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一方、VIP室からは退席して、いつものテーブルに戻ったヒースたちもまた、顔を寄せて対策会議の真っ最中であった。イリーナが受け取った封書には厳重に封がしてあった。封蝋にはファリスの聖印が記されている。内容はほとんどクレアが言ったことの追確認で、アノスの法皇が直接イリーナに言葉をかけることであるとか、旅の間の待遇であるとか、その費用がアノスから出ることであるとかが書かれていた。
「護衛のことは書かれてないな」
ヒースはざっと文面を読んで眉を寄せる。
「ファリス様の聖印を持っているクレアさんがウソをついているとでも言うんですか?」
イリーナの抗議の声に、ヒースはため息をつく。
「あのな、イリーナを信じこませるために、意思をひんまげてファリスの聖印を首からかけてるだけかも知れんだろ? 信じてなくても、聖印は首からさげられる。アクセサリー程度の気分かもしれん」
「でも、私たちをだまして、何か得があるかしら?」
マウナは首をかしげる。
「別にお金持ってるわけでもないし。名誉はあるかも、だけど、本当にアーチボルトさんたちがアノスの騎士なら、私たちを倒して名誉をどうの、って考えないよね?」
「むしろそんなことしたら国家レベルの話になるぞ?」
「なんにせよ、クソガキたちがシーフギルドで何かつかんでこないと話しにならん」
「……ノリスとバスじゃ期待薄だぜ、おやっさん」
そこで全員がため息をついた。
「ただいまー」
暫くしてノリスとバスが帰ってくる。二人はテーブルにつくと全員を見渡してから軽い声で言った。
「全然駄目だったよー」
「……やっぱり」
ヒースがぼそりといい、ガルガドが苦い顔をする。
「どう駄目だったのか、聞き方にもよるぞ」
「似顔絵もっていったし、お金も出したんだけどね。とりあえず、本人だろうっていう話までだね。一緒に仕事するのか? って言われちゃったよ」
「やめておけ、といった口ぶりでしたな」
ノリスが出してきた似顔絵は、全員良く似ていた。コレで「本人だろう」という程度にしか話を聞かせてくれないのか、とヒースは内心口をゆがめる。
「先回りされたのかもしれんの。自分たちについて聞きに来ても答えるな、と。バスの言う噂が本当なら、パラサというグラスランナーは高レベルだろう。……高レベルのシーフか……」
「おやっさん、みなまで言うな。コレは俺様のおごりだから飲んでくれ」
遠い目をするガルガドの肩をぽん、と叩きながらヒースはエールを差し出す。ガルガドはソレを飲み干すと、ふう、と大きくため息をついた。
「一週間返事に猶予があるんだから、あの人たちを遊ばせておくっていうのは? 観光するって言っていたんだし、案内するよって言って動向を探る」
「ソレがいいかもしれんなあ」
エキューの提案にヒースは頷く。
「クレアさんを疑うなんて、どうかしてますよ」
「だからな、イリーナ。本当のファリス信者かどうかなんて、まだ分からんだろうが」
ヒースはため息交じりに言うが、イリーナの返事は芳しくない。「うーん」などといううなり声にも似たような返事だけが返ってきた。
「まあ、イリーナがファリス神官として、同じファリス神官を疑いたくない気持ちはわからんでもない。しかしアノスは遠い上に拘束期間も長い。途中にはワシらに目をつけているファンドリアもある。用心するに越したことはない。これは分かるか?」
ガルガドの言葉に、イリーナはうなずく。
「依頼人の裏を取っておくのは、冒険者の基本だ。気分はよくないだろうが、コレも分かるな」
「……分かります」
「返事は期間ぎりぎり粘ろう。その間に、集められるだけの情報を集めるぞ」
ヒースの決定に、全員がうなずいた。
「とりあえず、イリーナやガルガドはいつもどおり神殿でお仕事しててくれなさい。受け持ち仕事の割り振りもあるだろうしな。俺様もハーフェンにちょっくら事情を説明して外出の処理をしとく。ノリスとバスは引き続きシーフギルドとか町の噂とか拾っとけ。毎日ここで落ち合って情報交換だ。各自旅の準備なども進めておかんといけないな、貰いモンの魔晶石だけじゃ旅はできん」
