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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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最愛 / 永遠
大広間の、一番日当たりの良いソファに座って、神官が編み物をしているのを発見する。彼女はにま、と笑うと、その正面に座った。
そのソファを一番気に入っているエルフは、現在城にいない。しかし、コレまで誰も、城にエルフが居ようが居まいが、あまりそのソファに座ろうとはしなかった。
そのソファに神官が座っているだけで、彼女はもう嬉しくてたまらない。
「クレア」
声をかけると、神官が顔を上げた。
「フィリスさん……、ちょっとお待ちください」
神官はきりの良いところまで編み進め、それから本格的に顔を上げた。
「何か御用ですか?」
「ううんー、別にー。それ、スイフリー宛?」
「いえ、リズです」
即座に否定された。
とはいえ、神官が編んでいる毛糸はきれいなピンク色だったから、もとよりエルフ宛だとは期待していなかった。だから、そんなにショックはない。
「リズかー。もー、色気ないんだから。スイフリーには何あげるの?」
「別に頼まれてませんから、特になにも」
「そういうのは頼まれてなくても編んでプレゼントするのよ!」
「……そういうものですか」
「そうよ!」
彼女は胸を張って断言する。尤も、彼女自身は一度も最後まで編み物を成功させたためしがないから、その作戦はとうの昔に諦めたのだが。
「……そういうものなんですね」
神官は神妙な顔をして手元の毛糸を見る。
「なんなら、麓の村まで毛糸買いに行くのつきあうわよ!」
興味津々の顔を向ける彼女に、神官は苦笑して見せた。
「いえ、いいです。プレゼントするならもっとこう……」
神官はそこまで言いかけて、しかし最後までは言わなかった。言葉に言い表せない、ということかもしれない。
「もっと、何?」
不用意に彼女の好奇心をつついてしまったのだ、と神官が気付いた頃にはもう遅い。彼女はその形の良い唇に笑みを浮かべ、神官をじっと見据えている。
多分、中途半端な、彼女に納得の行かない答えではいつまでたっても開放してもらえないだろう。
「なんというか……もっと、形の残るものがいいです」
観念して答えると、彼女は眉を寄せた。
「どうして? 編み物のほうが、ココロがこもってるじゃない?」
編み物や機織ならば、女性のたしなみ、ということで幼い頃に習わせる家庭もある。神官が編み物を出来るのも、つまりそういうことだろう、と彼女は推測した。
しかし、形の残るものとすれば、金属だとか専門的なものを扱うことになるだろう。その能力を神官が持っているとは思えない。つまり、彼女はプレゼントを買って済ませよう、ということだ。
それが、彼女には納得できない。
「その……」
神官は少し頬を赤らめると、彼女から目をそらした。それからぼそぼそと小声で答える。
「つまり……毛糸はどれだけていねいに扱ってもらっても、そのうち虫に食われることもあるでしょうし、何処かに引っ掛けたら解けます」
「だから?」
少し声がキツイ。神官は遂には俯いて、彼女から完全に顔を背け、答える。
「そういう、生きているうちに何度でも渡せるものは、後回しでもいいです。勿論、ほしいと言われれば用意しますし、全然意味がないとは言わないんですけど……。いつか私がファリス様の下に召されたあとも、ずっと残って、持っていてもらえるもの、もしプレゼントするならそういうものを優先して、たくさん渡したいんです」
彼女は神官をまじまじと見つめた。
神官は、いまだ顔を伏せたままでこちらを見ては居ない。
ただ、どことなく、寂しそうに見えた。
 
 
生きる時間が違うものを、好きになるということはこういうことなんだろうか。
ずっと先を、自分が居なくなった未来を見据えて。
同じように進まない時間を、突きつけられながら生きていく。
 
 
今ならエルフが逃げ腰だった意味が分からないでもない。
 
 
彼もまた、同じように進まない時間を突きつけられていく。
神官と居る時間など、エルフにとっては一瞬だろう。
その後の長い長い空白。
 
背負わせるにも、背負うにも、重い。
 
 
けれど。
 
 
彼女は立ち上がると、神官の傍まで歩く。
「ねえ」
声をかけると、神官が顔を上げた。恥ずかしそうにまだ目をそらしているし、顔も赤い。が、彼女はそんなことはお構い無しに神官をぎゅっと抱きしめた。
「クレア、あんたすっごい可愛い。あの性悪エルフには勿体無かった!」
「性悪……」
神官が少し気を悪くしたような声で言う。確かに、他人の恋人を捕まえて評する言葉ではなかった気がするが、まあ、概ね真実だから仕方ない。
彼女は勤めて明るい声を出す。
確かに、そう遠くない未来、彼らには重い現実がのしかかるかもしれない。けれど、今幸せであるのも、また事実なのだ。
だとしたら、喜んであげるべきであるし、また、単純に興味もある。
あのエルフが、この神官に、どういう言葉をかけているのか。何をしているのか。
甘い言葉の一つも、吐いたのだろうか。
 
