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この城には時折城主たちがふらりと戻ってくるのは良くある話ではあるのだが、ソレが全員そろってと言うことはまずない。姿の見えない暗殺者に命を狙われていることも手伝って、いつも彼らは少人数で行動している。ゆえに戻ってきても2人のことが多く、今日のように全員がそろうのを見るのは、何ヶ月ぶりだろうか。
それぞれ、いつも適当な土産を持って現れるのだが、そのゲームは北のほうを旅してきたというグイズノーとレジィナの土産に混じりこんでいた。
「チェス、と言うらしいですよ。プリシスでは割と流行っているそうです」
「ルールも一緒に買ってきたんだよ」
言いながらも、彼らは全然それに触ろうとしない。流行っているから思わず買ったが、興味は全くなかった、ということだ。
「どうやって遊ぶん?」
パラサが箱を開けながら尋ねても、グイズノーもレジィナも「さあ?」と答えるにとどまった。
「ソレは二人で遊んで、対戦して遊ぶんだ」
「アーチーやったことあるん?」
「ある。私に似合いの、知的なゲームだ」
「……へぇ」
パラサは何か言いたげに口の端を吊り上げ、しかし相槌のみ打っただけだった。
「やって見せて」
「……だから、二人でやるゲームなんだ。見せるも何も、他にルールを知っている者はおるまい?」
「はとこー、はとこは知らないの?」
「存在は知ってる、ルールは知らない」
興味なさげに窓際のソファに座り込んでいたエルフから、そっけない返事が戻ってくる。半分眠っていたせいか、目が不機嫌そうだ。
「フィリスにでも覚えさせればいいだろう。アーチーと遊べるとなればルールくらいすぐ覚えるぞ」
そういって大あくびをすると、目を閉じる。多分暫くは話しかけても返事はないだろう。
「私が何?」
名前が聞こえたのか、クレアと共に紅茶の用意をしていたはずのフィリスが大広間にやってきて尋ねる。
「全くなんでもない」
アーチーの返答にフィリスはむっとしたような顔をして、パラサを見る。
「何があったか教えてくれるわよね、パラサ」
「姉ちゃん、チェスって知ってる?」
「なにそれ」
フィリス、即答。
「では話にならん」
「えー、なによぅ、それ」
アーチーの言葉にますますフィリスは不機嫌そうな顔になる。
「ゲームですよ、お姉さん。何でも二人で遊ぶゲームで、ルールを知ってないと遊べないらしいです」
「それで? 私が知ってるかもって話?」
「いいえ。アーチーがスイフリーを誘ったら、スイフリーがフィリスとやればいいじゃないか、と言ったって話です」
レジィナの返答に、フィリスは形の良い唇に笑みを浮かべた。
「なによぅ、スイフリーったら、いいこというじゃないのよ!」
そしてつかつかと窓辺のソファによっていくと、スイフリーの肩をばーん、と叩く。唐突に叩かれ、しかも結構勢い良かったせいで、スイフリーはソファに横倒しにされる。
「……」
その状態で無言の抗議な目つきをフィリスに向けたが、彼女はどこ吹く風だ。
「いいじゃない起きなさいよついでに。おやつ用意できたから。アンタにはちょっと多めにあげるわよ! いいこといったから!」
「……わたしが寝ている間に何があったんだ?」
「なんか色々にゅ」
全員そろってのおやつが終わり、アーチーとフィリスがテーブルに向かい合って座る。一方は目をキラキラと輝かせ、もう一方は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「いいか? まずこの駒が……」
説明は長かった。
やたら長かった。
すぐにグイズノーが脱落し、ついでレジィナとパラサが脱落した。フィリスも脱落したかったが、アーチーが相手なので何とか耐えた。
「つまり駒を操ってこの王様っていうのを取れば勝ちなのね?」
「そうだ」
「じゃあ、やってみましょ?」
一度でもやったことがあるアーチーがレクチャーしながらのゲームだったからか、割とあっさりと決着はついた。
「うー、何が面白いのこれ?」
負けたフィリスは眉を寄せて、ポーンをいじりながら上目遣いでアーチーを見る。
「何がって……」
言われても答えに窮する。アーチーとて遊ぶのは2回目であるし、1回目は惨敗で遊んだうちに入らない。
「……」
暫く沈黙。
「なあ、わたしもやってみたい」
ずっと隣で見ていたスイフリーが手を挙げる。
「あんたやりたくなかったんじゃなかったの?」
フィリスが呆れた、といった顔をしてエルフを見る。
「さっきは眠かったんだ」
「ルール説明いるか?」
