[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「これって、向こう側には誰も立ち入れない空間があるってこと?」
エキューが壁をコンコンと叩きながら尋ねる。
「そうでしょうね。台所は屋敷の北側中央にありましたし、入り口はこちら側だけでした。つまり、台所西側は新しくできた壁と、元の壁で入り口のない空間になっているでしょう」
グイズノーが頷くのをみて、エキューはノリスを見た。
「なんとかその西側にいけないかな?誰も立ち入れないんだったら、何かありそうな気がしない?」
「んー。じゃあ、調べてみる」
バスと共に西側へ行く方法がないか探り出したノリスをみて、ガルガドは少しため息をつく。あのヘボシーフで何とかなるだろうか。
「心配ですか?」
いつの間にかクレアが隣に立っていて、ノリスへ視線を向けた状態で尋ねる。
「あれが、ではなく、今後を考えると少々心配かの」
「そうですか。……貴方はノリスさんを心配しているように見えたのですけど」
「まあ、それも心配ではある」
「確かに無邪気で多少心配な部分はありますけど、有能に見えますよ」
「ここまで成長するまでどれだけワシが苦労をしたか……しかもそれもまだ続きそうでの……」
「マイリー神官は自分の仕える勇者を探すか、もしくはその存在に自分がなるか、ですよね? 貴方の場合、彼ですか?」
「お前さん、ワシの胃に穴をあけるつもりか」
ガルガドが苦笑する。
「でも、神の試練はいつでも厳しく、それでいて暖かで明確な導きがあるでしょう?」
「お前さんにもあったのか?」
「未だに修行中です。理解したと思ったらすり抜けていく、そんな感じです」
ガルガドはクレアを見上げる。彼女は壁をじっと見ているだけだ。
「こんなに困った状況なのに、何もできないのは歯がゆいですね」
「駄目ー。全然駄目ー」
ノリスとバスは、ココからでは西側に行けないと結論付けたようだった。
「床に穴あけちゃいましょうか。こういうところでしたら、修理代の請求もないでしょうし」
「ソレは最終手段だね」
グイズノーの提案に、エキューは肩をすくめて見せた。
「向こうに行くため、だよね?」
ノリスが壁を指す。
「もしくは外に脱出だけでも。向こう側に外から入れるって可能性もあるし」
「この壁自体をどうにかする方法はなさそうだけど、例えば屋根裏とか地下室とか、そういう方向からの侵入かな? 脱出も」
「地下って、隠し階段とか? 今まであった?」
「あったらいくらなんでも言うよ」
ノリスがかたん、と首を横にかしげる。
「台所と大広間にはなかったよ」
「あるとしたら?」
「廊下か、エントランスかな?」
「だったらさっさと調べんかー!!!」
ガルガドの怒鳴り声。
「向こうはパラサがいるし、大丈夫だね。とっくの昔に外に出てるかも」
その様子を見ていたレジィナが大きくため息をつきながら呟いた。
■最近は火曜日のラブシック、金曜日の泡ぽこだったんですけどね。
うはははは、そんな枠組み知ったことかー!(実際そんなの気にしてたの自分だけだろうしね)
というわけで、今日はラブシックも泡ぽこもアップしてみました。
なんとなく。
深い理由はありません。
そうそう。
クレアさんはいつでも受付中(笑)スイフリーつきはなおよろし。
いまだ届かず。
大木の傍の草の上に転がって、目を閉じる。
木漏れ日をまぶたの裏で感じる。
木々が風に葉を躍らせ、草がふわりと自分を包んでいく感覚。
その時間が好きだった。
自分は森の一部なのだ、と再認識する。
人の街は嫌いではない。まだまだ自分の見知らぬものがあると思うとそれだけで楽しい気分になる。
が、やはり、根本のところで自分は人の街に相容れないのだ、とこういうときに感じる。
