよ」
「うちの集落にはいなかったが、隣の集落にはいたんだ。ハーフエルフが。エルフの母親と。はっきりいって幸せそうには見えなかった」
「一組じゃない」
「充分だろう」
「旦那が生きてる間は幸せだったかもしれないじゃない」
「その後ずっと不幸せそうだったというのだ」
少しずつ二人とも早口に、そして言葉に力がこもっていく。
ケンカ腰の言葉に、彼はやれやれ、とため息をつく。
恋愛の話など、だからするものじゃない。
「アンタが怖いのは、結局自分の不幸でしょ!? 相手のことなんて何にも考えてないんじゃない!」
ばん、と何かをたたく音がして、それとともに、ばたばたと走り去る足音。
多分激昂した彼女が、机でも叩いて走り去ったのだろう、と彼は予測した。
「自分を優先して何が悪いんだ」
エルフの独り言が聞こえる。
「死なれてからのほうが、ずっと長いんだぞ」




■なんか、これ、スイフリーとクレアの話、というよりは、その二人にかこつけたアーチーとフィリスの話な気がしてきました。
んー、どっちも好きだから、まあ、いいや。
わりと適当に進んでいきます。

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理想 / 理屈

部屋に居るのは彼と彼女の二人だけで、とても静かだった。
彼はずっと執務机に座って書類を睨んでいたし、彼女はその前に配置された、少々趣味の悪い応接セットのソファに身を沈め本を読み、時折仕事をしている彼を見たりしているだけだったからだ。
会話はない。
彼女は別にそれで構わなかった。彼に追い出されないだけマシだということだ。
とはいえ、流石にその静けさにも飽きてくる。もう随分長い時間こうしていたからだ。
彼女は立ち上がると彼の傍まで歩いていき、近くの窓から外を見た。単純に、窓がその方向にしかないからで、流石に「近寄るな」とまで彼は言わなかった。
窓の外は美しい景色が広がっている。
この窓からは広い庭が一望でき、城を任せている名代が、小さな女の子と喋っているのが見えた。女の子は、仲間の一人が昔世話になった一家の娘で、純真な受け答えをするかわいらしい子どもだ、というのが彼女の認識だった。
「ねえ」
彼女は彼に声をかけるが、彼は返事をしない。
「ねえ」
再び声は宙に浮くだけの結果となる。
「ねえってば」
彼女の声が聞こえているのか居ないのか、彼は未だに反応しない。
「アーチー」
「……なんだ」
低い声で名を呼ばれ、彼は遂に返事をする。相手をするつもりになった、というよりはその低い声に彼女の怒りを感じたからだ。不機嫌になりへそを曲げた彼女から、魔法を使われないとも限らない。今までそういうことはなかったが、これからもない、とは言い切れないのだ。
「クレアのことなんだけど」
彼女は窓の外で女の子に何かを教えているらしい金髪の女性を見たまま話を続ける。彼のほうは見ない。どうせ彼も自分を見ていないだろう、というのが彼女の予想だった。
「クレアがどうした」
「というか、スイフリーのことかな?」
「どっちなんだ」
「じゃあ、スイフリーのこと」
彼女はクレアから目を離さず、仲間の一人であるエルフの名を挙げる。
「スイフリーって、クレアのこと嫌いなのかな? 好きなのかな?」
彼は深々とため息をつく。
彼女は自分のことも他人のことも関係なく、恋愛の話が好きだ。今回は自分に矛先が向かなかったことを喜ぶべきかもしれないが、それでも彼はあまりそういう話をするのが好きではない。苦手分野の話をするのは苦痛なのだが、彼女は言ったって関係なく話を続けるだろう。
「苦手だ、とは公言してたけど」
「そうだな」
彼はぼそりと返事をする。スイフリーとクレアは、かなり特殊な出会い方をした。まあ、自分たちもそういう意味ではクレアと特殊な出会い方だったし、決して幸せで円満な出会いではなかったが。
彼は書類を机に置くと、初めて視線を上げ彼女を見る。予想外にも彼女は窓の外を見たままで、自分を見ては居なかった。まあ、それで全くかまわないのだが。
「わたしね、クレアには幸せになってほしいの」
「ほう」
「ある意味不幸せにしたのはわたしたちだから、っていうのもあるんだけど」
彼女は窓の外に視線を固定したまま、ぽつりという。光を浴びる彼女は綺麗だとは思うが、絶対に口にしない。
「苦手は苦手だろう。スイフリーは柔軟というか屁理屈を体現したような男だし、クレアは理屈というか理想というか、ともかくあまり柔軟ではないタイプだからな。話は合いにくい」
彼は自分のことを棚に上げ、仲間のことを評する。彼のそういうところが不用意で可愛いと彼女は思うが、とりあえず口にしない。折角会話が成り立ったのだ、自分から終わりにする必要はない。
「けど、嫌いでもないわよね?」
彼女の質問に、彼はしばらく考えてから、「だろうな」と返事をした。
「嫌っていたら、そもそもここを任せようなんていわないだろう」
「単に使えると思った、打算だ、とかは言わないんだ」
彼女は彼を見る。彼はふい、と視線をはずした。
「それもあるかもしれないが、そこまで冷徹でもないさ。嫌いかどうかの話だが、スイフリーは二度、人間に殺されかけてる。一度目はアーリア、二度目はクレアだ」
彼女は嫌そうな顔をしてから、それでも頷いた。
