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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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理性 /
大広間の、陽だまりにそのソファはある。
その場所は、彼のお気に入りに場所のひとつで、城内にいるときは大体この場所で過ごす。それが全員にも暗黙の了解になっていて、それといって伝えなくても、誰もそのソファに座らないし、また、彼を探すときには最初に皆ここへやってくるようになった。そういう、手続きの簡単なところも、彼がこの場所を気に入っている理由の一つになる。
その日も、彼は同じようにソファに座り、この城の表向きの城主(実質は仲間全員が城主なのだが、一応名目上はこの国の騎士になった者が城主になっている)から回された書類に目を通していた。今後の村の統治をどうするか、などの話ではあるが、実質は名代が全て取り仕切るために、マニュアルめいたものを作っておく作業だ。こういうこまごまとした作業は嫌いではないので、苦にならない。
と、正面のソファにその名代が座ったのに気付いて彼は一度顔を上げる。
「何か用か?」
「いえ、特に」
「そうか」
彼は再び書類に目を落とす。大広間には他に誰も居ない。広い室内には、他にも座るところはたくさんあるし、彼女はどちらかというと大テーブルのほうへいくことが多いから珍しい、と思う。が、特に何をいう必要もないので、彼はそのまま放っておくことにした。
 
 
彼女はある一定の決意とともに彼の前に座った。
少し長い髪が、書類を読む彼の顔にかかって、こちらからでは表情はうかがい知れない。が、落ち着いた様子なので書類に問題はないのだろう、と彼女は思う。
陽だまりに居る彼の、銀の髪が光を反射してキラキラ光っている。黙っていれば、そしてあの世間の全てを疑っているような目が見えなければ、「美しい」と評されるエルフだけあって、彼は美しい。そしてその美しさを永遠に保つという。尤も、彼はその口の悪さと目つきの悪さでほぼ全てを台無しにしているのだが、別に彼はそれを気にしては居ないだろうし、また自分も気にしない。
「……何か用なのか?」
彼が再び口を開く。その声はまだ落ち着いた低さを保っていて、彼が怒っていないことを彼女は知る。
「いいえ、ありません」
「……そうか」
こちらを見もしないで尋ねる彼に答える。
根本的に作りが違うのであろう華奢な体に似合わない、低い声が好きだ。
柔軟すぎる考えにたまについて行けないことはあるが、それが彼女に新しい世界を見せてくれたのは、確かなことだ。
多分、自分は彼のことをずっと好きだったのだろう。
ただ、自覚が今になっただけなのだ。
きっとあの魔術師は、見ていて面白いやら歯がゆいやら立っただろう、と思う。
彼女はただ、彼を見つめる。
彼は書類をテーブルに置くと、深くため息をついて再び言った。
「用件は何だ」
「ありません」
「……ではなぜずっとそこにいる」
「座ってはいけませんか?」
「ダメってことはないが……」
彼は眉を寄せて不機嫌そうな顔を見せた。何を言うべきかしばし考え、そしてため息をつく。言葉が上手くまとまらなかったのだろう。
彼女は口を開いた。
 
 
「私は、あなたのことが好きです」
 
 
 
唐突なその言葉に、彼は彼女をまじまじと見る。
暫らくの間固まって、身動きせず、ただ彼女を見つめた後、漸く思考が再開したのか、口を開く。
「伝聞形ではなくなったのだな」
何とか軽口を叩くことができた。
「はい」
にこりと笑って見せた彼女に、彼はさして表情を変えず続ける。
「前も言ったが、わたしはそれを受け取れない」
「分かっています。でも、あなたはそれを前提に考えろとおっしゃいました。ですので、考え、いたった結論をお伝えに参りました」
事務的な口調に、彼は呆れて彼女を見る。
彼女の表情はほとんど変わっていなかったが、顔どころか耳まで赤く染まっていた。
「……別に、受け止めてもらえなくても仕方ないと思います。あなたの言うように、多分異種族間の恋愛などいいことはないでしょうし、あなた方エルフがこの国で過ごしにくいのも分かります。それ以前に、私にはあなたを殺そうとした過去もありますし、あなたはきっと私にいい感情を抱かないでしょう」
彼は彼女を見る。「違う」と否定したい部分もあるにはあるが、どう説明していいか考えがまとまらない。
彼女に殺されそうになった過去があるのは事実だ。しかし彼女の奔走があって今生きているのもまた事実である。
彼女は考え無しに突っ走ることも少なくなった。まだお堅い部分のほうが強いが、自分の間違いを認められるところであるとか、きちんと学習するあたりは好感が持てる。
総じて、彼は彼女のことが嫌いではない。
ただ、絶対に埋められない隔たりがあって、そのせいで二の足を踏んでしまうのも、また事実なのだ。
 
