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「だ、な。答えが返ってこなかったら確定だ」
アーチボルトの提案にスイフリーが頷く。
「答えられなかったら、すかさず遠慮なしにスリープ・クラウドを叩き込め」
「それ、ヒース兄さんに言ってるんですか?」
不思議そうにイリーナはスイフリーに尋ねる。彼は当たり前じゃないか、という顔で頷いた。
「ヒースはフィリスより先に行動できるのだから、当然だろう?」
「でもスリープクラウドは遺失魔法ですよ?」
「は?」
今度はスイフリーが首をかしげる。
「何を言っているのだ?」
「煙しかでないですよ?」
ますます不可解、という顔をするスイフリーと、床にのの字を書き始めるヒース。
「あたしもスリープクラウドは微妙に苦手だけど……」
フィリスが苦笑する。
「だよな!? スリープクラウド難しいよな!?」
しゅた、と立ち上がり元気を取り戻すヒースに、フィリスは曖昧に笑って見せる。前は結構失敗もしたが、最近は使わないから今も苦手かどうか、よく分からない。
「そちらだけで盛り上がらず、情報交換でもしようじゃありませんか」
グイズノーがのんびりした声をあげた。
「それもそうだな」
アーチボルトは重々しく頷いて見せた。
「ところでグイズノー」
「何ですか?」
「花いろいろ亭には今も行くのか?」
「何ですやぶからぼうに。今でも行きますよ? 見聞を広めに」
「アーチー、それ設問ミスだにゅ」
パラサがため息をつく。
「一体どうしたと言うのだヒース」
「おやっさん、何でも無いんだ。気にせんでくれなさい」
ヒースはかくかく、と手を振って見せた。
「もしかしてぼくらのこと疑ってるの?」
ノリスがかく、と首をかしげる。
「そんなこと有りません! 汝疑うこと無かれ、です! 疑ったりしません! ただ確かめてるだけです!」
「それ、疑ってるって言うよ」
レジィナが苦笑する。
「はとこが他人を見たら疑ってかかれって言ったにゅ」
パラサが笑って言うが、全員なんだか納得したようにスイフリーを見ただけだった。
「お前たちのわたしに対する評価はよーく分かった。後で覚えておけよ」
スイフリーが舌打ちをする。
「姉ちゃん?」
パラサはクレアを見た。
「怒んないにゅ?」
「なぜですか?」
「姉ちゃんははとこがあんなこと言ったら怒るにゅ」
パラサの目がす、と細くなった。
「お前誰、にゅ?」
言うや否や、パラサが武器を構える。
その言葉と動作が引き金となって、全員が戦闘態勢に入った。慌てて見せるのは最初から部屋に居た7人のほうである。
「ど、どうしたんですか? 仲間じゃないですか」
「仲間だったら答えてくれなさい。俺様の使い魔のBB1号は今どこにいるのかを」
「外に居るんじゃないの?」
ノリスの答えにヒースは口を吊り上げる。
「だから仲間じゃないというんだ、見てろ俺様渾身の一撃! スリープ・クラウドだ!」
「結局唱えるんだ」
「魔晶石つぶしていけよ」
「黙ってろ外野! 『万物の根源たるマナよ、眠りをいざなう雲となって、奴らに眠りを! スリープ・クラウド!』」
ヒースの振りかざした杖に、魔力が集まっていく。それはやがて形をとり、白い雲となって相手を包み込んだ。
「は! ぷすん! とか言わない!」
「後で覚えとけよイリーナ」
雲が晴れると、その場には依然全員が立っていた。ただし、全員が武器を構えている。その姿は、鏡に映したようにいつもと逆の構えになっている。
「効いてないじゃない、ホラ吹き魔術師!」
「スリープクラウドは難しいって言ってるだろう! 遺失魔法なんだぞ! 煙を出すだけでたいしたもんなんだからな!」
「まだそんなこというんですね」
「さて、と。本気で敵対だな、どうする」
「俺、偽物でもクレア姉ちゃんを殴るの嫌にゅう」
パラサが力ない声をだす。
「しかし偽クレアが本物程度の力を持ってるとかなりやばいぞ。レジィナなんか最悪だ」
「レジィナの相手はわたしかイリーナがするしかないだろうな」
アーチボルトがレジィナから目を離さずに言う。
「本当に戦っていいんですか?」
ためらうイリーナにスイフリーは笑う。