仲間たちは何を言うかわかったものではないから、こういうことを言ったことはないし、多分これからも言うことはないだろう。自分の評価が、エルフとしては地を這っていることくらい、聞かなくても知っている。別に気にしないが、気分のいい事でもない。
暫く意識を森に同化させ、ただ精霊たちがささやきを交わしているのを感じ取る。
内容より、その行為が重要だから、別に会話に入ったりはしない。
ふわふわとした、なんとなく心地のいい時間。
半分眠っているのかもしれない。
と。
一直線に向かってくる足音がする。自分の命を狙っている相手なら、こんな足音を立てたりしない。こんな一直線に、堂々と、何の迷いもなく歩くわけがない。
この足音を知っている。だから別に警戒しない。
足音はすぐ傍で止まる。
ふわり、風が吹く。
エルフは片目だけ薄く開けて相手を確認する。予想通り、金色の髪をした神官が隣に座ってこちらを見ていた。
青味のかかった、深いグレーの瞳が一瞬だけ神官を見て閉じられる。
気にされていないのだ、と思う。
胸の奥が一瞬だけ冷たくなった気がした。
神官は暫らく、横になって目を瞑ったまま動きもしないエルフを観察する。
鋭い目も、閉じてしまえば威圧感を感じない。銀色の少し長めの髪が、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いている。同じ色のまつげが、意外に長いことを知る。尖った顎のライン。白く抜けた肌。力を入れれば折ることができるのではないかと思えるほど華奢な体。
こうしてみてみれば、エルフが人外の美しさを持っているのを再認識できる。
ただ、普段はその鋭い目つきであるとか、邪悪な言葉も平気に口にするようなことがあいまって、感じられないだけだろう。
「何か用か?」
エルフが目を閉じたまま尋ねる。
「いえ、特には」
「さよか」
「私は、あなたのことが、好きなんだそうですよ」
「……は?」
神官の突然の言葉に、エルフは流石に目を開ける。
「私は、あなたのことが、好きなんだそうです」
「……」
呆けたような顔でまじまじとエルフは神官を見た。
「えっと、ちょっと待ってくれ、何が何だって?」
言いながらエルフは起き上がる。地面に胡坐をかいて、神官をまじまじと見た。その髪に草の欠片がついたままになっているが、気にならないようだ。
「私が、あなたのことを、好きなのだそうだ、と」
「何度も言われんでも、言葉としての意味は重々分かっているのだが」
エルフは左手で眉間の辺りを押さえ、右手を神官に見せる。待て、という意味だろうと神官は解して、暫らくエルフの言葉を待った。
「内容を理解しがたいというか……」
エルフは本当に混乱しているのだろう、と神官は思う。ずっと左手で眉間を押さえたままだ。いつもならすぐに言葉を吐き出す口から、まだ明確な言葉は出てこない。
「まず最初に聞いていいか? 何故伝聞形なのだ?」
「フィリスさんにそう言われました」
エルフはまじまじと神官を見た後、大きなため息をつく。
「無批判に受け入れるな、ちょっとは自分で考えてから口にしろ。あれは恋愛至上主義者で些細なことでも全て恋愛関係に話を持っていくんだぞ、ほとんど捏造と言ってもいい。他人が全員、真実だけを語ると思うな。あんたの人生これまでそうだったかもしれないが、基本的に他人は嘘をつく」
「人を疑うのはよくありません」
「あんたがそう言うのはよくわかっているし、美談としてとてもいい話だと思うが、とりあえず、知識として感情と切り離して覚えておけ」
エルフの言葉に、神官はすこし不服そうに眉を寄せる。
「では、私はあなたのことが、好きではないのでしょうか?」
