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広間に戻ると、ソファに居たはずのエルフの姿は無くなっていた。
彼女は一度大きくため息をつく。それが落胆のため息なのか、安心したため息なのか、彼女自身にも良く分からなかった。
ただ、「話してみればよい」といわれたものの、果たして、エルフがここに居たからと言って何か話を出来ただろうか、と自問自答し、すぐに「否」だと答えを出す。
きっと、何も話せやしなかっただろう。
彼女はもう一度ため息をつくと、テーブルの上に置き去りにしたままだった、グラスランナーからの土産を整理し始める。様々な土地の土産物。見たことの無かった色使いの布や、どう見てもガラクタにしか思えないもの、綺麗な宝石の嵌った指輪。その価値や大きさは様々で、グラスランナーがこれらの物を選んだ基準が分からない。ただ、どれもその土地でしか手に入らないものばかりで、その土地土地の空気を閉じ込めたものであることが分かる。きっと、そういう「ここでは手に入らないもの」を基準に選んでいるのだろう。
彼女はそう結論付けると、彼女は椅子に腰掛ける。
離れた陽だまりに、ソファ。
この距離を、果たして縮めてよいものか、それとも何もしないほうがいいのか。
彼女は無言でソファを見つめながら暫らく考え、そして考えるのをやめることにする。
どれだけ自分が望んでも、相手も望まなければ距離は縮まることはない。
そして、エルフがそれを望まないのを、彼女はもう知っていた。
自覚したのは最近なのに、それよりももっと前から拒絶されている。
なんだ。
彼女はため息をつく。
今度はそれが、落胆のため息であることを自覚した。
なんとなく鼻の奥がつんとする。
目がじんわりとする。
泣きそうだ、と自覚はしたものの、結局涙はこぼれなかった。
その程度のことなのかもしれない。
もしくは、自覚したのがこの瞬間なだけで、何処かではもうずっと前に理解できていて、今更の話なのかもしれない。
結局のところ、自分の気持ちが分からない。
気持ちは堂々巡りして、同じところで足踏みをしただけなのだろう。
彼女はまた、深くため息をつく。
「あまりため息はつかないほうがいいですよ。1回ため息をつくと、1つ幸せが逃げるそうですから」
唐突に聞こえた言葉に、彼女は顔を上げる。
「随分深くお悩みですかね? わたくしが入ってきたのにも気付いてなかったでしょう?」
別の神を信仰する神官がドアの近くから彼女へ声をかける。ちょうど部屋に入ったところなのだろう。彼はドアをぱたんと閉じた。
「悩み事なら、伺いますよ? まあ、聞くだけですけど。結構人に話すと楽になるものですし、話しながら自分の中で整理もつきますしね。……ま、人の悩みを聞くのも我々神官の仕事ですから」
貴女のほうがよくお分かりでしょうけど、と彼は続けると、ふふ、と笑う。その笑顔は少し自嘲的にも見えた。
「悩み。……悩んでいるように見えるのでしょうか?」
「ええ、かなり。ちがったらごめんなさいね」
たいして悪びれた様子もなく、彼は肩をすくめてみせた。
彼女は暫らく彼の顔を見て、そして観念したかのように話し出す。
「他人を好きになるということは、大変なことなんですね」
「そうですね、大変です」
彼は軽い声で言う。
「こちらがどれだけ好きでも、報われるとは限りませんし、まあ、大体わたくしの場合報われないのですけど、だからといってすぐに気持ちがおさまるわけでもなく。でも、そういうものですよ。……恋っていいでしょう?」
「それがいまいちよく分からなくて。多分好きなのだろうとは思いますけど、拒絶されたらそれはそれで仕方ないかと。そしてその程度に思えるということは、実のところはそう好きでもないではないかと考えたり。いえ、拒絶はもうされているようなもので、それでも好きだと思うのは迷惑なのではないだろうかと……」
