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探しているときに限って、大体その相手に会えないもので。
グラスランナーはもう随分長い間、あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している。大広間には居なかったし、部屋ももぬけの殻だった。書庫と、執務室も見てみたけど、やっぱり居ない。
そうなると、もう外くらいしか探すところはない。
グラスランナーは城をでて、庭を探索し始める。
庭は広いが、大体相手のいそうなところはわかる。白粉だのつけ耳だの、色々からかっているものの、なんだかんだで相手はエルフであり、樹のあるところがすきなのだ。自分が、街が好きだが草原も心惹かれるのと同じだろうと思う。
と、なると探さなければいけない場所は数箇所しかない。グラスランナーの足は自然とはやくなる。仕舞いには走り出したが、足音はしなかった。
件のエルフは、グラスランナーの予想通り、城の裏手にある大木の根本で横になっていた。
庭園の美しさも分からないではないが、人の手が入りすぎていて、木々も土もあるのに精霊たちに元気がないのが好きになれない。その点、この樹はのびのびしていて良い。精霊たちが活発に動き回っているのを感じながら、うとうとする時間が好きだ。街も嫌いではないし、人間を観察するのも面白いが、やはり自然の中にいると落ち着く。色々言われても結局自分はエルフであるし、どれだけ人間世界に慣れても、この感情は失われないだろうと思う。
そのまま意識を手放すことにする。
暫らく眠ろう。
シルフのささやきを聞きながら、ぼんやりと意識がたゆたうのを感じているのは、悪くない。
エルフを発見した。
予想通り、大きな樹の下で、すーすーと寝息を立てている。
それを見て、グラスランナーはにやりと笑う。いたずら心に火がついた。
それでなくても足音がしない歩き方をしているのに、意識的に足音を消して歩く。彼が歩いているなんて、見ていなければ分からないだろう。
エルフの真横にたどりつく。
あまりの熟睡っぷりに、このエルフはダークエルフに狙われているのを忘れたんではなかろうか、と思う。
グラスランナーはおもむろにジャンプすると、
エルフの胸めがけてダイブした。
「……~~~っ!?」
衝撃に意識は無理やり覚醒状態になった。
痛み。
驚愕。
混乱。
その中でエルフはそれでも懸命に手足を動かし、胸の辺りにいる何かを捕まえる。
目をあけて、胸の上に馬乗りになっているグラスランナーを発見する。
ダークエルフでなくてよかった、という安堵が一瞬脳内をよぎり、その後グラスランナーに対する怒りがこみ上げてきた。
しかし、すぐには動けない。
息が詰まり、呼吸がきちんとできない。一刻も早くグラスランナーを胸の上から排除したいが、「どうすれば」それが出来るのか、考えられない状況に陥っていた。
ただ咳き込み、その間にひゅーひゅーと嫌な音がする浅い呼吸をくり返し、グラスランナーを睨みつけるしかない。
「……はとこ?」
流石にやりすぎたかとグラスランナーは恐る恐るエルフに声をかける。ジェスチャーが「どけ」と言っているようだったから、とりあえずグラスランナーはエルフの隣に座った。エルフはそのままごろりと寝返りを打ち、グラスランナーに背を向けた状況で、体を曲げて暫らく咳き込み続けた。あまりに長い時間そうしているので、このまま死ぬのではなかろうか、とグラスランナーは流石に緊張する。
やがて呼吸が落ち着くと、エルフはのそりと体を起こし、傍らのグラスランナーに叫んだ。
「殺す気か! はとこの子の子の子の玄孫!」
エルフのグラスランナーに対する怒りの深さは、どれだけ「関係」が遠ざけられるかによって類推することが出来る。今日はその記録を更新した。「子の子の子の玄孫」なんて、もう他人だ。随分前に、女戦士が言われていた「全然遠い人」とどっちが遠いだろうか。
「殺す気なんてないにゅ。だってそんな気あったらはとこ今喋ってないし、第一もっと上手くするから、はとこは自分が死んだのも気付けないって」
元気そうなので、さっきの緊張や反省は全て彼方へ放り投げてなかったことにして、グラスランナーはエルフに笑って見せた。あまりにあっけらかんと言い放ったグラスランナーに対し、エルフは暫らくぱくぱくと口をあけたり閉じたりしつつ何か言おうと努力したようだったが、やがて脱力したように肩をがっくりと落とし。
「それもそうだな」
と搾り出すようにして答えるにとどまった。
「で? 何の用だ」
「おしゃべりしよー」
「それだけのためにわたしはあんな目にあわされたのか」
呆れたようにエルフはグラスランナーを見る。グラスランナーはにぱりと笑って見せた。エルフはその全てを無視することに決め、再び体を横にする。拒絶のジェスチャーのつもりだったのだが、何を思ったかグラスランナーはエルフを下敷きにして折り重なるようにうつぶせになる。二階の窓から見たら、二人はちょうど十字に見えるだろう。
「何のつもりだ」
「俺のはとこに対する愛ー」
「いわんわ」
「じゃあ、憎しみー」
「更にいらんわ」
「ねーはとこー」
拒絶したのを軽く無視し、グラスランナーはエルフに話しかける。
「なんだ」
イライラしながらも返事をするあたりがエルフのお人よしな所だ、とグラスランナーは思いつつ、続ける。
「俺にだって限界ってのがあるにゅ」
「何の話だ」
「姉ちゃんとはとこのこと。姉ちゃんがかわいそうにゅ」
「言っただろう、お前も聞いてた通り、わたしはアレの思いは受け入れない」
「種族とか言い訳にせんといて、って俺も言ったにゅ」
グラスランナーはエルフの顔を見る。とはいえ、見えたのは顎くらいなものだった。しかし、くっついている分、エルフの鼓動はきちんと聞こえた。
