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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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Lovesick  目次
■Lovesick 内容紹介■
スイフリーとクレアがくっつくまでの話。
ごちゃごちゃ遠回り気味。
気付けば裏テーマは「グイズノーの株を何処まで上げられるか選手権」みたいになってます。
つまり、グイズノーがいい人です(苦笑)
あと、パラサが大人です。
なんでそうなったんだ。
2008/01/23完結。


■Lovesick 目次■

01 理想 / 理屈  「やめとけばいいのにな、わたしなんか。変な女だ」
02 幸 / 不幸    「わたしはお前ほどパッショネイトじゃないんだ」
03 一瞬 / 永遠  「かたっぽだけ長生きなのって、残るほうと残すほう、どっちが不幸?」
04 善 / 不善    「クレアさんは? 小さい頃、何になりたかった?」
05 好 / 嫌      「聞かれてませんから」
06 要 / 不要    「ええ、そうですよ。その上で、彼らには究極の命題ですよ」
07 質疑 / 応答   「考えることについて、わたしが止める権利はない」
08 壁 / 時間    「そんな決着の付け方したら、俺ははとこの首を掻っ切る」
09 認 / 不認    「おまえ、それは逆恨みってやつだ」
10 迷 / 着      「え、なぜなんでしょうか?」
11 冷 / 熱      「そんなもん、負わせるわけにはいかない」
12 落ちる / 分かる 「喋ってみたら、結構いろんなことが簡単になるにゅ」
13 裏 / 表      「迷惑だとは言ってないみたいですよ」
14 愛 / 憎      「殺す気か! はとこの子の子の子の玄孫!」
15 理性 /       「貴方は、私を、どうお思いですか?」
16 / 感情       「嫌いではない」
17 最愛 / 永遠   「そっか、それは残念……」
18 ななつ / こころ 「善処する」

拍手[2回]

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テーブルの上に並べられた、様々な品物を片付け、彼女は一度大きく息を吐く。
「今回も沢山いただいてしまって、いいんでしょうか?」
「気にせんといてー」
目の前のグラスランナーはニコニコと晴れやかな笑みを浮かべると、片付いた品物をいくつか手に取った。
「これ、部屋に運ぶんしょ? オレ、一緒に行くにゅ」
「あ、すみません」
先に立っていってしまうグラスランナーの背に声をかけ、立ち上がる。テーブルの上に残されたいくつかの品物を手に取ると、彼の後を追うべく歩き出す。
「クレア」
少し離れたソファで何かを読んでいたエルフから声がかかり、彼女は足を止めた。
「御用ですか?」
尋ねると、彼は手招きをして見せる。立つつもりはないらしい。仕方がないので、彼女は荷物を持ったまま、彼の座るソファへと近寄った。
「何でしょうか?」
再び尋ねる。彼は読んでいる本を左手で持ったまま、無造作にポケットに右手を突っ込み、その後その手を拳にして彼女に突き出して見せた。何かを持っているらしい。
「何ですか?」
「手、出せ」
言われたとおり手を差し出すと、彼は手の中のものを彼女の手に落とす。
「やる」
それだけ言うと、彼は再び本を開いて読書に戻って行く。
手の中を見ると、指輪が一つ。
色とりどりの宝石が7つ並んだ、シンプルなデザインの指輪。
「ええと……」
意図が分からず、彼の顔を見る。彼は本に目を落としたまま「土産。たまにはいいだろう」とこちらを見もしないまま答える。
「はあ」
呆気にとられつつも、彼女は持っていた荷物をテーブルに置くと、貰ったばかりの指輪を見た。特に刻印があるわけでもない。至ってシンプルな、意図のなさそうな指輪。
「ありがとうございます」
なんとなく納得行かないような気持ちを抱えつつ、左手の薬指にはめてみた。
しかし、サイズが合わず、すぐに落としてしまいそうだった。
仕方ないので中指にはめてみたが、今度もサイズがあわない。少しだけ、小さい。頑張ればはまらないことはないが、はめたが最後抜けなくなりそうだ。親指と小指は論外として、左手の人差し指のみならず右手でも試してみたが、結局サイズの合う指は見つからなかった。
「……」
思わずエルフを見る。こちらに興味がないのか、本に熱中したままだ。


サイズも知らないのだ、と思うと少し寂しい。
しかしそれ以上に、指輪をもらえたのが嬉しい。
仕方ないので、落とさないよう気をつけることにして、左手の薬指にはめた。

 

