泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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オーファンに冷たい風とともに冬がやってきた。
空気は張り詰めたようにピンとしていて冷たく、何処か厳かな感じがする。
寒さは一日一日と増していくが、寒いからといって冒険者が冒険を休むことは無く、彼らは一つ小さな旅を終えて懐かしいファンの町に戻ってきたところだった。
まだ早朝のファンの町は商店の朝の準備の音くらいしかしないほどに静かで、昼間の活気までは程遠い。道端の枯れた下草にはびっしりと霜が降りている。
「あー、寒ぃ寒ぃ。早くあったかいものが飲みたいもんだ」
愚痴をこぼすヒースの顔をノリスが覗き込む。
「そんなに寒いかなあ? 冬ってこんなもんじゃない?」
「寒いっつーの。何でそんなに無駄に元気なんだ」
「えー? ボク冬好きだしぃー」
ノリスは能天気な声で答えると、空を見上げる。
灰色がかった雲が低く垂れ込め、そのくせ妙に明るい色をした空。雪が近いのかもしれない。
「雪降りそうだね」
「ホントですか?」
「うん」
再び能天気な声の返答。それとともにマウナとエキューも頷いた。ということは、本当に雪は来るのだろう。こういうことに関して、シャーマンを疑う必要は無い。
「雪か、ますます嫌だな」
「ヒース兄さんは冬が嫌いでしたっけ?」
「大嫌いだ。ああ、夏が恋しい」
「夏に机に突っ伏して、冬が恋しいって言ってませんでしたか?」
大げさに肩をすくめるヒースに、イリーナが首をかしげる。
「夏には冬が、冬には夏が恋しいっていうタイプね。たまにいるわ、そういう根性無し」
マウナが呆れたような声を上げる。
「根性無しとはなんだ! このデリケートなシティーボーイの俺様に向かって!」
「はいはい」
適当にあしらうような声をあげながら、マウナは再び空を見る。
「あ、雪」
ひらり、と白い破片が空から落ちてくる。
それは最初とても少なく静かに降ってきていたが、やがて切れ間が無くなってくる。
雪は暫らく降り続けるかもしれない。
「雪って好きだわ」
「砂糖振り掛けたら立派なデザートだからな。そこまで来たら貧乏性じゃなくてただの貧乏だぞマウナ。俺様たち最近は金持ちなんだから、往来でそういうこと言うなよ」
「マウナ、砂糖買ってあげようか?」
マウナはヒースとノリスのスネをすかさず蹴り飛ばす。
「そんなんじゃないわよ!」
「私も雪好きですよ。ファリス様の白で世界が埋め尽くされます」
「それはそれで問題発言な気がする」
穏やかな笑みを見せるイリーナに、エキューがぼそりと呟く。
「いやあ、見ていて飽きませんな」
微笑むバス。苦い顔をするガルガド。
「雪は後で楽しめばいい。とりあえず宿に戻るぞ。体が冷えると良くないからの」
「そうだなおやっさん。雪なんぞガキがよろこぶもんだ」
「お前はもう少し若さを持ったほうがいいかもしれん」
■前回のWEB拍手のへっぽこ分です。
いつまでもへっぽこが書かれてないのもなあ、と思ったので、とりあえずアップしておきます。
……まだまだへっぽこはダメですな。難しいなあ。
空気は張り詰めたようにピンとしていて冷たく、何処か厳かな感じがする。
寒さは一日一日と増していくが、寒いからといって冒険者が冒険を休むことは無く、彼らは一つ小さな旅を終えて懐かしいファンの町に戻ってきたところだった。
まだ早朝のファンの町は商店の朝の準備の音くらいしかしないほどに静かで、昼間の活気までは程遠い。道端の枯れた下草にはびっしりと霜が降りている。
「あー、寒ぃ寒ぃ。早くあったかいものが飲みたいもんだ」
愚痴をこぼすヒースの顔をノリスが覗き込む。
「そんなに寒いかなあ? 冬ってこんなもんじゃない?」
「寒いっつーの。何でそんなに無駄に元気なんだ」
「えー? ボク冬好きだしぃー」
ノリスは能天気な声で答えると、空を見上げる。
灰色がかった雲が低く垂れ込め、そのくせ妙に明るい色をした空。雪が近いのかもしれない。
「雪降りそうだね」
「ホントですか?」
「うん」
再び能天気な声の返答。それとともにマウナとエキューも頷いた。ということは、本当に雪は来るのだろう。こういうことに関して、シャーマンを疑う必要は無い。
「雪か、ますます嫌だな」
「ヒース兄さんは冬が嫌いでしたっけ?」
「大嫌いだ。ああ、夏が恋しい」
「夏に机に突っ伏して、冬が恋しいって言ってませんでしたか?」
大げさに肩をすくめるヒースに、イリーナが首をかしげる。
「夏には冬が、冬には夏が恋しいっていうタイプね。たまにいるわ、そういう根性無し」
マウナが呆れたような声を上げる。
「根性無しとはなんだ! このデリケートなシティーボーイの俺様に向かって!」
「はいはい」
適当にあしらうような声をあげながら、マウナは再び空を見る。
「あ、雪」
ひらり、と白い破片が空から落ちてくる。
それは最初とても少なく静かに降ってきていたが、やがて切れ間が無くなってくる。
雪は暫らく降り続けるかもしれない。
「雪って好きだわ」
「砂糖振り掛けたら立派なデザートだからな。そこまで来たら貧乏性じゃなくてただの貧乏だぞマウナ。俺様たち最近は金持ちなんだから、往来でそういうこと言うなよ」
「マウナ、砂糖買ってあげようか?」
マウナはヒースとノリスのスネをすかさず蹴り飛ばす。
「そんなんじゃないわよ!」
「私も雪好きですよ。ファリス様の白で世界が埋め尽くされます」
「それはそれで問題発言な気がする」
穏やかな笑みを見せるイリーナに、エキューがぼそりと呟く。
「いやあ、見ていて飽きませんな」
微笑むバス。苦い顔をするガルガド。