少し、早くなった。
「種族は、……十分な理由になると思うぞ。いいことなんてないんだ。幸せになれない。お前は、クレアが好きなのだろう? 幸せになってほしいのだろう?」
「姉ちゃんが、はとこのこと好きでも、はとことくっついたら、不幸なん?」
「その時は良くても、後々は必ず」
「……俺ね、はとこのことも好きにゅ」
「さよか」
「はとこは気持ちを曲げるの平気なん?」
「……」
エルフは少し身を起こしてグラスランナーを見た。真剣な眼差しが、エルフを見据える。暫らくエルフはその瞳を受けて黙っていたが、やがて息を吐くようにして笑った。
「せいぜい長くても50年。その後の空白の長さを思えば、知らないほうがマシというものだ」
グラスランナーは返答を聞いて、失望の目をエルフに向ける。
「ダメだなあはとこは」
「ダメで結構」
開き直るエルフに、グラスランナーはそれでも食い下がる。
「本当に、エルフと人は、幸せにはなれない?」
「フィリスにも同じことを言われた」
「なんて答えたにゅ?」
「わすれた。……わたしは、わたしの都合だけしか考えてない、と言われたな。確か」
「実際その通りにゅ」
「だが、長く生きるのはわたしのほうだ。自分を優先しても良いだろうよ」
「残すのと残されるのと、どっちが不幸なのかなあ」
「どっちも似たり寄ったりだろ」
エルフはグラスランナーを押しのけ起き上がる。髪についた草を払い、大きくため息をついた。
「はとこー」
まだ寝そべったままのグラスランナーが、こちらを見上げる。
「何だ」
「姉ちゃんのこと、好き?」
「嫌いではない」
「にゅう」
グラスランナーは困ったような声を出し、勢いをつけて立ち上がった。風が心地よい。
「俺も姉ちゃん好き」
「知ってる。……お互い難儀なことだな」
「にゅ」
エルフの呟きに、グラスランナーが頷く。
グラスランナーは人間が好きで、その人間はエルフが好きで、そのエルフは好きなくせに答えるつもりがなくて。
不毛な話だ。
「はとこ、姉ちゃんを幸せにしたってよ」
「しつこいぞ、はとこの子よ。わたしでは無理だと言っているだろう。近い未来に確実に破綻するんだ」
「破綻しないかもしれないにゅ」
「そういう希望は持たないほうがいい。一瞬だけ幸せでも、その後不幸なら、それはやはり不幸だ」
「俺、それでもいいと思うんよ。一瞬でも、幸せなのには違いないにゅ」
「グラスランナーはそうだろうな。結婚して、子が出来て、その子がある程度成長したら一家離散なのだろう?」
グラスランナーは頷く。それは種族として当然の生き方だ。面白いことが世界にたくさんある以上、いつまでも同じところへとどまっているなんて無理だ。そして、その面白いことは、いくら家族でも同じように面白いとは限らない。だったら、それぞれがそれぞれの面白いところ目指して旅するのは仕方ない。
「エルフはそうではない。別れを前提にしない。一度誓ったならばそれは生涯続く。……人間は様々らしいが、あの窮屈な神のことだ、似たような考え方だろうよ。それならば、破綻が見えているものを追い求めることはしないだろう。愚かなだけだ」
「どうかなあ。よくわかんないにゅ。……姉ちゃんが、はとことのことを希望してるって明確にわかっても、はとこは受け入れないの?」
その質問に、エルフは長い時間黙っていた。眉を寄せ、少し不愉快そうな顔をする。グラスランナーがいい加減沈黙に耐えられなくなった頃、エルフが口を開いた。
「わからない」
長く考え、挙句結論は出なかったらしい。
「わかんない?」
「わからない」
エルフは頷く。
本当に、どうなるか自分で想像が出来なかった。
ただ感情的にぶつかってこられたなら、それは理性的にあしらって拒絶することは平気で出来ると思う。事実、一度はそうした。
そしてそれが、自分が彼女に出来る精一杯の誠意であると思う。
どう考えても、エルフと人が幸せになれるとは思えない。
だったら、最初から始めないほうがいいのだ。
考えは変わらない。
しかし。
もし、感情的ではなく。
ただ切々と理性的に、その思いを告げられたなら。
そのとき、自分がよろめかないなんて、断言できるものではなく。
「わからないな」
ふう、とため息をついたエルフを、グラスランナーはにやにやと見る。
「はとこ」
「何だ」
「俺ははとこの、そういうところが好き」
「何が言いたいんだ」
冷たい瞳を向けるエルフに、それでもグラスランナーは笑って見せる。
「それは秘密にゅ」
■今回の見所は、パラサのスイフリーに対するフライングボディプレスであり、あとは全て蛇足と言っても良いでしょう(苦笑)うはははは。
無駄に長くてごめんなさい。
広間に戻ると、ソファに居たはずのエルフの姿は無くなっていた。
彼女は一度大きくため息をつく。それが落胆のため息なのか、安心したため息なのか、彼女自身にも良く分からなかった。
ただ、「話してみればよい」といわれたものの、果たして、エルフがここに居たからと言って何か話を出来ただろうか、と自問自答し、すぐに「否」だと答えを出す。
きっと、何も話せやしなかっただろう。
彼女はもう一度ため息をつくと、テーブルの上に置き去りにしたままだった、グラスランナーからの土産を整理し始める。様々な土地の土産物。見たことの無かった色使いの布や、どう見てもガラクタにしか思えないもの、綺麗な宝石の嵌った指輪。その価値や大きさは様々で、グラスランナーがこれらの物を選んだ基準が分からない。ただ、どれもその土地でしか手に入らないものばかりで、その土地土地の空気を閉じ込めたものであることが分かる。きっと、そういう「ここでは手に入らないもの」を基準に選んでいるのだろう。
彼女はそう結論付けると、彼女は椅子に腰掛ける。