「未だにアーリアの評価は地を這ったままだが、クレアのことはそれなりに評価していると見て問題ないだろう。殺そうと考えられたという点では同じだが、評価の相違はどこから来たのか。アーリアは考えを改めなかったが、クレアは自らの断定を疑って、訂正した。そこが大きいだろうな。話が通じない相手は嫌いらしいが、クレアはそうでもない。が、こういう話は当人同士がするべきであって、部外者がするべきではない」
「それは分かってるけど」
彼女は再び庭のクレアに視線を戻す。どうやら剣を教えているらしい、素振りが始まった。
「幸せになってもらいたいのよ」
「そもそも、クレアはスイフリーをそういう対象として考えているかどうかわからないじゃないか」
彼女は呆れた顔で彼を見る。
「だからアーチーはダメなのよ」
「なにがだ」
いきなりダメだといわれ、流石に彼はむっとする。
「あのね、あの子は出世街道から外れたわ。知ってるわよね?」
「まあ」
理由が自分たち、というかスイフリーにあるのだ、流石に知らないとは言わない。
「その出世街道から外れた人が、救国の英雄であるアーチーの名代。お城に住んで領地経営の代行をしてる。……世間的に見れば、あるいみ元々のエリート神官より出世してるわよね? でも、そういう計算をあの子がすると思う?」
「しないだろうな」
コレは断言できる。彼女の性格上、そういう計算はしないだろう。いや、考え付きもしないだろう。ただただ真っ直ぐに、自分の信じる道を進むしかしらない、といっても過言ではないくらい、彼女は正直でまっすぐだ。
「あの子は頼まれたから、ここに居るの。他でもない、スイフリーに頼まれたから、よ」
「だが、クレアはそもそもスイフリーを監視したかったわけだろう? 自分が助けたことは本当に間違いではなかったかどうか」
「そんなの最初だけよ。口実って言っても過言じゃないわ」
「お前がそう思いたいだけだろう」
「そりゃ、宗教的理由から、理由の何割かにはその理由も含まれてるかもしれないけど、もしそういうなら、それはクレアの表向きの理由」
「お前な」
あまり決め付けるな、と付け加える前に彼女はまくし立てる。
「だって、監視したいならここにいちゃダメじゃない。スイフリーは『ココでわたしの帰りを待っていてもらおう』なんていったけど、本当に帰ってくるなんて保障はどこにもなかったのよ? 本当に監視していたいなら、ここで待ってちゃできないじゃない。あの子はね、信じたいの。待ちたいの。本当にスイフリーが戻ってくるのを。宗教上も、心情上も。戻ってくるっていうのは、約束を守ったってことよ。ファリス的にはそれは重要なことだし、それに」
彼女はそこで漸く息をつき、彼を見た。
「例えばアーチーが、とっても好きな人がいたとして」
「居ない」
「その即答はわたしとしてはとっても悔しいけど、想像して。想像力くらいあるでしょ」
「で?」
「そのとっても好きな人が、『ここで1年待っていて。絶対に戻るから』って言って何処かに旅立ったとするでしょ? アーチー、どうする?」
「とても好きな相手なのだろう? なら、待つ」
「1年以上来なくても?」
「待つ可能性は高い」
「わかってるじゃない」
彼女は指をびし、と彼に突きつけると続ける。
「言っとくけど、多分アーチーが名代を頼んでも、あの子来なかったわよ。スイフリーが言ったことに意義があるんだからね」
「スイフリーのほうはただ使い勝手がいいっていう理由だけかも知れんぞ」
「他人の幸せを祈れない人は、自分も幸せになれないわよ」
彼女は言うと、再び窓の外を見る。
「頼られるだけでどれだけ嬉しいか、知らないでしょ」
「しかしなあ」
彼はまだ難色を示す。
「もし、本当にクレアがスイフリーを好きだったとして、でも望むような未来は手に入らないのではないかな」
彼の言葉に、彼女は首をかしげる。
「望む未来って、アーチーはどういうのを想定しているの?」
「愛し合うだとか、結婚するだとか、子を産むだとか、そういうのだ」
「まあ、好きな人とそうなれたら幸せこの上ないけど」
彼女は彼を見る。自分も彼とそういう未来を望んでるつもりなのだが、一向に一方通行なのだ。もしかしたら考えの一端が分かるかもしれないと、彼女はふとそう思う。
「スイフリーはダークエルフにあこがれるだのなんだの口では言うが、あれでエルフであることに対しかなり誇りをもっているようだからだ。レジィナあたりをからかうときに、『人間の少女』ということからもよく分かる。彼は種族間の断絶に、随分敏感だ。クレアは人間だ。生まれてくるのはハーフエルフということになる。彼らは人間社会からもエルフ社会からも歓迎されない存在だろう?」
「好きになっちゃったらそういうのって関係ないわよ」
「あの『理性理論理屈万歳』なエルフでもか? 感情で動くか?」
「……ちょっと自信ない」
彼女の即答に彼は少しだけ笑って、はっとして顔を引き締める。
「ところで、……そもそも『苦手なのに好き』という感覚があるのか?」
「あるわよ。わたし学院にいたころ、真面目で堅物でいつも不機嫌そうですごく苦手で怖いんだけど、すっごく好きで何とかして話をしたい、笑ってほしいなって思う人がいたもん。スイフリーに同じ感覚があるかどうかは別として、苦手だけど好きっていう感覚はあるの」
「そんなものか」
「そうよ」
「経験が裏打ちしてるなら、真実だろうな」
「気になる?」
「いや、全く」
「だからアーチーはダメなのよ」
彼女は笑うと一度大きく伸びをして、ドアのほうへ歩き出す。
「クレアとお茶でも飲んでくるわ。今の話、スイフリーにもクレアにもしちゃだめだからね!」
彼女は彼に言うと、軽やかな足取りで部屋を出て行った。