「そんなの知るか。そういうのは自問自答して答えを出すものだ」
そこで神官は黙って、暫らくエルフの顔をまじまじと見つめる。
エルフは居心地が悪いのか、少しだけ後ずさった。
どうもこの意思の強い、曲がったことを許さない視線が、苦手だ。
「当事者に聞けば分かるかと思ったのですが」
「わたしは当事者ではない」
「相手として名が挙がっているのに?」
「それはクレアとフィリスの中でだけだろう? わたしは直接関係ないのだ、この場合」
言いながら、本当は仲間の神官やグラスランナーまでもが自分たちをくっつけようとしている、という事実は忘れることにする。
この辺を説明するとなると、余計にややこしい。
「そうなのですか」
「そうだ」
返事をすると、エルフは黙る。
神官も同じように黙った。
時折吹き抜けていく風に、神官は目を細めて髪を押さえたりするが、基本的に二人は動くこともせず、話す事もせず、ただ座ったままだった。
「ええと」
神官が口を開く。
正直、話はもう終わったものだと思い込んでいたエルフは内心驚きながら、視線だけを神官に向けた。
「私はどうしたらいいのでしょう」
「わたしに聞くなよ」
エルフは視線を神官からはずすと、ため息をついた。
「あなたは、先ほど自問自答して答えを出せといいました」
「言ったな」
「考えてみることにします」
「考えることについて、わたしが止める権利はない」
「結論が出たら、お伝えすべきですか?」
「そういうところも含めて自問自答すればいい。その上で言いたかったら言えばいいし、言う必要がないと思えば言わなければいい。そういうものだろう」
「そうですね」
神官は少し笑う。
「ただ」
エルフは神官を見ないままで言葉を続ける。
「クレアの結論がどういうところに落ち着くにせよ、わたしは多分首を縦に振らないと思う。エルフと人が幸せになれるわけがない」
「そんなの、やってみないとわかりませんよ」
神官の答えに、ああ、本当は自覚が無いだけでそれなりに答えは出ているのではないか、とエルフは気付くが、口にはしない。
そういうのは、放っておいてもそれこそ魔術師あたりが指摘するだろうし、そのうち本人もたどり着くだろう。
わざわざ、伝えるまでも無い。
「分かるさ」
「なぜですか?」
「時間が違う」
神官はエルフの答えに、眉を寄せた。
意味を考えているようにも見えるし、単に怒っているようにも見える。
「では、それも考慮に入れて考えてみます」
「せいぜい頑張ってくれ」
エルフは話は終わり、と言わんばかりに木にもたれるように横になると、再び目を閉じた。
しばらくたっても足音は聞こえなかったが、エルフは目を開けたりしない。何かいらないものを見そうだ、と思う。
と、突然暖かいものが手の甲に触れた。
「?」
目を細く開けると、隣に座ったままの神官が、エルフの手に触れている。
「何だ?」
「触ったら折れそうだな、と」
「折るなよ」
「折りません」
神官はむっとした顔で答えると、勢いをつけて立ち上がる。
「結論は必ず出します」
「わかった」
足早にエルフのもとから立ち去って、もうすっかり見えなくなったところで神官は足を止める。エルフに触れた右手をまじまじと見つめ、ゆっくりとその場に座り込む。
触ったら折れそうだと思ったのは事実。
が、それ以上に、単に触れてみたかった。
綺麗だ、と思ったから。
触れてみたい、と思ったから。
エルフの手はとても冷たかった。
それがとても印象的で、
何だか無性に悲しかった。
■スイフリーを美形として書いて、なんだかとてつもなく違和感を感じていたなんて公然の秘密だ。
エルフの手が冷たいという表記ですけどね。
