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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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泡ぽこ 5

結局、例の冒険者の金髪女性が接触してきたのは、彼らの食事がきちんと終わり、さらにイリーナの食事も終わってからだった。その頃は客も少なくなってきており、マウナも同席することが出来た。
「イリーナ・フォウリーですか?」
女性はイリーナをまっすぐ見つめて尋ねる。イリーナはうなずいた。
近くで見ると背がすらりと高く、女性らしいラインの体をした、なかなかの美人である。金髪だが、キレイな弧を描く眉は黒い。脱色をしてるのか、とヒースは思う。茶色の目はどこまでもまっすぐで、真面目そうな顔つきがいかにもファリス神官らしい。見慣れたファリス神官であるイリーナとは、雰囲気が似てるともいえるし、全然似てないともいえた。
(コレで金持ちだったら、わりとストライク)
などと思っている間に、金髪美人の自己紹介が始まる。
「私はクレア・バーンロードと申します。貴女と同じファリス神官をアノスでしております」
「アノス!」
数人の声が重なった。
イリーナの目が輝く。日ごろからアノスに巡礼に行きたいと言っている、彼女憧れの土地・アノス。その地名が出てきて多少舞い上がっているように見える。
逆に、ヒースやエキュー、ガルガドはアノスの遠さを考え目の前の女性がにわかに胡散臭く思えてくる。そんな遠いところから本当に来たのだろうか。ウソならなぜその地名を出すのか、そもそもファリスの聖印というのも怪しい。本当なら、それはそれで何の意図がある。警戒心。
「貴女にお話があります。部屋を押さえてありますので、話を聞いていただけますか?」
「もちろんです! で、お部屋はどこですか?」
「VIPルームよ」
マウナの答えにイリーナは一瞬固まって、それからクレアと名乗った女性を見た。
「本当ですか?」
「もちろんです。虚言を弄したりしません。少々込み入った話になりますので、安全を確保できる部屋を用意したまでです」
ガタガタガタ、と椅子が音を立てた。見ると、例の冒険者たちが連れ立って立ち上がっている。彼女とともに部屋に行くのかもしれない。その音に、イリーナは反射的に身を硬くした。
「ご安心ください、彼らは私の……」
クレアはそこで一瞬つまり、何かを考えたようだった。
「私の護衛……です」
「なぜそこで声が小さくなる、ファリス神官」
ガルガドが怪しむ目つきを向けると、クレアが少し困った顔をする。
「心配は無用だ、兄弟。我々は護衛で間違いない」
「そうにゅ! オレら姉ちゃんの護衛にゅ!」
助け舟がエルフとグラスランナーから出る。しかしガルガドはまだ信用しないのか疑いの目を向ける。エルフが苦笑した。
「そうだな、『今回は』護衛だ。普段はそういう関係ではないのでな、馬鹿正直なクレアは少々答えに窮したのだ。怪しまなくてもいい」
そうはいわれても、と言う前にすかさずグラスランナーがエルフのスネを蹴り飛ばした。
「はとこ! 姉ちゃんになんてこと言うにゅ!」
「真実だろうが! お前こそ、なんてことをするんだはとこの子の子!」
にらみ合うエルフとグラスランナー。
「あー、話はイリーナだけが聞けばいいのか?」
とりあえずにらみ合いを無視することにして、ヒースはクレアを見る。クレアは少し首をかしげた。
「……あなたはどなたですか?」
そういわれて、初めて名乗ってないことに気づく。まあもっとも、そこでにらみ合っているエルフとグラスランナーも名乗っていないのだが。
「俺さ……俺はヒースクリフ・セイバーヘーゲン。魔術師だ。イリーナは俺の妹分で、冒険仲間でもある。クレアさんと言ったかな、あんたが何者か分からないのに、ちょっと揮発性の頭をしているイリーナを一人連れて行かれるのは俺としてはかなり心配だということで、できれば同席したいのだが」
いつものように「俺様」というのをとりあえず自重し、ついでに「将来有望」だとか「天才的」とか言うのもやめておいた。なんとなく、身の危険を感じる。
「ヒース兄さん、揮発性の頭ってどういうことですか!」
「言葉通りだ」
クレアのほうもヒースとイリーナの言い合いはあまり気に留めず、視線をエルフに向けた。エルフは視線に気づいたのか、グラスランナーとのにらみ合いをやめてクレアのほうを見ると、くるりと宙に視線をさまよわせてから答えた。
「かまわんだろう。別に仲間内であれば聞かれて問題のある話題でもあるまい」
「どうしてエルフのお兄さんに相談するの?」
ノリスの質問に、エルフはにやりと笑った。
「さあ? なぜかな?」
その答えに何か言おうかと口を開きかけると、VIPルームから声が飛んできた。
「二人とも何してるのよー。そんなんじゃいつまでたってもクレアの仕事がおわらないでしょぉー? 早くいらっしゃいよー」
髪の長い女性が、部屋から顔だけ出してこちらに言っている。その下から若い女性も顔を出した。
「はやく終わらせるなら、クレアさんを呼びに行くのをスイフリーとパラサに任せちゃ駄目ですよ、お姉さん」
仕事、という言葉にガルガドの眉が跳ね上がる。しかしその疑問はその時点では解決しなかった。髪の長い女性が続けて声をかける。少々声のトーンが低くなった。
「ともかく早くいらっしゃい」