「例えばランタンを複数買っておく、とかね」
一気に俯いて机にのの字を書き始めるヒースを無視して、エキューは続ける。
「とりあえず、僕とノリスとガルガドは情報あつめつつ、あの人たちが街の観光に出かけるとき案内と称して付いていったほうがいいね。街で何かするつもりがあるかもしれない。目を光らせておくのに越したことはないよ」
「私はどうしようか」
マウナは首をかしげる。今のところ課せられた仕事はない。
「出かけないメンバーもいるかもしれん。そっちの見張りだ」
■えー、友人に送っている本編(コレは再放送・笑)のほうが、40話に達しました。
まだ先が見えません。いつ終わるんだ。終わるのか。
ここへきて行き詰ってます。
……スイフリーのバルキリージャベリンが、クレアさんに炸裂しそうです(どんな話だ)
2007/07/24
■3
「それにしてもスイフリーの提案は意外でした。何かあるのですか?」
とりあえず、全員の部屋を取った上でアーチボルトの部屋に全員が集まっている。グイズノーはVIPルームに居るときからずっと不思議だったことを、当のエルフに聞いてみた。
「そうか?」
「そうですよ。口先で言いくるめて無料で付き添わせるのだと思っていました」
「何を言うか。お金はあるときに必要に応じて使うのが基本だぞ」
「それにしてもねえ?」
フィリスが苦笑する。
「私もちょっと意外だった」
「いいか?」
スイフリーは指を立てながら説明する。
「第一に、彼らはこの国の英雄だ。どうも貧乏くさかったがな。そんな彼らを正式なアノス使者である我々が能力を買い叩いたと分かったら信用問題に拘わるだろう。多少過大評価なみに金を払うのは当然だ。……まあ、正当報酬より多少多い程度で彼らは目の色かえていたがな。第二に、冒険者相手であれば、口先で言いくるめるより報酬を払ったほうが丸く収まる。無用な争いをする必要はない。第三に、我々の目標はあくまでイリーナが無事にアノスに到着することだ。金で安全を強化できるなら、それに越したことはない。話が正しければ、彼らは有能だからな。第四に、ここで彼らに恩を売っておけば、今後オーファン方面で困ったことになったときに使えるかもしれん。金づるにはならんかもしれんが、コネの一部にはなるだろう。ヒースという魔術師はここのギルドのエライさんの弟子だしな。これらのことが、高々魔晶石6個で買えたら安いもんだろう」
「ああよかった、悪いものを食べたわけではありませんでしたね」
ほっとするグイズノーの後頭部を、とりあえずスイフリーはひっぱたいてから全員を見た。
「さて、どうする? 多分彼らはわたしたちと来るだろう。彼らの帰りについては予定通りの手段を使うとして、やはりまっすぐ歩いてアノスに向かうか? 今のところあのお方は何もしてきていないわけだが」
スイフリーの答えに、アーチボルトがうなずく。
「ロマールでダークエルフに襲われた程度だな。あのお方としてはぬるい。あれは偶発的な遭遇だろう。何か、策をたくらんでいるだろうな」
「でもその襲撃でうっかりスイフリー死に掛けたよ?」
「ファイア・ボルトがクリティカルしたら仕方ないですよ、エルフは」
「アレは偶発的な事故みたいなものだ」
レジィナとグイズノーの会話に、スイフリーは苦い顔をする。
「策にわざわざ乗ってあげる必要ないんじゃない?」
「甘いぞレジィナ! 相手はあのお方だぞ? 策を持って対抗せんでどうする」
「甘い甘くないなんてどうでもいいよ。安全ならそれに越したことないじゃない。別に策を持って対抗しなくても」
「仕方ないわよ、レジィナ。それが趣味なんだから、そこの男共は」
フィリスは諦めたような顔をして、どこから調達してきたのかワイングラスを傾ける。
「イリーナ姉ちゃんたち、すぐ返事してくるかな?」
「さあ? それは分からない」
「じゃあ、姉ちゃん。明日から一緒に観光しよう~。ファリス神殿見に行くにゅう」
「……」
返事に困るクレアに、アーチボルトはうなずく。
「かまわんだろう。むしろ目立つように各自好きに観光して来ようじゃないか。出発をあのお方に知らせてやるのもまた一興」