離れた陽だまりに、ソファ。
この距離を、果たして縮めてよいものか、それとも何もしないほうがいいのか。
彼女は無言でソファを見つめながら暫らく考え、そして考えるのをやめることにする。
どれだけ自分が望んでも、相手も望まなければ距離は縮まることはない。
そして、エルフがそれを望まないのを、彼女はもう知っていた。
自覚したのは最近なのに、それよりももっと前から拒絶されている。
なんだ。
彼女はため息をつく。
今度はそれが、落胆のため息であることを自覚した。
なんとなく鼻の奥がつんとする。
目がじんわりとする。
泣きそうだ、と自覚はしたものの、結局涙はこぼれなかった。
その程度のことなのかもしれない。
もしくは、自覚したのがこの瞬間なだけで、何処かではもうずっと前に理解できていて、今更の話なのかもしれない。
結局のところ、自分の気持ちが分からない。
気持ちは堂々巡りして、同じところで足踏みをしただけなのだろう。
彼女はまた、深くため息をつく。
「あまりため息はつかないほうがいいですよ。1回ため息をつくと、1つ幸せが逃げるそうですから」
唐突に聞こえた言葉に、彼女は顔を上げる。
「随分深くお悩みですかね? わたくしが入ってきたのにも気付いてなかったでしょう?」
別の神を信仰する神官がドアの近くから彼女へ声をかける。ちょうど部屋に入ったところなのだろう。彼はドアをぱたんと閉じた。
「悩み事なら、伺いますよ? まあ、聞くだけですけど。結構人に話すと楽になるものですし、話しながら自分の中で整理もつきますしね。……ま、人の悩みを聞くのも我々神官の仕事ですから」
貴女のほうがよくお分かりでしょうけど、と彼は続けると、ふふ、と笑う。その笑顔は少し自嘲的にも見えた。
「悩み。……悩んでいるように見えるのでしょうか?」
「ええ、かなり。ちがったらごめんなさいね」
たいして悪びれた様子もなく、彼は肩をすくめてみせた。
彼女は暫らく彼の顔を見て、そして観念したかのように話し出す。
「他人を好きになるということは、大変なことなんですね」
「そうですね、大変です」
彼は軽い声で言う。
「こちらがどれだけ好きでも、報われるとは限りませんし、まあ、大体わたくしの場合報われないのですけど、だからといってすぐに気持ちがおさまるわけでもなく。でも、そういうものですよ。……恋っていいでしょう?」
「それがいまいちよく分からなくて。多分好きなのだろうとは思いますけど、拒絶されたらそれはそれで仕方ないかと。そしてその程度に思えるということは、実のところはそう好きでもないではないかと考えたり。いえ、拒絶はもうされているようなもので、それでも好きだと思うのは迷惑なのではないだろうかと……」
「想う間は、相手は関係ないでしょう。そこは自分の心に忠実なほうがいいですよ。その後の実行に関しては、相手の意思も重要ですけどね」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。誰かを好きである、というのは自由であるべきですし、尊い感情ですよ。ですから、貴女がスイフリーのことを好きだという気持ちは、貴女自身が大切にすべき感情です。だからといって、思いつめて突っ走って、押し倒したりしたらダメですよ」
ふふふ、と彼は笑ってみせる。
彼女は呆然と彼の顔を見た。
「私、スイフリーさんだなんて言ってないですよ?」
押し倒す、という不名誉な言葉も、それ以上の驚きによって彼女の中には浸透しなかった。ただただ、驚いて彼を見つめる。
「まあ、分かりやすいですし」
彼はそれだけ答えただけだった。
「分かりやすいですか?」
「ええ、とても。貴女が自覚しているかどうか別として、貴女はいつだってスイフリーばかり見てますからね。わたくしやパラサだって、時にはアーチーだって相当悪いことを言ってますが、貴女が反応するのはスイフリーの言葉だけです」
「……」
彼は彼女を見る。
彼女は「拒絶されている」と評していたが、そんなことはない。
エルフはアレで彼女をきちんと評価しているし、自身が殺されそうになったことも既に昇華されてしまっている。
もし、彼女が思いを告げていたとして、それを拒絶した理由も彼には分かる。
エルフの、彼女に対する非常に密やかな想いを聞いてしまったからだ。
エルフの中には明確な線引きがあって、そのラインを越えるつもりがないだけなのだ。
そう、
例えどれだけ彼女のことを好きだとしても、
好きだからこそ、
エルフはそのラインを越えるつもりはない。
単純に、そのことを告げただけだろうと思う。
説明を省いて、拒絶の言葉だけを。
「わたくしはね、そりゃもう報われない恋ばかりしてますけどね、それでも誰かのことを好きでいる時はとても幸せですよ。無責任なようですけど、これだけ世の中には人間が生きているんです、報われる人ばかりじゃありません。だからといって、人を愛さなくなるのは愚かでしょう? 別れを告げられたり拒絶されたときは、そりゃ落ち込みますし、世の中の全てを恨みたくもなりますけどね」
「私が、スイフリーさんを好きなのは、彼にとって迷惑ではないでしょうか?」
「さあ? それはスイフリーに聞かないと分からないですよ」
「人とエルフでは幸せになれないから、首を縦に振らない、とおっしゃってました」
「迷惑だとは言ってないみたいですよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ。それに、スイフリーが言っているのは一般論でしょう? 貴女とスイフリーがどうなるかなんて、誰にも分からないです。乗り越える知恵だって、無いとも限らない。それに……」
彼は暫らくこの言葉を言って良いのかどうか考え、やはり口にすることにする。