「想う間は、相手は関係ないでしょう。そこは自分の心に忠実なほうがいいですよ。その後の実行に関しては、相手の意思も重要ですけどね」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。誰かを好きである、というのは自由であるべきですし、尊い感情ですよ。ですから、貴女がスイフリーのことを好きだという気持ちは、貴女自身が大切にすべき感情です。だからといって、思いつめて突っ走って、押し倒したりしたらダメですよ」
ふふふ、と彼は笑ってみせる。
彼女は呆然と彼の顔を見た。
「私、スイフリーさんだなんて言ってないですよ?」
押し倒す、という不名誉な言葉も、それ以上の驚きによって彼女の中には浸透しなかった。ただただ、驚いて彼を見つめる。
「まあ、分かりやすいですし」
彼はそれだけ答えただけだった。
「分かりやすいですか?」
「ええ、とても。貴女が自覚しているかどうか別として、貴女はいつだってスイフリーばかり見てますからね。わたくしやパラサだって、時にはアーチーだって相当悪いことを言ってますが、貴女が反応するのはスイフリーの言葉だけです」
「……」
彼は彼女を見る。
彼女は「拒絶されている」と評していたが、そんなことはない。
エルフはアレで彼女をきちんと評価しているし、自身が殺されそうになったことも既に昇華されてしまっている。
もし、彼女が思いを告げていたとして、それを拒絶した理由も彼には分かる。
エルフの、彼女に対する非常に密やかな想いを聞いてしまったからだ。
エルフの中には明確な線引きがあって、そのラインを越えるつもりがないだけなのだ。
そう、
例えどれだけ彼女のことを好きだとしても、
好きだからこそ、
エルフはそのラインを越えるつもりはない。
単純に、そのことを告げただけだろうと思う。
説明を省いて、拒絶の言葉だけを。
「わたくしはね、そりゃもう報われない恋ばかりしてますけどね、それでも誰かのことを好きでいる時はとても幸せですよ。無責任なようですけど、これだけ世の中には人間が生きているんです、報われる人ばかりじゃありません。だからといって、人を愛さなくなるのは愚かでしょう? 別れを告げられたり拒絶されたときは、そりゃ落ち込みますし、世の中の全てを恨みたくもなりますけどね」
「私が、スイフリーさんを好きなのは、彼にとって迷惑ではないでしょうか?」
「さあ? それはスイフリーに聞かないと分からないですよ」
「人とエルフでは幸せになれないから、首を縦に振らない、とおっしゃってました」
「迷惑だとは言ってないみたいですよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ。それに、スイフリーが言っているのは一般論でしょう? 貴女とスイフリーがどうなるかなんて、誰にも分からないです。乗り越える知恵だって、無いとも限らない。それに……」
彼は暫らくこの言葉を言って良いのかどうか考え、やはり口にすることにする。
「幸せになれないからダメだ、というのは、勿論彼自身が幸せになりたいからだ、というのもあるでしょうけど、同時に貴女を不幸にしたくない、という意思表示にも取れますよね?」
彼女はその言葉を聞くと、陽だまりにあるソファに目を向ける。
誰も座っていないのに、なぜだかとても愛しく思えた。
「どうでしょうか? この国でエルフの方を見る機会がほとんどなかったのでよく分からないのですが……本当に幸せになれないんでしょうか?」
「幸せが何かによるんじゃないですかね。確かに困難は避けられないと思います。異種族であることによる考え方の違いだとか、生命の長さであるとか。……でも、男女である以上、それ以前に他人である以上、困難がないわけないですしね。それを乗り越えられるだけのことがあれば、大体どうにかなるもんですよ」
