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「にゅう、姉ちゃん、はとこにそんな事言っちゃったの?」
場所は城の台所。大きなテーブルの端に座ったグラスランナーが、苦笑交じりに彼女に言う。といっても、視線は自分の手に向けたまま。グラスランナーは絹さやの筋を一個一個丁寧に取りながら話している。
「だーって、腹が立ったんだもん」
口を尖らせる彼女を一瞬だけみて、グラスランナーは困ったように笑う。とはいえ、手は止めない。小さいが器用な手は、次々と作業を終えていく。
「そりゃ、パラサはクレアが好きだから、わたしがすることは不満かもしれないけど」
「そんなことないにゅ。俺はクレア姉ちゃんが、はとことどーにかなりたいって言うなら、協力するにゅ」
「へ?」
彼女はまじまじとグラスランナーを見た。
クレアのことが大好きで、いつもクレアを最優先しているグラスランナーが、そういうことを軽く言うとは思って居なかった。
「俺はねえ、クレア姉ちゃんには幸せになってもらいたいにゅ。だから、姉ちゃんが望むんなら、協力はするよ。俺がお呼びじゃないの、分かってるしー」
最後のほうは少々自虐的に言うと、グラスランナーは首をかくんと傾げて見せた。
「でーもー、別に今どうこうしたいわけじゃなさそうだし、放っておくにゅ。クレア姉ちゃんが望んだときに、はとこがへそ曲げてたら、クレア姉ちゃんが気の毒にゅ」
「それはそうなんだけどー。クレア、自分がどう思ってるのか、気づいてないかもしれないって思わない?」
「ん、そこがクレア姉ちゃんの可愛いトコにゅ」
にぱ、とグラスランナーは笑った。
「……パラサ、アンタ何気にウチの男どもの中では一番大人よね。人間だったら放っておかないのにィ」
彼女が冗談めかして笑うと、グラスランナーは声を立てて笑った。
「俺が人間だったとして、姉ちゃんと初めて会ったとき、俺お金持ちじゃなかったから、お呼びじゃないっしょ。アーチーに行くっしょ」
「あ、それはそうかもしれない」
悪びれもせず彼女はあっさりと肯定する。グラスランナーはもう一度笑う。
彼女の、こういうあっさりとしていて、裏表の無さがいいと思う。可愛いところだ。一途だし、いい女なのに、アーチーは見る目が無い。なんて思うけど、ソレは口にしない。
「ともかくー、もし姉ちゃんが、はとことクレア姉ちゃんをくっつけたいんやったら、はとこを突っついても無駄にゅ。はとこ臆病だからさー、色々自分で言い訳考えて動かないって」
「臆病?」
彼女は意外そうな目でグラスランナーを見た。グラスランナーはうん、と頷く。いつの間にか、筋を取っていた絹さやは籠いっぱいになっていて、仕事は終わっている。
「だって、臆病じゃなかったら、自分に害が及ぶ前にどうにかしようって作戦立てないにゅ。寸前で食い止めるどころの話じゃないっしょ、最初から無かった事にするくらいの勢いっしょ? 俺、はとこと二人で旅した時も、凄かったんだから、予防予防で」
グラスランナーは苦笑して彼女を見上げる。
「はとこにとっては、クレア姉ちゃんなんて未知の生物と同じにゅ。女の子、ってだけで理解不能気味なのに」
「そうなの?」
「はとこ、たまにフィリス姉ちゃんの発言も分かってないにゅ」
心当たりがいくつかあって、彼女は苦笑するしかない。
「しかも、クレア姉ちゃんは神様信じてて、人を疑わなくて、話に裏が無いかなんて考えなくて、自分が不利益をこうむるって分かってても、信じた道を突き進んじゃうにゅ。はとこが理解できるわけ無いにゅ」
「あー」
いちいちごもっともな指摘に、彼女は笑う。
何せあのエルフは、神様を信じなくて(これはエルフだから普通だけど)、人はとりあえず依頼人でも疑い、話に裏が無いか確認してから行動をするかどうか決め、しかも自分には絶対不利益にならないようにする。
「だからねー、臆病者のはとことしては、なるべく近づきたくないのは当然にゅ。まあ、エルフって長生きするから、臆病になるのも当然かもしんないにゅ。長い人生、ん? エルフ生? ともかく、心も体もなるべく傷つかないようにしてなきゃ、やってけないにゅ。俺らみたいに気楽に生きればいいのにー」
最後のほうは茶化すような口調で言うと、グラスランナーはひょい、と椅子から飛び降りる。そしてまだ座ったままの彼女を見た。
「かたっぽだけ長生きなのって、残るほうと残すほう、どっちが不幸?」
彼女はまじまじとグラスランナーを見て考える。
「どっちかなあ?」
「人間の50年はかなり長いし、俺らグラスランナーにとっても50年ってわりと長いけど、エルフにとったら50年ってたいした長さじゃないっしょ。……はとこがクレア姉ちゃんとの50年のために、その一瞬のために、残りの時間を全部かけちゃえるくらいの何かがなかったら、はとこからは動かないと思うにゅ。もし、二人をどうにかしたいなら、けしかけるならクレア姉ちゃんのほう」
「大好きなクレアが、スイフリーとくっつくの、あんたはホントに平気?」
「俺? 俺の弱いところはさぁ、クレア姉ちゃんが大好きなのに、はとこのことも好きなことにゅ」
グラスランナーはもう一度にぱりと笑うと、「クレア姉ちゃんに用意できたって言ってくるー」といいながら、スキップで部屋を出て行った。
■S×Cというカテゴリ名が、あからさまな上、それといってSのエルフとCの人が絡んでないことに気付き、急遽カテゴリ名を変えてみました。
新しいのは「Lovesick」
恋に悩むとかそういった感じの意味合いな単語っす。何処で聞いてきたんだっけか、こんな単語。
そしてこの話は何処に行こうというのか。
到着地点までの道のりもわからぬまま、その時その時思ったことを適当に書き連ねております。
いつもどおり、とも言います。