静かになった部屋で、彼は再び書類に目を落とす。
すこし神経質にも思える綺麗な文字で書かれた書類を見て、クレアらしいと彼は評価する。彼女がスイフリーをどう思っているのか、それは分からないが、幸せになってもらいたい、というフィリスの主張には頷いてもいいと思う。
その思考はノックの音で解除された。
入ってきたのは、さっきまでの話のネタだったスイフリー。手に本を持っていることから、貸した本を返しに来たのだろう。
「さっき廊下でフィリスとすれ違った。妙にご機嫌だったぞ。遂にお前、首を縦にでも振ったのか?」
「振るか」
お前の話だったとは言えず、アーチーは否定するだけにとどめる。
「が、例えばわたしが首を縦に振っていたとして、だったらどうする?」
客は次の本、といいながら本棚をじっと見つめながら返答した。
「驚く」
「で?」
「観念したんやなー、という。あ、あとおめでとう?」
「そこで疑問形か」
苦笑して彼は客を見る。客は続けた。
「が、まあ、首を縦にふるにせよ、横に振るにせよ、そろそろ決着つけてもいいんじゃないか? あ、一度はついたのか。お前が見捨てられて。よかったな、拾いなおしてもらって」
意外な言葉に、彼は呆然と客を見る。
「なんだ、その目」
あまりの沈黙の長さに振り返ったスイフリーは憮然とした顔で彼を見た。
「驚いた」
正直に答える。
「さよか」
短い返答。
「悪い気はしてないくせに」
そういって、口を吊り上げるようにしてスイフリーは笑うと、本を一冊抜き取って彼のほうへやってくる。
「コレ、貸してくれ」
「お前はどうなんだ?」
思わず口から出る。口止めされていたのに、だ。
「何が」
「クレア」
「物好きだと思う」
「で?」
「やめとけばいいのにな、わたしなんか。変な女だ」
自嘲めいた声に、彼はまじまじと客を見た。
予想外の返事。
よほど呆気にとられた顔をしたのだろう、客は「エルフと人では幸せにはなれんよ」
と、そう続けると部屋からでていった。

 




■一応、すごーくぼんやりとした形で連作をもくろんでます。
本当にそうなるかどうかは、別の話。
到達点は両思いなスイフリーとクレア。周りは茶々を入れまくり。
……本当にそうなるかどうかは、書いてみないと分からない(笑)

 

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