「それで?」
この返答は冷たいだろう、と彼は思う。
しかし、他にどう言えばいいのか、見当がつかない。
どう考えても、二人で行き着く先は暗い袋小路だ。それなら、いっそ最初から無いほうがいい。
瞬間の幸せなど、あるだけ残酷だ。
冷たく切り離しておくのが、お互いのためだろう。
「それだけです」
「は?」
彼女の、予想外の返答に彼はまじまじと彼女を見つめる。自分でも多分間の抜けた顔をしているのだろうと予測するが、だからといってすぐに表情を引き締められるものでもなかった。
「あなたは私に考えろとおっしゃいました。ですから、私は考えて、いろんな方に助言も頂き、結論を出しました。結論として、私はあなたが好きです。それで、その結論をお伝えに来たのです。あなたの問いかけに私は答えを出した、その事実をお伝えにきました。ただ、それだけです」
相変わらず顔は赤いが、さして表情を変えずに彼女は言う。
真っ直ぐな瞳が彼を捉え、思わず彼は視線をそらす。
どうしてこう、直進しかしないのか、と思う。
言うことも、することも、視線でさえ、彼女は真っ直ぐで、それ以外の線を知らないのではないかとさえ錯覚する。
「あー……」
何か言わなければ、と色々考えるが、いまだ言葉が出てこない。
予想範囲内のことであれば、いくらでも言葉は出る。今の成功の何割かは、口で稼いだようなものだ。相手より早く情報を分析し、相手がどうでるか考え、予想通りに事を動かし、もしくはそうなるように先に道を作っておく。そうやって来た。
その分、予想外なことや、ずばりと考えを言い当てられると、彼は弱い。
思考が一瞬止まる。
まさに今がその状態だった。
 
 
「貴方はどうですか?」
彼女は真っ直ぐ彼を見据えたまま尋ねる。
もっと言い方があるのかもしれない、と口にしてから思ったが、彼女の中にそれ以外の尋ね方はない。先に魔術師に尋ね方を聞いておくべきだっただろうか、とも思ったが、魔術師は城に帰ってくる頻度はそう高くないし、多分「クレアが聞きたいように聞くのが一番いいわよぅ」なんて笑って、何も教えてくれないだろう。
そもそも駆け引きというものが性に合わないから、聞いたところで実践できたかどうかも疑わしい。
「わたしは、受け取れないと、伝えたはずだが?」
彼から漸く返答があった。
内容に少し寂しい気分になったが、彼女はなおも彼に尋ねる。
「それは、私の気持ちを受け取れない、という意味でしょう? 貴方自身のお気持ちを聞かせていただきたいのです」
「同じだろ」
「違います」
彼女は彼を見る。彼は少し眉をよせ、困ったような顔をしている。困らせているのだと思うと心が痛いが、ここで退いたらもうこの話題は二度と互いの間に浮かび上がることは無いだろう。
今しか聞く機会は無い。
彼女は彼の目を見つめる。少し冷たい灰色の眼差しが、彼女を見ている。
答えを考えているのか、表情は硬い。
随分待ったが、それでも彼の返答は無かった。
「貴方は、私を、どうお思いですか?」
彼女は再び尋ねる。
彼は彼女を見た。
ウソをつくのは簡単だ。そして多分、そうしたほうがいい局面だろうと思う。
しかし感情的に、そうしたくない自分がいることに気付いて、彼はいまだ言葉を発することが出来ない。
理性で感情を抑えることは可能だ。が、その二つは完全に別のところに存在していて、感情に対して理性が働かないことがあることを、知らないわけではない。
 
 
しかし、
今回だけは。
理性に勝ってもらわないと困る。
不幸になることがわかっている一方通行の道を、わざわざ歩く必要は無い。
自分も。
彼女も。
 



■すみません、一日遅れでラブシック更新です。
水曜日に書ききれなかったのです(苦笑)
なんとファイルサイズは13KB!
文字数5981!

……ということで、これは前半部分です。

次週後半部分をアップ!

なのでタイトルも不完全なのです。うひひ。

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