「本物をかたる悪を成敗するのだ、ファリスの少女よ。遠慮なく行け。プリーストからつぶしていこう。回復が厄介だ」
「こっちの二人しかいない回復役のうちの一人がイリーナなんだが」
「知ってたかスイフリー、戦士の能力としては、こちらでは君が三番手に強いんだぞ」
ヒースとアーチボルトの言葉に、スイフリーは素っ頓狂な声をあげる。
「はぁ!? 冗談じゃないぞ! わたしは前には出ないからな!」
「期待してないにゅ。俺、エキューの足止めする。カンタマとかいる?」
「イリーナと俺様は必要だな、俺様とりあえずもう一回スリープ・クラウドいってみる」
「じゃ、俺はカンタマ」
「では私はとりあえずミュートを唱えよう。レジィナ以外……6人か。魔晶石使いつぶしだな……赤字が雪だるま式じゃないか。まったく……どこに請求してやろうか。あとはシェイドでつぶしていくか、ジャベリンか。ともかく遠くからやる。何ならクレアをつぶす役はわたしがしてもいい」
「はとこ……日ごろの恨み?」
「なにを言うかはとこの子よ。コレはわたしの愛だ」
「はとこの何だって?」
低い声で言うパラサに、スイフリーはクレアから目を離さずに言う。
「クレアの名をかたる馬鹿者に、鉄槌を食らわしてやるのだ」
「でもなんとなく、やっぱり日ごろの恨みっぽいわよね」
フィリスは笑うと敵を見据える。
「向こうにアーチーがいなくてよかったわ」
■戦闘って苦手です。
戦略はたてられないし、描写は苦手で上手くないし、遊んだら遊んだでサイコロ運ないし(笑)
というわけで、うだうだ戦闘開始です。
あまり期待せずにどうぞ。
そういえば、思いついたので、へっぽこさんたち(というか、イリーナとヒースの小話)を書いてみました。
とてもじゃないけど、アップできないレベルのつまんない話になりました。
中々難しいです。
ではまた来週。
目の前の神官に、ああ、可愛いなあ、と思う。
同時に、少しだけ、胸が痛い。
「でね、これがオランのお土産にゅ」
「ありがとうございます」
大広間のテーブルに向かい合わせに座って、グラスランナーはカバンから次々と土産を出しては、名代をやってくれている神官に手渡す。一つ一つに律儀に「ありがとうございます」と返事をするのが、彼女らしい。
この土産を渡すという行動は、何度も繰り返されるうちに半ば儀式めいて来ていて、グラスランナーは一つ一つに説明をつけては物を渡し、神官はそれにいちいち返事をする、というのが決まりごとになってきていた。
決まりごととはいえ、その間は彼女の視線も意識も、全てグラスランナーは独り占めにできるわけで、彼にとっては至福の一時とも言えた。
が。
今日の彼女は少々それも上の空。
いつもなら、その間だけでも独占できたその視線は、時折他所に向けられる。
その先に何があるのか、確認するまでもないから、見ない。
彼女が見る方向には、窓がある。
そこはとても日当たりがよくて、ソファが一式置かれている。
そのソファを物凄く気に入っている人物が居て、そこで現在その人物が転寝をしていることをグラスランナーは知っている。
彼女は、時折それを見るのだ。
少しだけ、柔らかい視線で。
彼女の、真っ直ぐな視線が好きだ。
強い意志が現れた、とても澄んだ茶色の瞳が好きだ。
きりっとした表情も、硬く結んだ桃色の形のいい口も、堅いものの考え方も、ちょっと融通の利かない性格も、そのくせ間違ったことはすぐに認められる潔さも、何もかもが好きだ。
それが、自分のものにならなくても、そんなことはどうでもいい。
幸せになってほしいと思う。
隠されていた優しさが、どんどん見えてくるようになった、その態度の軟化はとてもいいことだと思う。
けど、やっぱり。
他の男をみる視線が優しいのは、楽しいものではない。
いくつものみやげ物が机の上に積み上げられていく。
その様子はいつもどおり。彼女は少し苦笑しながらそれを受け取る。この儀式めいたやり取りを、彼女はそれほど嫌いではなかった。きっと、昔の自分だったらあまり好きにはなれなかっただろうとも思う。
昔の同僚が見たらどう思うのだろうか。
軟弱になったというのだろうか。
それとも、よかったと笑うのだろうか。