「例えば?」
「一緒に居るだけでもいい、という考え方であるとか。ただ、人は欲深ですからね、一つ望みが叶うとまた一つ望みを持つ。最初は一緒に居るだけでよくても、そのうち触れたくなるだろうし、子どもだってほしくなるでしょう。多分、人間のその変化の早さにエルフはついていけなくなり、結果不幸になることがあるんでしょう。ただね、その変化の早さこそ人間の強みであり、また魅力だとわたくしは思います。エルフの永遠にあこがれないわけでもないですけどね」
彼女は彼を見た。
その真っ直ぐな瞳を彼は見つめ返す。
泣きたいのかもしれないな、
と思った。
「私はどうすればいいのでしょう?」
「それは貴女の心次第でしょう。ただ、もう貴女の中で答えは決まっているように思います。でしたら、全てを感情に任せてしまってもいいんじゃないですかね」
「突っ走ってはいけないんじゃなかったですか?」
彼女は少し困ったような顔をして尋ねる。
彼は笑って見せた。
「いいんですよ、時には勢いだって必要です。アレでなかなか情に厚いですから、ふらっとすることもあるかもしれませんよ」
「騙すみたいで嫌な感じです」
「恋愛はね、騙し騙されですから。騙したほうが勝ちなんです。そして、惚れさせたほうが勝ちですよ」
「……」
「それじゃなくても、女性のほうが偉いんですから、貴女は堂々と、スイフリーに愛をささやけばいいんです。フィリスみたいに」
「……そうですか?」
「そうですよ。女性はね、生きてるだけで偉いんですから」
■遅くなりましたが、とりあえずラブシックです。
……先週、妥協してアップしないでよかったです。ちゃんとグイズノーが言って欲しかったセリフを言ってくれました。先週のでは言わなかったんですよー……。
まあ、個人的な満足だけで、多分どっちをアップしてもそんなに変わらなかったのかもしれませんけどね。
ボツ文?
あー、データはありますけど、非公開。
……そろそろタイトルに付ける単語がなくなってきました。
今日のはこじつけとしても酷いな……(←タイトル付けるの苦手)
粗製乱造ですみません。
他所様のサイト様を見ていると本当にそう思います……。更新速度とか、内容とか……。
パラサがこともなげに答える間に、スイフリーが立ち上がる。それを見て、もうしゃがんでいる必要は無いと判断したのか、クレアも立ち上がった。
「このピアス、俺があげたのにゅ。ちょっと変わったデザインなん。裏っかわにも飾りがあるにゅ」
「わたしはそれを知っていただけだ」
「何で知ってんの?」
レジィナの問いかけに、スイフリーは肩をすくめた。
「買い物につきあわされ、延々悩むはとこの子に何度か蹴りを入れたから」
「蹴ったんですか」
「注目すべきはそこではないな」
じとっとした目つきでスイフリーを見たクレアに、彼は反省した様子もなく言い放つ。
「さて、我々を本物だと思ってくれるなら話は早いのだが。我々もあちらの面子とは一度も別行動をしなかった。全員本物だとわたしとはとこの子が保障してもいい」
「うん、してもいいにゅ」
「が、それでも不安なら、あちらに居るイリーナにでもセンス・イービルをかければいいだろう。ファのつく神の神官だ、信用するに足りるだろ?」
「ファラリスもファのつく神ですよ」
笑いながら言うグイズノーの足を思いっきりふんずけて、スイフリーはクレアを見上げる。
「いえ、唱えるまでもないでしょう。そういうことを言うあなたが偽物だとはおもえませんし」
「あはははは、偽物のスイフリー、気持ち悪かったもんね!」
能天気にノリスが笑う。
「一体そっちの偽物のわたしは何を言ったのだ」
「知らないほうがいいですよ」
ふふふ、と含み笑いをするグイズノーを、スイフリーは暫らく睨んでいたが、やがて諦めたように息を吐いた。