「幸せになれないからダメだ、というのは、勿論彼自身が幸せになりたいからだ、というのもあるでしょうけど、同時に貴女を不幸にしたくない、という意思表示にも取れますよね?」
彼女はその言葉を聞くと、陽だまりにあるソファに目を向ける。
誰も座っていないのに、なぜだかとても愛しく思えた。
「どうでしょうか? この国でエルフの方を見る機会がほとんどなかったのでよく分からないのですが……本当に幸せになれないんでしょうか?」
「幸せが何かによるんじゃないですかね。確かに困難は避けられないと思います。異種族であることによる考え方の違いだとか、生命の長さであるとか。……でも、男女である以上、それ以前に他人である以上、困難がないわけないですしね。それを乗り越えられるだけのことがあれば、大体どうにかなるもんですよ」
「例えば?」
「一緒に居るだけでもいい、という考え方であるとか。ただ、人は欲深ですからね、一つ望みが叶うとまた一つ望みを持つ。最初は一緒に居るだけでよくても、そのうち触れたくなるだろうし、子どもだってほしくなるでしょう。多分、人間のその変化の早さにエルフはついていけなくなり、結果不幸になることがあるんでしょう。ただね、その変化の早さこそ人間の強みであり、また魅力だとわたくしは思います。エルフの永遠にあこがれないわけでもないですけどね」
彼女は彼を見た。
その真っ直ぐな瞳を彼は見つめ返す。
泣きたいのかもしれないな、
と思った。
「私はどうすればいいのでしょう?」
「それは貴女の心次第でしょう。ただ、もう貴女の中で答えは決まっているように思います。でしたら、全てを感情に任せてしまってもいいんじゃないですかね」
「突っ走ってはいけないんじゃなかったですか?」
彼女は少し困ったような顔をして尋ねる。
彼は笑って見せた。
「いいんですよ、時には勢いだって必要です。アレでなかなか情に厚いですから、ふらっとすることもあるかもしれませんよ」
「騙すみたいで嫌な感じです」
「恋愛はね、騙し騙されですから。騙したほうが勝ちなんです。そして、惚れさせたほうが勝ちですよ」
「……」
「それじゃなくても、女性のほうが偉いんですから、貴女は堂々と、スイフリーに愛をささやけばいいんです。フィリスみたいに」
「……そうですか?」
「そうですよ。女性はね、生きてるだけで偉いんですから」
■遅くなりましたが、とりあえずラブシックです。
……先週、妥協してアップしないでよかったです。ちゃんとグイズノーが言って欲しかったセリフを言ってくれました。先週のでは言わなかったんですよー……。
まあ、個人的な満足だけで、多分どっちをアップしてもそんなに変わらなかったのかもしれませんけどね。
ボツ文?
あー、データはありますけど、非公開。
……そろそろタイトルに付ける単語がなくなってきました。
今日のはこじつけとしても酷いな……(←タイトル付けるの苦手)
粗製乱造ですみません。
他所様のサイト様を見ていると本当にそう思います……。更新速度とか、内容とか……。
目の前の神官に、ああ、可愛いなあ、と思う。
同時に、少しだけ、胸が痛い。
「でね、これがオランのお土産にゅ」
「ありがとうございます」
大広間のテーブルに向かい合わせに座って、グラスランナーはカバンから次々と土産を出しては、名代をやってくれている神官に手渡す。一つ一つに律儀に「ありがとうございます」と返事をするのが、彼女らしい。
この土産を渡すという行動は、何度も繰り返されるうちに半ば儀式めいて来ていて、グラスランナーは一つ一つに説明をつけては物を渡し、神官はそれにいちいち返事をする、というのが決まりごとになってきていた。
決まりごととはいえ、その間は彼女の視線も意識も、全てグラスランナーは独り占めにできるわけで、彼にとっては至福の一時とも言えた。
が。
今日の彼女は少々それも上の空。
いつもなら、その間だけでも独占できたその視線は、時折他所に向けられる。
その先に何があるのか、確認するまでもないから、見ない。
彼女が見る方向には、窓がある。
そこはとても日当たりがよくて、ソファが一式置かれている。
そのソファを物凄く気に入っている人物が居て、そこで現在その人物が転寝をしていることをグラスランナーは知っている。
彼女は、時折それを見るのだ。
少しだけ、柔らかい視線で。
彼女の、真っ直ぐな視線が好きだ。
強い意志が現れた、とても澄んだ茶色の瞳が好きだ。
きりっとした表情も、硬く結んだ桃色の形のいい口も、堅いものの考え方も、ちょっと融通の利かない性格も、そのくせ間違ったことはすぐに認められる潔さも、何もかもが好きだ。
それが、自分のものにならなくても、そんなことはどうでもいい。
幸せになってほしいと思う。
隠されていた優しさが、どんどん見えてくるようになった、その態度の軟化はとてもいいことだと思う。
けど、やっぱり。
他の男をみる視線が優しいのは、楽しいものではない。
いくつものみやげ物が机の上に積み上げられていく。
その様子はいつもどおり。彼女は少し苦笑しながらそれを受け取る。この儀式めいたやり取りを、彼女はそれほど嫌いではなかった。きっと、昔の自分だったらあまり好きにはなれなかっただろうとも思う。
昔の同僚が見たらどう思うのだろうか。
軟弱になったというのだろうか。
それとも、よかったと笑うのだろうか。
少し考え、それはあまり意味のない思考だと気付く。重要なのは過去に評価されることではない。
ともかく、この受け取り作業は嫌いではない。
これをすると、彼らが無事に帰って来たのだと実感できる。受け取るプレゼントは価格も大きさも重要性も様々で、時々貰うのも気が引けてしまうような高価な品から、何に使うのかよく分からないものまで様々ある。
多分、これはグラスランナーなりの心遣いなのだろう、と彼女は考える。