少し考え、それはあまり意味のない思考だと気付く。重要なのは過去に評価されることではない。
ともかく、この受け取り作業は嫌いではない。
これをすると、彼らが無事に帰って来たのだと実感できる。受け取るプレゼントは価格も大きさも重要性も様々で、時々貰うのも気が引けてしまうような高価な品から、何に使うのかよく分からないものまで様々ある。
多分、これはグラスランナーなりの心遣いなのだろう、と彼女は考える。
高価なものばかりだと、自分が受け取らないというのを彼はわかっていて、ガラクタを混ぜているのだろう。
もしかしたら、ガラクタも本命なのかもしれないが。
が。
現在、その楽しいはずの作業に彼女は困惑している。
右手の、そう遠くないところにエルフが居る。それ自体は別に珍しいことではない。
窓際の、陽だまりにあるソファは彼のお気に入りで、城に居るときの大半を彼はそこで過ごす。そしてその半分の時間は眠って過ごす。もう半分は読書だ。そのどちらか位しか、できることはないスペースでもあるが。
ただ、気付いてしまった現在となっては、それは彼女にとって少々困った事態でもある。
視界の端、ぎりぎりに彼が見える。
少し視線を動かせば、しっかりと見られる。
まじまじ見るのはどうかと思うが、時々しか逢えないから見ておきたい気分でもある。
が、あんまり見るのもきっと気を悪くするだろう。
そもそも、自分はあまりあのエルフに好かれていない。
かといって、彼が目を覚ませば、その視界に自分が入る。
それが何だかとても恥ずかしい気がして仕方がない。
目を覚ましたらこの部屋から出よう。
「姉ちゃん」
唐突にグラスランナーから声がかかり、彼女は慌ててそちらを見る。
「は、はい、何でしょう?」
声が裏返ったのが恥ずかしい。
一体自分はどうしてしまったのだろう。
そして、どうなってしまうのだろう。
「ちょっとお散歩行かない?」
にっこりとグラスランナーが笑う。
もそり、とエルフが視界の端で動いたのが見えた。
「はい! 行きましょう!」
逃げるように立ち上がる。
何だか自分がとても情けない。
「にゅ。じゃあ、行こう」
グラスランナーは椅子からひょい、と飛び降りると、すぐに彼女のほうへ回ってきた。そしてその小さな手を差し出す。
何の疑いもなく、その手を握る。暖かい。
グラスランナーがとても嬉しそうに笑う。
自分は、こういうことはできないだろう。
臆面なく手を差し出すことも。
そんな風に幸せそうに笑うことも。
もらい物であり、小さいといえども城は城。
城壁内はかなり広く、散歩をするには十分すぎる広さがある。
犬舎や厩舎はもちろんあるし、それらが運動するための庭もある。村の人に手伝ってもらってやっと手入れのできる庭園もあるし、城に住んでいる少女とともに作り始めた畑もある。果樹園もあるし、散歩中景色に飽きることもない。
手を引かれて歩きながら、その景色を楽しむ。
もちろん、名代として留守を預かる間にも散歩はしているし、その隅々までどこに何があるか知っている。もしかしたら、城主である彼らより、自分のほうがよっぽどどこに何があるかわかっているかもしれない。
色々と他愛のない話をしながらその庭を歩く。
グラスランナーの今回の旅の話がメインで、彼女はただその話を聞いて相槌を打つだけだ。グラスランナーの話はいつも派手で、多分その内容のいくつかは脚色されているのだろうが、それでもなんとなく、彼らならそういうたびをするかもしれないな、と思わせる。それが彼女にとっては面白い。
自分でも驚くほど丸くなった、と思う。
グラスランナーがある木の下で唐突に立ち止まった。
彼女にとって、その木は思い出のある木。
数ヶ月前、エルフと話をした場所。
思い出すだけで、なんてことを言ってしまったのかと恥ずかしいばかりの、あの。
「姉ちゃん」
「はい」
「もっと気楽にしてていいと思うにゅ」
「え?」
思わずグラスランナーを見る。彼は彼女を見上げて、目が合うとにっこりと笑った。
「オレねえ、姉ちゃんの事が大好きにゅ。だから姉ちゃんにはいつも笑ってて欲しいんにゅ。ついでにはとこの事も嫌いじゃないにゅ」
「……」
何を答えたらよいのか、わからずにグラスランナーをただ見つめる。