小さな金属音に慌てて足元を見る。
幸い、すぐそこに落としたものを発見することが出来た。彼女は慌ててそれを拾うと、左手の薬指にはめる。
アレから半日。
指輪をはめているという慣れない状況の上、サイズも合っていないため、もう何度落としてしまったか分からない。このままではなくすのも時間の問題だろう。
それだけは絶対に嫌だ。

「スイフリーさん」
相変わらずソファで本を読んでいたエルフに声をかける。
「何だ」
「お話が」
本に目を落としたままこちらを見ないエルフに、彼女は話しかける。エルフが彼女を見た。本を読んでいるのを邪魔したが、特に怒った様子はない。
「何だ」
「指輪なんですけど、サイズが合わないので、明日村に行って細工師の方にサイズを直していただこうと思います」
彼が彼女を見上げる。どことなく不機嫌そうだ。が、サイズが合わないものを渡したのは彼のほうなので、彼女はひるむことはない。
「ちょっと待ってろ」
それだけ言うと、彼は部屋から出て行ってしまった。
「?」
その背中を見送り、暫らく待つ。が、一向に彼が現れる様子はない。もしかして逃げられたのではないだろうか、と思い始めた頃、エルフが戻ってきた。
「何ですか?」
少し声がきつくなっているのを意識しながら、彼女はエルフを見る。
「やる」
再び、手の中に何かが落とされる。じゃらり、と音がした。
見ると、銀の鎖が一本。
「何ですか?」
「ネックレス。コレに通して、首からかけとけ」
「指輪をですか?」
「そう」
「このネックレスはどこから出てきたんですか?」
結構な重量を感じさせる鎖に、彼女は首をかしげる。シンプルな鎖で、コレといった特徴はない。
「普段わたしはシルフちゃんをペンダントに入れて歩いているわけだが、まあ、戦闘になると鎖が切れることもある。その予備だ」
「はあ……」
ちょい、と首の辺りから鎖を持ち上げて見せる。似たような鎖が光っていた。
「頂いても?」
「かまわない」
「サイズを直すほうが早くないですか?」
「もともと、指輪をする習慣がないのだろう? だとしたらあると割と邪魔だぞ」
「そうでしょうか?」
「それに」
「?」
「……サイズの合わんものを渡したというのが村に広まるのが耐えられん」
「……ああ」
妙に納得して、彼女は頷いて見せた。
「では、鎖を頂くことにします。今度は合うサイズのものでお願いします」
「善処する」
返答を聞きながら、指輪を鎖に通して首からさげる。
考えてみれば、揃いのものを持てるようになったのだから、よかったのかもしれない。
少し、嬉しい。
「ありがとうございます」
「気にするな」

 


「で」
グラスランナーは遠慮なくエルフのベッドに寝そべって、部屋の主を見上げる。
「渡したん?」
「まあ」
「ふぅん」
にやにやと笑っているグラスランナーから、エルフは目をそらした。
「姉ちゃん、喜んでた?」
「いまいち」
「そりゃまあ、そうにゅ。……普通に渡せばいいのに」
「ほっとけ」



■番外編、みたいな。水曜日ですから。


例の指輪を渡すシーンは、やっぱり書いておいたほうがいいかな、とか思ったので書いてみました。
それ以上に深い意味は御座いません。

どうもこのシリーズのおかげで、最近思いつくスイフリーとクレアの話が全て「まとまった後」になって困ります(笑)
そりゃスイクレ好きとしては、まとまっていてくれることに越したことはないんですけど(そしてまとまってるくせにあんまり態度が変わらないのがすきなんですけど)なんか、そういうのは公式から外れるわけで、ちょっと公開しにくいなあとか思う今日この頃です。

これだけかいといて、今更何を言うか。みたいな話なんですけどね。

拍手[1回]