確か2chのなりきり板で、ルーイさんの「リーダーは体温低そう」という発言と、それに対するグレゴリーさんの「エルフは長命ってことは、代謝が低いってことだから、体温低いのはありかもしれないねー」という返答がもとになってます。
なんか妙に納得したから。
さてこの話は何処へむかっているのでしょう。
口ではそう言いながら、グイズノーの表情は相変わらず真意の分からない笑顔のままだ。
「ともかく手がかりを探すのが先決だろう。……盗賊があれだが」
ガルガドが隣でため息をつく。向こう側と分断されてどのくらいの時間がたったのか分からないが、多分時間が立てばたつほど危険度は増している。
「では、もう一度屋敷の中を見て回りましょう。何か新しい発見があるかもしれません」
グイズノーが頷く。
「えっと、じゃあ、確認しておこうよ。グイズノーさんがラーダ神官で、賢者だっけ」
エキューの問いかけにグイズノーは頷いた。
「クレアさんがファリスの神官戦士で、レジィナさんが……戦士だよね?」
「この状況でバードだとは言わないよ」
レジィナは苦笑しながら頷く。
「僕がシャーマンと戦士で、ノリスがシャーマンと盗賊。ガルガドがマイリーの神官戦士で、バスが盗賊とバード」
「偏ってるねー。何か神様の博覧会みたい」
ノリスのことばに、ガルガドが盛大なため息をつく。
「魔術師が居ないのがつらいところですね。同様に向こうも今頃スイフリーあたりが神官が居ないとか言ってそうですけど」
「イリーナが居るじゃないですか」
グイズノーの言葉にクレアはきょとん、とした顔で首をかしげる。
「戦略上、高僧じゃないのできっと忘れてます」
一階から順に、屋敷の中を見て回る。
屋敷の大半を使って作られた大広間が、こちら側のメインの部屋になる。後、こちら右半分からいける部屋と言えば、台所くらいのものだ。反対側には主の部屋らしいものや遊興室があった。手がかりが見つけやすいのは多分反対側だろう、とグイズノーは考える。
合流する方法さえ発見すれば、パラサも居ることだ、すぐにこちらへ向かうはず。つまり、向こうもまだほとんど手がかりを得ていない、ということだろう。もっとも、アーチボルトやスイフリーがむやみやたらに事態を複雑化させている可能性もないではないが。
大広間は綺麗に整えられた、つまり最初に屋敷に来た状態のまま、何の変化もなかった。
「ノリス」
部屋の壁など叩きながら、空洞などないか調べていたノリスに、グイズノーは声をかける。
「なにー?」
「最初に地震があったのですよね?」
「うん、そうだよ?」
グイズノーは答えを聞いて部屋を眺める。
「わたくしの部屋もそうでしたが、なぜ地震があったのに、何も乱れてはいないのでしょう。もっとも、わたくしはその地震にさえ気付かなかったのですが。地震は激しかったですか?」
「それなりに凄かったよ?」
「でしたら、燭台くらい倒れていそうなものですが」
グイズノーはテーブルの上に置かれた銀の燭台を手に取る。重量はあるが、揺れれば倒れるだろう。
「ブラウニーが居て次々掃除してまわってるとか?」
レジィナに対し、エキューが首を横に振る。
「ソレはないよ。ブラウニーを感じられないから」
「そっかー。変なの」
レジィナは首をかしげると、曖昧に笑った。
「で? 空洞とか隠し部屋はないのか?」
ガルガドの声に、ノリスとバスが首を横に振る。
「ないと思うよ。窓があった場所とかも音が違わないし」
「そうか」
ガルガドは大きく息を吐いた。
「では、別の部屋を探すとするかの。台所か」
■ところでまたバスが喋ってないのだが、もう気のせいと言うことにしよう。
むしろしゃべらないからバス、ということにしよう。
あと、クレアさんのイラストは随時受け付けております。ギブミークレアさん。スイフリー附属ならなおよろし(附属!?)