「さて、だが問題がある」
「そうだの」
ガルガドが頷いた。
「つまり出口がないということだ」
「え?」
ガルガドの言葉に、ノリスがぽかんとした顔をする。
「ずっと一本道を歩いてきたからな。そちらも似たようなものだろう?」
「多分造りはシンメトリだな」
全員が集まって、途方にくれる。
「どうしたもんだ? やっぱり上に戻ってイリーナあたりに壁をガツンと壊してもらうか?」
「ヒース兄さんたちが魔法で壊すほうが早くないですか?」
「俺様弁償する金がない」
「私だってそうですよ」
肩をすくめて見せるヒースに、イリーナも思わずため息をつく。
「支払い義務が出るかどうかだよな」
「ばれなきゃ出ない」
「そこを思わず名乗り出ちゃうのがイリーナよ」
払う気などさらさらない、というスイフリーの発言に、マウナは思わず答える。この人たちの経済観念と自分の経済観念がかみ合うことは一生ないだろう、と思う。ハーフエルフの一生は長いが、絶対にかみ合わない。
「?」
ふと、アーチボルトは視線を感じたような気がして振り返る。同じようにパラサとヒースも同じ方向を見ていた。
「どうしたの?」
「いや、何か……視線を感じたような」
「気持ち悪いこといわないでよね」
そちらの壁には、あの不気味な彫像以外何もない。眉を寄せ、フィリスはヒースを見る。
その目はあくまでも抗議の色をしている。
「俺も感じたにゅ」
パラサがフィリスを見上げたのと同時に、アーチボルトが叫んだ。
「伏せろ!」
「え!?」
不意に叫ばれたとしても、そこは長い間生き残ってきた冒険者。全員が上手く伏せる。その上を、強烈な空気の刃が切りさいていく。
「何今の?」
「何だか分からんがともかく敵だ」
身を起こして最初に見えたもの。
それは目を開いた不気味な彫像の姿。
いつの間にか、巨大な手が顔の横から二本、突き出している。
「総大将のお出まし、か」
■もう月曜ですかー。速いですなー。
これを送信した日も世界陸上だったようです。
世界陸上みてるかー!!
今日も言うぞ(笑)
今日は男子200の決勝があるぞ!
男子棒高飛びもあるぞ!
見れ!
だ、そうです。楽しかったなあ、世界陸上。
そして話には全く関係ないのであった。
■今週はラブシック大丈夫です。かけました。
ヒースは向こう側に固まっているガルガドたちに声をかける。
不審そうな目で彼らはこちらを見た。すこしヒースはひるんだが、後には引けない。
「さて問題です! 俺様の可愛い使い魔、BB1号は現在どうしてるでしょう!」
半ば自棄になって声を張り上げる。
「何言ってんのヒース。BB1号は使い魔じゃないだろ?」
かく、とエキューが首を横に傾ける。
「よーし、少なくともエキューは本物と見てよし、だ」
小声でヒースは報告すると、小さくガッツポーズをとる。
「効率悪……」
パラサの呟きは、聞こえない振りをする。
「ていうか、そんな初歩間違うなんて、ヒース実はヒースじゃないでしょ」
ノリスが疑いの眼差しを向ける。
「おーっと、俺様ピンチ?」
「ヒースが疑われたら芋蔓式に私たちも疑われるんじゃないの?」
マウナは困った顔をしてガルガドたちを見る。
疑いたくはない。
本物みたいに見える。
「マウナさんがボクに熱視線を!」
「……エキューは本物だと思って間違いなさそうね」
思わずうんざり。
「まとまってるんだから、もう全員本物でいいんじゃない?」
面倒になってきたのか、フィリスがため息をつく。
「クレアが本物かどうか確かめよう」
不意にスイフリーが口を開く。
「何で?」
「アレは多少マシになったとはいえ、融通の利かない馬鹿正直なあのファのつく神の神官だ」
「姉ちゃんになんてこと言うにゅ!」
「未だファリスと言えんのか」
じと目になるパラサやアーチボルトのことなど気にせず、スイフリーは続ける。