「で? で? スイフリーからは何か貰った?」
「……指輪を」
「え! ホント!?」
神官の返答に彼女は驚き、すぐさま神官の手をとり指を確認する。
あのエルフが、そういう系統のプレゼントをすぐさまするとは思っていなかったから、その衝撃はかなり大きい。
が、神官の指には指輪は光っていなかった。
左手の薬指だけではなく、全ての指において。
「ないじゃない」
「それがその……しようにもできないというか」
「どういうこと?」
よほど妙なデザインなのだろうか。それとも指輪は指輪でもコモンルーンというオチなのだろうか。どちらにせよ、今度エルフに会ったら説教の一つもしてやらなければ。
彼女が頭の中でそういうことを考えているとは、神官は思いもよらないだろう。すこし苦笑して、続ける。
「サイズが合わないんです。どの指にも。微妙に大きかったり小さかったりで」
その言葉を聞いて、とりあえず彼女はにっこりと笑顔を作る。
少なくとも、この神官はプレゼントされた指輪を身につけようとしたわけだ。これで非は完全にエルフだけにある。
とりあえず、平手打ちで許しておこう。吹っ飛ぶかもしれないけど。
考えながらも、笑顔は崩さない。
「そっか、それは残念……」
言いかけて、彼女はふと思い出す。
仲間のグラスランナーは、何度もこの神官に贈り物をしている。それは美しい布だったり、絵葉書だったり、アクセサリーだったりと様々だ。その、アクセサリーの中に確か指輪も含まれていたはず。
「ねえ、パラサに指輪貰ったことなかったっけ?」
「有ります」
「サイズ、どうだった?」
「ぴったりでしたけど」
彼女は少し考える。
つまり、エルフは彼女の指に合う指輪を買う方法はあったわけだ。グラスランナーに尋ねるというのはエルフとしてはかなり屈辱的かもしれないが、合わないものを渡すより、断然良い。しかも、無駄なものを嫌うエルフのことだから、使えないものを渡すなどということをするとは思えない。
 
何かある。
 
直感し、尋ねる。
「ねえ、どんな指輪だったの?」
「コレです」
指輪はあっさりその場で見せられた。何のことはない、神官は指輪を銀のチェーンに通して、ネックレスとして身に着けていたのだ。服のなかに隠れていたから気付かなかったのだ。
「ちょっと見せて」
「わかりました」
神官はネックレスをはずすと、彼女に手渡す。
彼女はそっと受け取ると、それを観察した。
チェーンはただ銀色にメッキされたワケではなく、きちんとした銀細工で、質の良いものを使ったものだった。重さも結構あり、しっかりとした作りであるのが分かる。多分、その辺で市販されているものではなく、作らせたものだ。
そしてそのチェーンに通された指輪も、土台は銀だった。赤や緑、紫など色とりどりの宝石が7つ、きれいに並べてはめられている。土台である銀も、はめられた宝石も質が良い。
彼女は指輪をもう一度見て、やがてにっこりとクレアに笑いかけた。
「ねえ、このチェーンのほうはどうしたの?」
「コレも頂いたんです。指輪がどうしても指に合わないから作り直してもらうことを提案しましたら、だったらこれに通して首からかけてろ、と」
「ははーん、なるほどねー」
にやにやと笑う彼女を、神官は不思議そうに見つめる。
「どうしたんですか? フィリスさん?」
「ねえクレア、コレは私の予想なんだけど、あのエルフ、わざわざアンタの指に合わない指輪を作らせたのよ」
「なぜですか?」
納得行かない、という顔で神官は彼女を見た。
「この指輪、意味聞いた?」
「意味? いえ、特には。『やる』と言われて手渡されたので」
その様子を想像して、彼女は笑う。
意味を知っていたらどうしようと内心気が気ではなかったのではないだろうか。
もっとも、エルフがもともと意味を知っていたとは思えない。きっと宝石商に適当に見繕わせたとき、意味を聞いた程度だとは思う。
しかし、コレを選ぶなんて、ね。
「意味があるんですか?」
神官は指輪をしげしげと見つめる。特に刻印があるわけでもない、少し宝石が多いのが特徴の指輪だ。
「一番左は、この透明ね。ダイアモンド」
「……!」
宝石が何かまでは気に留めていなかったのだろう、神官は少し驚いたような顔をする。
「次の緑はエメラルド。その次の紫はアメジスト。次の赤はルビーで、その隣の緑は、もう一回エメラルド。次に続く青いのがサファイアで、最後の淡褐色がトパーズ」
彼女は、神官の手の中の指輪についた宝石を、一つ一つ指差しながら説明する。
「宝石の、頭文字を並べてみなさいな」
「頭文字? ……ええと、ダイアモンドですから、D。次がエメラルドのEで……A、R、E、S……」
最後の一文字までは声に出せず、一瞬で神官の顔が赤くなった。
「ねー? あのエルフ、持っていて欲しいけど、堂々と指にはめられたら恥ずかしいからこんな回りくどいことしたのよー!」
彼女は笑うと神官の顔を見る。
「……最愛なる人、かあ。私もアーチーに言われたいわぁ」
硬直したままの神官の手から、そのネックレスを取ると、彼女は神官の首にかける。
重い想いがこめられた、プレゼントを。
 
 
「クレア。あんたは永遠を手に入れたのよ」





■ちょっと蛇足気味では有りますが、「その後の彼ら」みたいな感じで読んでいただければ。


と、言うわけで、長々と書いてまいりました「Lovesick」は今回でおしまいです。

いちゃべたしない二人のお話に(キスすらしないのは当初からの予定でした)、
長々とお付き合いくださいまして、有難う御座いました。


この話の、初回と2回目を見ていただきますと、分かりやすいのですが、実は最初、この話は「スイフリーとクレアのお話が進展していきつつ、裏っかわではアーチーとフィリスの話も進展していく」予定でした。

予定だけでそれは上手く進みませんでした。

と、言うわけで、次はその進展しなかった「アチフィリ」に挑戦してみようかと。
時間軸としてはこのラブシックの後。スイクレは成立後です。

そんな予定です。
が、まだ全く書いていない上に、どういう展開にするかおぼろげにも思いつかないので、「なんとかなりそう!」と思った日を更新初日にしようと思います。ので、いつから、とは予告しません。

気が向いたら、続きもよろしくです。
タイトルは「Loverslike」です。

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