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「手紙が届きました」
そういって、封書を渡される。
「あ、サンドくんからだ」
彼女の嬉しそうな顔に、神官は少し微笑む。
「差出人の名前は違ったようでしたが?」
「うん。サンドっていうのは、愛称かな? わたしはそっちのほうが好きなんだけど。オランで劇をしてたんだ」
彼女は少し遠い目をする。ソレは懐かしいものを思い出すような、それでいてどことなく寂しそうな目。
「今はなさっておられないんですか?」
「うん。サンド君ね、アノスの貴族だったことがわかって、引き取られたの。赤ちゃんの時に攫われたみたい」
「そうですか」
神官は少し複雑な表情で彼女を見た。
「凄く、演技が上手かったんだよ。クレアさんも知ってるんじゃないかな? このお城にも情報を集めに来たって話だったし」
神官は少し記憶をたどり、やがて頷く。
「スイフリーさんとパラサさんが追いかけていた劇団ですね」
「うん、そう。サンド君ね、スイフリーの役だったんだ。すっごく上手かったんだよ。本人はちょっと背伸びした感じの、でもとっても素直ないい子でね、そんな子なのに、スイフリーの底意地の悪さっていうか、いざというときのはったりのかませかたっていうか、ともかく堂に入ってて凄かったんだよ。初めての舞台だなんて思えないくらいだったんだ」
嬉しそうに彼女は喋る。
神官はその話をにこにこと聞いていた。
「わたしね、小さい頃、役者になりたかったんだ。居た劇団の大きい小さいに関わらず、わたし自身が全然ダメだったんだけど。唄は何とかなったんだけど、演技が出来ないの。何か、騙せないんだよね。自分のことも、他人のことも。なりきれないっていうか」
彼女はそこで照れた笑みを浮かべ、頭をかく。
「言い訳かもしんないけど」
「人を欺かないのは良いことですよ」
「ソレは演技をする人に対してはフォローになってないよ」
神官の言葉に、彼女は今度こそ面白そうに笑う。それから、彼女は神官を見た。
「クレアさんは? 小さい頃、何になりたかった?」
神官はきょとんとして彼女を見る。
「立派なファリス神官ですけど」
「ああ」
彼女はその返答に、自分が聞くまでも無い事を聞いてしまったのだということに漸く思い至る。
「そっか。クレアさんは夢をかなえたんだ」
「いえ。まだまだですよ」
神官は困ったような笑顔を見せた。
随分、丸くなったなあ、と彼女は思う。
自分の資質もあるかもしれないが、彼女はこの神官を最初からそんなに嫌いではなかった。真っ直ぐなところなんかは、普段つるんでいる仲間の事もあって、とても好感が持てる。
とはいえ、その真っ直ぐすぎるところが、最初はかなり危なかったのもまた事実。
そのせいで、仲間が殺されそうになった。
真面目で一直線なのは、思いつめちゃうということで、それはそれで危険なのかもしれない。
「あのさあ」
彼女は神官を見る。
「何でスイフリーを助けようと思ったの?」
彼女は長い間不思議に思っていたことを神官に尋ねる。
この神官は、自らが邪悪だと判定した仲間のエルフを牢に入れた。
なのに、アレは間違いだったかもしれない、といって助けてくれた。
そのせいで、自分が不利益をこうむるのは、多分分かっていたはず。
今なら、聞けるかもしれない。
「私が誤認したわけですけど、無実の人が処刑されるのは、あってはなりません。ファリス様も、善を不善というのは不善だとおっしゃいましたし」
あくまで真顔で神官は答える。
「うん、そこは聞いたんだけど」
彼女は首を傾げてみせる。この神官は、啓示で神の声を聞き、仲間のエルフを助けるに至ったのだとその時も言った。主張は勿論変わっていない。彼女はきっと、何度聞いても同じ答えを返すだろう。ソレが真実だから。嘘はつかないから。
「何ていうのかな。何で、神様に聞こうと思ったの? かな? そもそも、スイフリーに汝は邪悪なり! って言ったのも、ファリス様に尋ねたみたいなもんでしょ?」
「ええ、まあ」
「じゃあ、どうして?」
暫く神官は黙った。困ったような、とも、深く考え込むような、とも取れる表情で。