「雪は後で楽しめばいい。とりあえず宿に戻るぞ。体が冷えると良くないからの」
「そうだなおやっさん。雪なんぞガキがよろこぶもんだ」
「お前はもう少し若さを持ったほうがいいかもしれん」
■前回のWEB拍手のへっぽこ分です。
いつまでもへっぽこが書かれてないのもなあ、と思ったので、とりあえずアップしておきます。
……まだまだへっぽこはダメですな。難しいなあ。
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次の朝。
空は綺麗に晴れ、柔らかく吹いていく風は心地よい。
透明感のある青い空に、刷毛で塗ったような薄い雲。
光が溢れ、薄汚れたところが少ない町並みは、とても神々しかった。
「すばらしいです」
昨夜から一転、グレートソードを背負うイリーナの顔はいい感じに輝いている。見るもの全てにファリス様の栄光を感じ取り、背中には愛しいグレートソード。彼女は今、ともかく幸福感に満ち溢れていた。
「このすばらしさを、どう表現したらいいのか、全然思いつきません!」
「心に留めておけばいいのよ」
少し落ち着け、といわんばかりにマウナがイリーナの肩を軽く叩きながらため息をつく。
「でも、綺麗な街だよねー。工事とかしてないし」
ノリスがきょろきょろとあちこち見回す。
「落ち着いた良い町なんですがねー、ちょっと堅苦しいのが玉に瑕です」
案内役のグイズノーが苦笑し、パラサが大きく頷く。
「それより、ヒースがギルドで馬鹿やってないといいんだけど。いつものつもりでいったら大変よ」
マウナが魔術師ギルドのほうを見やる。
「いくら兄さんが態度の大きい、不遜な魔術師でも、そこまで馬鹿じゃないでしょう」
本人が居ないからとはいえ、なかなかに酷い。いつもどおりなのかもしれない。
「大丈夫にゅ。フィリス姉ちゃんが居るし……あのギルドで大騒ぎできたら、それはそれで大物にゅ」
「聖なる魔術師ギルドですからねー」
パラサとグイズノーの不思議な説明に、一行は首を傾げるしかない。
「バスはまあ、大丈夫だよね。レジィナさんも一緒に行ってくれてるし」
「いくら稼いでくるかしら」
「歌いに行ったわけじゃないよ」
「冒険譚より、賛美歌とかのほうが好まれる町ですから、苦戦するんじゃないですかねー」
グイズノーは今度は音楽堂のほうへ首をめぐらせる。まあ、レジィナとの二人組ならあちらは大丈夫だろう。ヒースとフィリスも大丈夫だろう。騒ぎ出したとしても、フィリスのあの迫力に、ヒースが勝てるとは思えない。一番問題なのは、多分自分たちだ、と彼は他人事のように理解した。スイフリーとアーチーは宿で待機だから、そういう意味ではまだ安全側だ、という判断もある。
「にゅ。じゃあ、俺らも行くにゅ。どっからいく?」
「そうですねー、音楽堂もギルドも、まあ、有名ですから外からちらっと見る感じで、町の主だったところをぐるーっと回ればいいんじゃないですかね? あとは皆さんが気になったところを見るとか。……パラサ、あなたはクレアさんからどこかお薦めとか伺ってないんですか? もしくは、彼女のお気に入りの場所とか」
「姉ちゃんがよく行ってた公園なら知ってるけど、それは俺と姉ちゃんの秘密にゅ。後は姉ちゃん、基本的に神殿と仕事場の往復だったからー」
「ああ、まあ、クレアさんならそうでしょうね」
期待は最初からしていないから、ダメージはほとんど無い。
「ではまあ、適当に歩きましょうか」
「でも変な感じにゅ。シーフの俺と、ラーダのグイズノーが、ファーズの案内……」
「そういう時は、考え方を変えるのですよ」
「にゅ?」
「スイフリーじゃなくて良かった」
「それはいえてるにゅ」
一方。
「すげ」
その建物にヒースは思わず呟く。ファンの見慣れた魔術師ギルドと比べて、随分趣の違う建物がそこにはあった。出かける前にパラサが「聖なる魔術師ギルド」などと、少し笑っていたのを思い出し、アレは確かに正しいことだったのだ、と大きく頷く。建物はそれほど華美というわけではない。が、やはり白を基調としたどっしりとした建物には、どことない威厳が有る。内部に入ってみると、利用する魔術師たちも、同じローブのはずなのにどこか折り目正しい格好をし、真面目な顔をして歩いている。掃除が行き届かない場所はなく、ステンドグラスから入ってくる光がこの上なく美しい。魔術師が神を信じることがあれば、普通それは知識の神ラーダである。が、ここではファリスを信じる以外の選択肢は考えられないのだろう、と直感的に理解する。自分の信仰は(まあ、かなりアバウトになっているとはいえ)ファンではやはり少々珍しい部類だったが、ここではスタンダード。何だか不思議な気分になる。まあもっとも、ここに居るものたちにいわせればきっと自分の信仰など、信仰
していないに等しい扱いだろうが。
「なるほど、あの宿でも規律に甘いほうだって意味が分かった」
「でしょ」
フィリスは少し苦笑する。彼女も多分、ここの空気は苦手なのだろう、とヒースは理解する。ただ、自分よりは多少なれているからまだ平気な顔をしているのだ。
「じゃあ、ちょっとあちこち見て回ってくる」
「あたしはここに居るから、終わったら声をかけてね」
フィリスはにっこりと笑うと、受付に近いテーブルに腰掛け、魔術書を開いた。
■次回はバス組。
ファーズよう知らんので、大体は妄想です。適当に流してもらえると嬉しいです。
今年の更新はこれがラストです。
来年は、どういう日取りで更新するか、まだ未定です。
とりあえず、泡ぽこは続きます。
へっぽこを書きたいです。
アチフィリも書きたいなあ。
ルージュを読み直して書くのとかもいいなあ。
まあ、希望言うだけは簡単ですから。
今年はおせわになりました。
来年も適当によろしくしたってください。