「あんまり見つめられると照れちゃうにゅ」
茶化すように言うと、彼はするすると木に登っていく。全く危なげない様子に、ただ感心してその様子を見守る。随分高いところまで行って、彼は漸く木登りをやめた。ずっと見ていたからこそ、場所は分かるが、もし急に木の下に連れてこられて、「さあ、どこにいるでしょう?」などと尋ねられたらきっと見つけられないだろうな、と思う。
「姉ちゃんは、はとこの事、好き?」
「……よくわかりません。好きなような気もしますし、そうでもないような気もします」
口を付いて出た言葉は、自分でも意外だった。
たどり着いたつもりで居たけれど、本当はたどり着いていなかったのだろうか。
それとも、自分は嘘をついているのだろうか。
「自分の気持ちが分からないなんて初めてで、自分でもどうしていいのか良く分からないです。何だかとてもあやふやな気分です。この気持ちは何なんでしょう。義務感なのか愛着なのか、執着なのか愛情なのか、殺意なのか好意なのか」
「空回りだねえー」
声が空から降ってくる。
顔が見えなくて良かった、お互いに。そう思う。
きっと表情が見えていたらこんな話はしない。
そうか、それで彼は木に登ったんだろう。
「ああ、でも、何だかちょっと、顔を合わせるのは恥ずかしいような気分です。平静でいられないというか」
暫く、声は降ってこなかった。
「はとこと、もっと喋ってみるといいと思うにゅ。顔を合わせるのがいややったら、背中合わせとかででも。割と面白いにゅ。からかうと」
「からかうんですか」
「あとね、いろんなこと知ってる」
「そうですね」
「喋ってみたら、結構いろんなことが簡単になるにゅ」
「そうですか」
「うん」
そういうと、グラスランナーはするすると木を降りて、彼女が手の届く範囲まで戻ってきた。
「オレね、姉ちゃんのこと好き」
「私も、パラサさんのことが好きですよ」
グラスランナーは驚いたように目を大きく見開いて、耳まで赤くなると、そのまま木からぼとりと落ちた。
「あ、だ、大丈夫ですか」
「びっくりしたにゅ」
あはは、と笑って。
「オレは姉ちゃんの味方やからね」
「?」
首を傾げてみせると、グラスランナーは勢いをつけて立ち上がる。
身軽な事だ。
「じゃ、戻るにゅ」
「そうですね」
■というわけで、ラブシックは水曜日に移動です。
んー、今回のは失敗したかなー(苦笑)
まあ、色々書くから、あたりの日も外れの日もあるわな。
外れないに越したことはないけど。ははは。
今後はラストに向けてどんどん輪を狭くしていく、予定です。
あくまで予定。きまぐれなのでどうなるか分かりません。
ドアの先にはまた細い通路が伸びていた。相変わらず赤黒い壁や床の色、這い回る管の様子は変わらない。通路は右手側にまっすぐ伸びていて、付近の壁には扉などはなかった。
「ずーっとまっすぐ、にゅ」
軽い足取りで歩きながらパラサは呟く。
「なんか、変な感じー」
「遺跡だとしても家だとしても妙なのは間違いないな」
スイフリーが背後から答える。少々尖った声であることから、多分イラついているのだろう、とパラサは判断した。からかうと面白いかもしれないが、今はそういう時ではないだろう。残念だ。
「それにしても、だ」
アーチボルトがため息交じりの声を出す。
「一体、これはいつまで続くのだろうな」
「出口があるといいですけど」
マウナの疲れた声。先が見えないことは随分心細い。
これが遺跡であれば、先が分からないのは普通であるから気にならない。しかしここは正体不明の屋敷、しかも自分たちは生贄であるかもしれないのだ。憂鬱にもなる。
「ドアはっけーん、にゅ」
先頭でパラサの声がした。見てみると、通路の行き止まりに近い左手側の壁に、ドアが一つだけあるのが見えた。相変わらず、赤黒くまがまがしい造りになっている。パラサはそういうデザインはあまり気にしないのか、すぐにドア近くにしゃがみこむ。しばらくいろいろドアを探り、最終的に「罠なし、かぎなし」という結論に達した事を伝えると、ドアを開けた。
中はだだっ広い。
