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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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泡ぽこ 49
「取引ということですね。……しかし、私はお察しの通りただの斥候、たいした権限もありません。何もお約束などできませんよ?」
「たいしたものは期待しない。わたしの要求は微々たる物だ。我々はただ、普通に、ロマールを無事に出たい。だから、この先何もせずわたしたちをこの国から出してくれれば良い。もともとそちらの案では、我々が消えるか、家が消えるか、どちらもが消えるか、のどれかに行き着けばよかったはずだ。目的は果たせているのだから、こちらの要求などたいしたことではあるまい?」
スイフリーはそこで余裕綽々、といった笑顔を向ける。本人、もしかしたら愛想笑いのつもりかもしれないが。
「誰か他にコイツに要求したいことはあるか?」
「特にはないな。無事に出られるんだったら、それでいい。スイフリーの要求だけで十分だろう」
アーチボルトは大きく頷く。
「えー? このでっかい家倒したんだよ? 報酬とかもらわないの?」
「魔晶石だってたくさん使ってたのに」
ノリスとマウナが意外そうな、残念そうな声を上げる。
「気にしちゃだめよ、あんなのたいした物じゃないんだから」
「いつもどおりだよね?」
「必要経費範囲内でしょう」
フィリス、レジィナ、グイズノーのそれぞれがけろりと言い放つ言葉に、マウナはとても複雑そうな顔をして思わず空を見上げる。同じ冒険者のはずなのに、この金銭感覚の違いは何だろう。
「では我々からの正式な要求は、ロマール国内でこれ以上我々にちょっかいをかけてこないこと。これだけだ。報酬も慰謝料も請求しない。間道だって好きに使うがいいさ」
スイフリーはそれだけ言うと、もう興味もないのか男から離れる。
「放っておいてももうすぐノームちゃんはお前を放す。そうしたら思いっきり走れ。さっさと目の前から消えて報告にいってくれ」


男が走り去ってから、エキューはスイフリーを見る。
「口封じしておかなくてよかったの?」
その目はいつもとは違い、すこし危険な色を帯びている。
「その必要がどこにある」
「こっちのことが全部筒抜けってことでしょ? なんか向こうの一方的な勝ちで、こっちは負けってことになるし」
「もともとあのお方はそれなりの実力の冒険者はチェック済みだろう。戦争になったしりたときに、一番動きが読めず面倒なのが実力のある冒険者であることはまちがいないからな。今更だ」
スイフリーは肩をすくめ、ため息をついて見せた。
「それに」
アーチボルトがその言葉を引き継ぐ。
「今回はあの斥候がきちんとルキアルに報告をすることが重要なのだ」
「さすがアーチー。わかってるなあ」
スイフリーが口を吊り上げて笑う。
「そもそものルキアルの策では、家がなくなろうが、我々が食われようが、それが我々に『ルキアルの策だ』と気付かれないままに遂行されることが重要だったのだ。もちろん、斥候なども捕まらないのが前提なわけだ」
「あのお方が単独で使う密偵は皆どっか間抜けだにゅ」
パラサの言葉に、アノスの冒険者たちは一様に苦笑してみせた。
「まあ、それはともかく。今回はあの斥候があのお方の所へ報告へ行くと、我々が策に気付いたということが伝わるわけだ」
「なるほど、どうあがいてもあっちの一方的勝利だったはずの策を、引き分けに持ち込んだってのを伝えさせるんだな」
「正解だ」
ヒースの解答に、アーチボルトは満足げに頷いて見せた。
「またうらまれるんだ……」
げんなりするレジィナに、「有名税みたいなものよ」とフィリスは悠然と笑う。
「では、エレミアで間道があることを伝えないといけませんね!」
「必要ない。ばれてるのが分かっている道を使うほど、無能ではないさ。入り口は我々が開けてきた。出口も空けていけば、いずれどこかの冒険者が見つけて広まる」
イリーナにアーチボルトは答えると、ぐるりと一度全員を見た。
砂埃で多少汚れてはいるが、皆無事だ。
「では、行くか」