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2007/07/07

拍手[2回]

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「クレア、貴女に会いたいという人が来ていますよ」

そう声をかけられ、慌てて言われた場所へ行くとそこにいたのはパラサさんだった。
神殿に、神を信じないものは来ない。
ゆえに、グラスランナーを間近で見る機会は少ない。そもそもアノスで彼らを見ること自体がほとんどないためか、同僚たちも少々遠巻きに彼のことを見ている。が、当の本人はそんなことを全く気にしていないようで、私の姿を見つけるとにっこり笑って大きく手を振った。
「ねーちゃーん!」
ついでに飛び跳ねてまで居る。元気なことだ。私は苦笑して彼に歩み寄る。同僚たちはますます不可解、という顔をした。
「姉ちゃん!」
「どうしたのですか? 今日は何の御用でしょうか?」
首をかしげると、パラサさんはにぱ、と笑う。
「この前はお疲れ様でした、にゅ」
「この前?」
私は首をかしげる。何かあっただろうか。
パラサさんはジェスチャーで私にしゃがむように指示しながら、「耳かしてー」と言う。言われたとおりにすると、彼は耳元で楽しそうに言った。
「海、一緒に行ったっしょ?」
「ああ」
私は頷く。少し前、彼らと共に海まで確かに出向いた。カルプラス伯の船の積荷を回収しに行くという彼らの仕事に無理やりついていっただけなのだが。
「それでね?」
パラサさんはごそごそとカバンの中を探りながら話を続ける。
「手ぇ、出して欲しいにゅ」
「こうですか?」
握手をするように手を出すと、彼は「手のひら上ー」と言って私の手を上に向けさせた。
「これ、あげるにゅう」
そういって、私の手の中に細長くて薄い箱を載せた。あまり重くはない、何の変哲も装飾もない紙の箱だった。ただ、紙自体は硬く、白と桃色でかなり綺麗な箱。
「なんですか?」
「あけてー」
言われるがままにあけると、そこには1本のネックレスが入っていた。ネックレスには彼らが海で回収したときに見せてもらったフレアストーンで作られた小さな花がついていてなかなか可愛い。かなりシンプルなデザインだが、フレアストーン自体が発光するせいか、少々派手でもある。
「これは?」
「ん? これは姉ちゃんの取り分。一緒に海にもぐってもらったし、何回か治癒の魔法使ってもらったっしょ?」
パラサさんは首を傾げて見せた。
「こんな、受け取れませんよ。私は無理やりついていっただけですし、目の前の悪を殲滅するために戦ったのですから。これはあなた方のものでしょう?」
「いいんだにゅ、気にしないで受け取って欲しいにゅ。大して高いものでもないから申し訳ないくらいにゅ」
「しかし」
私は箱の中のネックレスを見る。ピアスを何度か買ったことがあるから、装飾品が安くないのは知っている。それに確か、宝石は何の加工もしてなかった。ここにあるのはネックレスであるから、あの宝石をわざわざ加工したことになる。
しかも今回は宝石自体まず珍しいものであるから「高くない」というのは明らかにウソだろう。尤も、彼らにとっては高くないのかもしれないが。