今まで歩いてきた通路分、すべてが部屋の横幅になっているようだった。奥行きも結構ある。相変わらず床や天井が赤黒く、管が走っていることを別にすれば、開放感がなくもない。
「にゅ? 人がいる」
部屋には先客がいた。
いるのは7人。
背が低いがっしりしたのが2人、ほっそりした少年が2人、ずんぐりした男性1人、女性2人。
「姉ちゃん! グイズノーやレジィナ姉ちゃんもいるにゅ!」
走りよろうとしたパラサの首根っこをスイフリーが掴んだ。
「何するにゅ、はとこ」
スイフリーの目は、抗議の声をあげる近くのグラスランナーではなく、部屋の向こう側にいる仲間たちに向けられている。その瞳はあくまで鋭く、仲間を見るいつもの目とは違っていた。
何かをたくらんでいる時の目に似ている、とパラサは思う。
「良かった、みんな無事だったんだ」
「ノリスとバスしかいないのに……おやっさん胃に穴あいてないといいんだが」
イリーナやヒースがほっとした声を上げる。
「どう思う、アーチー」
スイフリーは向こうにいる仲間たちに目を向けたまま、近くにいるアーチボルトに声を掛けた。
「どう、とは?」
「あいつら、なぜここにいる? 屋敷は分断されてるんではないのか?」
「つながってたのかもしれませんよ?」
イリーナがスイフリーの声に首をかしげる。
「だとしたら、出口はないことになるぞ」
スイフリーはそこで声を張り上げる。
「どこからきた?」
問いかけに答えたのはグイズノーだった。
「どこって、それはあちら側からですよ」
グイズノーは左手を屋敷の向こう側に向ける。
「つながっているのか?」
「そうですよ、ふふ」
いつもどおりの、得体の知れない笑顔。
「だとしたら、出口はないのか?」
スイフリーの声は少しずつ低く、そして棘を持ち始める。
「そうですよ。もう出られないのですよ」
「そんな!」
グイズノーの返答にイリーナが思わず声を上げる。
スイフリーはそこで少し黙った。
そして視線を動かして、じっとレジィナとクレアを見る。
「何? スイフリー、何でじっと見てるの?」
レジィナが首を傾げて見せた。グレーとソードの柄が、右肩越しに見えた。
「どうしたのですか?」
クレアも不思議そうな顔をする。剣が右腰に下げられている。
「アーチー」
スイフリーの小声の呼びかけに、アーチーが視線だけスイフリーに向けた。
「右利きは、剣をどちら側に下げる?」
「そりゃ左だ」
「だよな」
「何の話?」
フィリスが会話に入る。
「レジィナもクレアも右利きだ。しかし、あそこにいる二人は剣を左利き用に下げている」
「にゅ? じゃあ?」
「アレは偽者、の可能性が高い。屋敷は一階も二階も、ほぼシンメトリーに造られていた。とすれば、あっちを歩いている本物たちも、わたしたちと同じように鏡の間を通った可能性がある。そこで姿を真似られたのかも知れん。あちらにも今頃、わたしたちの偽者があらわれているかも知れんな」
「姿を真似られたって、誰に?」
「そんなの知るか。記憶まで盗られているかどうかが分からないのが困りものだ。どうにかして本物か偽者か、確定できる事項はないものか」
「スイフリーはクレアの何か特別なこと知らないの?」
フィリスがにまりとした笑顔を向ける。
「特別?」
「服に隠れて見えないほくろの位置とか」
「……こういうときでも恋愛話ができる姉ちゃんは大物だと思うにゅ」
「エキューやノリスのことででも良いぞ、知らんのか?」
「そういわれても、俺様エキューやノリスの裸に興味の持ちようがないぞ」
「私も知りません……ヒース兄さんのなら知ってるんですけど」
「何? あんたたち、そういう仲なの?」
「子どものころ、着替えを見たとかそういう話です」
「つまんなーい」
「一体何をごちゃごちゃ話しているんですか?」
クレアが不思議そうな声を上げる。
「気にするな」
返事をして、全員目配せをする。
「さて、どうする?」
■とりあえず、1週間に複数回アップをしたらどういう感じか、確かめるために今週は「火曜日のラブシック、金曜日の泡ぽこ」の原則を変更してみました。
今週は月水金に泡ぽことラブシックをアップしてみます。
それでももう40回ですか。うだうだやってますな。
ところで、話はがらりと変わって。