■気付いたら、今日は月曜日でした。
おそくなりましたが、49話、お届けです。

ネタばらしはまだつづきます。

ところで、本放送は、終わりました。

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泡ぽこ 48
ノームによって地面にとらわれた不審者に、彼らは悠然と近づく。
捕まえられているのは、とりたてて目立ったところもない普通の男で、服装も至って普通の、町ですれ違ったとしたらすれ違った瞬間に顔を忘れてしまいそうな、そんな平凡な男だった。
「何してたにゅ」
「家があったから入ろうかと思っただけです! そしたらいきなり崩れだすでしょう? 怖くなってにげたんですよ!」
取り乱したように言う男に、スイフリーはしゃがみこんで顔を近づける。暫らくじっとその男を見つめた後、ふう、と大きなため息をついた。
「で?」
酷く冷静な声でスイフリーは男に先を促した。が、男のほうは「は?」と間の抜けた声を上げて首を傾げてみせる。いささか顔が引きつっているのは、もしかしたらスイフリーの不機嫌さを読み取ったからかもしれない。
「何があってこんな使われていない間道へ一人できた? 嘘をつくならもっと上手につくのだな」
「あの、道に迷って」
「付近に村や町はない。そんな軽装の冒険者も居ない」
スイフリーは立ち上がると、酷く冷徹な目を男に向けた。
「大方近くに仲間が居て、お前は様子を見に来た斥候というところだろう。わたしとしては正直に教えてくれたら、別にお前が逃げようがどこへ報告へ走ろうが、問題はないのだが」
「何のことだか」
男は困ったように愛想笑いを浮かべてみせる。
漸く、屋敷から脱出したほかのメンバーも彼らのところへやってきた。
「彼は誰なんですか?」
グイズノーが捕まったままの男を見て首をかしげる。
「わかんないけど、屋敷の外に居て逃げたからつかまえたにゅ」
パラサはに、と笑って見せる。
「不審ですね。とはいえ、よく捕まえられましたね」
「はとこが屋敷から出る前から、多分居るから警戒しろって言ってたから。俺は言われたとおり探しただけー」
パラサはにっかり笑ってグイズノーを見上げた。
「あの、どうして『居る』って思ったんですか?」
不思議そうな顔をしてマウナがスイフリーを見る。彼は男から目を離さずに、軽い調子で答えた。
「そもそもここへ来た理由を覚えているか?」
「何か、街道ががけ崩れにあってるって話を聞いたんだよね」
ノリスが軽い声で答える。
「そうだ。そして我々は『多分罠があるだろう』という予想を前提にこの間道へ回り、屋敷を発見し入ってえらい目にあった」
「逃げられてよかったよなー」
深く頷きながらヒースがしみじみと言う。それに数人が同調するかのように頷いた。
「さて、では、この間道にあった罠とはなんだったのか? この屋敷だ」
スイフリーは崩れ去って今はもう瓦礫と化した屋敷をみてから、また男に目を戻す。
「この屋敷はどういう経緯かしらないが、意思を持っていた。我々を、知識目当てに食おうとした」
「それとこの男がどう関係してくるの?」
レジィナはしゃがんで男の顔を覗き込む。全く見覚えがない顔だった。
「この屋敷は、間道に存在する大きな魔物だといって不都合あるまい。いつから存在するのかなんてことには興味はないが、屋敷を捨て、道を捨てないといけない程度には危険な代物だ。しかしこの間道は、普通の旅人には知られていない。事実我々も一度通ったときには見落としたのだからな。この道を使えば、エレミア・オラン方面に気取られず近寄れるという利点がある。……そんな道があるなら、普通つかいたいだろう?」
「そうだな、戦略上かなり有利だ」
アーチボルトが深く頷く。
「しかしこの道には厄介なものがある。そこへ我々というある意味厄介な客がやってきた。しかも、かなり重要な客を引き連れている」
そこでスイフリーは一度イリーナを見ると、視線を男に戻した。その瞳はどこまでも冷たく、冷徹なまでに無表情だ。
「基本的に、オラン以東にはこちらに関わってこないで欲しいらしいしな。西国のオーファンと東国のアノス、それぞれ大きな国が手を結ぶのは避けたいところだろう。オーファンへやったアノスの使者が戻ってこなかったら、アノスはどう考える? そしてアノスへ使者とともに旅立ったはずのオーファンの英雄が戻ってこなかったら、オーファンは? どちらも正しい情報が得られないのだから、憶測は悪いものにしかならない」
「どうして正しい情報が得られないの?」
「どちらの国でもない場所で、しかも普通知られていない場所で、われわれは姿を消すことになるからさ。誰もこんな間道、用もなく来ない」
ノリスの質問にスイフリーは即答で答える。それから男に目線を合わせる。
「つまりはこういうことだろう? 人食いの家に我々とイリーナたちが食われてしまえば、国同士の緊張が高まる。人食いの家が我々に壊されてしまえば、間道が使えるようになり、結果国にとっての利益になる。家と我々が相打ちしてくれたら一番ベターだが、どちらに転んでもフェイルセーフ。損はしないということだ」
「誰が?」
レジィナの能天気な質問に、スイフリーは呆れたような声で返事をした。
「あのお方に決まっているだろう。この男はどちらに転んだのか報告する役って所だろうよ」
「……」
捕まったままの男が、ふ、と諦めたように笑う。
「流石です。しかし分かったところで、ルキアル様が勝ったことには変わりありませんよね?」
「間道が使えると思ってるのか?」
スイフリーは呆れたような顔を男に向けた。
「我々が、ここを黙っているだけの納得できる何かがないかぎり、ここに間道があるのを言いふらすぞ。尾ひれつけて」
「脅しですか?」
「とんでもない。こういうのは話し合いと言うのだ」
「……」
「ただ、こちらには融通の利かないファリス神官が二人も居るから、ほぼ絶望的だと思いたまえ」