「見てたから分かる」
「じゃあフィリス、どけ」
アーチーの言葉に、思わずフィリスはテーブルの下でアーチーのスネを蹴り飛ばし、ついでにエルフのスネも蹴り飛ばす。
「もっといいようがあるだろうアーチー……」
椅子に座ってスネをさすりながらスイフリーは抗議の目を彼に向けたが、彼は返事をしなかった。
「夜食です」
クレアの言葉に彼らは顔を上げる。
「熱中するほど面白いですか?」
すとん、と二人がみえる位置の席に座り、彼女はテーブル上の黒と白で統一された盤面を見る。ルールが分からないのでさっぱり意味が分からない。どちらが勝っているのかすら分からなかった。
「まあ、それなりに」
ややあって、スイフリーからの返事がある。が、こちらを見ては居ない。盤上の駒をじっと見据え、腕組みをしたままだ。時折顎や額に手を持っていく。考え事をするときの癖だ。
「少なくともフィリスとしたときよりは楽しい」
「フィリスさんが怒りますよ」
アーチーからの返答にクレアは苦笑する。
「よし、これでどうだ」
「お、そう来たか」
スイフリーが黒の駒を動かす。アーチーが嬉しそうな声を上げた。
「さっぱり分かりません」
クレアは苦笑して、それでも暫く二人のやり取りを見続ける。ルールは分からないが、それなりに白熱しているのだろう。二人とも盤を見つめたまま、夜食に出したパンを頬張っている。行儀が悪いから注意したいが、ここまで熱中しているのを邪魔するのもどうだろうか、とも思う。
「飲み物あったらくれ」
盤を見つめたままスイフリーが言う。用意をしてから声をかけると、手だけが伸ばされた。
「よそ見してるとこぼしますよ」
注意で漸くこちらを見る。とはいっても、ソレはマグカップに注がれる視線であり、別にクレアを見るわけではない。が、考え事をしているときのスイフリーの目が、一瞬見えた。
鋭く、真実をえぐっていく目。
本質だけを見ていく目。
その瞬間には、全も不善もない。
その後それをどう扱うかというのは別の話。
全てに平等に注がれる観察者の目。
クレア自身、妄信的になって硬直していた頭を、その瞳で射抜かれた。
そして気付かされ、引きずり出され。
「こぼすか」
馬鹿らしい、といった口調で彼は言いつつマグカップを受け取る。そしてすぐに盤上に目を戻した。長い髪に隠れて、もうその表情は見えない。尖った鼻先と、同じように鋭角な顎が見えるだけだ。
暫く見ていたが、完全にゲームは膠着状態らしい。二人とも考える時間がとても長いのだ。眠気もあって、流石に見ているのもつらくなる。
「あの、あまり夜更かししないでくださいね」
仕方ないので声をかけて立ち上がった。
「ああ、夜食ありがとう、クレアさん。程ほどにして眠るから、心配は要らない」
アーチーからの返答だけがあったのは、スイフリーが丁度考え込むタイミングだったからだ。
「はい。では、おやすみなさいませ」
ドア前で一度お辞儀をして顔を上げたら、スイフリーが面倒くさそうに手だけを振っているのが見えた。
「あんたたち、またやってんの!? すきねー、そういうの!」
呆れたような声を上げるフィリスに、二人は顔を一瞬だけ上げた。
どちらも目が据わっている。少々疲れが出てきた顔だ。
「何回目? もー、馬鹿ねー!」
「また、じゃなくて、まだ、だ」
「は?」
アーチーの不機嫌そうな声に、フィリスは首をかしげる。
「よし、これでどうだ、チェックメイト!」
「がー!」
スイフリーの声にアーチボルトが頭を抱えて叫び声を挙げる。
「もしかして二人とも、あれからずーっと今までやってたのですか?」
グイズノーの言葉に、返事はなかった。
「寝てる」
「阿呆にゅ」
ゲームが終わって二人はテーブルに突っ伏してそのまま眠りにつく。
「とりあえず、額に馬鹿とでも描いておきましょうか」
グイズノーがにまにまと笑う。
「いいわね、それ」
「オレなんて書こうかなー!」
異変に気付いたクレアとレジィナが止めに入るまで、彼らの顔はキャンバスになり続けたとか。なんだとか。
■最初はクレアさんの出てるシーンはもうチョット長くて、某エルフに対する好意がしっかりかかれてたりしたのですが、読み直して「いやそれはないな」と思ったのでやめてみました。
クレアさんがスイのこと好きになる経過をかいてみたいなあと思ったりする今日この頃。
GMがスイクレを狙っていると公言しているんだから、クレアさんの気持ちは(本人の自覚はともかくとして)スイにむいてるのが公式だよね。
そうすると立場はフィリス姉さんと変わらなくなるのだが(片思いという点で)
2007/07/04