「アレが他のものと別行動をとらなかった、と証言すればそれは信じていいだろう。全員本物だ」
「なるほどな」
アーチボルトが頷く。
「で? 本物かどうか、どうやって見極めるつもり?」
楽しげな目でフィリスがスイフリーを見る。
彼は肩をすくめた。
「ほくろ大作戦ではないが、似たような方法を思いついた。行くぞはとこの子よ。二人で確認する」
「俺も?」
「そうだ。フィリスとヒースは念のためスリープクラウドの準備をしておいてくれ。偽者だと判断したら合図するから、即魔法を叩き込んでくれ」
「わかった」
あっさり頷くフィリスに、マウナは慌てる。
「それって、スイフリーさんとパラサさんにも呪文が」
「俺、よっぽどのことがなかったら魔法怖くないにゅ」
「わたしはクラウド系の魔法は全然怖くない」
に、と二人は笑う。
「では行くぞ、はとこの子よ」
無防備に歩いてきたスイフリーとパラサに、レジィナとグイズノー、クレアははなんとなく二人は本物なのだろう、という感覚を覚えた。が、それをガルガドたちに上手く伝えられないうちに二人はこちらにたどり着いてしまった。
足が速すぎなのだ。
「姉ちゃん! ひさしぶりにゅ」
ニコニコ顔のパラサがクレアにまとわりつく。いつものことだからクレアはあまり気に留めないようだった。
「何だか久しぶりな気がしますね」
グイズノーの挨拶に適当に返事を返しつつ、スイフリーはクレアを見た。
「ちょっとしゃがめ」
「?」
クレアは不思議そうな顔をしたが、すぐにしゃがんだ。スイフリーも同じようにしゃがみ、パラサはクレアの傍に立つ。
「何を始めるの?」
レジィナは不思議そうに、ノリスは興味津々な顔をしてなりゆきを見守る。
「いくつか質問させてくれ」
「何でしょう」
「壁が鏡になった部屋はあったか」
「ありました」
「その時、どうやって映った」
「どう、とは?」
「近くで映ったか、遠目だったか、体のどの辺りを映したか」
「ちょっと遠目でした。全身うつしました。そうですね、鏡に向かって、正面から。自分はこういう姿だったのか、と思いました」
「後ろは映してないか?」
「回ったりはしませんでしたから」
スイフリーは頷いた。
「あっち見ろ」
指で左側を指す。クレアはそちらを見た。
「そのままストップ」
言うと、耳の辺りを覗き込む。
「はとこの子も見ろ」
「あ、なるほど」
「何がですか?」
「クレア、一度でもこのメンバーから離れたか?」
「いえ」
「了解した」
スイフリーは立ち上がると、元居たメンバーのほうを見る。
「本物だと断言していい」
「一体何を見て!?」
■気付けば金曜日でした。
なんだか気分が土曜日なんですよねー。ふー。
というわけで、金曜日は泡ぽこの日ですよ。
今週は泡ぽこばかりでした。来週にはラブシックが書けてたらいいな。と思いながら今週はここまで。
どうでもいいですが、本放送(笑)のほうは、70回を越えました。蛇足ばかりで。
この物語は何処へ流れていくのでしょう。
さらにどうでもいい話。
今回の話は、ちょうど世界陸上が行われている頃に送信したようです。
前置きに、「世界陸上みてるかー!! 見てないやつぁ泡ぽこなんてどーでもイイから陸上見とけ! 今日は男子走り高飛びが熱い!」と書かれてました(笑)
『戦乙女よ、槍もて貫け!』
キラキラと光り輝く槍が7本。鋭さと速さを持ったそれは、飛んでいく軌跡をも美しく、光の尾を引き一気に相手に襲い掛かった。それぞれの体にそれは突き刺さり、偽物たちは次々と姿を保てなくなったのか宙に霧散していく。残ったのはガルガドとバスだけだったが、負けを悟ったのか同じように宙に消えていった。
「上々」
に、とスイフリーは再び笑う。手の中にあったはずの魔晶石はことごとく消えてなくなっている。マウナは本気で意識を失いたい気分になったが、この先まだ何があるか分からない。気を失うのはその後でもいいかもしれない。