空は綺麗に晴れ、柔らかく吹いていく風は心地よい。
透明感のある青い空に、刷毛で塗ったような薄い雲。
光が溢れ、薄汚れたところが少ない町並みは、とても神々しかった。
「すばらしいです」
昨夜から一転、グレートソードを背負うイリーナの顔はいい感じに輝いている。見るもの全てにファリス様の栄光を感じ取り、背中には愛しいグレートソード。彼女は今、ともかく幸福感に満ち溢れていた。
「このすばらしさを、どう表現したらいいのか、全然思いつきません!」
「心に留めておけばいいのよ」
少し落ち着け、といわんばかりにマウナがイリーナの肩を軽く叩きながらため息をつく。
「でも、綺麗な街だよねー。工事とかしてないし」
ノリスがきょろきょろとあちこち見回す。
「落ち着いた良い町なんですがねー、ちょっと堅苦しいのが玉に瑕です」
案内役のグイズノーが苦笑し、パラサが大きく頷く。
「それより、ヒースがギルドで馬鹿やってないといいんだけど。いつものつもりでいったら大変よ」
マウナが魔術師ギルドのほうを見やる。
「いくら兄さんが態度の大きい、不遜な魔術師でも、そこまで馬鹿じゃないでしょう」
本人が居ないからとはいえ、なかなかに酷い。いつもどおりなのかもしれない。
「大丈夫にゅ。フィリス姉ちゃんが居るし……あのギルドで大騒ぎできたら、それはそれで大物にゅ」
「聖なる魔術師ギルドですからねー」
パラサとグイズノーの不思議な説明に、一行は首を傾げるしかない。
「バスはまあ、大丈夫だよね。レジィナさんも一緒に行ってくれてるし」
「いくら稼いでくるかしら」
「歌いに行ったわけじゃないよ」
「冒険譚より、賛美歌とかのほうが好まれる町ですから、苦戦するんじゃないですかねー」
グイズノーは今度は音楽堂のほうへ首をめぐらせる。まあ、レジィナとの二人組ならあちらは大丈夫だろう。ヒースとフィリスも大丈夫だろう。騒ぎ出したとしても、フィリスのあの迫力に、ヒースが勝てるとは思えない。一番問題なのは、多分自分たちだ、と彼は他人事のように理解した。スイフリーとアーチーは宿で待機だから、そういう意味ではまだ安全側だ、という判断もある。
「にゅ。じゃあ、俺らも行くにゅ。どっからいく?」
「そうですねー、音楽堂もギルドも、まあ、有名ですから外からちらっと見る感じで、町の主だったところをぐるーっと回ればいいんじゃないですかね? あとは皆さんが気になったところを見るとか。……パラサ、あなたはクレアさんからどこかお薦めとか伺ってないんですか? もしくは、彼女のお気に入りの場所とか」
「姉ちゃんがよく行ってた公園なら知ってるけど、それは俺と姉ちゃんの秘密にゅ。後は姉ちゃん、基本的に神殿と仕事場の往復だったからー」
「ああ、まあ、クレアさんならそうでしょうね」
期待は最初からしていないから、ダメージはほとんど無い。
「ではまあ、適当に歩きましょうか」
「でも変な感じにゅ。シーフの俺と、ラーダのグイズノーが、ファーズの案内……」
「そういう時は、考え方を変えるのですよ」
「にゅ?」
「スイフリーじゃなくて良かった」
「それはいえてるにゅ」
一方。
「すげ」
その建物にヒースは思わず呟く。ファンの見慣れた魔術師ギルドと比べて、随分趣の違う建物がそこにはあった。出かける前にパラサが「聖なる魔術師ギルド」などと、少し笑っていたのを思い出し、アレは確かに正しいことだったのだ、と大きく頷く。建物はそれほど華美というわけではない。が、やはり白を基調としたどっしりとした建物には、どことない威厳が有る。内部に入ってみると、利用する魔術師たちも、同じローブのはずなのにどこか折り目正しい格好をし、真面目な顔をして歩いている。掃除が行き届かない場所はなく、ステンドグラスから入ってくる光がこの上なく美しい。魔術師が神を信じることがあれば、普通それは知識の神ラーダである。が、ここではファリスを信じる以外の選択肢は考えられないのだろう、と直感的に理解する。自分の信仰は(まあ、かなりアバウトになっているとはいえ)ファンではやはり少々珍しい部類だったが、ここではスタンダード。何だか不思議な気分になる。まあもっとも、ここに居るものたちにいわせればきっと自分の信仰など、信仰
していないに等しい扱いだろうが。
「なるほど、あの宿でも規律に甘いほうだって意味が分かった」
「でしょ」
フィリスは少し苦笑する。彼女も多分、ここの空気は苦手なのだろう、とヒースは理解する。ただ、自分よりは多少なれているからまだ平気な顔をしているのだ。
「じゃあ、ちょっとあちこち見て回ってくる」
「あたしはここに居るから、終わったら声をかけてね」
フィリスはにっこりと笑うと、受付に近いテーブルに腰掛け、魔術書を開いた。
■次回はバス組。
ファーズよう知らんので、大体は妄想です。適当に流してもらえると嬉しいです。
今年の更新はこれがラストです。
来年は、どういう日取りで更新するか、まだ未定です。
とりあえず、泡ぽこは続きます。
へっぽこを書きたいです。
アチフィリも書きたいなあ。
ルージュを読み直して書くのとかもいいなあ。
まあ、希望言うだけは簡単ですから。
今年はおせわになりました。
来年も適当によろしくしたってください。
「説明を始めてよろしいですか?」
暫らく様子を見守っていたクレアが、どうやら事態は好転したりしないと感じ取って声をかける。
「いいともいいとも、進めてくれたまえ」
「えらっそーに」
まるで自分が招待されたかのようにヒースはふんぞり返ってクレアに先を促す。それに対してぼそりと感想を述べたのはエキュー。呆れてしまっている、というのが実際だ。
そんな二人の様子に動じることもなく、クレアは淡々と説明を始めた。