友人たちには「私は話を送るから、クレアさんを描いてくれ」という約束とともに、この話を書いているはずなのですが、65回話を書いたのに(もう65話なのに、この話はまだ続いています。流石に終わりそうですが)1枚しかクレアさんはもらえていません。読み手が6人も居るのにね……。リクエストに答えてストーリーは寄り道してるのにね……。
そういう状況で、流石にクレアさん分(脳内萌えの原料)が足りなくなってきました。
友人達にはそれでも会うたびに、そしてメールを出すたびに「クレアさんを描け、目の色は茶色だ」と呪文のように言っているのですが、私はいつクレアさんを描いてもらえるのでしょう。
高月はひろくクレアさんを募集しています(笑)もう友人は頼れない。頼っても無駄だ(笑)
絵板にでも書いてやってください。
餌の一つもちらつかせなきゃ、動物は芸しませんって。
うう、クレアさん……。
最近落書きするとクレアさんばかり描いている高月より。
一方、屋敷の右側を行く一行も細い通路を歩いていく。赤黒い壁や床には、同じ色の管が這い回り、その表面はてらてらと濡れて光っている。
「不気味だよねー」
先頭を行くノリスはため息交じりに歩く。濡れた床に足を取られないよう、随分慎重な足取りだ。
「なんか、家っていうよりは遺跡に近くて、でも遺跡って言うより、生き物みたいだよね」
「生き物?」
ノリスの言葉に、レジィナが聞き返す。
「なんとなくね」
そんな会話が終わる頃には、右に折れる角が見えてくる。角の先はすぐにまた曲がり角になっていて、また右に折れているのが見えた。その角までの間、右手側に扉がある。扉もまた、壁や床と同じような色合いで、不気味なことこの上ない。
「あけてみる?」
エキューが振り返ってガルガドに尋ねる。
「そうだの。何がヒントになるか分からん、手がかりになりそうなものがあるかも知れんし、あけてみよう」
「じゃあ、罠とか見るね」
ノリスが扉の前にしゃがみこむ。
「うう、不気味だなあ」
呟きながら一通りチェックし、それから振り返る。
「罠はなさそう、鍵もかかってないと思う。……あける?」
「あけるという話でチェックしたんでしょう? あけてくださいね」
グイズノーが首をかたん、と傾けて見せた。
「触るの? やだなあ」
ノリスは口を尖らせたが、これも仕事と諦めたのかドアを開ける。
中は奥に長く、横幅のない細長い部屋で、がらんとしていて何もない。
「何にもなさそうだね」
「一応チェックしてみますかな」
バスとノリスだけが部屋に入って、ざっと中を確認する。
「何にもなさそう。隠し扉とかも」
「見落としはナイと思いますぞ」
二人の言葉に、ガルガドはいまいち信用置けなそうな顔をしたが、一つため息をつくと気を取り直したように頷いた。
「分かった、では先に進むとするかの」
見えていた角を右に曲がり、しばらく歩いていくと今度は左に曲がる角があった。一本道なので仕方なく道なりに曲がると、随分長い通路になった。相変わらず幅は狭いし、赤黒い壁の色は変わらないが、道が長い分、少しだけ開放感があった。
通路の左手側の壁には、手前と奥の二箇所にドアがある。チェックしてから二つとも中を確認する。両方大きな部屋になっていた。手前の部屋は何もないただ広いだけの空間であったが、奥側の部屋は、入って左手側が一面大きな鏡になっていて、向かい側の壁にドアがあるのがあるのが見える。
「あのドアが奥に続いてたらいいけど、続いてなかったら何か見落としたってことだよね」
レジィナが首をかしげる。
「そうでしょうね。しかし、わたくしたちはバスとノリスの証言を信じるしかないですよ」
「うん、まあ、そうだね」
話しながら、レジィナは壁一面の鏡を見る。
「大きいねー。お姉さんがこの前買ってた姿見も随分大きな鏡だったけど、そんなの比べ物にならない感じだね、見せてあげたかったかも」
「そうですね、フィリスなら持ち帰りたいとか言うかも知れませんね」
グイズノーが頷く。
「マウナだったら割ってでも持って帰ろうとするかもねー」
「そんな勿体無いこと、しないんじゃないかな?」
ノリスの感想に、エキューは首をかしげる。鏡は傷一つなく、継ぎ目もない。滑らかな表面に映る自分たちの姿は、どこまでもはっきりとしている。