ともかく、自分の働きが、これに見合っていたとは思えない。

「やはり受け取れません。私はこれを頂くような働きはしていません。無理についていったのですし」
「んー、でも、貰ってもらわないと困るにゅ」
「どうしてですか?」
「んー」
パラサさんはそこで暫く黙った。眉を寄せて、どうやって言えばいいかなあ、などとぼそぼそ独り言を言う。
「もう加工しちゃったから、売っても半額になるだけだし、誰も使わないから、最初の予定通り姉ちゃんが持ってるのがいいにゅ」
「使いませんか?」
「フィリス姉ちゃんはもっと派手なのが好きにゅ。レジィナ姉ちゃんはその石で別のネックレス作ったにゅ。で、オレやはとこやグイズノーやアーチーがソレ持ってたら気持ち悪いっしょ?」
言われて想像してみる。確かにフィリスさんはもっと派手なのがお好みだろうし、レジィナさんが同じようなものを2個も3個も持ちたがらないのも分かる。男性陣が嬉々としてこのデザインのネックレスを使用するとは思えない。
「ええ、まあ、そうですね」
「じゃあ、姉ちゃん使ってね」
「……」
「ホントに高くないから気にしなくていいにゅ。全員納得してるし。……あ、デザインが嫌い?」
「いえ。そういうことは……」
「じゃあ、姉ちゃん使ってね」
「本当に皆さん納得しているのですか?」
「うん。報酬交渉役のはとこが提案したから誰も何にも言わなかったっていうか、フィリス姉ちゃんが大喜びしてたにゅ」
「スイフリーさんが? それになぜフィリスさんが大喜びを?」
不思議なことを言うパラサさんに首を傾げて見せたら、彼は同じように首を傾げて見せた。
「変?」
「別に変とかでは……」
「姉ちゃんがはとこを殺そうってしたのも、監視してたのもホントだけど、でも魔法使って一緒に戦ってくれたのもホントだから気にしないでいいにゅ。はとこも言ってた。『もしあの女がぐだぐだ何やら抜かすようであったら、少々固い頭を柔らかくしたらどうだ、世の中には「それはそれ、これはこれ」という言葉もあるのだ、とか何とかいってやれ』って。そのネックレス分がはとこからの評価分なんだと思うにゅ。はっきりって安すぎだし値切りすぎだし不当だと思うにゅ。姉ちゃんはもっと貰ってもいいはずにゅ」
「はあ」
口を尖らせるパラサさんをまじまじとみて、それからネックレスをもう一度見る。彼ら冒険者の正当評価というのがどういう値段になるのか全く見当つかないが、波風を立たせないためにも貰っておくのがよさそうだ。
「では、遠慮なくいただきます。皆さんに、ありがとうございますと伝えてください」
「わかったにゅ! じゃあ、姉ちゃんまたね! 皆待ってるんにゅ。今からちょっとお城見に行って来るにゅ。また会いに来るにゅ」
最後のほうは物凄い早口で言うと、パラサさんは走っていってしまった。あっという間に見えなくなる。
何処かにこれからまた出かけるらしい。
「皆さんどうかご無事で」
背に呟き、私は仕事に戻る。

 

後日、このネックレスがかなり高価であることが判明して青ざめるのはまた別の話。



■おまけ・一方その頃■
F 「アンタも素直じゃないわねー。クレアに贈り物したいなら普通に渡せばいいじゃない」
S 「アレは報酬だ、何でわたしがあの女に贈り物せにゃならんのだ」
G 「その割りに真面目にデザインしてたじゃありませんか」
S 「ああいうタイプは宝石のまま貰ったって途方にくれるだけだろうが」
G 「良く見てますよねえ、デザインのときも派手すぎず地味すぎずとか言ってましたし、性格まで。あなたの愛がいつそこまで発展したのか、わたくしとしたことが全く気付きませんでしたよ」
S 「……正当報酬渡して何が悪いんだ」
F 「悪いなんて言ってないわよぅ、ただ良く見てるわねえ、好きなのねえって言ってるだけじゃない」
G 「いつそんなに観察してたんですか。わたくし、あなたの彼女への熱視線に全く気付きませんでした。ああ、勿体無いことをしました」
S 「解呪の時暇だっただけだ!」
G 「そんな前から!」
F 「あんた愛が深いタイプだったのねえ」
S 「……だから!」
A 「スイフリー、口を開くたびに墓穴掘ってるぞ」


2007/07/04

拍手[1回]