最愛 / 永遠
大広間の、一番日当たりの良いソファに座って、神官が編み物をしているのを発見する。彼女はにま、と笑うと、その正面に座った。
そのソファを一番気に入っているエルフは、現在城にいない。しかし、コレまで誰も、城にエルフが居ようが居まいが、あまりそのソファに座ろうとはしなかった。
そのソファに神官が座っているだけで、彼女はもう嬉しくてたまらない。
「クレア」
声をかけると、神官が顔を上げた。
「フィリスさん……、ちょっとお待ちください」
神官はきりの良いところまで編み進め、それから本格的に顔を上げた。
「何か御用ですか?」
「ううんー、別にー。それ、スイフリー宛?」
「いえ、リズです」
即座に否定された。
とはいえ、神官が編んでいる毛糸はきれいなピンク色だったから、もとよりエルフ宛だとは期待していなかった。だから、そんなにショックはない。
「リズかー。もー、色気ないんだから。スイフリーには何あげるの?」
「別に頼まれてませんから、特になにも」
「そういうのは頼まれてなくても編んでプレゼントするのよ!」
「……そういうものですか」
「そうよ!」
彼女は胸を張って断言する。尤も、彼女自身は一度も最後まで編み物を成功させたためしがないから、その作戦はとうの昔に諦めたのだが。
「……そういうものなんですね」
神官は神妙な顔をして手元の毛糸を見る。
「なんなら、麓の村まで毛糸買いに行くのつきあうわよ!」
興味津々の顔を向ける彼女に、神官は苦笑して見せた。
「いえ、いいです。プレゼントするならもっとこう……」
神官はそこまで言いかけて、しかし最後までは言わなかった。言葉に言い表せない、ということかもしれない。
「もっと、何?」
不用意に彼女の好奇心をつついてしまったのだ、と神官が気付いた頃にはもう遅い。彼女はその形の良い唇に笑みを浮かべ、神官をじっと見据えている。
多分、中途半端な、彼女に納得の行かない答えではいつまでたっても開放してもらえないだろう。
「なんというか……もっと、形の残るものがいいです」
観念して答えると、彼女は眉を寄せた。
「どうして? 編み物のほうが、ココロがこもってるじゃない?」
編み物や機織ならば、女性のたしなみ、ということで幼い頃に習わせる家庭もある。神官が編み物を出来るのも、つまりそういうことだろう、と彼女は推測した。
しかし、形の残るものとすれば、金属だとか専門的なものを扱うことになるだろう。その能力を神官が持っているとは思えない。つまり、彼女はプレゼントを買って済ませよう、ということだ。
それが、彼女には納得できない。
「その……」
神官は少し頬を赤らめると、彼女から目をそらした。それからぼそぼそと小声で答える。
「つまり……毛糸はどれだけていねいに扱ってもらっても、そのうち虫に食われることもあるでしょうし、何処かに引っ掛けたら解けます」
「だから?」
少し声がキツイ。神官は遂には俯いて、彼女から完全に顔を背け、答える。
「そういう、生きているうちに何度でも渡せるものは、後回しでもいいです。勿論、ほしいと言われれば用意しますし、全然意味がないとは言わないんですけど……。いつか私がファリス様の下に召されたあとも、ずっと残って、持っていてもらえるもの、もしプレゼントするならそういうものを優先して、たくさん渡したいんです」
彼女は神官をまじまじと見つめた。
神官は、いまだ顔を伏せたままでこちらを見ては居ない。
ただ、どことなく、寂しそうに見えた。
 
 
生きる時間が違うものを、好きになるということはこういうことなんだろうか。
ずっと先を、自分が居なくなった未来を見据えて。
同じように進まない時間を、突きつけられながら生きていく。
 
 
今ならエルフが逃げ腰だった意味が分からないでもない。
 
 
彼もまた、同じように進まない時間を突きつけられていく。
神官と居る時間など、エルフにとっては一瞬だろう。
その後の長い長い空白。
 
背負わせるにも、背負うにも、重い。
 
 
けれど。
 
 
彼女は立ち上がると、神官の傍まで歩く。
「ねえ」
声をかけると、神官が顔を上げた。恥ずかしそうにまだ目をそらしているし、顔も赤い。が、彼女はそんなことはお構い無しに神官をぎゅっと抱きしめた。
「クレア、あんたすっごい可愛い。あの性悪エルフには勿体無かった!」
「性悪……」
神官が少し気を悪くしたような声で言う。確かに、他人の恋人を捕まえて評する言葉ではなかった気がするが、まあ、概ね真実だから仕方ない。
彼女は勤めて明るい声を出す。
確かに、そう遠くない未来、彼らには重い現実がのしかかるかもしれない。けれど、今幸せであるのも、また事実なのだ。
だとしたら、喜んであげるべきであるし、また、単純に興味もある。
あのエルフが、この神官に、どういう言葉をかけているのか。何をしているのか。
甘い言葉の一つも、吐いたのだろうか。
 