「法皇様なのですが、明日はご予定があるとのことで、面会は2日後となりました。当日はファリス神殿で王城からの使者を待ちます。当初はイリーナだけという予定でしたが、一緒に戦ったものも是非、とのことなので、皆さんも一緒に王城へ向かってください」
急展開に、オーファンの冒険者たちはどよめく。
「いいのかしら」
「向こうがいいっていうんだから、いいんじゃない?」
両頬に手をあてうろたえるマウナに、ノリスは軽い声で頷いてみせる。こういう状況でも自然体で居られる、というのはもしかしたら大物なのかもしれない。何も考えてないだけかもしれない。
「ワシはマイリー神官なのだが、いいんじゃろうか?」
「わたくしもラーダ神官ですけど、お会いしたことありますし、大丈夫でしょう」
流石のことに、ガルガドですら動揺した。グイズノーはそれを珍しい、と感じつつ、別に心配は要らないとつたえる。事実、問題は無かった。
確かにこの国はファリス以外の神官は暮らしにくいと言えなくもないが、だからといって被害をこうむることなども無い。
「新たなサーガを作れますな」
「できたら是非聞かせてください」
バスがニコニコと笑い、レジィナが嬉しそうな顔をする。
「さて、それで詳しい話は終わりか? そんなことはないだろう?」
スイフリーに先を促され、クレアは頷いてから続きを話す。
「王城へは私やアーチボルトさんたちは今回ついていけませんので、当日は使者の方々の指示にしたがってください。謁見はそう長い時間にはならないと思います。お言葉を賜ったら、再びファリス神殿へ戻ってきていただきます。それでおしまいです」
「割とあっけないもんなんだな」
「会えるだけですごいことなんだから、そんなこと言わないの!」
マウナはヒースの後頭部に、いつもどおり突込みを入れる。
「イリーナ、分かったか?」
未だ机に突っ伏したままのイリーナに、ヒースは呆れたような顔をしつつも確認のため声をかける。
「聞いてました。わかりました」
「グレートソードとファリスの一番偉い人と比べて、グレートソードのほうがえらいの?」
いつまでたっても浮上してこないイリーナに、ノリスは不思議そうに首をかくんと傾けて見せた。
「どっちも大切です」
「わりと欲張りにゅ」
へらりとパラサは笑う。
「パラサはそういう感じの二択ならどうなの?」
フィリスがにまっと笑う。
「どんな感じにゅ?」
「クレアと友愛団の一番偉い人なら、どっち?」
「そんなん、クレア姉ちゃんにゅ」
「お前、だから友愛団探せないんじゃないか?」
即答したパラサに、スイフリーは呆れた顔をする。
「いいんにゅ。だって俺、オラン所属だし」
「オランもアノスも、グラスランナーの移籍は気にしてられんのじゃないか? 事実、徴収に来ない」
「何の話ですか?」
「クレア姉ちゃんは知らなくていいんにゅ」
にぱりとパラサは笑って見せる。クレアは首を傾げたが、それ以上追求しなかった。追求してもかわされるのがオチだ。
「と、なると。明日は一日全員がフリーと言うことになるな。我々は2日後までかっきり何もなし。宿で待機か」
アーチボルトが強引に話を元に戻す。別に話が脱線するのは嫌いではないが、先にまとめることはまとめておいたほうがいい。
「じゃあ、明日は一日遊べるんだ。ファーズの観光だね!」
「浮かれるな、クソガキ」
「しかし、今度いつこちらへ来るか分からないのもまた事実。来るのに4ヶ月はかかりますからな。この際色々見ておくのは良いことです」
バスが大きく頷く。芸術家を自称する彼にとって、新しい街がどれだけ魅力的に見えるかなど、聞かなくても分かる。
「ファーズ観光ねえ」
スイフリーが不思議そうな顔をする。一体この街のどこに、見るべき価値が存在するのだろう。
「どこかお勧めとかありますか?」
マウナの質問に、一同は暫く考える。
「ファリス神殿は放っておいても見れるわけだし。王城にいたっては中に入れるのだし。……どこかな?」
「エライセンのおっちゃんの音楽堂は?」
「何か出し物があれば開いてるかも知れないが……基本的に外観見るだけにならないか?」
「やっぱりお饅頭屋さんじゃない?」
口々に述べていくが、そもそもファーズ在住というわけでもないので、基本的に自分たちが行く場所くらいしか知らない、というのが現状だ。
「音楽堂へは是非行ってみたいものですな」
バスが大きく頷く。
「アーティストとして、行かないわけにはいきません」
「俺様としてはやはり魔術師ギルドははずせまい!」
ヒースは「この溢れんばかりの知識がどこでも通用することを証明するのだー」などと言いながら深く何度も頷く。
「あちこち見て回りたいのは確かかも。お母さんたちにお土産買って行きたいし」
「マウナさんが行くなら、僕も行きます!」
エキューが素早く挙手する。
「では音楽堂班と魔術師ギルド班、それと散策班にわかれて案内すればいいですね」
グイズノーが話をまとめ、その日はそれで解散となった。
■金曜日にアップするのを忘れていました。
いま、ちょっと時間に余裕ができたので、アップしておきます。
気付けば、31日は月曜日なんですね。忘れないようにしないと。
暫らく様子を見守っていたクレアが、どうやら事態は好転したりしないと感じ取って声をかける。
「いいともいいとも、進めてくれたまえ」
「えらっそーに」
まるで自分が招待されたかのようにヒースはふんぞり返ってクレアに先を促す。それに対してぼそりと感想を述べたのはエキュー。呆れてしまっている、というのが実際だ。
そんな二人の様子に動じることもなく、クレアは淡々と説明を始めた。
「法皇様なのですが、明日はご予定があるとのことで、面会は2日後となりました。当日はファリス神殿で王城からの使者を待ちます。当初はイリーナだけという予定でしたが、一緒に戦ったものも是非、とのことなので、皆さんも一緒に王城へ向かってください」