高価なものばかりだと、自分が受け取らないというのを彼はわかっていて、ガラクタを混ぜているのだろう。
もしかしたら、ガラクタも本命なのかもしれないが。
が。
現在、その楽しいはずの作業に彼女は困惑している。
右手の、そう遠くないところにエルフが居る。それ自体は別に珍しいことではない。
窓際の、陽だまりにあるソファは彼のお気に入りで、城に居るときの大半を彼はそこで過ごす。そしてその半分の時間は眠って過ごす。もう半分は読書だ。そのどちらか位しか、できることはないスペースでもあるが。
ただ、気付いてしまった現在となっては、それは彼女にとって少々困った事態でもある。
視界の端、ぎりぎりに彼が見える。
少し視線を動かせば、しっかりと見られる。
まじまじ見るのはどうかと思うが、時々しか逢えないから見ておきたい気分でもある。
が、あんまり見るのもきっと気を悪くするだろう。
そもそも、自分はあまりあのエルフに好かれていない。
かといって、彼が目を覚ませば、その視界に自分が入る。
それが何だかとても恥ずかしい気がして仕方がない。
目を覚ましたらこの部屋から出よう。
「姉ちゃん」
唐突にグラスランナーから声がかかり、彼女は慌ててそちらを見る。
「は、はい、何でしょう?」
声が裏返ったのが恥ずかしい。
一体自分はどうしてしまったのだろう。
そして、どうなってしまうのだろう。
「ちょっとお散歩行かない?」
にっこりとグラスランナーが笑う。
もそり、とエルフが視界の端で動いたのが見えた。
「はい! 行きましょう!」
逃げるように立ち上がる。
何だか自分がとても情けない。
「にゅ。じゃあ、行こう」
グラスランナーは椅子からひょい、と飛び降りると、すぐに彼女のほうへ回ってきた。そしてその小さな手を差し出す。
何の疑いもなく、その手を握る。暖かい。
グラスランナーがとても嬉しそうに笑う。
自分は、こういうことはできないだろう。
臆面なく手を差し出すことも。
そんな風に幸せそうに笑うことも。
もらい物であり、小さいといえども城は城。
城壁内はかなり広く、散歩をするには十分すぎる広さがある。
犬舎や厩舎はもちろんあるし、それらが運動するための庭もある。村の人に手伝ってもらってやっと手入れのできる庭園もあるし、城に住んでいる少女とともに作り始めた畑もある。果樹園もあるし、散歩中景色に飽きることもない。
手を引かれて歩きながら、その景色を楽しむ。
もちろん、名代として留守を預かる間にも散歩はしているし、その隅々までどこに何があるか知っている。もしかしたら、城主である彼らより、自分のほうがよっぽどどこに何があるかわかっているかもしれない。
色々と他愛のない話をしながらその庭を歩く。
グラスランナーの今回の旅の話がメインで、彼女はただその話を聞いて相槌を打つだけだ。グラスランナーの話はいつも派手で、多分その内容のいくつかは脚色されているのだろうが、それでもなんとなく、彼らならそういうたびをするかもしれないな、と思わせる。それが彼女にとっては面白い。
自分でも驚くほど丸くなった、と思う。
グラスランナーがある木の下で唐突に立ち止まった。
彼女にとって、その木は思い出のある木。
数ヶ月前、エルフと話をした場所。
思い出すだけで、なんてことを言ってしまったのかと恥ずかしいばかりの、あの。
「姉ちゃん」
「はい」
「もっと気楽にしてていいと思うにゅ」
「え?」
思わずグラスランナーを見る。彼は彼女を見上げて、目が合うとにっこりと笑った。
「オレねえ、姉ちゃんの事が大好きにゅ。だから姉ちゃんにはいつも笑ってて欲しいんにゅ。ついでにはとこの事も嫌いじゃないにゅ」
「……」
何を答えたらよいのか、わからずにグラスランナーをただ見つめる。
「あんまり見つめられると照れちゃうにゅ」
茶化すように言うと、彼はするすると木に登っていく。全く危なげない様子に、ただ感心してその様子を見守る。随分高いところまで行って、彼は漸く木登りをやめた。ずっと見ていたからこそ、場所は分かるが、もし急に木の下に連れてこられて、「さあ、どこにいるでしょう?」などと尋ねられたらきっと見つけられないだろうな、と思う。
「姉ちゃんは、はとこの事、好き?」
「……よくわかりません。好きなような気もしますし、そうでもないような気もします」
口を付いて出た言葉は、自分でも意外だった。
たどり着いたつもりで居たけれど、本当はたどり着いていなかったのだろうか。
それとも、自分は嘘をついているのだろうか。
「自分の気持ちが分からないなんて初めてで、自分でもどうしていいのか良く分からないです。何だかとてもあやふやな気分です。この気持ちは何なんでしょう。義務感なのか愛着なのか、執着なのか愛情なのか、殺意なのか好意なのか」
「空回りだねえー」
声が空から降ってくる。
顔が見えなくて良かった、お互いに。そう思う。
きっと表情が見えていたらこんな話はしない。
そうか、それで彼は木に登ったんだろう。
「ああ、でも、何だかちょっと、顔を合わせるのは恥ずかしいような気分です。平静でいられないというか」
暫く、声は降ってこなかった。
「はとこと、もっと喋ってみるといいと思うにゅ。顔を合わせるのがいややったら、背中合わせとかででも。割と面白いにゅ。からかうと」
「からかうんですか」
「あとね、いろんなこと知ってる」
「そうですね」
「喋ってみたら、結構いろんなことが簡単になるにゅ」
「そうですか」
「うん」
そういうと、グラスランナーはするすると木を降りて、彼女が手の届く範囲まで戻ってきた。
「オレね、姉ちゃんのこと好き」
「私も、パラサさんのことが好きですよ」
グラスランナーは驚いたように目を大きく見開いて、耳まで赤くなると、そのまま木からぼとりと落ちた。