この話は友人にクレアさんを描いてもらうために書いているはずなのですが、友人からいっこうにクレアさんがプレゼントされてきません。
廊下に出てすこし行ったところで、仲間の神官が呆れた顔をしているのに出くわす。
「分かってるわよ、そんなの。……立ち聞きなんて趣味悪いわよ」
「聞こえただけです」
神官は済ました顔で答えると彼女に肩をすくめて見せた。
「ただ、あの子の場合、相手に任せておいても、ぜーったいに前に進まないから」
「そういうのが余計だというのですよ」
彼女の返答に、神官は再び呆れたように言うとこれ見よがしにためいきをつく。
「押していけばどうにかなるというのが幻想だということくらい、貴女自分のことでわかってるでしょう?」
「うるさいわよ」
キツイ眼差しで彼女は神官を睨む。音がつくとしたら「ギッ」というような視線に、神官はすこし後ずさった。
「ちょっと話を聞いただけじゃない」
「そしてクレアさんをたきつけて、スイフリーに迫らせる、と。スイフリーはアーチーと性質が似てますから、押してもだめだと思いますけど」
神官は冷めた目で彼女を見た。
「あんたそんなに冷静に観察できるなら、自分のことも観察すれば? ラーダのあの子も振り向いてくれるかもよ?」
「うるさいですよ」
彼女の思わぬ反撃に、神官は引きつった顔で答える。
「ともかく、私はクレアとお喋りしただけよ」
彼女はにっこりと笑いかける。その笑顔が、おもちゃを前にした子どものそれとよく似てる、などとは神官は言わない。言ったりしない。怖い。
「クレアさん、許容範囲を超えてたみたいですけど?」
「邪魔はしてないわよ。多分」
「多分、ね」
ははは、と神官は乾いた笑い声を上げる。
彼女はいつだってこういうことに関してちょっと出力が大きめだ。そのせいで、本人が思うような結果が出てないのだが、まあ、黙っておく。
「押し切らせるつもりなら本人、受け入れ態勢を整えてあげるつもりなら彼をつつくといいですよ」
「なによ、なんだかんだ言って口を出すつもり満々なんじゃない」
彼女が呆れた声をあげると、神官は真意のうかがい知れない笑みを浮かべ答える。
「おもしろそうですし……人が幸せになるのは良いことですよ。……あんまりやり過ぎないようにしてくださいね」
「グイズノーはどう思う?」
「何がですか?」
「スイフリーとクレア」
「理屈が先行して実際が伴わない思春期真っ只中のガキと、純真を通り越して鈍感にも程がある女性の、かみ合わないことこの上ない、見てる分には喜劇的な二人組み」
さらりと酷評してみせる神官に、彼女は呆れきった目を向ける。
「二人とも、純粋培養ですからね。かみ合わないのは当然なのかもしれませんが」
言いつくろうつもりなのか、それとも説明するつもりなのか、ともかくよく分からない言葉を神官は付け加えた。
「純粋培養?」
あのエルフのどこに純粋なところがあっただろうか、と彼女はすこし考える。
「スイフリーはあれで根っこはかなり純粋にエルフですよ? 見える範囲はほとんど人間というかダークエルフというか、ともかくエルフっぽくはないですけど。自分の種族がどういう位置づけなのか、ちゃんと分かってるというか……。無茶とかしたがらないでしょ? エルフとしては型破りかもしれませんけどね、我々と比べるとやっぱり保守的ですよ」
「まあ、言われればそうかもしれないけど」
そういえば、グラスランナーもエルフを似たように評価していたな、と彼女は思う。
「クレアさんはいつから神殿に住み込んでいるのかは知りませんけど、かなりまっとうなファリス神官です。良いと悪いの二極しかなくて、どちらでもない、というような考えをしないですし。特に彼らファリス神官は教義を守るのが第一で、他人の心に鈍感になりやすいんです」
「アンタも似たようなもんだとおもうけど」