この城には時折城主たちがふらりと戻ってくるのは良くある話ではあるのだが、ソレが全員そろってと言うことはまずない。姿の見えない暗殺者に命を狙われていることも手伝って、いつも彼らは少人数で行動している。ゆえに戻ってきても2人のことが多く、今日のように全員がそろうのを見るのは、何ヶ月ぶりだろうか。
それぞれ、いつも適当な土産を持って現れるのだが、そのゲームは北のほうを旅してきたというグイズノーとレジィナの土産に混じりこんでいた。
「チェス、と言うらしいですよ。プリシスでは割と流行っているそうです」
「ルールも一緒に買ってきたんだよ」
言いながらも、彼らは全然それに触ろうとしない。流行っているから思わず買ったが、興味は全くなかった、ということだ。
「どうやって遊ぶん?」
パラサが箱を開けながら尋ねても、グイズノーもレジィナも「さあ?」と答えるにとどまった。
「ソレは二人で遊んで、対戦して遊ぶんだ」
「アーチーやったことあるん?」
「ある。私に似合いの、知的なゲームだ」
「……へぇ」
パラサは何か言いたげに口の端を吊り上げ、しかし相槌のみ打っただけだった。
「やって見せて」
「……だから、二人でやるゲームなんだ。見せるも何も、他にルールを知っている者はおるまい?」
「はとこー、はとこは知らないの?」
「存在は知ってる、ルールは知らない」
興味なさげに窓際のソファに座り込んでいたエルフから、そっけない返事が戻ってくる。半分眠っていたせいか、目が不機嫌そうだ。
「フィリスにでも覚えさせればいいだろう。アーチーと遊べるとなればルールくらいすぐ覚えるぞ」
そういって大あくびをすると、目を閉じる。多分暫くは話しかけても返事はないだろう。
「私が何?」
名前が聞こえたのか、クレアと共に紅茶の用意をしていたはずのフィリスが大広間にやってきて尋ねる。
「全くなんでもない」
アーチーの返答にフィリスはむっとしたような顔をして、パラサを見る。
「何があったか教えてくれるわよね、パラサ」
「姉ちゃん、チェスって知ってる?」
「なにそれ」
フィリス、即答。
「では話にならん」
「えー、なによぅ、それ」
アーチーの言葉にますますフィリスは不機嫌そうな顔になる。
「ゲームですよ、お姉さん。何でも二人で遊ぶゲームで、ルールを知ってないと遊べないらしいです」
「それで? 私が知ってるかもって話?」
「いいえ。アーチーがスイフリーを誘ったら、スイフリーがフィリスとやればいいじゃないか、と言ったって話です」
レジィナの返答に、フィリスは形の良い唇に笑みを浮かべた。
「なによぅ、スイフリーったら、いいこというじゃないのよ!」
そしてつかつかと窓辺のソファによっていくと、スイフリーの肩をばーん、と叩く。唐突に叩かれ、しかも結構勢い良かったせいで、スイフリーはソファに横倒しにされる。
「……」
その状態で無言の抗議な目つきをフィリスに向けたが、彼女はどこ吹く風だ。
「いいじゃない起きなさいよついでに。おやつ用意できたから。アンタにはちょっと多めにあげるわよ! いいこといったから!」
「……わたしが寝ている間に何があったんだ?」
「なんか色々にゅ」


全員そろってのおやつが終わり、アーチーとフィリスがテーブルに向かい合って座る。一方は目をキラキラと輝かせ、もう一方は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「いいか? まずこの駒が……」
説明は長かった。
やたら長かった。
すぐにグイズノーが脱落し、ついでレジィナとパラサが脱落した。フィリスも脱落したかったが、アーチーが相手なので何とか耐えた。
「つまり駒を操ってこの王様っていうのを取れば勝ちなのね?」
「そうだ」
「じゃあ、やってみましょ?」