「無駄に危ないだけでは?」
眉を寄せるグイズノーに、アーチボルトはにやりと笑って見せた。
「あのお方はファンドリアとロマールに強い。ファンドリアと敵対しているオーファンで、我々とイリーナたちを敵に回すより、自陣に連れ込んで戦うほうを選択するだろう。特にオーファンは冒険者の国だ。我々をつぶすだけなら、オーファンみたいに冒険者という不確定要素が沢山絡んでくる国より、自国や同盟国のほうが断然有利だ。何せオーファンであればイリーナたちに地の利がある。アノスやオランなら我々だな。オーファンとアノスが手を組むのは、あのお方としてもかなり厄介だろうから、多分使節でありことごとく策をつぶしてきた我々を今回は狙ってくるだろう。アノスの騎士がついていながら、オーファンの英雄がどうにかなったりしたら国際問題に発展するしな。こうなると、多分策を弄してくるのはファンドリアかロマールだ。イリーナたちはファンドリアに恨まれているらしいから、ファンドリア策が優勢かと思う。なんにせよ、オーファンで派手に動き回っていたら手を出しにくいのは事実だ」
「そうですかねえ?」
いまだ不安そうな顔のグイズノーは、今度はスイフリーを見る。
「まあ、アーチーの云うとおり、手を出してくるならロマールかファンドリアだろう。こっちへ来るとき手を出してこなかったのは、イリーナがわたしたちと一緒に行動しているときに狙ったほうが何かと問題が起こりやすいからだ。まあ、最悪パターンはアノスとオーファンの断絶だな」
「でも魔法テロリストみたいなヤツが出てくるなら、オレらとイリーナ姉ちゃんのレベルの冒険者があつまってるとやりにくくない?」
「アレは対・国家だから意味がある戦法だ。アノスの弱体化を狙った策であって、個別の冒険者などを狙ったものではない。やってくるなら劇団の時のように、わたしたち個人を狙ってきて、アノスの騎士としての醜聞を作るほうに策を練ってくるだろう。更に国家レベルの話を持ってきたら完璧だ」
「劇団のときなら、サンド君?」
「そうなる」
「来るならどんな策ですかね?」
「流石に分からん。手がかりが少ない」
スイフリーは腕組みをとく。
「とりあえず、イリーナ姉ちゃんたちが何か云ってくるまで、遊んでればいいにゅ」
パラサは椅子からぴょん、と飛び降りると大きく伸びをした。話は終わり、といいたいのかもしれない。
それにしても、とクレアは思う。
ルキアルの陰謀だとか嬉々として話しているわりに、緊張感があまり感じられないのはどういうことだろう。騎士叙勲を受けたとはいえ、所詮アノスはよその国という気分なのだろうか。スイフリーなど、アノスは嫌いな国といって憚らない。それとも、陰謀を退けて国を守る自信があるということなのだろうか。
どちらにせよ、大体の話は自分のあずかり知らぬところで動くのだ、と思うとため息が出た。
■児童生徒さんは夏休みだそうですね。
正直、いくら新装版が出ていても、泡さんたちを分かる人たちは多分児童生徒さんじゃないと思うんですけどね。
まあ、世間は夏休みである、ということで。
泡ぽこのアップを早めます。
通常日記で展開中の「今日のDQ3」と同じく、「月‐金」毎日。
まあ、39本(←今日の分が増えた・笑)有るので大丈夫でしょう。
長い短いの差は有るんですけどね。
あ、寝過ごした日のことは大目に見てやってください。
よく寝過ごしますけど。
2007/07/23
ヒースの顔が引きつる。
「ははは、下っ端とか言うのはかなり正直むかつくが、俺様たちを雇う金が本当にあるのかね? 俺様たち、本当に高いぞ? 最近は」
「変なところだけ正直ね、相変わらず」
マウナの突っ込みをとりあえず無視してヒースはスイフリーに目を向ける。スイフリーは暫く腕組みをして考え込んでいた。
「アノスまで4ヶ月。彼らの実力をかんがみて、一回3万6千くらいか。危険手当と長期保証して、多少色をつけるとして……。はとこの子よ、いくつ持ってる?」
「来るときそんなに使わなかったから、10個かな?」
「フィリスは?」
「そうねー、私もあんまり使わなかったから、8個」
「わたしは7個だ」
何の話をしているのだろうか、とヒースは思う。