「はとこ、コレ」
「後で返す」
「別にいいにゅ」
パラサから魔晶石を受け取り、スイフリーは数を確認してから無造作にそれをポケットにしまう。
「さて、と。偽物を退治したわけだが」
アーチボルトは一度大きく息を吐くとあたりを見渡した。
「手がかりは何も無し、か?」
「そうだなー」
偽物が消えたあたりをヒースは暫らく観察してから立ち上がる。
「何にも残んなかったからな」
「はとこのせい?」
「そうでもないだろ。普通なら死骸が残る」
首をかしげるパラサに、冷静にスイフリーが言う。自分のせいにされたらたまったものではない。
「魔法生物で、なんか特殊な感じのやつだったのかな?」
とりあえず、全員で首をかしげ。
「まあ、考えても仕方あるまい。分からないのだからな。グイズノーが居れば神のご加護で分かったかもしれんが、望めないのだから仕方ない」
アーチボルトは肩をすくめる。
「神のご加護といえば」
フィリスがスイフリーを見た。
「アンタの戦乙女の槍、なんかクレアのだけやたら威力強くなかった?」
「気のせいだろう」
「日ごろの恨み?」
「気のせいだ、と言ってるだろう。大体、なぜ神のご加護とか言う単語でそんな話題になるのだ」
苦い顔をするスイフリーに、フィリスはからかうような笑顔を向ける。
「べぇーつにィ? ただ戦闘前にクレアの名前を騙ったヤツに正義の鉄槌がどうのって言ってたのを思い出しただけよ? アンタって性格270度くらいひねくれねじれあがってるから、どうなのかなー? って」
「暇な女だなぁ」
呆れた顔をするスイフリーに、フィリスはまだまとわりつく。
「で、実際どうなの。日ごろの恨みなの? ねじくれあがった愛なの?」
「……黙秘する」
「つまんないわねー。いいや、好意的に解釈しとこっと」
鼻歌交じりにアーチボルトの元へ歩いていくフィリスを見て、スイフリーは大きくため息をつく。どうして自他関係なく恋愛話がすきなのだろうか。
面倒くさいだけだろうに、そんなの。
「とりあえず、先に進むとするか。まだ先はありそうだ」
部屋の北側の壁には、相変わらずのドアがあった。今回も罠も鍵も無く、あっさりと進むことができた。ドアの先は広い空間の端だったらしく、向かい側の壁が遠くに見える。空気は湿気が酷くなり、すこし息苦しくも感じられた。
どこからとも無く、脈打つような低い音が定期的に響いてくる。
「何だか嫌な感じがする場所ね」
マウナは不安げな顔であたりをうかがった。部屋の中は薄暗いが、見えないことも無い。
部屋は今までのどの部屋よりも広く、一番北の壁には何かがあるようだった。
それは彫像のように見えた。
奇妙な彫像だった。
大きな顔で、体は無い
目は閉じられていて、眠っているような顔をしている。
赤黒い壁と同じ色をしていて、同じ色の管も頭や頬に張り付いていた。
毛という概念は無いのか、管がある以外はつるんとしたつくりだ。
それは見たことのあるアンデットや悪魔などの持っていた禍々しさとは違うが、本能的に近寄りたくない、と感じさせるだけの何かを持っていた。
「嫌な感じ」
再び呟く。
少なくとも、あの彫像を作ったものは、正気ではなかっただろう。
「あ」
パラサが逆側の壁を指差した。あちら側にも扉があったらしく、ぞろぞろと数人の人間が入ってきたのが見えた。全部で7人。間違いない、分断されていた仲間たちだ。
「姉ちゃん!」
走ろうとするパラサの首根っこを今回もスイフリーが捕まえる。
「前例を忘れたか、はとこの子よ」
「向こうもおんなじこと思ってるみたいにゅ」
向こうにいる人間たちは武器に手をかけ、近寄るか否か思案中のようだった。
「どうにかして本物かどうか確認が取りたいところだな」
