[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
マウナはクレアたちには見えない角度からエキューの背を叩きながら、相手の出方を窺った。
「別に名前くらいいいんじゃない?」
若い女性が、周りを見る。どうやら、彼女が一番普通に話せそうだ。
「まだ完全にアノスに連れて行くと決まったわけではないから、名乗る必要はあまりないと思うが」
とはエルフ。
「でも、依頼人の素性がわかんなかったら、気味が悪いでしょ? だから、名乗るべき」
「そういう考え方もあるか」
エルフは少し口を曲げてからうなずいた。どうやら名乗る、という方向で決まったらしい。「わたしはスイフリーだ」とだけ言う。
「何か無愛想な挨拶ですねえ。あ、わたくし、グイズノーと申します。ラーダの神官をさせていただいております」
小太りの男が、福々しい笑顔とともに言う。笑顔なのに、微妙に怪しいのはなぜだろうか、とマウナは思うが黙っておく。
「オレはパラサ! パラサ・ピルペ・パンにゅ!」
グラスランナーが右手を挙げて、左手で自分を指差しながら言う。初めてグラスランナーと正式に喋ったわけだが、「にゅ」という独特の語尾は何だろうか。グラスランナーは皆こうなのだろうか。後でヒースに聞いてみるのもいいかもしれない。ただ、あの男が正しいことを言うかどうかは、また別だろうけど。
「私はレジィナ。バードだよ」
若い女性がにこりと笑って言う。背中のグレートソードは何なのだ、と突っ込みたいがぐっとこらえる。バードなんだろう、本業は。
「私はフィリス。こっちは使い魔のデイル。ソーサラーよ」
髪の長い女が妖艶に微笑んだ。
「さて」
騎士がこちらを見る。
「とりあえず、連れて行く連れて行かないは別として、君たちの名前をお聞かせ願えるかな?」
「私はイリーナです!」
「いや、知ってるから、君はいい」
アーチボルトがイリーナに手を向ける。「大体のことは調べてきた」と、付け加える。
「イリーナのことを調べたなら、俺様たちのことも分かってるんじゃないのか?」
ヒースが疑いの目を向けると、アーチボルトは苦笑した。
「まあ、隠しても仕方ないだろう。名前くらいは調べてある。大体の戦果もね。が、誰が誰だかは、予想しかできていない」
「予想?」
「例えば、彼女」
アーチボルトはマウナを手のひらを上に向けて指し示す。
「ハーフエルフは彼女だけだから、彼女がマウナさんだろう。それから君」
今度はヒース。
「君はイリーナさんの事を妹分だといっていた。だから、ヒースクリフ君だろう。そういう予想だ」
その説明を聞きながら、本当のところは全員の名前くらい分かっているのだろう、とヒースは予想する。相手の言い分が正しければ、彼らは自分たち同様、アノスの危機を救った英雄ということになる。となれば、いくら国は違うといえどオーファンについてから色々情報を手に入れてから、ここへ乗り込んできた可能性は高い。グラスランナーは生まれ付いてのシーフだから、きっとその辺りからの情報を手に入れているだろう。ノリスもバスもギルドに上納金を納めてはあるから、そんなに情報は出なかったかもしれないが。
そんなことを考えているうちに、仲間はあらかた自己紹介を終えていた。アーチボルトをはじめ相手の冒険者たちは事後確認のようにうなずいているだけだった。
「何かご質問は他にありますか?」
クレアが凛とした声で言う。
「あ!」
イリーナが手を挙げる。
「なんでしょう?」
「アノスって、遠いじゃないですか? 時間ももちろんですけど、お金もかかりますよね? わたし、アノスまでの旅費があるかどうか……」
「新しいグレートソード用の貯金を崩せば?」
「そ、それは……」
眉を寄せるイリーナに、クレアは少し微笑んだ。
「心配要りません。イリーナはアノスの正式な客人です。旅費はこちらもちです。詳しくは封書の手紙をお読みください」
「それって、僕らがついていくのは勝手だけど、僕らの旅費は出ないってことだよね?」
ノリスの言葉に、クレアはうなずく。
「……イリーナ、俺様のことを雇え! アノスからの帰り道に役立つぞ!」
「兄さん……」
恨めしい目をするイリーナと、そのイリーナの肩をバンバンと叩くヒース。
「そっか、お金が出ないのはつらいわね。イリーナが私たちを雇えるとは思えないし……。何せ私たち、相場が高いし」
「マウナまで……」
泣きそうな目のイリーナに、クレアが何か言おうと口を開いたときだった。
「別に、わたしが雇ってもいいぞ」
意外にも提案をしたのはスイフリーだった。クレアどころか、全員がスイフリーを見る。
「一体、どうしたというのですかスイフリー。まさか彼女の窮地を救ってあげたいとか思ったのですか? 悪いものでも食べましたか?」
「あのな……」
本気で心配そうな顔をするグイズノーに、スイフリーは苦い顔をする。
「普通に、わたしは彼らを雇ってもいいなあ、と思っただけだ」
「やっぱり何か悪いもの食べたにゅ。はとこ、パスタの前に何食べた?」
「アノスは遠い。こっちへ来るまでにうっかり一度死に掛けた生命力の低いわたしとしては、単にしたっぱーずが居ると命の危険が減るというだけの話」
「あ、それならわたしだってしたっぱーずを雇いたい」
スイフリーの言葉に、フィリスが手を挙げる。
二人はヒースたちを見た。
「君たちは強いのだろう? そしてアノスへ行ってみたいと思っている。同時に、我々は君たちを雇うことができる。利害は一致したといえるな。但し」
そこでスイフリーは意地の悪い笑顔を向けた。
「君たちがオーファンで英雄だろうが、雇われたからにはわたしの下っ端だぞ」
今日はここまでー。
まだバスしゃべってないー(笑)
■前回の「泡ぽこ」、拍手が5もあった!
何方か存じ上げませんが、ありがとうございます。
……感想などいただけると非常に嬉しいです。
2007/07/17