「何か変わったところはないか?」
「無いと思いますが」
ガルガドは冷静にバスに尋ねてみる。バスは笑顔で首を傾げて見せた。その表情にガルガドは内心ため息をつく。どうしてこちら側には有能なシーフが居ないのだろう。いや、「こちら」どころの騒ぎではない。自分の冒険には、ずっと有能なシーフなど居ない。
「多少はマシになったのだがの……」
呟くと、鏡越しにクレアと眼が合った。彼女は不思議そうな顔で鏡を見ている。
「何か変わったことがあったかの?」
「いえ」
クレアは冷静な声で返答する。
「鏡で顔を見たことはありますけど、全身を見る機会はそうありませんから。……単純に、自分はこういう姿だったのか、と」
「そうか」
ガルガドにとって、人間は自分の好みとはずれる。その美醜の基準もよくわからない。しかし、どういう容貌が美しいとされるのかは分かる。その判断で言えば、彼女は美しいはずだ。その本人が、この様子ではさぞ周りのものは大変だっただろう、と推測するが口にはしない。
「この部屋も何もないね。先に進もう。通路があるだけ、どんどん行ってみよう」
「そうですね、それがいいでしょう」
エキューの言葉にグイズノーが頷く。
一行は再び進み始めた。
■バスがしゃべった!(笑)
さて、とりあえず今週は予定通り金曜日の泡ぽこ、ということにしてみました。
来週からはちょっと複数回アップにして、様子を見てみようかなと思ってます。
曜日などはまだ未定です。ラブシックがいつまでにかけるかにかかってます(笑)
昨日は発作的にARRをアップしてみました。まだまだ練習作ですけど。
業務連絡も含め、今週は毎日なにかしらアップしてました。びっくり。そういうこともあるよね。
「うえぇえ!? 何で? 何でですか? いえ、言わないでください。考えます、考えますから。でももう一回してもらってもいいですか?」
必要なものを買いに外へ出て、部屋をとった宿に戻ったトランを出迎えたのは、そんな素っ頓狂な言葉だった。
見れば、窓際の席にノエルがエイプリルと向かい合って座っている。
テーブルの上には、扇形に広げられたトランプが一組。一枚を除いて、全てが裏返っている。表向きになっているカードはハートの4だ。
「かまわんが……次でもう五度目だ。いい加減種もわかっただろう」
エイプリルはため息混じりに言う。あまりの暇さにノエルで遊ぼうとして、逆に疲れる目にあった、というところだろうとトランは推測する。
「あ! トランさんお帰りなさい。エイプリルさんがすごいんですよう! 私の選んだカードを、ことごとく当てるんです!」
トランが帰ってきていて、更に自分たちの行動を見守っていることに気付き、ノエルは興奮した口調でまくし立てる。頬は高潮し、軽く握った両の拳を胸の前でぶんぶんと上下させている。
「へえ、それはすごいですね」
どのトリックのマジックだろうか。そんなことを考える。ここまで興奮して驚いてもらえたら、マジシャンとしては至福の一時を過ごせるのだろうが、残念ながらエイプリルはマジシャンではないから、もう既に同じことを何度もやらされて辟易している様子だった。
「どうやったら当てられるんですかねえ? もう、全然わからないんですよ!」
「単純なトリックなんだが」
呆れたようにエイプリルは言う。
「あ、言っちゃダメです、言っちゃダメですからね。絶対当てて見せます」
むう、などといいながらノエルは両手の人差し指をこめかみに当てて見せた。考えている、というジェスチャーかもしれないが、あまり芳しくはなさそうだ。
「後学のために、わたしにも一度見せてもらえますか?」
「……」
本気か、というような目でエイプリルはトランを見上げる。トランは軽く頷いて、それからノエルの隣の席に座った。
エイプリルは小さくため息をついてから、テーブルの上のトランプを掬い上げるようにもつと、鮮やかな手つきでシャッフルし始める。
(大体、シーフ相手にカードをしてるって時点でかなり不利なんですよね)
エイプリルの行動は、いつだって軽やかで素早い。そういう能力を全般的に欠いているトランに言わせれば、もはや作りが違う、としか言いようがない。