「で? で? スイフリーからは何か貰った?」
「……指輪を」
「え! ホント!?」
神官の返答に彼女は驚き、すぐさま神官の手をとり指を確認する。
あのエルフが、そういう系統のプレゼントをすぐさまするとは思っていなかったから、その衝撃はかなり大きい。
が、神官の指には指輪は光っていなかった。
左手の薬指だけではなく、全ての指において。
「ないじゃない」
「それがその……しようにもできないというか」
「どういうこと?」
よほど妙なデザインなのだろうか。それとも指輪は指輪でもコモンルーンというオチなのだろうか。どちらにせよ、今度エルフに会ったら説教の一つもしてやらなければ。
彼女が頭の中でそういうことを考えているとは、神官は思いもよらないだろう。すこし苦笑して、続ける。
「サイズが合わないんです。どの指にも。微妙に大きかったり小さかったりで」
その言葉を聞いて、とりあえず彼女はにっこりと笑顔を作る。
少なくとも、この神官はプレゼントされた指輪を身につけようとしたわけだ。これで非は完全にエルフだけにある。
とりあえず、平手打ちで許しておこう。吹っ飛ぶかもしれないけど。
考えながらも、笑顔は崩さない。
「そっか、それは残念……」
言いかけて、彼女はふと思い出す。
仲間のグラスランナーは、何度もこの神官に贈り物をしている。それは美しい布だったり、絵葉書だったり、アクセサリーだったりと様々だ。その、アクセサリーの中に確か指輪も含まれていたはず。
「ねえ、パラサに指輪貰ったことなかったっけ?」
「有ります」
「サイズ、どうだった?」
「ぴったりでしたけど」
彼女は少し考える。
つまり、エルフは彼女の指に合う指輪を買う方法はあったわけだ。グラスランナーに尋ねるというのはエルフとしてはかなり屈辱的かもしれないが、合わないものを渡すより、断然良い。しかも、無駄なものを嫌うエルフのことだから、使えないものを渡すなどということをするとは思えない。
 
何かある。
 
直感し、尋ねる。
「ねえ、どんな指輪だったの?」
「コレです」
指輪はあっさりその場で見せられた。何のことはない、神官は指輪を銀のチェーンに通して、ネックレスとして身に着けていたのだ。服のなかに隠れていたから気付かなかったのだ。
「ちょっと見せて」
「わかりました」
神官はネックレスをはずすと、彼女に手渡す。
彼女はそっと受け取ると、それを観察した。
チェーンはただ銀色にメッキされたワケではなく、きちんとした銀細工で、質の良いものを使ったものだった。重さも結構あり、しっかりとした作りであるのが分かる。多分、その辺で市販されているものではなく、作らせたものだ。
そしてそのチェーンに通された指輪も、土台は銀だった。赤や緑、紫など色とりどりの宝石が7つ、きれいに並べてはめられている。土台である銀も、はめられた宝石も質が良い。
彼女は指輪をもう一度見て、やがてにっこりとクレアに笑いかけた。
「ねえ、このチェーンのほうはどうしたの?」
「コレも頂いたんです。指輪がどうしても指に合わないから作り直してもらうことを提案しましたら、だったらこれに通して首からかけてろ、と」
「ははーん、なるほどねー」
にやにやと笑う彼女を、神官は不思議そうに見つめる。
「どうしたんですか? フィリスさん?」
「ねえクレア、コレは私の予想なんだけど、あのエルフ、わざわざアンタの指に合わない指輪を作らせたのよ」
「なぜですか?」
納得行かない、という顔で神官は彼女を見た。
「この指輪、意味聞いた?」
「意味? いえ、特には。『やる』と言われて手渡されたので」
その様子を想像して、彼女は笑う。
意味を知っていたらどうしようと内心気が気ではなかったのではないだろうか。
もっとも、エルフがもともと意味を知っていたとは思えない。きっと宝石商に適当に見繕わせたとき、意味を聞いた程度だとは思う。
しかし、コレを選ぶなんて、ね。
「意味があるんですか?」
神官は指輪をしげしげと見つめる。特に刻印があるわけでもない、少し宝石が多いのが特徴の指輪だ。
「一番左は、この透明ね。ダイアモンド」
「……!」
宝石が何かまでは気に留めていなかったのだろう、神官は少し驚いたような顔をする。
「次の緑はエメラルド。その次の紫はアメジスト。次の赤はルビーで、その隣の緑は、もう一回エメラルド。次に続く青いのがサファイアで、最後の淡褐色がトパーズ」
彼女は、神官の手の中の指輪についた宝石を、一つ一つ指差しながら説明する。
「宝石の、頭文字を並べてみなさいな」
「頭文字? ……ええと、ダイアモンドですから、D。次がエメラルドのEで……A、R、E、S……」
最後の一文字までは声に出せず、一瞬で神官の顔が赤くなった。
「ねー? あのエルフ、持っていて欲しいけど、堂々と指にはめられたら恥ずかしいからこんな回りくどいことしたのよー!」
彼女は笑うと神官の顔を見る。
「……最愛なる人、かあ。私もアーチーに言われたいわぁ」
硬直したままの神官の手から、そのネックレスを取ると、彼女は神官の首にかける。
重い想いがこめられた、プレゼントを。
 