「わたくしも真理を得るために様々なことに没頭してますからね、順序がおかしくなることもあるでしょう」
「褒めたつもりはないわよ」
胸を張る神官に冷たく言い放ち、彼女はため息をつく。
「あの子が多少他人の気持ちに鈍感なのは認めるわ。最初に会ったときなんて、特にそうだったし」
「だいぶ丸くなりましたよね」
「でも自分の気持ちにまで鈍感なのってどうなの?」
「それが個性ってもんじゃないですかね。自分の気持ちに正直すぎる人だとか、自分の気持ちを捻じ曲げて理解してる人だとか、自分の気持ちに鈍感である人だとか、自分の気持ちを理性で押さえつけてる人だとか、色々ですよ。だからこそ、わたくしは見ていておもしろいのですけど」
ふふふ、と笑って見せる神官に、彼女は誰のことを言っているのか尋ねるのはやめておくことにする。
「あなたとアーチーのことは時間が解決するかもしれないですけどね、スイフリーとクレアさんに必要なのは時間じゃないですよ」
「自覚? 信頼? 相互理解?」
「そういうのも、勿論必要ですけどね。その辺は前提条件では?」
「じゃあ、何?」
「覚悟」
神官の答えに、彼女は眉を寄せる。
「それこそ前提条件じゃない」
「ええ、そうですよ。その上で、彼らには究極の命題ですよ」
そこで神官は、久しぶりに神官らしい顔をする。
「十年もすれば、嫌でも時間が種族の違いを突きつけてきます。変わってしまう相手に、変わらない相手に、代わってしまう自分に、変わらない自分に、最後まで耐えられるか」
神官はそこで彼女を見た。
「互いに未知の領域ですからね、保障なんてないんです。スイフリーが、不確定なことを嫌いなのはご存知でしょう?」
彼女は頷く。
「ですから、無責任なことはしてはいけないんです」
「……うん」
彼女は少しうなだれる。
もしかしたら、あの子に悪いことをしたかもしれない。
「ただ」
そこで神官はにやりと笑う。
「あれでスイフリーは情に弱いところがありますし、やるとなったら徹底的ですからね、いざ心を決めてしまえば相手を大事にするタイプだと思いますよ。我々は本人たちに気付かれないところでそーっと見守っていればいいんですよ」
■グイズノーは、時と場合によって、本当に邪悪だったり、すごい聖人だったりしてなかなかにして面白いひとですよね。
今回は聖人バージョンで(笑)
多少時間は戻って中央に壁がそそり立った後の右側一行も、途方にくれていた。
「何、この壁。いつできたの?」
レジィナは灰色の石壁をつつきながら首をかしげる。
「わかんないんだよねー。アーチーと見張りをしてて、地震があって、手分けして奥を見て帰ってきたら、あったんだもん」
「クソガキにしてはまあまあ順序だてて説明できたほうかの……」
「マウナさーん! マウナさーん! 無事ですかー!」
エキューは壁に向かって叫んでみたが、返事は無かった。
「一体何事でしょうかな。新しいサーガができそうな事件でしょうか」
「できたとしてもホラーだったりして」
グイズノーが困ったような声を出す。
「しかし、どうしましょうか。ウチの二大権謀謀略な方々は壁の向こうです。わたくし知識をためるのは好きなんですけど、色々考えて策を練るのは好みじゃないんですよね。それにソーサラーが二人ともあちらに行ってしまったのも痛手です」
「イリーナさんは無事でしょうか」
クレアも壁を見つめてため息をつく。
「イリーナは丈夫だからよっぽどのことがなきゃ大丈夫だよ」
「そうですか。それなら良いのですけれど」
「仲間の心配はしないの?」
「……大丈夫でしょう。彼等が危機に陥る姿が想像できません。特にスイフリーさんとか」
「この場合、信頼なのかどうかちょっと微妙な感じだよね」
「実はそのスイフリーが一番ささやかな生命力なわけですが」
ノリスとレジィナ、グイズノーの会話を聞いているのか居ないのか、クレアはガルガドに向き直る。