■種明かし、まだちょっとだけ続きます。
こんなオチだったのだが、どうですかね?
納得、行きますかね?
それにしてもスイフりゃん、超能力者的に言い当ててますな。うそくせぇ。


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愛 / 憎

探しているときに限って、大体その相手に会えないもので。
グラスランナーはもう随分長い間、あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している。大広間には居なかったし、部屋ももぬけの殻だった。書庫と、執務室も見てみたけど、やっぱり居ない。
そうなると、もう外くらいしか探すところはない。
グラスランナーは城をでて、庭を探索し始める。
庭は広いが、大体相手のいそうなところはわかる。白粉だのつけ耳だの、色々からかっているものの、なんだかんだで相手はエルフであり、樹のあるところがすきなのだ。自分が、街が好きだが草原も心惹かれるのと同じだろうと思う。
と、なると探さなければいけない場所は数箇所しかない。グラスランナーの足は自然とはやくなる。仕舞いには走り出したが、足音はしなかった。


件のエルフは、グラスランナーの予想通り、城の裏手にある大木の根本で横になっていた。
庭園の美しさも分からないではないが、人の手が入りすぎていて、木々も土もあるのに精霊たちに元気がないのが好きになれない。その点、この樹はのびのびしていて良い。精霊たちが活発に動き回っているのを感じながら、うとうとする時間が好きだ。街も嫌いではないし、人間を観察するのも面白いが、やはり自然の中にいると落ち着く。色々言われても結局自分はエルフであるし、どれだけ人間世界に慣れても、この感情は失われないだろうと思う。
そのまま意識を手放すことにする。
暫らく眠ろう。
シルフのささやきを聞きながら、ぼんやりと意識がたゆたうのを感じているのは、悪くない。


エルフを発見した。
予想通り、大きな樹の下で、すーすーと寝息を立てている。
それを見て、グラスランナーはにやりと笑う。いたずら心に火がついた。
それでなくても足音がしない歩き方をしているのに、意識的に足音を消して歩く。彼が歩いているなんて、見ていなければ分からないだろう。
エルフの真横にたどりつく。
あまりの熟睡っぷりに、このエルフはダークエルフに狙われているのを忘れたんではなかろうか、と思う。
グラスランナーはおもむろにジャンプすると、