 
「クレア。あんたは永遠を手に入れたのよ」





■ちょっと蛇足気味では有りますが、「その後の彼ら」みたいな感じで読んでいただければ。


と、言うわけで、長々と書いてまいりました「Lovesick」は今回でおしまいです。

いちゃべたしない二人のお話に(キスすらしないのは当初からの予定でした)、
長々とお付き合いくださいまして、有難う御座いました。

拍手[1回]

/ 感情
 「クレアの気持ちは分かった。が、わたしはそれを受け取れない。それがわたしの答えの全てで、それ以外の答えの持ち合わせはない」
「私の今の問いかけには答えになりません」
「受け取る気持ちが無い以上、わたしの感情がどこに存在していてもそれは関係のない話だ」
「受け取っていただけないのはどうしてですか?」
「何度も答えたと思うが。エルフと人とは幸せになれないからだ」
「やってみないとわかりません」
随分前と同じ返答に、彼は内心苦笑する。
こういう展開なら、多分上手く諦めさせることが出来るだろう。
「分かる。なぜなら、幸せにしているエルフと人を見たことが無い」
「これから見るかもしれませんし、知らないところに入るのかもしれませんよ」
「その理論は証明不可能だから却下だ」
「では、貴方の言っていることも証明不可能ですよね?」
「……」
「それに、もしかしたら貴方と私がその最初かもしれません」
「違う可能性のほうが大いに高い」
「幸せになれないから、ダメなんでしょうか?」
切り口が変わった問いかけに、彼は少し戸惑いながら返答する。
「それ以外に何が?」
「私だって、そう子どもでは有りません。私が好きだからといって、貴方が私を好きであるとは限らないことくらいは分かります。ですから、貴方自身が私を嫌いなのであれば、それは仕方ないことですし、時間をかければ諦められる日もくるでしょう。でも、貴方は、幸せになれないからダメだと答えるだけで、私自身がどうである、とは答えてくれていません」
「……」
「幸せになれなくてもいいから、というのではダメですか?」
「どうせなら、幸せになるほうがいいじゃないか」
「どうしてエルフと人では幸せになれないんですか?」
「ちょっと考えれば分かるだろう。生きる時間が違う。どちらか一方だけがどんどん年老いていくというのは、残酷な話だろう。年老いていくほうは、全く変わらない相手に時間の隔絶を思い知らされる。そして変わらないほうは、変わっていく相手についていけないだろう。理性で分かっていても、感情はすぐには切り替わらない。変貌するのが女性ならなおさらだ。もし変わらないほうが気にしないと言っていても、果たして信じられるかどうか。女性というのは永遠に若く美しくありたいものだろう? 隣に何もしないでも変化しない奴がいるというのは残酷であり腹の立つ話だ」
「私あまり自分が年老いることに恐怖はないですけど」
「一般論だ」
「……私は、あなたがずっとそばに居てくれれば、それで幸せだと思えます。こういう考え方でも、エルフと人は幸せになれないでしょうか?」
まっすぐな瞳で、彼女は彼を見る。
 