「どうしましょうか」
「各自の部屋には異常がなかったからの、何かあるとしても1階だろう」
そこまで言うと、ガルガドはため息混じりにノリスを見る。
「ただ、盗賊がクソガキしかおらん……。せめて……いや、言うまい……」
とうのノリスは新しくできた壁を暫くぺしぺしと叩いていたが、やがて「あ、ノームつれてるんだった」と、思い至って振り返る。
「トンネルで向こうに行こうか。何があったかわからないけど、合流したほうがいいよね?」
「そっか、ノーム! 僕サラマンダーしかつれてなかったからすっかり忘れてた!」
精霊使いたちがもりあがり、やがてトンネルが唱えられた。
「で?」
「なんかノームさんご機嫌斜め」
全く変化の無い壁の前で、ガルガドが冷たい瞳をノリスに向ける。ノリスも不思議そうな顔で壁を見つめつつ答えた。
「ちゃんと唱えたんだけどなあ……。何か上手く働かないっていうか……」
「屋敷に入ったときにスイフリーが『気分が悪い』といっていましたよね。あれが関係あるんでしょうかね」
グイズノーは暫くコンコンと軽く壁を叩き、首をかしげる。見た感じは普通の壁なのだが、何か自分が知らない物質なのだろうか。
「あ、前に魔法テロリストが持ってた精霊を封じ込める石つきの指輪があったじゃない? あんな感じの石なのかも」
レジィナも壁を隣で叩きつつグイズノーに言う。グイズノーは首を横に振った。
「あれとは違う気がします。材質が違いますし。……参りましたね」
「ともかく、下に行ってみよう。もしかしたら分かれてない場所があるかもしれないし。1階の窓からなら外にも出られるだろうから、外回りで合流してもいいよ。……マウナさんが心配だよ」
エキューの提案が受け入れられ、一行は1階に降りる。階段は相変わらず灰色の石壁で半分に分断されていて、不気味な雰囲気である。1階のエントランスも丁度半分にされており、ご丁寧にも壁は入り口の扉までもをふさいでいた。
「先回りされてる感じだよね」
ノリスが流石に肩をすくめる。鍵穴がなければ、盗賊としての腕前を見せることもできない。
「えっと、こっち側には何があるんだっけ? 大広間と台所の入り口?」
レジィナがあたりを見ながら尋ねる。
「確かそうでした」
クレアが頷く。他にめぼしいものなど何も無かったように思う。左側なら、書斎などもあったが、屋敷は全体的にがらんとしていて何も手がかりになりそうなものは無かったように思う。
「留守番電画も何も言わなかったよね」
確認のために全員で絵に近づく。女性の絵が描かれているだけの絵画は、見たところ変化はない。
「向こうなんだから、メッセージの残しようが無いよ」
レジィナが言うと、その声に反応したかのように絵が口を開く。
生贄を認証しました。
屋敷をロックいたします。
解除方法は所定の方法で。
「コレはなんというか……ホラー確定ですか?」
「そして誰も居なくなったー」
グイズノーとノリスがほとんど同時に口を開く。
「居なくなってたまるかい」
ガルガドはノリスの後頭部をべちん、と叩きため息をつく。エキューは壁をバンバンたたきながらマウナの名前を呼び続けた。
「生贄……邪悪です」
「邪悪以前に、自分たちがその生贄って分かってます?」
呟くクレアにグイズノーはため息をつき、それから肩をすくめて見せた。
「わたくし、まだまだノーマルライフをエンジョイしたいので、どうにかしてこの屋敷から脱出いたしましょう。左側の皆さんは自分たちが生贄であるとは知らないでしょうが、あちらはあちらで脱出する気持ちにはなってるでしょうから、我々は我々の無事を祈りましょう」
「みんなの無事を祈るんだよ」
レジィナが言うと、拳を握り締めた。
■本放送のほうでは現在種明かし中です。
現在49話。
……いつおわるんでしょうね。
長いほうがいいのかなあ? すぱっと終わったほうがいいのかな?