急展開に、オーファンの冒険者たちはどよめく。
「いいのかしら」
「向こうがいいっていうんだから、いいんじゃない?」
両頬に手をあてうろたえるマウナに、ノリスは軽い声で頷いてみせる。こういう状況でも自然体で居られる、というのはもしかしたら大物なのかもしれない。何も考えてないだけかもしれない。
「ワシはマイリー神官なのだが、いいんじゃろうか?」
「わたくしもラーダ神官ですけど、お会いしたことありますし、大丈夫でしょう」
流石のことに、ガルガドですら動揺した。グイズノーはそれを珍しい、と感じつつ、別に心配は要らないとつたえる。事実、問題は無かった。
確かにこの国はファリス以外の神官は暮らしにくいと言えなくもないが、だからといって被害をこうむることなども無い。
「新たなサーガを作れますな」
「できたら是非聞かせてください」
バスがニコニコと笑い、レジィナが嬉しそうな顔をする。
「さて、それで詳しい話は終わりか? そんなことはないだろう?」
スイフリーに先を促され、クレアは頷いてから続きを話す。
「王城へは私やアーチボルトさんたちは今回ついていけませんので、当日は使者の方々の指示にしたがってください。謁見はそう長い時間にはならないと思います。お言葉を賜ったら、再びファリス神殿へ戻ってきていただきます。それでおしまいです」
「割とあっけないもんなんだな」
「会えるだけですごいことなんだから、そんなこと言わないの!」
マウナはヒースの後頭部に、いつもどおり突込みを入れる。
「イリーナ、分かったか?」
未だ机に突っ伏したままのイリーナに、ヒースは呆れたような顔をしつつも確認のため声をかける。
「聞いてました。わかりました」
「グレートソードとファリスの一番偉い人と比べて、グレートソードのほうがえらいの?」
いつまでたっても浮上してこないイリーナに、ノリスは不思議そうに首をかくんと傾けて見せた。
「どっちも大切です」
「わりと欲張りにゅ」
へらりとパラサは笑う。
「パラサはそういう感じの二択ならどうなの?」
フィリスがにまっと笑う。
「どんな感じにゅ?」
「クレアと友愛団の一番偉い人なら、どっち?」
「そんなん、クレア姉ちゃんにゅ」
「お前、だから友愛団探せないんじゃないか?」
即答したパラサに、スイフリーは呆れた顔をする。
「いいんにゅ。だって俺、オラン所属だし」
「オランもアノスも、グラスランナーの移籍は気にしてられんのじゃないか? 事実、徴収に来ない」
「何の話ですか?」
「クレア姉ちゃんは知らなくていいんにゅ」
にぱりとパラサは笑って見せる。クレアは首を傾げたが、それ以上追求しなかった。追求してもかわされるのがオチだ。
「と、なると。明日は一日全員がフリーと言うことになるな。我々は2日後までかっきり何もなし。宿で待機か」
アーチボルトが強引に話を元に戻す。別に話が脱線するのは嫌いではないが、先にまとめることはまとめておいたほうがいい。
「じゃあ、明日は一日遊べるんだ。ファーズの観光だね!」
「浮かれるな、クソガキ」
「しかし、今度いつこちらへ来るか分からないのもまた事実。来るのに4ヶ月はかかりますからな。この際色々見ておくのは良いことです」
バスが大きく頷く。芸術家を自称する彼にとって、新しい街がどれだけ魅力的に見えるかなど、聞かなくても分かる。
「ファーズ観光ねえ」
スイフリーが不思議そうな顔をする。一体この街のどこに、見るべき価値が存在するのだろう。
「どこかお勧めとかありますか?」
マウナの質問に、一同は暫く考える。
「ファリス神殿は放っておいても見れるわけだし。王城にいたっては中に入れるのだし。……どこかな?」
「エライセンのおっちゃんの音楽堂は?」
「何か出し物があれば開いてるかも知れないが……基本的に外観見るだけにならないか?」
「やっぱりお饅頭屋さんじゃない?」
口々に述べていくが、そもそもファーズ在住というわけでもないので、基本的に自分たちが行く場所くらいしか知らない、というのが現状だ。
「音楽堂へは是非行ってみたいものですな」
バスが大きく頷く。
「アーティストとして、行かないわけにはいきません」
「俺様としてはやはり魔術師ギルドははずせまい!」
ヒースは「この溢れんばかりの知識がどこでも通用することを証明するのだー」などと言いながら深く何度も頷く。
「あちこち見て回りたいのは確かかも。お母さんたちにお土産買って行きたいし」
「マウナさんが行くなら、僕も行きます!」
エキューが素早く挙手する。
「では音楽堂班と魔術師ギルド班、それと散策班にわかれて案内すればいいですね」
グイズノーが話をまとめ、その日はそれで解散となった。
■金曜日にアップするのを忘れていました。
いま、ちょっと時間に余裕ができたので、アップしておきます。
気付けば、31日は月曜日なんですね。忘れないようにしないと。
大広間の、一番日当たりの良いソファに座って、神官が編み物をしているのを発見する。彼女はにま、と笑うと、その正面に座った。
そのソファを一番気に入っているエルフは、現在城にいない。しかし、コレまで誰も、城にエルフが居ようが居まいが、あまりそのソファに座ろうとはしなかった。
そのソファに神官が座っているだけで、彼女はもう嬉しくてたまらない。
「クレア」
声をかけると、神官が顔を上げた。
「フィリスさん……、ちょっとお待ちください」
神官はきりの良いところまで編み進め、それから本格的に顔を上げた。
「何か御用ですか?」
「ううんー、別にー。それ、スイフリー宛?」
「いえ、リズです」
即座に否定された。
とはいえ、神官が編んでいる毛糸はきれいなピンク色だったから、もとよりエルフ宛だとは期待していなかった。だから、そんなにショックはない。