どうしてそんなことを、ストレートに口にできるのだろう。
臆面も無く。
聞いているだけで恥ずかしさがこみ上げる。
 
そして同時に。
素直に嬉しかった。
 
……だからこそ。
 
彼はその質問に答えず、話を続ける。
「それ以外に、子どもの話もある。生まれるのはハーフエルフだ。エルフからも人間からも受け入れてもらえない、気の毒な種族。そうなるのを分かっていて産むのは罪悪ではないか?」
彼女はまじまじと彼を見た。その表情は、きょとんとしていると言ってもいい。
「あの」
「なんだ」
「一つ勘違いをされています」
「何が」
「もしも、ですけど。……貴方と私が結ばれて、子どもができたとしますよね?」
彼は彼女を見て頷いた。仮定の話なら、聞いても問題ない。
「生まれてくるのは、気の毒なハーフエルフじゃありませんよ」
「何を言ってるんだ?」
人間である彼女と、エルフである自分。生まれるのはほぼ間違いなくハーフエルフだ。
彼女の真意が分からず、彼は首を傾げる。
「生まれてくるのは、貴方と私に愛される、貴方と私の子どもであって、ハーフエルフなのはたまたまです」
彼は呆然と彼女を見た。ハーフエルフを「たまたま」で片付けられてたまるか、と思いもするが、それ以上に、単純にその発想の転換に驚いた。
「あー、そうだな」
思わず頷いてしまう。しかし、ここで言い包められる訳にはいかない。
「しかし、親がそう思っても本人がどう取るかは別だ。考え無しに気軽にそんなことを言うな」
「私が考え無しなら、なおさら、隣にいて私を止めてください」
彼女は彼の言葉に平然と答える。彼が相手の言葉を瞬時に予測し論を組み立てるのと同じように、彼女もまた彼の言葉を予測し、答えを考えてきたのだろう。
長い時間をかけて。
「それに、そういうのは嫌いですけど、子どもを産まないという選択肢もありますし」
「あー」
思考が追いつかない。
ただ、毒気を抜かれたのは確かだ。
「時間の問題は仕方ないですよ。その時どうであるか、なんてそのときにならないと分からないですから。私、小さい頃は自分が結婚したいという気持ちになるなんて思いもよりませんでしたし、もし、万が一そういう気持ちになるとしたら、同じファリス神官か、もしくは信者だろうと思ってましたから。だから、どうなるかなんて、今から考えても仕方ないんです。そう悟りました」
最後のほう、少し遠い目を一瞬したのは、気のせいにしておきたい。
神殿のエリートコースを転落して、こんな田舎で名代をする、なんて未来は想定していなかっただろう。
つまりはそういうことも含んで話しているに違いない。
「ですから、聞かせて下さい。貴方は、私のことをどうお思いですか?」
 
 
沈黙が長く続いた。
 
彼は大きくため息をつく。
コレは、多分何を言っても負けるのだろうと悟る。
そもそも、気持ちを捻じ曲げている時点で、負けは確定していたようなものなのだろう。
あの騎士は良く逃げ切ってるな、などと頭の片隅で思う。
 
 
 
「嫌いではない」
 
 
 
答える。
真っ直ぐに答えるのは癪に障るから、せめてもの抵抗を含めて。
「どうお思いですか?」
「嫌いではない」
再びの問いかけに、同じように答える。
彼女が眉を寄せる。真意を測りかねている、ということかもしれない。
「スイフリーさん?」
「嫌いじゃないといってるだろう」
彼女はいまだよく分からないという表情で、彼の言葉を聞いている。
「どういうことでしょう?」
「……」
彼はソファから勢い良く立ち上がる。そのままローテーブルに足をかけ、一気に彼女に近寄ると、その耳元に口を寄せる。
「好きだという意味だ。察しろ」
小声で言う彼の顔を見ようと、彼女は首をめぐらせる。
長い耳が、頬に当たる。その耳が熱かったので、彼女は彼の表情を見ることをやめた。
見る必要はない。
きっと彼は真っ赤になっている。
前触ったとき、彼の体温は低かった。
「お前の人生に、付き合ってもいい」
再び、耳元で声。
「多分、あと五十年くらいだ」
「貴方にとっては、きっと短い、一瞬でしょうね」
口に出し、その差を改めてかみ締める。
なんと言う隔絶だろう。
しかし、それで良いと自分はいったのだ。
「そうだな、一瞬だ」
その言葉に失望する。
一瞬だからと認めたのか。
どうせすぐに終わる熱病だ、と。
愕然とした心に、次の言葉が届く。
「……お前の一生なのにな」
少し寂しそうな声に、彼女は泣きそうになる。
小さく頷く。
寂しそうにしてくれるだけで、今は嬉しい。
「多くは望みませんから、今よりもうちょっとだけ、ここに帰ってくる回数を増やしてください。それから、必ずここへ戻ってきてください。……旅先で、死んでしまわないで下さいね」
ずっと言いたかったことを口にする。
「……善処する」
「それから」
彼女は苦々しい声で答える彼の体に腕を回して抱きしめ、それから小声でささやいた。
 
 
 
「テーブルを飛び越えるなんて、お行儀がわるいですよ」
「やかましい」
 
 
 
 

■前回の続きです。
先週アップしてか後半部分に手直しをちょっといれて、何か気付いたらとんでもない文字数になってました。
今回だけで3000字越えてますよ(苦笑)