「あ、だ、大丈夫ですか」
「びっくりしたにゅ」
あはは、と笑って。
「オレは姉ちゃんの味方やからね」
「?」
首を傾げてみせると、グラスランナーは勢いをつけて立ち上がる。
身軽な事だ。
「じゃ、戻るにゅ」
「そうですね」
■というわけで、ラブシックは水曜日に移動です。
んー、今回のは失敗したかなー(苦笑)
まあ、色々書くから、あたりの日も外れの日もあるわな。
外れないに越したことはないけど。ははは。
今後はラストに向けてどんどん輪を狭くしていく、予定です。
あくまで予定。きまぐれなのでどうなるか分かりません。
城の麓には、領地があり領民が居る。
その小さな村で、エルフは珍しく彼と差し向かいで酒を飲んでいた。
明日には城にたどり着く。そのおかげで同行者のグラスランナーは浮かれきっていて、すでに心あらずといった感じになっている。同様に、彼の同行者である少女も、久々の「わが家」に浮かれており、その二人組みで最後の仕上げと言わんばかりの勢いで村の小さな雑貨屋に買い物に出かけていった。
取り残されて、エルフと彼は一緒に居るだけの話である。
「それにしても、大荷物ですね」
彼は呆れたような笑顔をエルフに向ける。
「わたしの荷物ではない。はとこの子のだ。大半はクレア宛の土産だ」
「へえ」
彼はにまにまとした笑顔をエルフに向ける。
「あなたは何か?」
「何が」
「お土産やプレゼントを」
「何も」
その返答に彼は「おや」という顔をする。
「一度くらいは」
「全然。はとこの子がコレだけ渡しているのだから、必要ないだろう」
「……駄目ですよ、それじゃ。女性はプレゼントに弱いんですから」
エルフは冷めた目を彼に向ける。視線だけで「で?」と先を促したつもりだったが、彼からは返答が無かった。というのも、彼は窓の外を歩いていく若い女性に暫らく見とれていたからだ。
「……」
呆れた眼差しで暫らく彼を観察する。大体の行動パターンは分かっているが、相変わらず、結局のところどちらが彼の本質なのかは、分かっていないような気がした。
つまりは、落ち着いた聖職者なのか、駄目な破戒僧なのか、だ。大半の行動は後者なのだが、根本的な考え方は前者に近い場合が多い。
「で、何でしたっけ? そうそう、プレゼントですよ。女性のハートをゲットするには、必要不可欠です」
「別にそういうもんはいらない」
「まあ、あなたの場合、放っておいても、ねえ?」
含むような言い方に、エルフは彼を見る。何を言いたいのか、彼はにやにやと笑っているだけだ。どちらの意味でとられたのだろう。自分としては心なんていらない、という意図で返答したのだが。
人間は複雑怪奇だ、と思う。別にエルフが複雑ではないわけではないのだが。単に里に居るときには見えていなかっただけだろうか、とエルフは少し考える。
「結局どうするんです? フィリスあたりは虎視眈々と狙ってますよ。わたくしは、この件については放っておくのが一番だと一応忠告したんですけどね、それはそれとして、気にはなります」
「放っておくのが一番だと思っているなら、放っておいてくれ」
エルフは疲れたような声で返答する。
どうしてこの件について、色々言われなければいけないのか。
放っておいてほしい。
放っておけば、きっと、感情は消えていくだろう。
返答の無い質問が宙に浮いてしまうように、反応のないものはいつか忘れ去られる。
瞬間的なものなのだ、人の時間など。
だからこそ。
「わたくしは、単純に、好奇心として、あなたが今後どうするのかが知りたいわけです」
「そんな好奇心捨ててしまえ、破戒僧が」
「あなたにとってはね、一瞬かもしれませんけど」
そこで彼は一度言葉を切って、テーブルに用意されていたつまみを口に放り込む。動きだけ見ると、やはり聖職者には見えない。この国はファリス信者ばかりでラーダ神官は肩身が狭いだろうが、それにしたってもうちょっと聖職者然としていなければ、ただただラーダの評価を落とすだけではないだろうか、とエルフは考え、ああ、自分も似たようなものか、などと思い至る。
取り繕ったってボロがでるだけなら、取り繕わないほうが正しいのだろう。多分。
「時間って、やっぱり長いですよ」
彼はそこで久々に真面目な顔をするとエルフを見つめる。
「もし、クレアさんが真剣になっていたら、あなたも真剣にお答えすべきですよ。もちろん、今までのように分かっていなくて不安定なら、今までの対応でいいかもしれないですけどね」
「真剣に考えていたのだが」
「おや、そうだったんですか」
真剣な顔は数秒と持たず、すぐに好奇心丸出しの笑顔を見せる。結局彼の本質がどちらなのか、今日もエルフには確定ができそうに無い。
「あれは思い込んだら見境なく一直線に進むことしかできないだろう?」
エルフは少し前のことを思い出す。魔術師に指摘された感情を、自分で確かめることなくエルフにぶつけてきた、その単純さと言うか考えなしというか、ともかく立ち止まると言うことができない彼女。
「……ファのつく神のもと、その善悪判断ラインに従って皆で行動していた時はそれでよかったのだろう。今の名代職だって、その正直で勤勉という美徳の元信頼して頼んでいるわけだし、決してその性格が全て悪いとは言わない。純粋であるということについては間違い無いだろうな。だからこそ」
彼はそこで一度言葉を切る。
自分がなにかとてつもなくまずいことを言うのではないかという気がする。
もし、そうだとしたら、多分自分は酔っているのだ。
そういうことにしたい。
「止めてやる者が必要なのだ。わたしが友愛団にさらわれたとき、あれはわたしも切り捨てるつもりだったのだろう? それを皆はとめてくれた。それと同じだ」
「あの時は本当にあなた切り捨てられそうな勢いでしたからね。流石に恐ろしかったですよ。でも、その時点から考えれば、柔らかくなったのもまた事実でしょう? まあ、今でもお堅いですけどね」