「1人1個、6個でどうだ? イリーナは別会計だからな」
「はとこがの分がなくなっちゃうにゅ」
「フィリスに2人したっぱーずを持ってもらうとして、2個出してもらう。私はとりあえず残りの分をだそう。で、はとこの子よいくつか貸してくれ。帰ったら返す」
「別にかまわないけど」
「フィリスは?」
「私はそれで問題ないわよ。足りなくなったらパーティー内で融通しあうのは基本よ」
「では商談は成立だな」
「成立してないでしょう」
エキューがむっとしたように言う。エルフ相手でも、言うときは言えるのだ。
「いや、君たちとではなく、我々の中での商談だ。君たちの事を、わたしたちは雇う準備ができた。いや、もちろん君たちが我々の出す提示額で満足すれば、の話だが」
「で、どのくらいの評価をしてくれたのかな?」
ガルガドの言葉に、スイフリーは答える。
「魔晶石を1人1個ずつだ」
「魔晶石!」
一瞬全員の背が伸びるが、すぐにヒースが「いやいやいやまてまてまて、だまされないぞ」と声を上げる。
「だます?」
「実は1個1点ですとかいうオチだろう!」
びしりとスイフリーに指をつきつけて、ヒースは勝ち誇った笑い顔を浮かべる。
「そんなこと言ってだますやつは邪悪なり、だ」
スイフリーは苦笑して、無造作にカバンに手を突っ込むとそのまま机の上に魔晶石をばら撒いた。その魔晶石に、全員の、特にヒースの目が釘付けになる。そこに無造作にばら撒かれた魔晶石は、見慣れた小さなものとは違う。大陸でもめったにお目にかかれないほどの高純度にして大粒の魔晶石だ。しかもそれが、大量にある。
「1個20点を6個。イリーナは我々の護衛対象であって雇う対象ではないからな。買値は24万といったところだろう。売値で言えば半額だが、売って山分けでも物を山分けでも、それは君たちの自由だ。本当に、アノスまで付いてくるなら、わたしとフィリスの護衛という名目でコレを報酬として払おう」
言いながら、ささっと素早くスイフリーは魔晶石を回収した。
「返事は1週間以内だ。わたしたちはこのままこちらの宿に厄介になるから、行くにせよ行かないにせよ、返事をくれたまえ」
VIPルームに取り残された面々は、全員で顔を見合わせた。
「魔晶石……あんなに……初めて見たわよ、あんな大きいの。あんな数も……」
「マウナさんしっかり!」
「しかも、彼らの口ぶりからいうと、パラサというグラスランナーが10個、フィリスという魔術師が8個、スイフリーというエルフが7個、計25個持ってることになるぞ?」
「そりゃ10個くらいなんでもないのかもねー。帰ったら借りた分返すって言ってたし」
「皆はもらえるからいいじゃないですか。私は別会計という名の下、無収入です」
「いや、報酬よりいい待遇かもしれんぞ?」
「ねえ、アノスってそんなにお金持ちな国なの? ファリスは食わねど高楊枝じゃなかったの?」
「それはイリーナだけだ」
「いやいや、多分彼らは特別ですぞ」
「バスさん、何か知ってるの?」
「アーティストとして、彼らの噂を聞いたことはありますぞ」
「どんな噂ですか? やっぱり、ファリス様の騎士として、ステキな功績とか!」
「そういう話は聞かないですな」
「じゃあ、どういうのだ?」
「とりあえず、私が聞いた彼らの話としては、まず、メンバーは間違いありません。クレアという女性神官は、彼らの仲間ではありませんから、彼女の護衛に来たというのも間違いないでしょう。アーチボルトさんはあのローンダミスと同等といっていい力量の持ち主です」
「そ、それは戦ってみたいです」
「腕相撲くらいにしとけ、イリーナ」
「レジィナさんも似たような強さで、しかもバードとしての能力も一流です。パラサさんはその気は全くないでしょうけど、盗賊ギルドの頭目とやりあっても余裕でしょう。小さな規模の盗賊ギルドであれば、もしかしたら頭目でも一撃かもしれません」
「そんな風には見えなかったけどなあ」
「グラスランナーはそういう序列などには興味がないでしょうからな。グイズノーさんはラーダの高神官です。あまり重用はされていないようですけど。アノスという国柄かもしれませんな。それからフィリスさん。彼女も導師級の力の持ち主です」