エルフの胸めがけてダイブした。


「……~~~っ!?」
衝撃に意識は無理やり覚醒状態になった。
痛み。
驚愕。
混乱。
その中でエルフはそれでも懸命に手足を動かし、胸の辺りにいる何かを捕まえる。
目をあけて、胸の上に馬乗りになっているグラスランナーを発見する。
ダークエルフでなくてよかった、という安堵が一瞬脳内をよぎり、その後グラスランナーに対する怒りがこみ上げてきた。
しかし、すぐには動けない。
息が詰まり、呼吸がきちんとできない。一刻も早くグラスランナーを胸の上から排除したいが、「どうすれば」それが出来るのか、考えられない状況に陥っていた。
ただ咳き込み、その間にひゅーひゅーと嫌な音がする浅い呼吸をくり返し、グラスランナーを睨みつけるしかない。
「……はとこ?」
流石にやりすぎたかとグラスランナーは恐る恐るエルフに声をかける。ジェスチャーが「どけ」と言っているようだったから、とりあえずグラスランナーはエルフの隣に座った。エルフはそのままごろりと寝返りを打ち、グラスランナーに背を向けた状況で、体を曲げて暫らく咳き込み続けた。あまりに長い時間そうしているので、このまま死ぬのではなかろうか、とグラスランナーは流石に緊張する。
やがて呼吸が落ち着くと、エルフはのそりと体を起こし、傍らのグラスランナーに叫んだ。
「殺す気か! はとこの子の子の子の玄孫!」
エルフのグラスランナーに対する怒りの深さは、どれだけ「関係」が遠ざけられるかによって類推することが出来る。今日はその記録を更新した。「子の子の子の玄孫」なんて、もう他人だ。随分前に、女戦士が言われていた「全然遠い人」とどっちが遠いだろうか。
「殺す気なんてないにゅ。だってそんな気あったらはとこ今喋ってないし、第一もっと上手くするから、はとこは自分が死んだのも気付けないって」
元気そうなので、さっきの緊張や反省は全て彼方へ放り投げてなかったことにして、グラスランナーはエルフに笑って見せた。あまりにあっけらかんと言い放ったグラスランナーに対し、エルフは暫らくぱくぱくと口をあけたり閉じたりしつつ何か言おうと努力したようだったが、やがて脱力したように肩をがっくりと落とし。
「それもそうだな」
と搾り出すようにして答えるにとどまった。


「で? 何の用だ」
「おしゃべりしよー」
「それだけのためにわたしはあんな目にあわされたのか」
呆れたようにエルフはグラスランナーを見る。グラスランナーはにぱりと笑って見せた。エルフはその全てを無視することに決め、再び体を横にする。拒絶のジェスチャーのつもりだったのだが、何を思ったかグラスランナーはエルフを下敷きにして折り重なるようにうつぶせになる。二階の窓から見たら、二人はちょうど十字に見えるだろう。
「何のつもりだ」
「俺のはとこに対する愛ー」
「いわんわ」
「じゃあ、憎しみー」
「更にいらんわ」
「ねーはとこー」
拒絶したのを軽く無視し、グラスランナーはエルフに話しかける。
「なんだ」
イライラしながらも返事をするあたりがエルフのお人よしな所だ、とグラスランナーは思いつつ、続ける。
「俺にだって限界ってのがあるにゅ」
「何の話だ」
「姉ちゃんとはとこのこと。姉ちゃんがかわいそうにゅ」
「言っただろう、お前も聞いてた通り、わたしはアレの思いは受け入れない」
「種族とか言い訳にせんといて、って俺も言ったにゅ」
グラスランナーはエルフの顔を見る。とはいえ、見えたのは顎くらいなものだった。しかし、くっついている分、エルフの鼓動はきちんと聞こえた。
少し、早くなった。
「種族は、……十分な理由になると思うぞ。いいことなんてないんだ。幸せになれない。お前は、クレアが好きなのだろう? 幸せになってほしいのだろう?」
「姉ちゃんが、はとこのこと好きでも、はとことくっついたら、不幸なん?」
「その時は良くても、後々は必ず」
「……俺ね、はとこのことも好きにゅ」
「さよか」
「はとこは気持ちを曲げるの平気なん?」
「……」
エルフは少し身を起こしてグラスランナーを見た。真剣な眼差しが、エルフを見据える。暫らくエルフはその瞳を受けて黙っていたが、やがて息を吐くようにして笑った。
「せいぜい長くても50年。その後の空白の長さを思えば、知らないほうがマシというものだ」
グラスランナーは返答を聞いて、失望の目をエルフに向ける。
「ダメだなあはとこは」
「ダメで結構」
開き直るエルフに、グラスランナーはそれでも食い下がる。
「本当に、エルフと人は、幸せにはなれない?」
「フィリスにも同じことを言われた」
「なんて答えたにゅ?」
「わすれた。……わたしは、わたしの都合だけしか考えてない、と言われたな。確か」
「実際その通りにゅ」
「だが、長く生きるのはわたしのほうだ。自分を優先しても良いだろうよ」
「残すのと残されるのと、どっちが不幸なのかなあ」
「どっちも似たり寄ったりだろ」
エルフはグラスランナーを押しのけ起き上がる。髪についた草を払い、大きくため息をついた。
「はとこー」
まだ寝そべったままのグラスランナーが、こちらを見上げる。
「何だ」
「姉ちゃんのこと、好き?」
「嫌いではない」
「にゅう」
グラスランナーは困ったような声を出し、勢いをつけて立ち上がった。風が心地よい。
「俺も姉ちゃん好き」
「知ってる。……お互い難儀なことだな」
「にゅ」
エルフの呟きに、グラスランナーが頷く。
グラスランナーは人間が好きで、その人間はエルフが好きで、そのエルフは好きなくせに答えるつもりがなくて。