一度でもやったことがあるアーチーがレクチャーしながらのゲームだったからか、割とあっさりと決着はついた。
「うー、何が面白いのこれ?」
負けたフィリスは眉を寄せて、ポーンをいじりながら上目遣いでアーチーを見る。
「何がって……」
言われても答えに窮する。アーチーとて遊ぶのは2回目であるし、1回目は惨敗で遊んだうちに入らない。
「……」
暫く沈黙。
「なあ、わたしもやってみたい」
ずっと隣で見ていたスイフリーが手を挙げる。
「あんたやりたくなかったんじゃなかったの?」
フィリスが呆れた、といった顔をしてエルフを見る。
「さっきは眠かったんだ」
「ルール説明いるか?」
「見てたから分かる」
「じゃあフィリス、どけ」
アーチーの言葉に、思わずフィリスはテーブルの下でアーチーのスネを蹴り飛ばし、ついでにエルフのスネも蹴り飛ばす。
「もっといいようがあるだろうアーチー……」
椅子に座ってスネをさすりながらスイフリーは抗議の目を彼に向けたが、彼は返事をしなかった。


「夜食です」
クレアの言葉に彼らは顔を上げる。
「熱中するほど面白いですか?」
すとん、と二人がみえる位置の席に座り、彼女はテーブル上の黒と白で統一された盤面を見る。ルールが分からないのでさっぱり意味が分からない。どちらが勝っているのかすら分からなかった。
「まあ、それなりに」
ややあって、スイフリーからの返事がある。が、こちらを見ては居ない。盤上の駒をじっと見据え、腕組みをしたままだ。時折顎や額に手を持っていく。考え事をするときの癖だ。
「少なくともフィリスとしたときよりは楽しい」
「フィリスさんが怒りますよ」
アーチーからの返答にクレアは苦笑する。
「よし、これでどうだ」
「お、そう来たか」
スイフリーが黒の駒を動かす。アーチーが嬉しそうな声を上げた。
「さっぱり分かりません」
クレアは苦笑して、それでも暫く二人のやり取りを見続ける。ルールは分からないが、それなりに白熱しているのだろう。二人とも盤を見つめたまま、夜食に出したパンを頬張っている。行儀が悪いから注意したいが、ここまで熱中しているのを邪魔するのもどうだろうか、とも思う。
「飲み物あったらくれ」
盤を見つめたままスイフリーが言う。用意をしてから声をかけると、手だけが伸ばされた。
「よそ見してるとこぼしますよ」
注意で漸くこちらを見る。とはいっても、ソレはマグカップに注がれる視線であり、別にクレアを見るわけではない。が、考え事をしているときのスイフリーの目が、一瞬見えた。

鋭く、真実をえぐっていく目。
本質だけを見ていく目。
その瞬間には、全も不善もない。
その後それをどう扱うかというのは別の話。
全てに平等に注がれる観察者の目。
クレア自身、妄信的になって硬直していた頭を、その瞳で射抜かれた。
そして気付かされ、引きずり出され。


「こぼすか」
馬鹿らしい、といった口調で彼は言いつつマグカップを受け取る。そしてすぐに盤上に目を戻した。長い髪に隠れて、もうその表情は見えない。尖った鼻先と、同じように鋭角な顎が見えるだけだ。

暫く見ていたが、完全にゲームは膠着状態らしい。二人とも考える時間がとても長いのだ。眠気もあって、流石に見ているのもつらくなる。
「あの、あまり夜更かししないでくださいね」
仕方ないので声をかけて立ち上がった。
「ああ、夜食ありがとう、クレアさん。程ほどにして眠るから、心配は要らない」
アーチーからの返答だけがあったのは、スイフリーが丁度考え込むタイミングだったからだ。
「はい。では、おやすみなさいませ」
ドア前で一度お辞儀をして顔を上げたら、スイフリーが面倒くさそうに手だけを振っているのが見えた。

 

「あんたたち、またやってんの!? すきねー、そういうの!」
呆れたような声を上げるフィリスに、二人は顔を一瞬だけ上げた。
どちらも目が据わっている。少々疲れが出てきた顔だ。
「何回目? もー、馬鹿ねー!」
「また、じゃなくて、まだ、だ」
「は?」
アーチーの不機嫌そうな声に、フィリスは首をかしげる。
「よし、これでどうだ、チェックメイト!」
「がー!」
スイフリーの声にアーチボルトが頭を抱えて叫び声を挙げる。
「もしかして二人とも、あれからずーっと今までやってたのですか?」
グイズノーの言葉に、返事はなかった。

「寝てる」
「阿呆にゅ」
ゲームが終わって二人はテーブルに突っ伏してそのまま眠りにつく。
「とりあえず、額に馬鹿とでも描いておきましょうか」
グイズノーがにまにまと笑う。
「いいわね、それ」
「オレなんて書こうかなー!」