「マウナ、エキューに『好きよ』って言ってみてくれなさい」
「本物だったとき、あとどうしてくれるのよ、それ」
ヒースの提案に、マウナが冷たい声をあげる。
「やっぱりほくろ大作戦よ。ホントにクレアの秘密のほくろとか知らないの?」
「いい加減そういう思考から離れろ」
フィリスの宣言に、スイフリーはぐったりした声をあげる。
「そんなにほくろ大作戦がしたいなら、フィリスがレジィナを見てくればいいだろう」
「そんなの誰も楽しくないわよ」
「知らないわけじゃないのか」
「グイズノーあたりなら喜ぶかも知んないにゅ」
「あの破壊坊主を喜ばせてもねえ」
ぼそぼそと会話を続けていると、アーチボルトが咳払いをする。
「真面目に考えんかお前ら」
「真面目なのに」
「なお悪い」
口を尖らせたフィリスを、アーチボルトはぎろりと睨む。
「前と同じ設問でいいじゃない。ヒースが言ったやつ」
仕方ないから言いました、というような口調でフィリスが言う。
「じゃ、そうしてみるとするか」
ヒースは相手に声をかけるべく、大きく息を吸った。
■水曜日はラブシックの日、でーすーが。今日は泡ぽこです。
以下、言い訳。
毎回、ラブシックは話をアップしてから次の話を書き始めます(自転車操業的)
まあ、大体この辺でこの人たちにこういうことを話し合わせよう、くらいの指針に合わせて書いてるわけなんですけど、今回、1週間格闘しましたが、かけませんでした。
Aパターンで書き始めて、3回書き直しても気に食わず、仕方ないなあ、ということでBパターンに変更して書いてみたものの、唐突に増やした話だったのでどうも浮いている感が否めず。
こりゃだめだ、と。
というわけで、水曜更新は無理と判断、急遽泡ぽこにしました。
泡ぽこはねえ、まだまだストックがあるから大丈夫です。
友人たちには69話まで送信済みです(これも2日休んでラブシック考えてみたんだけどなあ……)
まあ、そういうことで今日はラブシックお休みということで。
杖を構えなおしてヒースが小声で言う。
「相手の正体が何かいまいち分からんにせよ、モンスターだよな? ということは、神聖魔法は使えないんじゃないか? あの記憶までコピーするドッペルちゃんでも神聖魔法は使えないんだぞ? 左右反転してくるような間抜けモンスターがそんな高度なことをしてくるとは俺様思わん」
「なるほど、一理ある。しかし言い切れるかどうかは別だな。わたしはやはりミュートだ。念には念を」
スイフリーは無造作に魔晶石をいくつか握り締める。これからどの程度の魔法が飛んでいくのか。いくつ魔晶石は残るのか、と考えるとマウナは軽いめまいを感じるが、命と比べれば安い。使わないで生きていけたらそれに越したことは、ないんだけど。
「わたしとパラサとイリーナで盾になろう。後方から魔法で援護してくれ」
その言葉と共にアーチボルトは剣を構えて前に出る。イリーナとパラサもそれに続いた。
「何で俺、アーチーに指図されてるにゅ?」
「深く考えるな」
「じゃあ、わたしは予定通り全員にミュートだ。黙らせちゃる。じゃ、始めるぞ」
言葉と共にスイフリーは片手を複雑に動かし、何事かの言葉を呟いた。
それは多分力ある言葉なのだろうが、その場に居るものには、ほぼその意味は分からない。唯一マウナだけがその言葉を理解できた。意外に優しい言葉でシルフに頼むんだな、というのがその感想だったが、別に口にしない。
「よーし、手ごたえありだ」
にやりとスイフリーが笑う。手の中の魔晶石は壊れるまでは行かなかったが、随分輝きが失せたようだった。相手の人数が人数だから仕方ないかもしれない。
「カンタマ~」
続いてパラサが指輪を掲げて間の抜けた声で言う。もう少し発動のためのいいキーワードはなかったのだろうか。じゃらじゃらと指にはまっている指輪がことごとくコモンルーンなのだとしたら、一つずつに気合入れたキーワードを考える暇がなかったのかもしれないが。……こういうことに頓着しないからこそお金持ちなのだろうか。