不毛な話だ。


「はとこ、姉ちゃんを幸せにしたってよ」
「しつこいぞ、はとこの子よ。わたしでは無理だと言っているだろう。近い未来に確実に破綻するんだ」
「破綻しないかもしれないにゅ」
「そういう希望は持たないほうがいい。一瞬だけ幸せでも、その後不幸なら、それはやはり不幸だ」
「俺、それでもいいと思うんよ。一瞬でも、幸せなのには違いないにゅ」
「グラスランナーはそうだろうな。結婚して、子が出来て、その子がある程度成長したら一家離散なのだろう?」
グラスランナーは頷く。それは種族として当然の生き方だ。面白いことが世界にたくさんある以上、いつまでも同じところへとどまっているなんて無理だ。そして、その面白いことは、いくら家族でも同じように面白いとは限らない。だったら、それぞれがそれぞれの面白いところ目指して旅するのは仕方ない。
「エルフはそうではない。別れを前提にしない。一度誓ったならばそれは生涯続く。……人間は様々らしいが、あの窮屈な神のことだ、似たような考え方だろうよ。それならば、破綻が見えているものを追い求めることはしないだろう。愚かなだけだ」
「どうかなあ。よくわかんないにゅ。……姉ちゃんが、はとことのことを希望してるって明確にわかっても、はとこは受け入れないの?」
その質問に、エルフは長い時間黙っていた。眉を寄せ、少し不愉快そうな顔をする。グラスランナーがいい加減沈黙に耐えられなくなった頃、エルフが口を開いた。
「わからない」
長く考え、挙句結論は出なかったらしい。
「わかんない?」
「わからない」
エルフは頷く。
本当に、どうなるか自分で想像が出来なかった。
ただ感情的にぶつかってこられたなら、それは理性的にあしらって拒絶することは平気で出来ると思う。事実、一度はそうした。
そしてそれが、自分が彼女に出来る精一杯の誠意であると思う。
どう考えても、エルフと人が幸せになれるとは思えない。
だったら、最初から始めないほうがいいのだ。
考えは変わらない。
しかし。
もし、感情的ではなく。
ただ切々と理性的に、その思いを告げられたなら。
そのとき、自分がよろめかないなんて、断言できるものではなく。

「わからないな」
ふう、とため息をついたエルフを、グラスランナーはにやにやと見る。
「はとこ」
「何だ」
「俺ははとこの、そういうところが好き」
「何が言いたいんだ」
冷たい瞳を向けるエルフに、それでもグラスランナーは笑って見せる。


「それは秘密にゅ」

 


 



■今回の見所は、パラサのスイフリーに対するフライングボディプレスであり、あとは全て蛇足と言っても良いでしょう(苦笑)うはははは。

無駄に長くてごめんなさい。

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泡ぽこ 47
全員が一直線に階段に向かって走り出す。意思を失った建物は、その形を維持できなくなりつつあるのか、地震のように何度もその床を揺らす。
床だけではない。壁も天井も揺れているのだろう。まだ何かが降ってくるだとかはないが、ずっとこの状態が保たれているとは思えない。
スイフリーとパラサは先頭を走りつつ、先を見据える。
道に迷いはしない。何せ一本道だったのだ。しかし、その分屋敷の中を何度か折れ曲がる細く長い通路。距離だけはある。
「にゅう、結構出口遠い」
走りながらも、パラサは口を尖らせる。今のところ揺れに足を取られたりしないが、もしかしたら後続では誰かこけてるかもしれない。振り返ったりしないが。
「はとこの子よ、この通路の出口は正面玄関すぐだったな」
「そうにゅ」
「出たら即座に入り口を戦乙女の槍でぶち抜く。そうしたらすぐに外に出て、あたりを確認してくれ」
「? なんで?」
「わたしの勘があたれば、誰かが見張ってる」
「何人?」
「そこまでは分からんが……多分少数。とりあえず、足止めしてくれ」
「にゅう、俺に筋力勝負を頼むの!?」
「最悪追跡することになったら、わたしよりお前のほうが率が高い。……居ないに越したことはないんだが」
「保険保険」
「そういうことだ」
走りながらの会話はそこで終わる。互いの口元は、何かをたくらむような楽しげな笑みが浮かんでいた。