「俺様だってそうだぞ」
「試験で落ちてますけどね」
「だったら、そのフィリスだって同じじゃないか。冒険者してるってことは、そういうことだろう」
「目指してないだけかもしれんがな」
「エルフさんは?」
「精霊使いとしても戦士としても一流のようです。一行の参謀だという話もあります。で、全員あまり良い噂は聞きません」
「え? 例えば、どういう話ですか?」
「金にがめつい、悪趣味、厚顔無恥、などですかね。スイフリーさんにいたっては、付け耳疑惑であるとか、ダークエルフ疑惑であるとか」
「肌、白かったわよ」
「理由は私はわかりませんぞ」
バスは苦笑する。
「とりあえず、魔晶石はちょっとかなり魅力だ。受けてもいいような気がしないでもない」
「ではとりあえず、盗賊ギルドですかな」
■ようやくバスがしゃべったが、しゃべったらしゃべったで、なんか口調が怪しい(苦笑)
■最近拍手をしていただいてるなあ、嬉しいなあと思っておりましたら、なんとうちのようなブログにリンクをしていただいておりました。
しかも日参させていただいておりますサイト様で(ブックマークなどはマメにチェックしないので気づくのが大層遅くなったのです)
ありがとうございますありがとうございます。
皆様Halcyon様へれっつごー。
うあああああ、どうしよう、もっとヒース兄さんを格好良く書かねば!
しかし実はこの文章は友人にメールで送っているのを時間差でアップしているだけで、実際のお話はもう38話だったりするからもう軌道修正はきかない!(笑)しかたなし!
2007/07/20
マウナはクレアたちには見えない角度からエキューの背を叩きながら、相手の出方を窺った。
「別に名前くらいいいんじゃない?」
若い女性が、周りを見る。どうやら、彼女が一番普通に話せそうだ。
「まだ完全にアノスに連れて行くと決まったわけではないから、名乗る必要はあまりないと思うが」
とはエルフ。
「でも、依頼人の素性がわかんなかったら、気味が悪いでしょ? だから、名乗るべき」
「そういう考え方もあるか」
エルフは少し口を曲げてからうなずいた。どうやら名乗る、という方向で決まったらしい。「わたしはスイフリーだ」とだけ言う。
「何か無愛想な挨拶ですねえ。あ、わたくし、グイズノーと申します。ラーダの神官をさせていただいております」
小太りの男が、福々しい笑顔とともに言う。笑顔なのに、微妙に怪しいのはなぜだろうか、とマウナは思うが黙っておく。
「オレはパラサ! パラサ・ピルペ・パンにゅ!」
グラスランナーが右手を挙げて、左手で自分を指差しながら言う。初めてグラスランナーと正式に喋ったわけだが、「にゅ」という独特の語尾は何だろうか。グラスランナーは皆こうなのだろうか。後でヒースに聞いてみるのもいいかもしれない。ただ、あの男が正しいことを言うかどうかは、また別だろうけど。
「私はレジィナ。バードだよ」
若い女性がにこりと笑って言う。背中のグレートソードは何なのだ、と突っ込みたいがぐっとこらえる。バードなんだろう、本業は。
「私はフィリス。こっちは使い魔のデイル。ソーサラーよ」
髪の長い女が妖艶に微笑んだ。
「さて」
騎士がこちらを見る。
「とりあえず、連れて行く連れて行かないは別として、君たちの名前をお聞かせ願えるかな?」
「私はイリーナです!」
「いや、知ってるから、君はいい」
アーチボルトがイリーナに手を向ける。「大体のことは調べてきた」と、付け加える。
「イリーナのことを調べたなら、俺様たちのことも分かってるんじゃないのか?」
ヒースが疑いの目を向けると、アーチボルトは苦笑した。
「まあ、隠しても仕方ないだろう。名前くらいは調べてある。大体の戦果もね。が、誰が誰だかは、予想しかできていない」
「予想?」
「例えば、彼女」
アーチボルトはマウナを手のひらを上に向けて指し示す。
「ハーフエルフは彼女だけだから、彼女がマウナさんだろう。それから君」
今度はヒース。
「君はイリーナさんの事を妹分だといっていた。だから、ヒースクリフ君だろう。そういう予想だ」
