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結局、例の冒険者の金髪女性が接触してきたのは、彼らの食事がきちんと終わり、さらにイリーナの食事も終わってからだった。その頃は客も少なくなってきており、マウナも同席することが出来た。
「イリーナ・フォウリーですか?」
女性はイリーナをまっすぐ見つめて尋ねる。イリーナはうなずいた。
近くで見ると背がすらりと高く、女性らしいラインの体をした、なかなかの美人である。金髪だが、キレイな弧を描く眉は黒い。脱色をしてるのか、とヒースは思う。茶色の目はどこまでもまっすぐで、真面目そうな顔つきがいかにもファリス神官らしい。見慣れたファリス神官であるイリーナとは、雰囲気が似てるともいえるし、全然似てないともいえた。
(コレで金持ちだったら、わりとストライク)
などと思っている間に、金髪美人の自己紹介が始まる。
「私はクレア・バーンロードと申します。貴女と同じファリス神官をアノスでしております」
「アノス!」
数人の声が重なった。
イリーナの目が輝く。日ごろからアノスに巡礼に行きたいと言っている、彼女憧れの土地・アノス。その地名が出てきて多少舞い上がっているように見える。
逆に、ヒースやエキュー、ガルガドはアノスの遠さを考え目の前の女性がにわかに胡散臭く思えてくる。そんな遠いところから本当に来たのだろうか。ウソならなぜその地名を出すのか、そもそもファリスの聖印というのも怪しい。本当なら、それはそれで何の意図がある。警戒心。
「貴女にお話があります。部屋を押さえてありますので、話を聞いていただけますか?」
「もちろんです! で、お部屋はどこですか?」
「VIPルームよ」
マウナの答えにイリーナは一瞬固まって、それからクレアと名乗った女性を見た。
「本当ですか?」
「もちろんです。虚言を弄したりしません。少々込み入った話になりますので、安全を確保できる部屋を用意したまでです」
ガタガタガタ、と椅子が音を立てた。見ると、例の冒険者たちが連れ立って立ち上がっている。彼女とともに部屋に行くのかもしれない。その音に、イリーナは反射的に身を硬くした。
「ご安心ください、彼らは私の……」
クレアはそこで一瞬つまり、何かを考えたようだった。
「私の護衛……です」
「なぜそこで声が小さくなる、ファリス神官」
ガルガドが怪しむ目つきを向けると、クレアが少し困った顔をする。
「心配は無用だ、兄弟。我々は護衛で間違いない」
「そうにゅ! オレら姉ちゃんの護衛にゅ!」
助け舟がエルフとグラスランナーから出る。しかしガルガドはまだ信用しないのか疑いの目を向ける。エルフが苦笑した。
「そうだな、『今回は』護衛だ。普段はそういう関係ではないのでな、馬鹿正直なクレアは少々答えに窮したのだ。怪しまなくてもいい」
そうはいわれても、と言う前にすかさずグラスランナーがエルフのスネを蹴り飛ばした。
「はとこ! 姉ちゃんになんてこと言うにゅ!」
「真実だろうが! お前こそ、なんてことをするんだはとこの子の子!」
にらみ合うエルフとグラスランナー。
「あー、話はイリーナだけが聞けばいいのか?」
とりあえずにらみ合いを無視することにして、ヒースはクレアを見る。クレアは少し首をかしげた。
「……あなたはどなたですか?」
そういわれて、初めて名乗ってないことに気づく。まあもっとも、そこでにらみ合っているエルフとグラスランナーも名乗っていないのだが。
「俺さ……俺はヒースクリフ・セイバーヘーゲン。魔術師だ。イリーナは俺の妹分で、冒険仲間でもある。クレアさんと言ったかな、あんたが何者か分からないのに、ちょっと揮発性の頭をしているイリーナを一人連れて行かれるのは俺としてはかなり心配だということで、できれば同席したいのだが」
いつものように「俺様」というのをとりあえず自重し、ついでに「将来有望」だとか「天才的」とか言うのもやめておいた。なんとなく、身の危険を感じる。
「ヒース兄さん、揮発性の頭ってどういうことですか!」
「言葉通りだ」
クレアのほうもヒースとイリーナの言い合いはあまり気に留めず、視線をエルフに向けた。エルフは視線に気づいたのか、グラスランナーとのにらみ合いをやめてクレアのほうを見ると、くるりと宙に視線をさまよわせてから答えた。
「かまわんだろう。別に仲間内であれば聞かれて問題のある話題でもあるまい」
「どうしてエルフのお兄さんに相談するの?」
ノリスの質問に、エルフはにやりと笑った。
「さあ? なぜかな?」
その答えに何か言おうかと口を開きかけると、VIPルームから声が飛んできた。
「二人とも何してるのよー。そんなんじゃいつまでたってもクレアの仕事がおわらないでしょぉー? 早くいらっしゃいよー」
髪の長い女性が、部屋から顔だけ出してこちらに言っている。その下から若い女性も顔を出した。
「はやく終わらせるなら、クレアさんを呼びに行くのをスイフリーとパラサに任せちゃ駄目ですよ、お姉さん」
仕事、という言葉にガルガドの眉が跳ね上がる。しかしその疑問はその時点では解決しなかった。髪の長い女性が続けて声をかける。少々声のトーンが低くなった。
「ともかく早くいらっしゃい」
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2007/07/07