と、言うわけで、次回が最終回です(今回じゃないんですよ)

拍手[0回]

理性 /
大広間の、陽だまりにそのソファはある。
その場所は、彼のお気に入りに場所のひとつで、城内にいるときは大体この場所で過ごす。それが全員にも暗黙の了解になっていて、それといって伝えなくても、誰もそのソファに座らないし、また、彼を探すときには最初に皆ここへやってくるようになった。そういう、手続きの簡単なところも、彼がこの場所を気に入っている理由の一つになる。
その日も、彼は同じようにソファに座り、この城の表向きの城主(実質は仲間全員が城主なのだが、一応名目上はこの国の騎士になった者が城主になっている)から回された書類に目を通していた。今後の村の統治をどうするか、などの話ではあるが、実質は名代が全て取り仕切るために、マニュアルめいたものを作っておく作業だ。こういうこまごまとした作業は嫌いではないので、苦にならない。
と、正面のソファにその名代が座ったのに気付いて彼は一度顔を上げる。
「何か用か?」
「いえ、特に」
「そうか」
彼は再び書類に目を落とす。大広間には他に誰も居ない。広い室内には、他にも座るところはたくさんあるし、彼女はどちらかというと大テーブルのほうへいくことが多いから珍しい、と思う。が、特に何をいう必要もないので、彼はそのまま放っておくことにした。
 
 
彼女はある一定の決意とともに彼の前に座った。
少し長い髪が、書類を読む彼の顔にかかって、こちらからでは表情はうかがい知れない。が、落ち着いた様子なので書類に問題はないのだろう、と彼女は思う。
陽だまりに居る彼の、銀の髪が光を反射してキラキラ光っている。黙っていれば、そしてあの世間の全てを疑っているような目が見えなければ、「美しい」と評されるエルフだけあって、彼は美しい。そしてその美しさを永遠に保つという。尤も、彼はその口の悪さと目つきの悪さでほぼ全てを台無しにしているのだが、別に彼はそれを気にしては居ないだろうし、また自分も気にしない。
「……何か用なのか?」
彼が再び口を開く。その声はまだ落ち着いた低さを保っていて、彼が怒っていないことを彼女は知る。
「いいえ、ありません」
「……そうか」
こちらを見もしないで尋ねる彼に答える。
根本的に作りが違うのであろう華奢な体に似合わない、低い声が好きだ。
柔軟すぎる考えにたまについて行けないことはあるが、それが彼女に新しい世界を見せてくれたのは、確かなことだ。
多分、自分は彼のことをずっと好きだったのだろう。
ただ、自覚が今になっただけなのだ。
きっとあの魔術師は、見ていて面白いやら歯がゆいやら立っただろう、と思う。
彼女はただ、彼を見つめる。
彼は書類をテーブルに置くと、深くため息をついて再び言った。
「用件は何だ」
「ありません」
「……ではなぜずっとそこにいる」
「座ってはいけませんか?」
「ダメってことはないが……」
彼は眉を寄せて不機嫌そうな顔を見せた。何を言うべきかしばし考え、そしてため息をつく。言葉が上手くまとまらなかったのだろう。
彼女は口を開いた。
 
 
「私は、あなたのことが好きです」
 
 
 
唐突なその言葉に、彼は彼女をまじまじと見る。
暫らくの間固まって、身動きせず、ただ彼女を見つめた後、漸く思考が再開したのか、口を開く。
「伝聞形ではなくなったのだな」
何とか軽口を叩くことができた。
「はい」
にこりと笑って見せた彼女に、彼はさして表情を変えず続ける。
「前も言ったが、わたしはそれを受け取れない」
「分かっています。でも、あなたはそれを前提に考えろとおっしゃいました。ですので、考え、いたった結論をお伝えに参りました」
事務的な口調に、彼は呆れて彼女を見る。
彼女の表情はほとんど変わっていなかったが、顔どころか耳まで赤く染まっていた。
「……別に、受け止めてもらえなくても仕方ないと思います。あなたの言うように、多分異種族間の恋愛などいいことはないでしょうし、あなた方エルフがこの国で過ごしにくいのも分かります。それ以前に、私にはあなたを殺そうとした過去もありますし、あなたはきっと私にいい感情を抱かないでしょう」
彼は彼女を見る。「違う」と否定したい部分もあるにはあるが、どう説明していいか考えがまとまらない。
彼女に殺されそうになった過去があるのは事実だ。しかし彼女の奔走があって今生きているのもまた事実である。
彼女は考え無しに突っ走ることも少なくなった。まだお堅い部分のほうが強いが、自分の間違いを認められるところであるとか、きちんと学習するあたりは好感が持てる。
総じて、彼は彼女のことが嫌いではない。
ただ、絶対に埋められない隔たりがあって、そのせいで二の足を踏んでしまうのも、また事実なのだ。
 