「リズかー。もー、色気ないんだから。スイフリーには何あげるの?」
「別に頼まれてませんから、特になにも」
「そういうのは頼まれてなくても編んでプレゼントするのよ!」
「……そういうものですか」
「そうよ!」
彼女は胸を張って断言する。尤も、彼女自身は一度も最後まで編み物を成功させたためしがないから、その作戦はとうの昔に諦めたのだが。
「……そういうものなんですね」
神官は神妙な顔をして手元の毛糸を見る。
「なんなら、麓の村まで毛糸買いに行くのつきあうわよ!」
興味津々の顔を向ける彼女に、神官は苦笑して見せた。
「いえ、いいです。プレゼントするならもっとこう……」
神官はそこまで言いかけて、しかし最後までは言わなかった。言葉に言い表せない、ということかもしれない。
「もっと、何?」
不用意に彼女の好奇心をつついてしまったのだ、と神官が気付いた頃にはもう遅い。彼女はその形の良い唇に笑みを浮かべ、神官をじっと見据えている。
多分、中途半端な、彼女に納得の行かない答えではいつまでたっても開放してもらえないだろう。
「なんというか……もっと、形の残るものがいいです」
観念して答えると、彼女は眉を寄せた。
「どうして? 編み物のほうが、ココロがこもってるじゃない?」
編み物や機織ならば、女性のたしなみ、ということで幼い頃に習わせる家庭もある。神官が編み物を出来るのも、つまりそういうことだろう、と彼女は推測した。
しかし、形の残るものとすれば、金属だとか専門的なものを扱うことになるだろう。その能力を神官が持っているとは思えない。つまり、彼女はプレゼントを買って済ませよう、ということだ。
それが、彼女には納得できない。
「その……」
神官は少し頬を赤らめると、彼女から目をそらした。それからぼそぼそと小声で答える。
「つまり……毛糸はどれだけていねいに扱ってもらっても、そのうち虫に食われることもあるでしょうし、何処かに引っ掛けたら解けます」
「だから?」
少し声がキツイ。神官は遂には俯いて、彼女から完全に顔を背け、答える。
「そういう、生きているうちに何度でも渡せるものは、後回しでもいいです。勿論、ほしいと言われれば用意しますし、全然意味がないとは言わないんですけど……。いつか私がファリス様の下に召されたあとも、ずっと残って、持っていてもらえるもの、もしプレゼントするならそういうものを優先して、たくさん渡したいんです」
彼女は神官をまじまじと見つめた。
神官は、いまだ顔を伏せたままでこちらを見ては居ない。
ただ、どことなく、寂しそうに見えた。
生きる時間が違うものを、好きになるということはこういうことなんだろうか。
ずっと先を、自分が居なくなった未来を見据えて。
同じように進まない時間を、突きつけられながら生きていく。
今ならエルフが逃げ腰だった意味が分からないでもない。
彼もまた、同じように進まない時間を突きつけられていく。
神官と居る時間など、エルフにとっては一瞬だろう。
その後の長い長い空白。
背負わせるにも、背負うにも、重い。
けれど。
彼女は立ち上がると、神官の傍まで歩く。
「ねえ」
声をかけると、神官が顔を上げた。恥ずかしそうにまだ目をそらしているし、顔も赤い。が、彼女はそんなことはお構い無しに神官をぎゅっと抱きしめた。
「クレア、あんたすっごい可愛い。あの性悪エルフには勿体無かった!」
「性悪……」
神官が少し気を悪くしたような声で言う。確かに、他人の恋人を捕まえて評する言葉ではなかった気がするが、まあ、概ね真実だから仕方ない。
彼女は勤めて明るい声を出す。
確かに、そう遠くない未来、彼らには重い現実がのしかかるかもしれない。けれど、今幸せであるのも、また事実なのだ。
だとしたら、喜んであげるべきであるし、また、単純に興味もある。
あのエルフが、この神官に、どういう言葉をかけているのか。何をしているのか。
甘い言葉の一つも、吐いたのだろうか。
「で? で? スイフリーからは何か貰った?」
「……指輪を」
「え! ホント!?」
神官の返答に彼女は驚き、すぐさま神官の手をとり指を確認する。
あのエルフが、そういう系統のプレゼントをすぐさまするとは思っていなかったから、その衝撃はかなり大きい。
が、神官の指には指輪は光っていなかった。
左手の薬指だけではなく、全ての指において。
「ないじゃない」
「それがその……しようにもできないというか」
「どういうこと?」
よほど妙なデザインなのだろうか。それとも指輪は指輪でもコモンルーンというオチなのだろうか。どちらにせよ、今度エルフに会ったら説教の一つもしてやらなければ。
彼女が頭の中でそういうことを考えているとは、神官は思いもよらないだろう。すこし苦笑して、続ける。
「サイズが合わないんです。どの指にも。微妙に大きかったり小さかったりで」
その言葉を聞いて、とりあえず彼女はにっこりと笑顔を作る。
少なくとも、この神官はプレゼントされた指輪を身につけようとしたわけだ。これで非は完全にエルフだけにある。
とりあえず、平手打ちで許しておこう。吹っ飛ぶかもしれないけど。
考えながらも、笑顔は崩さない。
「そっか、それは残念……」
言いかけて、彼女はふと思い出す。
仲間のグラスランナーは、何度もこの神官に贈り物をしている。それは美しい布だったり、絵葉書だったり、アクセサリーだったりと様々だ。その、アクセサリーの中に確か指輪も含まれていたはず。
「ねえ、パラサに指輪貰ったことなかったっけ?」
「有ります」
「サイズ、どうだった?」
「ぴったりでしたけど」
彼女は少し考える。
つまり、エルフは彼女の指に合う指輪を買う方法はあったわけだ。グラスランナーに尋ねるというのはエルフとしてはかなり屈辱的かもしれないが、合わないものを渡すより、断然良い。しかも、無駄なものを嫌うエルフのことだから、使えないものを渡すなどということをするとは思えない。