その説明を聞きながら、本当のところは全員の名前くらい分かっているのだろう、とヒースは予想する。相手の言い分が正しければ、彼らは自分たち同様、アノスの危機を救った英雄ということになる。となれば、いくら国は違うといえどオーファンについてから色々情報を手に入れてから、ここへ乗り込んできた可能性は高い。グラスランナーは生まれ付いてのシーフだから、きっとその辺りからの情報を手に入れているだろう。ノリスもバスもギルドに上納金を納めてはあるから、そんなに情報は出なかったかもしれないが。
そんなことを考えているうちに、仲間はあらかた自己紹介を終えていた。アーチボルトをはじめ相手の冒険者たちは事後確認のようにうなずいているだけだった。
「何かご質問は他にありますか?」
クレアが凛とした声で言う。
「あ!」
イリーナが手を挙げる。
「なんでしょう?」
「アノスって、遠いじゃないですか? 時間ももちろんですけど、お金もかかりますよね? わたし、アノスまでの旅費があるかどうか……」
「新しいグレートソード用の貯金を崩せば?」
「そ、それは……」
眉を寄せるイリーナに、クレアは少し微笑んだ。
「心配要りません。イリーナはアノスの正式な客人です。旅費はこちらもちです。詳しくは封書の手紙をお読みください」
「それって、僕らがついていくのは勝手だけど、僕らの旅費は出ないってことだよね?」
ノリスの言葉に、クレアはうなずく。
「……イリーナ、俺様のことを雇え! アノスからの帰り道に役立つぞ!」
「兄さん……」
恨めしい目をするイリーナと、そのイリーナの肩をバンバンと叩くヒース。
「そっか、お金が出ないのはつらいわね。イリーナが私たちを雇えるとは思えないし……。何せ私たち、相場が高いし」
「マウナまで……」
泣きそうな目のイリーナに、クレアが何か言おうと口を開いたときだった。
「別に、わたしが雇ってもいいぞ」
意外にも提案をしたのはスイフリーだった。クレアどころか、全員がスイフリーを見る。
「一体、どうしたというのですかスイフリー。まさか彼女の窮地を救ってあげたいとか思ったのですか? 悪いものでも食べましたか?」
「あのな……」
本気で心配そうな顔をするグイズノーに、スイフリーは苦い顔をする。
「普通に、わたしは彼らを雇ってもいいなあ、と思っただけだ」
「やっぱり何か悪いもの食べたにゅ。はとこ、パスタの前に何食べた?」
「アノスは遠い。こっちへ来るまでにうっかり一度死に掛けた生命力の低いわたしとしては、単にしたっぱーずが居ると命の危険が減るというだけの話」
「あ、それならわたしだってしたっぱーずを雇いたい」
スイフリーの言葉に、フィリスが手を挙げる。
二人はヒースたちを見た。
「君たちは強いのだろう? そしてアノスへ行ってみたいと思っている。同時に、我々は君たちを雇うことができる。利害は一致したといえるな。但し」
そこでスイフリーは意地の悪い笑顔を向けた。
「君たちがオーファンで英雄だろうが、雇われたからにはわたしの下っ端だぞ」
今日はここまでー。
まだバスしゃべってないー(笑)
■前回の「泡ぽこ」、拍手が5もあった!
何方か存じ上げませんが、ありがとうございます。
……感想などいただけると非常に嬉しいです。
2007/07/17
クレアにつれられてVIPルームに入る。別に入るのは初めてではないが、やはり緊張する。ここにつれてこられるということは、相手がかなりの地位があるか、金をもっているか、その両方かのいずれかであり、そういう相手の依頼というのは得てして危険極まりないことが多い。
「あの、席が違いませんか?」
VIPが座るほうの席を勧められ、イリーナが困惑した声を挙げる。
「いえ、コレで正しいです」
クレアたちが普通は依頼を受ける冒険者が座るほうの椅子に腰掛け、イリーナたちは依頼者が座る椅子に腰掛ける。ふかふかのかなりいい座り心地の椅子に、全員妙に緊張する。結局全員が部屋に入っていた。
クレアはイリーナたちを一度見渡してから、話し始める。
「私は先ほども申しましたが、クレア・バーンロードと申します。アノスで神官騎士をしておりました。現在はある城で名代をやっております」
城!