異変に気付いたクレアとレジィナが止めに入るまで、彼らの顔はキャンバスになり続けたとか。なんだとか。



■最初はクレアさんの出てるシーンはもうチョット長くて、某エルフに対する好意がしっかりかかれてたりしたのですが、読み直して「いやそれはないな」と思ったのでやめてみました。

クレアさんがスイのこと好きになる経過をかいてみたいなあと思ったりする今日この頃。
GMがスイクレを狙っていると公言しているんだから、クレアさんの気持ちは(本人の自覚はともかくとして)スイにむいてるのが公式だよね。
そうすると立場はフィリス姉さんと変わらなくなるのだが(片思いという点で)

2007/07/04

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泡ぽこ 4

彼らの元に料理が全てそろってからは圧巻だった。
大柄の男と若い女性、グラスランナーが入り乱れて肉の争奪戦を始めたのである。恐ろしいまでのスピードでフォークとフォークが激突し牽制しあっている間に、すかさず空いたもう一方の手で肉を掻っ攫っていく。そんな大柄の男と若い女性のその争奪戦の最中に、グラスランナーは隙を見つけては横から大物をどんどん取っている。
髪の長い女性はにこにこ上機嫌のまま、ワインを次々と空にしながらその様子を見ているし、小太りの男は争奪戦になっていない皿から次々と肉をとっていっている。エルフは我関せずといった様子で、パスタの皿を一人で抱え込んでもくもくと口に運んでいる。なんとなく、金髪の女性が疲れたような感じなのが印象的でもある。
「なんか、技能の無駄遣い?」
様子を見ていたノリスが首をかくんと倒しながら苦笑した。とりあえず、自分たちはああいう取り合いに発展するような食事にならないだけマシかもしれない。
「でもかなりのスピードだよ。もしかしたら強い冒険者かもしれないね」
エキューはちらちらと視線を向けながらも、自分の食事に集中し始める。見ていたところで何も分からない、という結論に達したのかもしれない。
「ま、とりあえず、イリーナに用があるのなら必然的に俺様たちにも接触を図ってくるだろう。それまで静観だな」
「そうだね、見てるだけでちょっと面白いかもしれない」
エキューの視線の先には、相変わらずフォークで壮絶な争いを続ける男女と、パスタを抱え込んだエルフが居た。

 

「こーんばーんわー!」
無駄に元気の良い挨拶とともに、遠慮という言葉をもう少し知れ、というくらいの勢いでドアが開いた。中に入ってきたのはもちろん有名なファリスの鉄塊娘。良く見れば「もっと静かにドアは開けんか」と説教をするドワーフの神官戦士。コレで青い小鳩亭の有名冒険者たちは全員そろったことになる。
「今日も一日ファリス様の御許で有意義な時間をすごすことができました!」
そういいながらいつものテーブルにやってくる。
例の冒険者たちは動きを止めてこちらを見ていたが、やがてまた何事もなかったかのように食事に没頭し始めた。そんな動きを知ってか知らずか、イリーナは椅子に座る。
「ガルガドさんとはさっきお店の前で会ったんですよー」
「おやっさんそれは災難だったな」
「どういう意味ですかヒース兄さん」
「なんでもございません」
いつもどおり、マウナが水を持ってやってくる。
「注文はいつもどおりでいい?」
「うん、ありがとうマウナ」
「それから、イリーナにお客様がきてるわよ。今からイリーナが来たことを伝えてくるから、ちょっと心の準備をしときなさい」
「心の準備って、何?」
イリーナが微妙に不安そうに尋ねると、マウナは少し眉を寄せた表情をしてからイリーナの耳元でそっとささやく。
「冒険者だとは思うんだけど、なんかちょっと変な感じなの」
「邪悪ですか?」
イリーナの目が光る。
「ファリスの聖印をしてたから、それは無いと思うけど……」
マウナはそれだけいうと、「ともかく声をかけてくるから」といって例の冒険者のほうへ歩いていってしまった。
「ファリスの聖印をしてイリーナに会いに来る? ファリスの猛女を聞いてファンにでもなったかの?」
「ガルガドさん、それってちょっとひどいです」
イリーナの抗議の目に、ガルガドは苦笑した。
「ちなみにあの冒険者たちだよ」
ノリスが視線だけ例の冒険者たちに向ける。マウナが金髪の女性に何か声をかけているのが見えた。マウナの話を聞いているのはその女性だけで、相変わらず肉やら魚の争奪戦は続いている。エルフのパスタはいつの間にか種類が変わっていた。
「なんか、凄い戦いです」
「まざりたい?」
ノリスが笑って尋ねると、イリーナは激しく悩んだ挙句とりあえず首を横に振った。