何かある。
直感し、尋ねる。
「ねえ、どんな指輪だったの?」
「コレです」
指輪はあっさりその場で見せられた。何のことはない、神官は指輪を銀のチェーンに通して、ネックレスとして身に着けていたのだ。服のなかに隠れていたから気付かなかったのだ。
「ちょっと見せて」
「わかりました」
神官はネックレスをはずすと、彼女に手渡す。
彼女はそっと受け取ると、それを観察した。
チェーンはただ銀色にメッキされたワケではなく、きちんとした銀細工で、質の良いものを使ったものだった。重さも結構あり、しっかりとした作りであるのが分かる。多分、その辺で市販されているものではなく、作らせたものだ。
そしてそのチェーンに通された指輪も、土台は銀だった。赤や緑、紫など色とりどりの宝石が7つ、きれいに並べてはめられている。土台である銀も、はめられた宝石も質が良い。
彼女は指輪をもう一度見て、やがてにっこりとクレアに笑いかけた。
「ねえ、このチェーンのほうはどうしたの?」
「コレも頂いたんです。指輪がどうしても指に合わないから作り直してもらうことを提案しましたら、だったらこれに通して首からかけてろ、と」
「ははーん、なるほどねー」
にやにやと笑う彼女を、神官は不思議そうに見つめる。
「どうしたんですか? フィリスさん?」
「ねえクレア、コレは私の予想なんだけど、あのエルフ、わざわざアンタの指に合わない指輪を作らせたのよ」
「なぜですか?」
納得行かない、という顔で神官は彼女を見た。
「この指輪、意味聞いた?」
「意味? いえ、特には。『やる』と言われて手渡されたので」
その様子を想像して、彼女は笑う。
意味を知っていたらどうしようと内心気が気ではなかったのではないだろうか。
もっとも、エルフがもともと意味を知っていたとは思えない。きっと宝石商に適当に見繕わせたとき、意味を聞いた程度だとは思う。
しかし、コレを選ぶなんて、ね。
「意味があるんですか?」
神官は指輪をしげしげと見つめる。特に刻印があるわけでもない、少し宝石が多いのが特徴の指輪だ。
「一番左は、この透明ね。ダイアモンド」
「……!」
宝石が何かまでは気に留めていなかったのだろう、神官は少し驚いたような顔をする。
「次の緑はエメラルド。その次の紫はアメジスト。次の赤はルビーで、その隣の緑は、もう一回エメラルド。次に続く青いのがサファイアで、最後の淡褐色がトパーズ」
彼女は、神官の手の中の指輪についた宝石を、一つ一つ指差しながら説明する。
「宝石の、頭文字を並べてみなさいな」
「頭文字? ……ええと、ダイアモンドですから、D。次がエメラルドのEで……A、R、E、S……」
最後の一文字までは声に出せず、一瞬で神官の顔が赤くなった。
「ねー? あのエルフ、持っていて欲しいけど、堂々と指にはめられたら恥ずかしいからこんな回りくどいことしたのよー!」
彼女は笑うと神官の顔を見る。
「……最愛なる人、かあ。私もアーチーに言われたいわぁ」
硬直したままの神官の手から、そのネックレスを取ると、彼女は神官の首にかける。
重い想いがこめられた、プレゼントを。
「クレア。あんたは永遠を手に入れたのよ」
■ちょっと蛇足気味では有りますが、「その後の彼ら」みたいな感じで読んでいただければ。
と、言うわけで、長々と書いてまいりました「Lovesick」は今回でおしまいです。
いちゃべたしない二人のお話に(キスすらしないのは当初からの予定でした)、
長々とお付き合いくださいまして、有難う御座いました。
■ちょっと蛇足気味では有りますが、「その後の彼ら」みたいな感じで読んでいただければ。
と、言うわけで、長々と書いてまいりました「Lovesick」は今回でおしまいです。
いちゃべたしない二人のお話に(キスすらしないのは当初からの予定でした)、
長々とお付き合いくださいまして、有難う御座いました。
イリーナは宿のベッドにうつぶせに寝転がり、むう、と頬を膨らます。
「ファリス様に誓って、絶対に振り回したりしないのに……」
予告されていたとはいえ、大好きなグレートソードを宿預かりにされ、彼女は少し……かなり不満を感じていた。
宿の人間一人では、彼女の剣はもちろん動かすどころか持ち上げることすら困難だ。だから、せめて自分で保管庫まで運ぶといってみたのだが、それも防犯上の理由できっぱりと断られ(やんわりと断るわけではないあたりに、ファリスらしさを感じる)悲しみ倍増、といった感じだ。
「大丈夫やって、盗られたり無くされたりせんって」
パラサが運ばれていくグレートソードを泣きそうな顔をして見送るイリーナに声をかけていたのだって、多分聞こえていなかっただろう。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと返してくれるわよ」
「わかってます、わかってます、そんなの」
悲嘆にくれている、といっても過言ではない様子のイリーナに、マウナは半ば呆れたように声をかける。
「ファリス様の御許で、そんなことをされるわけがありません」
「じゃあ、そんなに心配しなくてもいいじゃない」
「それとコレとは話が別なんです」
小さく鼻をすすり、イリーナはベッドに突っ伏した。
「なんか、ちょっと中毒?」
「恋人と離れ離れになるって、こういう気分でしょうか。マウナ、クラウスさんと離れているのはどういう感じですか?」
「別にクラウスさんとはまだそこまで深い仲じゃないし、イリーナが今感じてる感覚がどういう感じか私には分からないし、比較はできないんじゃないかしら」
マウナのもっともな言い分に、イリーナは盛大なため息をついた。