一行は、細い通路を順番に走る。歴然とした足の速さの差が出始めたが、どうすることもできない。屋敷は時折大きな揺れを起こす上に、絶えず小さく揺れている。本格的に屋敷が崩れるまで、大して時間はかからないだろう。
「うおお、俺様こんなところで死にたくないぞ! まだまだ輝ける人生が! 未来が! 俺様にはあるはずだー!」
「誰だってこんなところで死にたくないわよ!」
走りながら叫ぶヒースに、マウナはたまらず突っ込みを入れる。
とはいえ、その叫びが全員の気持ちを代弁していたことに間違いはない。
「大丈夫だ、必ずここから出られる!」
列の後ろのほうでアーチボルトが断言するように叫ぶ。
「そんな断言、どうしてできるんですか!?」
悲鳴めいた叫びがグイズノーから上がる。仲間に真っ先にこういうことを聞かれては、安心させるための断言も無意味というものだ。
「何でもいいからわたしを信じろ!」
「アーチーを信じてよかった事ってありましたっけ!?」
「あったようななかったような!」
「何でもいいから走れ!」
ついに屋敷の崩壊が背後から起こり始める。がらがらと大きな音を立てて崩れ始めた通路を背後に感じながら、冒険者たちはともかく走った。
先頭を行くスイフリーとパラサが、ついに隠し階段を駆け上がり正面玄関前に出る。
屋敷は何度も大きく揺れ、二階からは物が落ちてくる状況になっている。地下がつぶれ始めているのだから、あまり猶予は無い。正面玄関を覆っていた石の壁は、侵入者を食らうという意識が無くなったからか、もう今は消えてなくなっている。
「予想通りだ。準備はいいな? はとこの子よ」
「いつでもオッケーにゅ」
スイフリーは片手を複雑に動かしながら、パラサには絶対に理解できない言語を呟く。すぐにキラキラとしたものが現れ、槍の形となった。
「行くぞ」
「にゅ」
スイフリーから戦乙女の槍が玄関に向かって放たれる。純粋にして膨大なエネルギーをもつ槍は、轟音とともに玄関に穴を開けた。ソレを確認すると、パラサはその穴から一目散に外に向かって走り抜ける。
「脱出口を開いてくれたんですね!」
エキューの感激の声を軽く無視して、スイフリーも外に走り出る。外の雨はやみ、明るい日が差してきていた。
「はとこ!」
パラサの声が左手側からした。見れば何かを追っている。
「上出来だ、はとこの子よ」
スイフリーは口を吊り上げるようにして笑うと、すぐにノームにこう告げた。
「ちょっと逃げるやつを捕まえてくれないか」



■次回は種明かし的な何かを予定。
ソレが終われば、あとはアノス編。

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泡ぽこ 46
はっきりと見開かれた目は、確実に敵意を持ってこちらを見ていた。
顔の横から突き出た腕は、どちらも不思議な動きをしており、少なくとも関節という概念が人とは明らかに違うものであると認識できた。
「うわ、きっもちわるー」
ノリスがうえぇ、という声を出す。
「何者ですか!? 何だかとっても邪悪っぽいですけど!」
イリーナは壁の像を指差しつつ、ヒースを見上げる。

『喰わせろ』

彫像が呟く。
それは独特の響きを持った下位古代語。
「兄さん、今なんか彫像が喋りました! なんていったんですか!?」
「食わせろ、だとよ」
「邪悪ですね邪悪なんですね」
「今更邪悪じゃないってこたぁないだろうが……」
「攻撃されてるし」
マウナの声に、イリーナは深く頷く。
「汝は邪悪なりィっ!」
びしり、と彫像を指差し、イリーナは宣言する。
「はとこ、打ちひしがれちゃだめにゅ?」
「打ちひしがれるか!」
スイフリーは苦々しい顔をしつつ、彫像を見る。
「喰わせろっていうのは、やっぱりわたしたちなのだろうな」