 




■今日は短め。

エキューの口調はもちっと丁寧だという話です。以後気を付けたい。

小鳩亭でテーブルをくっつけたバブリーズメンバーですが、とりあえずパラサではないのは確かです(笑)
たぶんレジィナでしょう。

まあそんな感じで。

2007/06/28

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泡ぽこ 3

■2


そろそろ町が夕闇に包まれようかという時間帯。
今日も『青い小鳩亭』には有名な冒険者一行が顔を合わせていた。とはいえ、時間の関係上まだ全員がそろっているわけではない。そこにいるのは、そもそもここに住んでいるマウナ、仕事がなければ町をぶらぶらしているだけのノリスとエキュー、それから「研究が早く終わった」というヒース。バスは先ほどから朗々と歌を歌っている。
それぞれ、少し早い夕食に手をつけ始めているところだ。勿論、マウナはウェイトレスとして彼方此方せわしなく動いており、食事などしてはいない。
いつもどおりの夕方、ともいえる。
「そろそろ仕事しないとお財布が軽いんだよねー」
ノリスは他の面子より高く豪華な料理をつつきながら、説得力のないことを言う。
「そういうこと言うなら、もっと安い飯を食えよ」
エキューが冷たい目をしても、ノリスは「そうかなあ?」などと気のない返事を送る。
「しかし、仕事をしないとヤバいのは俺様としても同じだ。どっかに簡単かつ高収入のらくらくな仕事がないものか」
「僕らくらい高レベルになっちゃうと、そんなに気軽な依頼は来ないよ」
「僕たちは高レベルになっても気さくな町の何でも屋さんに限りなく近いと思うけどなあ」
エキューの突っ込みにノリスが答える。どちらもとりあえずは正論だ。
「とりあえず、俺様にできることといえば、マウナの仕事を増やすくらいだ。というわけだからマウナ、冷たい水を持ってきてくれなさい」
「あんたなんか生温い水でも飲んでればいいわよ」
かん、とけたたましい音を立てて水の入ったグラスが置かれる。そんな態度に臆することなく、ヒースは続けた。
「レアな焼き鳥も……」
「黙りなさい」
マウナがお盆でヒースの後頭部を叩く。まあ、いつもの夕方だ。ただ、いつもと違ったのは、そんな騒々しくも暖かな青い小鳩亭に、見慣れぬ冒険者がやってきたことだろう。