その単語に、マウナをはじめ全員が背筋を伸ばす。それと同時に、一体何が自分たちに起こるのだろうかとかなり不安な気分になったのも確かだ。
「そして、こちらはアーチボルト・アーウィン・ウィムジー卿です。アノスの騎士で、今回の任務にあたっては私の身を守ってくださっています」
クレアは隣に唯一座っている男性を紹介する。他の冒険者は立っているからだ。
「騎士って、一人だけ? 貴女を信じていい理由は?」
エキューが率直に言う。
「ファリス様の聖印を身に着けている人に悪い人は居ません!」
イリーナがエキューを振り返る。
「いや、イリーナ的にはそうかもしれないけどさ」
エキューが困惑して答えるが、アノスの騎士たちはそれほど驚いた表情はしていなかった。予想済みの反応なのだろう、と判断する。
「我々は元はオランの冒険者でね、君たち同様アノスの危機を多少救った功績が認められて騎士に叙勲してもらったのだよ。ご存知の通り、アノスからオーファンは遠いのでね、少数精鋭でこちらに来させてもらった。君たちが疑う気持ちは分かるが、護衛の騎士が少ないことに、それ以上の理由もそれ以下の理由もないよ」
アーチボルトと呼ばれた騎士が答える。「多少」で騎士にはなれないだろうから、多分コレは謙遜なのだろう、とヒースは判断した。
「イリーナ、貴女の噂はアノスにまでたどり着いています。マイリー信仰の土地において、ファリスの教えを広めた功績が法皇様のお耳に届きました」
何がどう伝わったらそうなるのだろう、と全員が思ったが黙っておく。
「そこで」
クレアは一枚の封書を取り出すと、イリーナの前に差し出した。
「法皇様が、じきじきに貴女に会いたいとのことです。我々は使者であり、アノスまでの道の護衛としてまいりました」
「えええええ!?」
予想外の展開に、イリーナたちはただ悲鳴を上げるしかなかった。が、それをも織り込み済みなのか、騎士含みの冒険者たちは涼しい顔をしている。
「ああああああああの、本当の話ですか!?」
なぜかマウナが声をあげたが、クレアは気にせずうなずいた。
「法皇様の名を騙ってウソを言ったりしません。封書も本物です。内容はイリーナに読んでいただくとして、お返事は1週間以内にお願い致します」
「そんなに猶予をくれる理由は何だ?」
ガルガドの鋭い視線に、騎士がすこし笑って答えた。
「旅立ちの準備には時間がかかるだろう? 特にイリーナ殿は高名な神官戦士なのだから、仕事を割り振るのも大変だろう。それに、我々とてはるばるオーファンまで来たのだから観光くらいはしたい」
「じゃあ、1週間後には返事をすればいいんだな」
ヒースの言葉のあとに、ノリスが続いた。
「ところでさあ、僕ら話聞いてノリノリになってるけど、呼ばれてるのイリーナだけだよね? 僕ら、ついていっていいの?」
はっとして全員がアーチボルトとクレアを見る。
「ついてくるのを止めたりはしないが……」
「うわーい、じゃあ、僕ついていこうかなー!」
「そして二度と帰って来んでもいいぞ」
「ひどいよガルガドー!」
「それより、あのさあ、騎士さん以外の名前を聞いとくとか、色々あるでしょ皆。特にエルフさんとかエルフさんとかエルフさんとか」
エキューの言葉にグラスランナーは噴出した。
「はとこに興味持つなんて変にゅ」
「ああ、気にしないでください、この子はエルフと見れば大体こんな感じです」
「そんなことないよマウナさん、ハーフエルフもばっちりです!」
■今日はここまでー。
14人もいると話さない人だらけだー(笑)
そしてアーチーはもっと偉そうだー(笑)失敗したー。
暴露。
バスはまだしゃべってない(笑)
2007/07/11