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「クレア、貴女に会いたいという人が来ていますよ」
そう声をかけられ、慌てて言われた場所へ行くとそこにいたのはパラサさんだった。
神殿に、神を信じないものは来ない。
ゆえに、グラスランナーを間近で見る機会は少ない。そもそもアノスで彼らを見ること自体がほとんどないためか、同僚たちも少々遠巻きに彼のことを見ている。が、当の本人はそんなことを全く気にしていないようで、私の姿を見つけるとにっこり笑って大きく手を振った。
「ねーちゃーん!」
ついでに飛び跳ねてまで居る。元気なことだ。私は苦笑して彼に歩み寄る。同僚たちはますます不可解、という顔をした。
「姉ちゃん!」
「どうしたのですか? 今日は何の御用でしょうか?」
首をかしげると、パラサさんはにぱ、と笑う。
「この前はお疲れ様でした、にゅ」
「この前?」
私は首をかしげる。何かあっただろうか。
パラサさんはジェスチャーで私にしゃがむように指示しながら、「耳かしてー」と言う。言われたとおりにすると、彼は耳元で楽しそうに言った。
「海、一緒に行ったっしょ?」
「ああ」
私は頷く。少し前、彼らと共に海まで確かに出向いた。カルプラス伯の船の積荷を回収しに行くという彼らの仕事に無理やりついていっただけなのだが。
「それでね?」
パラサさんはごそごそとカバンの中を探りながら話を続ける。
「手ぇ、出して欲しいにゅ」
「こうですか?」
握手をするように手を出すと、彼は「手のひら上ー」と言って私の手を上に向けさせた。
「これ、あげるにゅう」
そういって、私の手の中に細長くて薄い箱を載せた。あまり重くはない、何の変哲も装飾もない紙の箱だった。ただ、紙自体は硬く、白と桃色でかなり綺麗な箱。
「なんですか?」
「あけてー」
言われるがままにあけると、そこには1本のネックレスが入っていた。ネックレスには彼らが海で回収したときに見せてもらったフレアストーンで作られた小さな花がついていてなかなか可愛い。かなりシンプルなデザインだが、フレアストーン自体が発光するせいか、少々派手でもある。
「これは?」
「ん? これは姉ちゃんの取り分。一緒に海にもぐってもらったし、何回か治癒の魔法使ってもらったっしょ?」
パラサさんは首を傾げて見せた。
「こんな、受け取れませんよ。私は無理やりついていっただけですし、目の前の悪を殲滅するために戦ったのですから。これはあなた方のものでしょう?」
「いいんだにゅ、気にしないで受け取って欲しいにゅ。大して高いものでもないから申し訳ないくらいにゅ」
「しかし」
私は箱の中のネックレスを見る。ピアスを何度か買ったことがあるから、装飾品が安くないのは知っている。それに確か、宝石は何の加工もしてなかった。ここにあるのはネックレスであるから、あの宝石をわざわざ加工したことになる。
しかも今回は宝石自体まず珍しいものであるから「高くない」というのは明らかにウソだろう。尤も、彼らにとっては高くないのかもしれないが。
ともかく、自分の働きが、これに見合っていたとは思えない。
「やはり受け取れません。私はこれを頂くような働きはしていません。無理についていったのですし」
「んー、でも、貰ってもらわないと困るにゅ」
「どうしてですか?」
「んー」
パラサさんはそこで暫く黙った。眉を寄せて、どうやって言えばいいかなあ、などとぼそぼそ独り言を言う。
「もう加工しちゃったから、売っても半額になるだけだし、誰も使わないから、最初の予定通り姉ちゃんが持ってるのがいいにゅ」
「使いませんか?」
「フィリス姉ちゃんはもっと派手なのが好きにゅ。レジィナ姉ちゃんはその石で別のネックレス作ったにゅ。で、オレやはとこやグイズノーやアーチーがソレ持ってたら気持ち悪いっしょ?」
言われて想像してみる。確かにフィリスさんはもっと派手なのがお好みだろうし、レジィナさんが同じようなものを2個も3個も持ちたがらないのも分かる。男性陣が嬉々としてこのデザインのネックレスを使用するとは思えない。
「ええ、まあ、そうですね」
「じゃあ、姉ちゃん使ってね」
「……」
「ホントに高くないから気にしなくていいにゅ。全員納得してるし。……あ、デザインが嫌い?」
「いえ。そういうことは……」
「じゃあ、姉ちゃん使ってね」
「本当に皆さん納得しているのですか?」
「うん。報酬交渉役のはとこが提案したから誰も何にも言わなかったっていうか、フィリス姉ちゃんが大喜びしてたにゅ」
「スイフリーさんが? それになぜフィリスさんが大喜びを?」
不思議なことを言うパラサさんに首を傾げて見せたら、彼は同じように首を傾げて見せた。
「変?」
「別に変とかでは……」
「姉ちゃんがはとこを殺そうってしたのも、監視してたのもホントだけど、でも魔法使って一緒に戦ってくれたのもホントだから気にしないでいいにゅ。はとこも言ってた。『もしあの女がぐだぐだ何やら抜かすようであったら、少々固い頭を柔らかくしたらどうだ、世の中には「それはそれ、これはこれ」という言葉もあるのだ、とか何とかいってやれ』って。そのネックレス分がはとこからの評価分なんだと思うにゅ。はっきりって安すぎだし値切りすぎだし不当だと思うにゅ。姉ちゃんはもっと貰ってもいいはずにゅ」
「はあ」
口を尖らせるパラサさんをまじまじとみて、それからネックレスをもう一度見る。彼ら冒険者の正当評価というのがどういう値段になるのか全く見当つかないが、波風を立たせないためにも貰っておくのがよさそうだ。
「では、遠慮なくいただきます。皆さんに、ありがとうございますと伝えてください」
「わかったにゅ! じゃあ、姉ちゃんまたね! 皆待ってるんにゅ。今からちょっとお城見に行って来るにゅ。また会いに来るにゅ」
最後のほうは物凄い早口で言うと、パラサさんは走っていってしまった。あっという間に見えなくなる。
何処かにこれからまた出かけるらしい。
「皆さんどうかご無事で」
背に呟き、私は仕事に戻る。
後日、このネックレスがかなり高価であることが判明して青ざめるのはまた別の話。
■おまけ・一方その頃■
F 「アンタも素直じゃないわねー。クレアに贈り物したいなら普通に渡せばいいじゃない」
S 「アレは報酬だ、何でわたしがあの女に贈り物せにゃならんのだ」
G 「その割りに真面目にデザインしてたじゃありませんか」
S 「ああいうタイプは宝石のまま貰ったって途方にくれるだけだろうが」
G 「良く見てますよねえ、デザインのときも派手すぎず地味すぎずとか言ってましたし、性格まで。あなたの愛がいつそこまで発展したのか、わたくしとしたことが全く気付きませんでしたよ」
S 「……正当報酬渡して何が悪いんだ」
F 「悪いなんて言ってないわよぅ、ただ良く見てるわねえ、好きなのねえって言ってるだけじゃない」
G 「いつそんなに観察してたんですか。わたくし、あなたの彼女への熱視線に全く気付きませんでした。ああ、勿体無いことをしました」
S 「解呪の時暇だっただけだ!」
G 「そんな前から!」
F 「あんた愛が深いタイプだったのねえ」
S 「……だから!」
A 「スイフリー、口を開くたびに墓穴掘ってるぞ」
2007/07/04