そこが可愛いところです、と彼は続ける。その言葉になんとなくエルフはむっとしたものを感じたが、それは言わないことにした。
「あれがわたしとのことを見定めて見境無しに突き進むようになったら、わたしのほうが冷静になってとめてやるべきだろう」
「優位に立ちたいわけですか?」
「は?」
「一緒に我を忘れてしまうという選択肢だってあるでしょう? 彼女だけがあなたに熱中していて、あなたはそれを見ていたいわけでしょう? と言うことは優位に立ちたいってことじゃないですか? フェアじゃないでしょう」
「……」
「アーチーとフィリスも、似たようなものですけどね、フィリスはあれで我を忘れたことは無いですし、アーチーは自分の心の中も含めて、全て否定することでフィリスとの仲を認識しています。そしてフィリスもそれを理解しています。あの二人はもう、互いにどういう気持ちかよく分かった上で、どちらが先に折れるかというゲームをしているに過ぎませんよ。あなたとはちょっと違うわけです」
「奴らは同じ種族だから、障壁なんかないだろう? それこそ気持ちだけの問題だ。わたしは、我を忘れるわけにはいかない。エルフと人が一緒になっても、いいことなど無いんだ。流れる時間が違うし、子だって差別の対象だ。一時的な気の迷いで、背負うには重過ぎる」
彼はエルフの言葉に反論しようと口を開く。
が、それより先にエルフの言葉が続いた。
「そんなもん、負わせるわけにはいかない」
「え?」
「なんでもない」
思わず聞き返した彼の声に、エルフは我に返ったように話を切り上げる。
「ああ、でも、子どもが問題なのは分かりますね。ハーフエルフは人の世界でもエルフの世界でも生きにくいのは確かです。でも、全員が全員、不幸なわけでもないですよ。結局はどれだけ周囲に恵まれるかだ、という意味合いでは、人の子も、エルフの子も、ドワーフの子も、グラスランナーの子も、ハーフエルフの子も、変わらないんじゃないですかね。スタートで少々不利なのは認めますけど」
彼はそういうとエルフを笑顔で見た。
「相当の覚悟は要りますけどね」
「他人事だと思って」
「実際他人事ですから。ただ、あなたが真面目に考えているのが分かったのはちょっとした収穫ですね。もっと感情的に否定しているのだと思っていました。彼女のこと、苦手ですからね、あなた。嫌ってないくせに」
「やかましい」
エルフが苦い顔をしたところに、同行者たちが帰ってくる。
「あれ、スイフリーどしたの? グイズノーと喧嘩でもしたの?」
少女がきょとんとした顔で、彼らを見比べる。
「ええ、ちょっとした口論を。なんとわたくしの勝利で終わりました」
「それ、はとこが手ぇ抜いたんとちゃう?」
彼の返答に、グラスランナーが笑う。同行者たちが帰って来たことで、彼の追及は止まるだろう。エルフは内心胸をなでおろす。
嫌ってないくせに。
その言葉に、エルフはそっとため息をつく。
自分の心など、とうに分かっている。
だからこそ、次の一歩を踏み出してはいけない、と思う。
最初から不幸になると分かっている道など、歩く必要はない。
いずれ消えてなくなるのだ。
こんな不確かな熱は。
■11月も、とりあえず火曜日はラブシックの日、金曜日は泡ぽこの日で行こうかと。
……うん、変える意味合いを見出せなかった。
ラブシックの書きためもあったし。……いや、もうこれでなくなったんですけどね。
ところで、今回のラブシックの仮題は「スイとグイ」でした。
ぐりとぐらっぽいよね。気のせいかね。
そしてこの話はどうなるのか、自分でも全く不透明です。
思いついたラストシーンまでたどりつくのでしょうか。
既に意味が見出せなくなってひさしいこの話、まーもーこのままフェードアウトでも一向に構わんかーなどとおもっています。そのくらいどうでもいいくらいの気持ちでいないと、きっとかけなくなります。そういう性格。
ところで昨日ARRのSSSをUPしてみました。(←どうでもいいけどこの文章暗号みたいだ)
突込みが無いということは、可もなく不可もなく、とりあえず拒否られはし無かったというふうに前向きに検討しておきます。
こんこん、という軽いノックの音に返事をして、ドアを開ける。そこに立っていたのは、城に住まう少女だった。長い髪をポニーテールにした、目の大きい、可愛らしい子どもだ。この少女は、城主の中の一人が昔世話になっていた旅芸人の一座の娘で、現在はその縁でこの城の管理者の一人として城主たちを待っている。人懐っこく、また素直ないい娘だ。
彼女は少し首を傾げてみせると、少女に声をかける。
「どうしましたか、リズ。御用ですか?」
「クレア様、お手紙です。さっき村の人がお野菜を届けに来てくれて……くださって、そのついでに」
少女はまだ慣れない丁寧な言葉を、詰まり詰まりゆっくりと話す。初めて会ったときの、本当に子どもらしい奔放な喋り方から思えば、少し大人になってきた、ということかもしれない、と彼女はぼんやりと考える。
もしかしなくても、時間はゆっくり、確実に進んでいるのだ、と。
何通かの封書を受け取り、その場で差出人を確認する。大半は、少女宛のものだった。
「リズ、これは貴女への分です。レジィナさんからですよ」
「わぁ、レジィナお姉ちゃんから!?」
嬉しそうな笑顔を浮かべ、少女は封書を見つめる。手紙の主は城主のうちの一人で、少女にあててよく手紙を送ってきていた。旅先の絵葉書が大半だが、時折小さな土産物なども同封されている。少女が手紙を楽しみにするのも無理は無い。その嬉しそうな笑顔に、彼女まで嬉しい気持ちになる。