色々腑に落ちない。
無言のエキューがパラサに向けて槍を繰り出したが、パラサは軽い身のこなしでそれを避けた。ニカニカと笑っていることから、余裕だったのだろう。エキューはかなり腕が立つはずだから、パラサがすごいのか、偽物の精度が低いのか、そのどちらもなのか、いずれかの理由だろう。
その戦いを見つつ、グイズノーが後ずさって下がっていく。確かに、魔法が使えなければやることは無いだろう。
「結構混戦だな。俺様もう一回スリープクラウド! 何かいけそうな気がする!」
そう叫び、古代語とともに複雑な動きを再び。今度も白い雲が相手をうまく覆っていく。
ぎりぎり味方を範囲に入れていない辺り、コントロールは悪くないのだ。
雲が晴れると、レジィナが床に突っ伏していた。
「うおぉ!? 俺様久しぶりに成功! コレはもう勝ったも同然だ! どーんと行ってくれなさい!」
「寝てないほうが多いですよ」
「何気に一番強いレジィナを倒してるあたりワケが分からん」
「レジィナさんに化けたやつが気を抜いてたんじゃないの?」
「ふはははは! 今はそんな冷たい言葉も気にならんぜ!」
ふんぞり返るヒースを尻目に、イリーナがガルガドに斬りかかる。
「ガルガドさんの名を騙るなんて邪悪です!」
言葉とともに振り下ろされた剣は、ガルガドが避けたことも重なって空を切り、大きな音とともに床に突き刺さった。かなり深く。
「敵じゃなくて良かった。わたし一撃で死んでしまうわ」
スイフリーが大げさに肩をすくる。何気に青ざめている辺り、本気で恐ろしかったらしい。
「私、今できることなさそうだから、下がっておくわね」
マウナはそーっと全員の後ろに移動する。回復要員はほぼ彼女だけといえるから、コレは仕方の無い話だろう。
「混戦だけど、とりあえず」
フィリスは全員に向けてエネルギー・ボルトを使ったらしい。ちまちま削っていくつもりなのかもしれなかったが、意外にも偽ガルガドが苦しそうな顔をした。相手が気を抜いていたのか、それともフィリスの気合がすごかったのか、ともかくダメージがかなり抜けたのは間違いなさそうだった。
アーチボルトは対峙していたクレアに剣を振り下ろす。黄金の輝きをもった剣は、確実にクレアを捕らえ、きちんとダメージを与えたようだった。すこし苦痛に顔をゆがめる辺り、偽物も動揺を誘うために必死なのかもしれない。なんとなく苦い感覚。
ワイトのときとはまた違う罪悪感。
「しかし斬ることしかできんのだよ……」
言い訳を心で呟き、彼は反撃に備えることにする。前衛になっていた人間の死角を突くようにして、白い人影が走り出す。ノリスだ。彼は一直線にスイフリーめがけて走っていた。移動攻撃まではできないだろうが、次は確実に攻撃を繰り出してくるだろう。
「ごめーん、はとこ、自分で何とかするにゅー!」
「冗談じゃないぞー!!」
半笑いのような表情でスイフリーは思わず槍を構えなおした。戦士としての腕は悪くは無いが、持久力はほぼない。相手はかなりの腕前の盗賊、真面目に相手はしたくない。
その間に、ガルガドのイリーナに対する攻撃は空を切り、バスがレジィナを揺り起こした。レジィナは不機嫌そうな目でヒースを睨んでいる。
「うお!? 俺様うらまれてる!?」
「そりゃそうでしょうよ」
「ロックオンされるとかなりヤバイのですけれどもー!?」
ヒースもマウナも、接近戦の心得は無い。レジィナの攻撃を防げる自信など全くなかった。
「前衛ー! 何とかしろー!」
「やってますー!」
イリーナの答えに、かぶる金属音。それはアーチボルトがクレアの攻撃を防いだ音だった。
■戦闘描写はやっぱり苦手だわー。
淡々としててごめんなさいね。
人間多すぎ!!!
次は二ターン目です。