青い小鳥亭は、国が建て直しの資金を捻出したことや、中身はどうあれ英雄である一行の定宿であることから、オーファン国内に数多くある冒険者の宿のなかでは有名な部類だ。
であるから、見慣れない冒険者が来ること自体はそれほど珍しいことではない。
駆け出しの冒険者が来ることもあるだろうし、旅の途中で立ち寄ることもあるだろう。ただ今回やってきた冒険者は、旅なれた様子から言って新米ではなさそうだし、かといって旅の途中という雰囲気でもない。かといって、有名であるヒースたち一行を見に来た感じでもない。
彼らは、7人組みだった。結構大所帯だ、とヒースは自分たちのことを棚にあげて思う。
大柄な男と、若い女はいでたちから言って、多分ファイターだろう。若い女が持っているのはグレートソードだが、イリーナのものを見慣れている身としては、少々小さくも見えた。目の錯覚なのは重々承知している。小太りの男と、金髪の女はそれぞれラーダとファリスの聖印を首から提げている。間違いなくプリーストだ。背の高い、髪の長い女はかなり太ったぶち猫を連れている。指にはいくつか指輪がはまっており、その一つは自ら光っているようだった。自分と同業だろう。あとはエルフとグラスランナー。この二人は、それぞれシャーマンとシーフでまず間違いない。全員がそれなりに自信にあふれた表情をしている。堂々としたその振る舞いは、ちょっと見習いたいかもしれない。気のせいかもしれない。
「なんか、凄い装備だね」
エキューがぽつり小声で言う。武器は鞘に収められているからよくわからないが、それでも鎧であるとか指輪だとかはかなり高価そうに見える。
「あのグラスランナー、もしかしたら物凄いシーフかも。何でスキップしてて足音しないわけ?」
ノリスも小声で言う。確かに、グラスランナーは金髪の女性の近くをスキップしているのだが、言われたとおり足音はしない。
彼らは周りの視線を気にすることなく、窓際の、ヒースたちの席からさほど遠くない4人がけのテーブルを勝手に動かして8人がけにしてテーブルに付いた。金髪の女性だけがまっすぐにカウンターへ歩いていく。丁度近くを通っていくから、視線だけむけてみたが、彼女は意志の強そうなまなざしをまっすぐカウンターだけに向けていて、こちらを気にした様子は全くなかった。
「いらっしゃいませー」
マウナが声をかけているのが聞こえる。
「ご注文は?」
見るとはなしに見ていると、グラスランナーお品書きを受け取って、ざっと目を通して注文をしはじめる。
「肉料理のー、ここからここまでとー。魚料理の、こっからここまでー。あと、姉ちゃんが好きだから、サラダをここからここまで持って来てほしいにゅ。あ、パスタもここからここまで持ってきてー。はとこが抱え込んじゃうからー」
「そんなに食べない」
「でも放っておくと二人分くらい食べちゃうっしょ?」
「ねえ、お酒見せてよ」
言い合うグラスランナーとエルフに、髪の長い女性がいうと、グラスランナーは「ほい」と言いながら品書きを渡す。女性はざっと目を通して、「上から順番に、2本ずつ。何よりも急いで持ってきて?」というと品書きを隣に座った若い女に渡す。
「私は特に足すものはないなあ、皆は?」
「とりあえず、頼んだものが足りなかったときに考えればいいのですよ」
「じゃあ、そういうことで」
「ええと、じゃあ、ご注文をくりかえし……」
マウナが言いかけたのを、大柄な男が止めた。
「くり返しはいらない。パラサが何を頼んだのか我々は知らないのだからな。それより早く持ってきてもらえるかね?」
マウナはうなずくと、心持ち青い顔でふらふらとした足取りでカウンターのほうまで歩いていく。それをすかさずヒースがとめた。
「何? ヒース。追加注文?」
「いや……あいつら、何頼んだんだ?」
「高いのから順番に。食べ物がなんなのかは、どうでもよさそうだったわよ。仕事の邪魔しないでくれる?」
マウナがカウンターに行くのを見送ってから、再び冒険者たちに視線を向ける。彼らは先に出てきた酒を飲んでいるようだった。遠目でも、高そうなビンなのが分かる。
ふとカウンターに目をやると、丁度店の親父が金髪の女性に自分たちを指し示していた。
「ぼくらに依頼かな?」
「わからん」
女性は親父にお辞儀をすると、仲間のほうへ歩いていく。背筋をぴんとのばして、結構早足だ。
「キレイな人だよね」
「美人なのは認める。が、冒険者だ。お金持ちじゃなさそうだから俺様パス」
「耳も尖ってないような女に興味ねえよ」
「奴ら、エルフも居るぞ?」
「エルフには心惹かれるけど、男じゃないか」
そんな話をしている間に、女性は席につく。周りを見て、少々ため息をついていた。いくつかそろい始めた料理を、彼らは女性を待たずに食べ始めていたからかもしれない。
「ファリス様にお祈りをしましたか?」
「エルフは神を信じない」
「ごめーん、姉ちゃん、次からお祈りするー」
女性の質問に、エルフとグラスランナーが答えていた。女性は苦笑してから祈りをささげている。
「変な人たち」
「お前も十分変だ」
料理を持っていって、再びカウンターに戻るところだったマウナをまた捕まえる。
「追加注文?」
「質問だ」
「なによ」
「カウンターで、あの金髪のお姉ちゃんは俺様たちのことを紹介されていたみたいだったが、何だ? そのわりにこっちに来ないし」
「ああ、おとうさんの話だと、イリーナを尋ねてきたんだって。なんとVIP室も押さえて行ったわ。イリーナと話をするんですって」




■あら、今日はながいですな。

相変わらず誰に需要があるのかわからない作品ですが、めげずにアップです。
しいて言えば、わたしに需要がある、というかんじで。

2007/06/23

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