『喰わせろ 喰わせろぉ! その知識を喰わせろぉ!!!』

彫像は再び叫ぶ。
「兄さんアレはなんなんですか!?」
「ホラを吹きたいところをぐっとこらえて答えてやろう。俺様のすっばらしい知識の泉から検索した結果、奴は変種のハウスイミテーターだ! 腕は部屋を自由自在に動き回るが、魔法はないだろう! なぜなら発動体がないから!」
「何か嘘くさいです」
「ヒースが分かっているなら、インスピレーションは必要ありませんね。あれはクラッチョペレペレですよ」
「まて、腕は自由に動くのか!?」
グイズノーの言葉など聞きもせず、スイフリーが悲鳴めいた声を上げる。
「部屋中動くぞー!」
「なぜ勝ち誇る」
どこか嬉しそうな、楽しそうな声でやけくそ気味に答えるヒースに、ガルガドは突っ込みつつも戦斧を構える。
「あかん、あんなのに捕まったらわたし死んでしまう。わたしは消えるからな」
スイフリーは宣言するとすぐに姿を隠す。
「にゅう、じゃあ、鎧の薄い人にコモンルーンでプロテクション、にゅ」
パラサが合言葉を唱えると、数人の体をぼんやりと魔法の光が包み込む。
「サーンキュー! とはいえ、ボクは前にでるより、ここに居てマウナさんたちを守るほうがいいよね。遠距離からジャベリン飛ばせるし」
エキューが腕を動かしながら何事か唱えると、頭上にキラキラとした槍を持った戦乙女が現れる。それは一直線に彫像へ向かって飛ぶと、そのまま炸裂した。
「手ごたえあんまりないなあ。結構硬い」
エキューは舌打ちしそうな口調で言う。
「さて、わたくしは待機です。怪我をしたら言ってくださいねー」
グイズノーはいつの間にかちゃっかり全員の一番内側に移動してそんなことを言う。
「俺様格好良く魔法攻撃!」
「スリープクラウドはダメですよ」
「そんなはなから効かない魔法は使わない! あ! コレはあくまであのイミテーターに効かないという意味であって俺様がだめってことじゃないからな!」
「さっさとする!」
イリーナとマウナにそれぞれ言われて、微妙に部屋の隅でのの字を書きたい気分に駆られたが、そこはぐっとこらえて。
「ライトニング!」
杖からほとばしった雷は一直線に光と轟音を撒き散らしながら彫像にぶつかる。
「やっぱりあんまり効いてなさそうです!」
「硬い、硬いぞイミテーター! ジャベリンもライトニングもそんなに効き目なしかよ!」
悲鳴めいた声をあげ、ヒースは彫像を見る。
動きが遅いのだけが救いだが、まだ相手の力はほとんど分からない。スイフリーじゃないが、あんな腕の攻撃が何度も来たら、無事な人間はそうでないかもしれない。
「何か弱点とかないのかなあ」
マウナは眉をよせ、彫像を見る。
「弱点とか関係ありません! 斬るのみです!」
イリーナがその大きな剣を構え、据わった目で彫像を睨む。
そのまま、彫像に突進。
「あ! 馬鹿! そんな無防備な!」
「汝はああああ邪悪なりぃいいい!!!」
叫び声とともに振り下ろされたグレートソードは、深々と彫像に突き刺さり、そのまま重力に従うように下に振り下ろされる。その刃は、まるで素振りをしたかのように、何の障害も無くそれを二つに切り裂いた。
「全然出番がなかった」
「いいことじゃない」
呆然とするアーチボルトに、フィリスが肩をすくめて見せたとき。
「あ!」
叫び声とともに、スイフリーが姿を現す。
今や彫像は見事に真っ二つになり、腕は力なく床に倒れ付している。
「どーしたの?」
ノリスの声にスイフリーが彼を見る。
「アレはつまりハウスイミテーターだったんだろう? ということは、ここはどこだ」
「え? 体の中じゃない?」
「つまり、意思を持ちここを維持してたものがなくなったらどうなる!」
「そりゃ、家は壊れるよね」

ノリスの答えに、一瞬あたりは沈黙に包まれた。

「逃げるにゅ」
「逃げるってどこへ! 家は出口ナシなんだぞ!?」
「ともかく上だ!」




■クリティカルっぽさが出てないな(笑)
イリーナはね、クリティカルだったんですよ。

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