残った封書は2通。片方は表向きに城主である騎士からのもので、かなりの量の紙が入っている。多分今後の領内での方針などが書かれているのだろう。この手の封書もよく届くので、そろそろ新しいものが届くだろうと考えていた。だから、別段驚きはしない。これが届いたということは、そのうち細かい打ち合わせに一度騎士が戻ってくるだろう。説明ができるように色々と用意をしておく必要がある。手紙は、後でしっかり読み込む必要がある。
そして騎士が帰ってくると言うことは、魔術師も帰ってくる。魔術師から言われたことが最近頭の中をぐるぐると回っていて、最近彼女は自分があまり落ち着いていないことに気付いていた。この際、それについてももう一度質問してみるのもいいかもしれない、と考える。
もう片方は、やはり城主であるグラスランナーからの手紙だった。こちらも数枚、様々なことが書かれた手紙が入っている。実に楽しそうに書かれた文面に、彼女は少し苦笑する。結びにいたっては『愛をこめて』などとしたためられていて、いつものこととはいえ、軽く困惑する。
こう、簡単に伝えてしまえるグラスランナーを、少しうらやましい、とも思う。
と、手紙の中の一文に目が留まる。
何のことは無い、そのうち連れとともに帰るというだけの文章。
その部分だけ何度か読み返す。
「クレア様」
「何ですか?」
向かいで手紙を読んでいたはずの少女が、こちらを見てニコニコ笑っていることに気付く。
「楽しそうですね。レジィナさんからのお手紙に、楽しいことが書かれていましたか?」
「うん、レジィナお姉ちゃん、暫らくしたら帰ってくるって」
「それはよかったですね。いつごろか分かったら教えてください。お迎えするための準備をしましょう」
「うん!」
はちきれんばかりの笑顔で返事をする少女に、彼女は少し微笑んでみせる。
微笑む、などという動作をするようになったのは最近のことだ。前はそんな余裕は無かった。この余裕を、多分自分は喜ぶべきなのだろう、と彼女は思う。
所謂「閑職」に追いやられて初めて、自分は、多分笑顔を取り戻したのだ。
「クレア様も嬉しいことが書いてあったんですね?」
ニコニコと少女は笑って彼女を見上げる。
「え?」
思わず聞き返すと、少女は笑みを浮かべたまま続けた。
「だって、そのお手紙を読んでから、クレア様はとっても嬉しそうです」
「え?」
彼女は思わず少女に聞き返す。
少女はにっこりと笑って見せた。
「クレア様は、いつもパラサさんからのお手紙が来ると嬉しそうです」
「そうですか?」
尋ねると、少女は大きく頷いて見せた。
「パラサさんからのお手紙が来ると、クレア様は最初のほう、困った顔をして読んで、そのうちすごく嬉しそうな顔をします」
無意識のことについての指摘に、彼女は面食らって、ただまじまじと少女を見つめる。
「そうなんですか?」
「うん」
思わず聞き返すと、少女は久しぶりに子どもらしい返事をして、大きく頷いた。
「前から不思議で、でも、その話をしたら母さんは当然だって言いました」
「???」
思わず頭の中に疑問符がたくさん浮かぶ。自分がグラスランナーからの手紙で嬉しそうにしていることすら今日初めて知ったのに、少女の母親に言わせれば、それは当然だと言う。
「え、なぜなんでしょうか?」
思考が止まってしまった頭では何も考えることができず、彼女は思わず目の前の少女に尋ねる。
「わたしもよく分からないんですけど、お手紙が来たら必ず帰ってくるからだ、って、母さんは言いました」
少女も困惑したような顔で首を傾げてみせる。
「よく分からないですね」
「ね。わかんないです」
分からないことを分からないままにしておくのはよくないかも知れない、と彼女は思ったのだが、しかしどれだけ考えても自分では答えが出ないのだろう、とも思う。
「パラサさんもすぐ帰ってくるんですか?」
「ええ、スイフリーさんと一緒に」
「……」
少女が微妙な顔をした。少女は今でこそエルフの無愛想さに慣れたらしいが、それでもどうやら初対面がよくなかったようで、エルフのことを苦手としている。そしてエルフのほうも子どもは苦手らしく、それぞれ城に住むようになってから長いのだが、未だ互いの間には大きな溝がある。それに思い至り、彼女は悪いことを言ったかも知れない、と少し反省した。
それにしても、あのエルフは、あちこちで敵を作っているのではないだろうか。
自分との出会いもかなり悪かったし、この少女とも随分悪いようだ。
簡単に敵を作りすぎなのではないだろうか。
大丈夫なんだろうか。
そう考えて。
え?
あれ?
ふと自分の中の何かに触れたような気がして彼女は思わず息を止める。
「クレア様? 大丈夫ですか?」
少女が不思議そうな顔で彼女を見上げる。
「え? ええ、大丈夫です」
何とか笑みを作る。
大丈夫、笑えているはず。
「じゃあ、わたしは手紙をしまいに行ってきます」
少女はそういうと立ちあがる。
「レジィナさんが早くお帰りだといいですね」
「うん。クレア様も、パラサさんとスイフリーさんが早く来るといいですね」
少女が部屋を辞して、暫く彼女はソファから立ち上がれずにぼんやりとする。
たどり着いた、自分の中の、何か。
魔術師の、きれいな唇が笑みの形を作っていたことを思い出す。
ああ、コレは。
答えにたどり着いたのかもしれない。
■火曜日はラブシックの日、とりあえず最終火曜日です。
来月のことは良く分かりません。そして思いついたラストにこの話はたどりつくのでせうか?
というわけで、ちょっと時間が進んだ感のあるクレアさんサイドです。
しかし本当に答えにたどり着いたのかなあ?
どうなのかなあ?
まったくのノープランで、その時々に面白いと感じたことを書き付けているだけなので、どういう展開をするのか、本当に自分でも分かりません。
うっすらラインは見えてるんですけど、踏み外しや踏み抜きばかりしている気がします。