「牢に入れる、と言ったところで、彼はすぐに承諾したでしょう? 思えばソレが違和感の始まりだったような気がします。普通、悪人というのは言い逃れをしようとするものですし、事実私がそれまで知っていた悪人というのは、皆一様に言い逃れをしようとしました」
神官は唐突に喋りだす。どこか、自分に言い聞かせているようにも思える。
「それに、仲間であるあなた方が、必死に私を止めようとしました。悪い事は確かにするけど、大きな悪いことはしていない、だとか。呪いには人に伝播していく種類のものもあり、それに違いない、であるとか」
彼女は頷く。
あの時は、仲間のエルフの無実(多分)を証明するのに必死だった。
「悪人が、その仲間を助けるために色々言うことはあるかもしれません。しかしあなた方が悪人でないことは確かです。であれば、悪人である彼を救おうとするでしょうか。もしかしたら、あなた方が言うように、彼は悪人ではないのかもしれない。あなた方は、とても真剣に、真摯に、彼を助けようとしていた。それを見て、私は」
そこで神官は一度言葉を切る。暫らく躊躇していたようだったが、やがて口を開くと、続けた。
「とんでもない間違いをしたのではないか、と怖くなったのです。認めるのはとても怖かった。私は一度もファリス様を疑ったことはなかったですし、そういう日が来るなんて思っても居なかった。結果は……呪いに反応しただけでした」
「後悔してるの?」
「いいえ、とんでもない。私は多分、事務的過ぎたのです。全てをファリス様に頼って、自分では何も考えていなかった。きっとファリス様はそれをとがめようとなさったんです。……たぶん、スイフリーさんは、ファリス様が私に下さった試練であり、導き手なのです。他の方がどう言おうと」
彼女は笑いそうになったが、何とかそれをこらえる。
相手の神官は真面目に答えてくれたのだ。どう考えても、仲間のエルフが神からの使いだとは思えないが、それは主観の問題であって、自分が口を挟める問題ではない。
しかし、神官のほうは彼女が何とか笑わないよう努力していることに気付いたのだろう。
「少なくとも、視野は広がりました。いい意味でも、悪い意味でも」
と、どこか諦めたような笑顔で肩をすくめて見せた。
「きっとね、そのうち『人を疑うようになったか、良かった良かった』とか言われるようになるよ」
彼女はすこし口を尖らせて言う。自身、前に話題のエルフから言われたことがある。
「言いそうですね」
言うと、神官はその様子を想像したのか、困ったような顔で笑ってみせた。
「スイフリーの印象って、かわった?」
「ええ。思っていたほど、悪い人ではありませんでした。本人は嫌な顔をするかもしれませんが……結構人がいいですよね。お人よしとまでは言いませんけど。かわいいところがある、というか。本質的には、悪い人ではありません。善人かと尋ねられたら、即答はしかねますけど」
彼女は暫らく、神官の顔をまじまじと見つめた。神官のほうは首をかしげ、「何か?」と尋ねたが、彼女は曖昧に返事をするばかりで、明確には答えない。
「とりあえず、スイフリー、エルフね」
彼女が言うと、「では、いいエルフです」と神官は真顔で訂正した。
それを見て、彼女は立ち上がる。
「それじゃ、わたしはコレ読んで返事を書かなきゃ」
彼女が受け取った手紙を見せると、神官も立ち上がった。
「書き終わったら教えてください。手紙を配達できるよう、手配をします」
「うん、ありがとうクレアさん」
彼女は礼を言うと、神官と別れて自分の部屋を目指す。
とりあえず、途中でお姉さんの部屋に行って、今の話を聞かせてあげよう。
そんなことを考えながら。
■クレアさんサイドスタート(笑)
気付けば、クレアさんのほうをかいてないなあ、と思い至ったというか。
ノープランで書いてますから、こんなもんですよ。
時系列だって微妙に不明ですよ(笑)
……考えて書くと、大体失敗するんです(経験あり)
そしていつも題名に悩む。
あ、こっそり初回の「小春日和に。」のタイトル変更したいです。統一したい。
思いついたら突然変えます。大体そういう感じです。
タイトルって、難しいですよね?