まあ、実際自分の体は作り物なのだが。
ある程度カードをシャッフルした後、エイプリルは手の中でカードを素早く扇形にすると、ノエルに突き出した。
「選べ」
カードは机に平行に出されていて、もちろん裏向きになっている。ノエルがカードを引いた時点では、誰もそのカードの数もスートも分からない。
「ひきますよ~」
緊張感のない声とともに、ノエルはカードを一枚引き抜いた。
「覚えろ」
マジシャンとしては愛想のない台詞に押されて、ノエルはカードを確認している。
「トランさん、スペードです、スペードの4ですよ」
小声でノエルが告げる。
彼女は引き抜いたカードに熱中している。
「覚えたら好きなところへ戻せ」
エイプリルは、山になったままのカードをつかんだまま、ノエルに突き出した。
「今度こそ種を言い当てますよー」
言いながら、カードを山に返す。
「では、ノエルの選んだカードは表向きに出る」
言うと、素早くカードをテーブルの上に扇形に広げた。それはちょうど、帰って来た直後と同じように、一枚だけ、スペードの4だけが見えるようになって、あとは裏返って広げられた。
「えええええ!? 何でですか? おかしいな、ちゃんと見てたはずなのに」
ノエルはテーブルの上のカードを見てしきりに不思議がる。全然見てなかった、と突っ込みたい気分をぐっとこらえて、トランはエイプリルを見る。
「マジシャンとしては光栄でしょう、ここまで驚いてもらえるなんて」
「こんな単純な手に何度も引っかかるのかと思うと先が思いやられる」
苦笑するトランに、エイプリルが苦い顔をする。
「え? トランさんは種が分かったんですか!?」
「わかりましたよ」
「えええええ!? おかしいです、おかしいですよ? 一緒に見てましたよ? あ、最初から種をご存知だったんですか?」
「いえ、初めて見ます」
「おかしいです、何でだろう」
そこへ別の用件で外に出ていたクリスが戻ってきた。
「何やってるんだ?」
「手品でノエルをからかっているところだ」
「え? 私からかわれているんですか?」
クリスの質問に答えたエイプリルに、ノエルが軽くショックを受けた顔をする。しかしすぐに立ち直ると、クリスを見上げた。
「クリスさんも一緒に見せてもらってください。すごく不思議なんですよ! エイプリルさん、おねがいします!」
「……俺がまたやるのか」
疲れたような声と舌打ちの後、それでもエイプリルは再び同じマジックを披露する。
「また当てられました」
「なぜ分からないんだ……」
暗い声のノエル、頭を抱えるエイプリル、それを見て苦笑するトラン。
「クリスさんは分かりましたか!?」
「残念ながら、これの種は知ってます」
クリスの返答に、ノエルは渋い顔をして見せた。その表情を完全に無視するようにエイプリルが立ち上がる。
「全員そろったんなら、飯にしよう」
「そうですね、おなかすきましたね」
「じゃあ、荷物だけ部屋に置いてくる」
次々立ち上がる仲間たちに、ノエルが悲鳴めいた声をあげる。
「ええええ!? 私一人わからないままですか!?」
「あとで種を教えましょうか?」
「それじゃ意味ないですよトランさん!?」
「何度も見たんでしょう? でしたら、食事をしながら種を考えてもいいんじゃないですか?」
「なるほどぉ、そうですね。わかりました、そうします」
数時間後。
「なあ、ノエル。種を教えてやるからそろそろ寝かせてくれ。むしろ寝てくれ」
「もう一回! 最後の一回で! エイプリルさん!」
■と、言うわけで、アリアンロッド・リプレイ・ルージュの方々に初挑戦してみました。
前の?
あー、アレは練習です。
カテゴリも違うんですよ(苦笑)
とはいえ、これも練習作に近いですね。
リプレイ自体を貸したままなので、いまいち……。たとえば、クリスの一人称が思い出せず、彼は意図的に一人称をしゃべってないです(苦笑)
それから、ノエルはもうちょっとだけしっかりしてるよね、とか。
まだまだですねー。
精進します。
広い心で見なかったことにしていただければ。
ちなみに、エイプリルがやった手品は、本当に単純な種の手品です。
本当にあるネタではありますが。(やったことはございませんが)