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テーブルの上に並べられた、様々な品物を片付け、彼女は一度大きく息を吐く。
「今回も沢山いただいてしまって、いいんでしょうか?」
「気にせんといてー」
目の前のグラスランナーはニコニコと晴れやかな笑みを浮かべると、片付いた品物をいくつか手に取った。
「これ、部屋に運ぶんしょ? オレ、一緒に行くにゅ」
「あ、すみません」
先に立っていってしまうグラスランナーの背に声をかけ、立ち上がる。テーブルの上に残されたいくつかの品物を手に取ると、彼の後を追うべく歩き出す。
「クレア」
少し離れたソファで何かを読んでいたエルフから声がかかり、彼女は足を止めた。
「御用ですか?」
尋ねると、彼は手招きをして見せる。立つつもりはないらしい。仕方がないので、彼女は荷物を持ったまま、彼の座るソファへと近寄った。
「何でしょうか?」
再び尋ねる。彼は読んでいる本を左手で持ったまま、無造作にポケットに右手を突っ込み、その後その手を拳にして彼女に突き出して見せた。何かを持っているらしい。
「何ですか?」
「手、出せ」
言われたとおり手を差し出すと、彼は手の中のものを彼女の手に落とす。
「やる」
それだけ言うと、彼は再び本を開いて読書に戻って行く。
手の中を見ると、指輪が一つ。
色とりどりの宝石が7つ並んだ、シンプルなデザインの指輪。
「ええと……」
意図が分からず、彼の顔を見る。彼は本に目を落としたまま「土産。たまにはいいだろう」とこちらを見もしないまま答える。
「はあ」
呆気にとられつつも、彼女は持っていた荷物をテーブルに置くと、貰ったばかりの指輪を見た。特に刻印があるわけでもない。至ってシンプルな、意図のなさそうな指輪。
「ありがとうございます」
なんとなく納得行かないような気持ちを抱えつつ、左手の薬指にはめてみた。
しかし、サイズが合わず、すぐに落としてしまいそうだった。
仕方ないので中指にはめてみたが、今度もサイズがあわない。少しだけ、小さい。頑張ればはまらないことはないが、はめたが最後抜けなくなりそうだ。親指と小指は論外として、左手の人差し指のみならず右手でも試してみたが、結局サイズの合う指は見つからなかった。
「……」
思わずエルフを見る。こちらに興味がないのか、本に熱中したままだ。
サイズも知らないのだ、と思うと少し寂しい。
しかしそれ以上に、指輪をもらえたのが嬉しい。
仕方ないので、落とさないよう気をつけることにして、左手の薬指にはめた。
小さな金属音に慌てて足元を見る。
幸い、すぐそこに落としたものを発見することが出来た。彼女は慌ててそれを拾うと、左手の薬指にはめる。
アレから半日。
指輪をはめているという慣れない状況の上、サイズも合っていないため、もう何度落としてしまったか分からない。このままではなくすのも時間の問題だろう。
それだけは絶対に嫌だ。
「スイフリーさん」
相変わらずソファで本を読んでいたエルフに声をかける。
「何だ」
「お話が」
本に目を落としたままこちらを見ないエルフに、彼女は話しかける。エルフが彼女を見た。本を読んでいるのを邪魔したが、特に怒った様子はない。
「何だ」
「指輪なんですけど、サイズが合わないので、明日村に行って細工師の方にサイズを直していただこうと思います」
彼が彼女を見上げる。どことなく不機嫌そうだ。が、サイズが合わないものを渡したのは彼のほうなので、彼女はひるむことはない。
「ちょっと待ってろ」
それだけ言うと、彼は部屋から出て行ってしまった。
「?」
その背中を見送り、暫らく待つ。が、一向に彼が現れる様子はない。もしかして逃げられたのではないだろうか、と思い始めた頃、エルフが戻ってきた。
「何ですか?」
少し声がきつくなっているのを意識しながら、彼女はエルフを見る。
「やる」
再び、手の中に何かが落とされる。じゃらり、と音がした。
見ると、銀の鎖が一本。
「何ですか?」
「ネックレス。コレに通して、首からかけとけ」
「指輪をですか?」
「そう」
「このネックレスはどこから出てきたんですか?」
結構な重量を感じさせる鎖に、彼女は首をかしげる。シンプルな鎖で、コレといった特徴はない。
「普段わたしはシルフちゃんをペンダントに入れて歩いているわけだが、まあ、戦闘になると鎖が切れることもある。その予備だ」
「はあ……」
ちょい、と首の辺りから鎖を持ち上げて見せる。似たような鎖が光っていた。
「頂いても?」
「かまわない」
「サイズを直すほうが早くないですか?」
「もともと、指輪をする習慣がないのだろう? だとしたらあると割と邪魔だぞ」
「そうでしょうか?」
「それに」
「?」
「……サイズの合わんものを渡したというのが村に広まるのが耐えられん」
「……ああ」
妙に納得して、彼女は頷いて見せた。
「では、鎖を頂くことにします。今度は合うサイズのものでお願いします」
「善処する」
返答を聞きながら、指輪を鎖に通して首からさげる。
考えてみれば、揃いのものを持てるようになったのだから、よかったのかもしれない。
少し、嬉しい。
「ありがとうございます」
「気にするな」
「で」
グラスランナーは遠慮なくエルフのベッドに寝そべって、部屋の主を見上げる。
「渡したん?」
「まあ」
「ふぅん」
にやにやと笑っているグラスランナーから、エルフは目をそらした。
「姉ちゃん、喜んでた?」
「いまいち」
「そりゃまあ、そうにゅ。……普通に渡せばいいのに」
「ほっとけ」
■番外編、みたいな。水曜日ですから。
例の指輪を渡すシーンは、やっぱり書いておいたほうがいいかな、とか思ったので書いてみました。
それ以上に深い意味は御座いません。
どうもこのシリーズのおかげで、最近思いつくスイフリーとクレアの話が全て「まとまった後」になって困ります(笑)
そりゃスイクレ好きとしては、まとまっていてくれることに越したことはないんですけど(そしてまとまってるくせにあんまり態度が変わらないのがすきなんですけど)なんか、そういうのは公式から外れるわけで、ちょっと公開しにくいなあとか思う今日この頃です。
これだけかいといて、今更何を言うか。みたいな話なんですけどね。