「それで?」
この返答は冷たいだろう、と彼は思う。
しかし、他にどう言えばいいのか、見当がつかない。
どう考えても、二人で行き着く先は暗い袋小路だ。それなら、いっそ最初から無いほうがいい。
瞬間の幸せなど、あるだけ残酷だ。
冷たく切り離しておくのが、お互いのためだろう。
「それだけです」
「は?」
彼女の、予想外の返答に彼はまじまじと彼女を見つめる。自分でも多分間の抜けた顔をしているのだろうと予測するが、だからといってすぐに表情を引き締められるものでもなかった。
「あなたは私に考えろとおっしゃいました。ですから、私は考えて、いろんな方に助言も頂き、結論を出しました。結論として、私はあなたが好きです。それで、その結論をお伝えに来たのです。あなたの問いかけに私は答えを出した、その事実をお伝えにきました。ただ、それだけです」
相変わらず顔は赤いが、さして表情を変えずに彼女は言う。
真っ直ぐな瞳が彼を捉え、思わず彼は視線をそらす。
どうしてこう、直進しかしないのか、と思う。
言うことも、することも、視線でさえ、彼女は真っ直ぐで、それ以外の線を知らないのではないかとさえ錯覚する。
「あー……」
何か言わなければ、と色々考えるが、いまだ言葉が出てこない。
予想範囲内のことであれば、いくらでも言葉は出る。今の成功の何割かは、口で稼いだようなものだ。相手より早く情報を分析し、相手がどうでるか考え、予想通りに事を動かし、もしくはそうなるように先に道を作っておく。そうやって来た。
その分、予想外なことや、ずばりと考えを言い当てられると、彼は弱い。
思考が一瞬止まる。
まさに今がその状態だった。
 
 
「貴方はどうですか?」
彼女は真っ直ぐ彼を見据えたまま尋ねる。
もっと言い方があるのかもしれない、と口にしてから思ったが、彼女の中にそれ以外の尋ね方はない。先に魔術師に尋ね方を聞いておくべきだっただろうか、とも思ったが、魔術師は城に帰ってくる頻度はそう高くないし、多分「クレアが聞きたいように聞くのが一番いいわよぅ」なんて笑って、何も教えてくれないだろう。
そもそも駆け引きというものが性に合わないから、聞いたところで実践できたかどうかも疑わしい。
「わたしは、受け取れないと、伝えたはずだが?」
彼から漸く返答があった。
内容に少し寂しい気分になったが、彼女はなおも彼に尋ねる。
「それは、私の気持ちを受け取れない、という意味でしょう? 貴方自身のお気持ちを聞かせていただきたいのです」
「同じだろ」
「違います」
彼女は彼を見る。彼は少し眉をよせ、困ったような顔をしている。困らせているのだと思うと心が痛いが、ここで退いたらもうこの話題は二度と互いの間に浮かび上がることは無いだろう。
今しか聞く機会は無い。
彼女は彼の目を見つめる。少し冷たい灰色の眼差しが、彼女を見ている。
答えを考えているのか、表情は硬い。
随分待ったが、それでも彼の返答は無かった。
「貴方は、私を、どうお思いですか?」
彼女は再び尋ねる。
彼は彼女を見た。
ウソをつくのは簡単だ。そして多分、そうしたほうがいい局面だろうと思う。
しかし感情的に、そうしたくない自分がいることに気付いて、彼はいまだ言葉を発することが出来ない。
理性で感情を抑えることは可能だ。が、その二つは完全に別のところに存在していて、感情に対して理性が働かないことがあることを、知らないわけではない。
 
 
しかし、
今回だけは。
理性に勝ってもらわないと困る。
不幸になることがわかっている一方通行の道を、わざわざ歩く必要は無い。
自分も。
彼女も。
 



■すみません、一日遅れでラブシック更新です。
水曜日に書ききれなかったのです(苦笑)
なんとファイルサイズは13KB!
文字数5981!

……ということで、これは前半部分です。

次週後半部分をアップ!

なのでタイトルも不完全なのです。うひひ。

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