と、部屋にドアをノックする音が響く。
「誰かしら?」
はーい、と返事をしてマウナがドアを開ける。ノックの主はクレアで、彼女はベッドに突っ伏すイリーナを見てぎょっとしたような顔をした。
「イリーナはどうしたんですか? 何処か具合が悪いのですか?」
「まあ、悪いと言えば……悪いような」
マウナは歯切れの悪い返答をする。
「大変。何か魔法を」
「そういうのじゃ治らないっていうか……グレートソード欠乏症です」
慌てた声のクレアに、マウナは最後のほうは恥ずかしそうに俯きつつ、小声の早口で説明する。
クレアのほうはそれで理解したのか、一つ頷いてから、いつもの真面目で硬質な声に戻し、マウナを見る。
「これからの予定が決まりましたので、ご説明します。少し大きい部屋を用意しましたので、そちらにお集まりいただきたいのです」
「分かりました。ほら、イリーナ! 元気を出して!」
「ふぁい……」
「おそーい! 俺様待ちくたびれちまったぞ! ペナルティだ! 何かおごれ」
「うるさいわよ」
部屋には既に他の全員が集まっていて、遅れてきたイリーナとマウナに早速ヒースが文句を飛ばす。元気に(というかいつもどおりに)文句を返したのはマウナだけで、イリーナは心ここにあらず、と言う顔でふらふらと歩くと、椅子にぺたん、と座り込んだ。
「あれー? イリーナどうしたの? 元気ないじゃん」
ノリスの声に、イリーナはのろのろと視線をそちらに向け、大きくため息をついてみせる。
「本当に調子が悪そうだぞ? 大丈夫か?」
ガルガドも本当に心配そうな視線を送る。イリーナはいつも元気、病気など風邪すらひかない、というイメージが先行するせいか、ここまで元気がないと流石に心配だ。
イリーナはごつん、と音を立てて机に突っ伏す。
「イリーナ姉ちゃん、大丈夫か?」
眉をよせ、パラサは立ち上がりかける。
と。
「ああ、ファリス様。私は知らない間に何かしたのでしょうか。グレートソードを持ち歩くことは罪だったのでしょうか。確かに私はグレートソードを手に入れるためにちょーっと欲深だったかもしれません。だからって取り上げるなんてあんまりです」
抑揚の無い声でぼそぼそと呟く。
「彼女は何を言っているのだ?」
不可解、といった顔でスイフリーは答えを求めるようにその場にいた全員の顔を見渡す。
「単純に言って、グレートソード欠乏症だな。愛しい愛しいグレートソード、初恋の君グレートソード。夢にまで見て手に入れた最新の業物、それを取り上げられて悲嘆にくれているのだ」
ヒースが呆れたような声で返事をする。
「兄さんには私のこの、張り裂けそうな胸のうちなんてわからないんです」
「もともと張り裂ける胸なんてないじゃないか」
「明日の朝グレートソードが帰ってきたら、真っ先に兄さんを真っ二つにします」
「すみませんごめんなさい俺様が悪かったです許してください」
■祝日だったので、うっかり24日が月曜日だったのをわすれていました。
おくれましたが、53話。
めりーくりすまーす。
「ファリス様に誓って、絶対に振り回したりしないのに……」
予告されていたとはいえ、大好きなグレートソードを宿預かりにされ、彼女は少し……かなり不満を感じていた。
宿の人間一人では、彼女の剣はもちろん動かすどころか持ち上げることすら困難だ。だから、せめて自分で保管庫まで運ぶといってみたのだが、それも防犯上の理由できっぱりと断られ(やんわりと断るわけではないあたりに、ファリスらしさを感じる)悲しみ倍増、といった感じだ。
「大丈夫やって、盗られたり無くされたりせんって」
パラサが運ばれていくグレートソードを泣きそうな顔をして見送るイリーナに声をかけていたのだって、多分聞こえていなかっただろう。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと返してくれるわよ」
「わかってます、わかってます、そんなの」
悲嘆にくれている、といっても過言ではない様子のイリーナに、マウナは半ば呆れたように声をかける。
「ファリス様の御許で、そんなことをされるわけがありません」
「じゃあ、そんなに心配しなくてもいいじゃない」
「それとコレとは話が別なんです」
小さく鼻をすすり、イリーナはベッドに突っ伏した。
「なんか、ちょっと中毒?」
「恋人と離れ離れになるって、こういう気分でしょうか。マウナ、クラウスさんと離れているのはどういう感じですか?」
「別にクラウスさんとはまだそこまで深い仲じゃないし、イリーナが今感じてる感覚がどういう感じか私には分からないし、比較はできないんじゃないかしら」
マウナのもっともな言い分に、イリーナは盛大なため息をついた。
と、部屋にドアをノックする音が響く。
「誰かしら?」
はーい、と返事をしてマウナがドアを開ける。ノックの主はクレアで、彼女はベッドに突っ伏すイリーナを見てぎょっとしたような顔をした。
「イリーナはどうしたんですか? 何処か具合が悪いのですか?」
「まあ、悪いと言えば……悪いような」
マウナは歯切れの悪い返答をする。
「大変。何か魔法を」
「そういうのじゃ治らないっていうか……グレートソード欠乏症です」
慌てた声のクレアに、マウナは最後のほうは恥ずかしそうに俯きつつ、小声の早口で説明する。
クレアのほうはそれで理解したのか、一つ頷いてから、いつもの真面目で硬質な声に戻し、マウナを見る。
「これからの予定が決まりましたので、ご説明します。少し大きい部屋を用意しましたので、そちらにお集まりいただきたいのです」
「分かりました。ほら、イリーナ! 元気を出して!」
「ふぁい……」
「おそーい! 俺様待ちくたびれちまったぞ! ペナルティだ! 何かおごれ」
「うるさいわよ」
部屋には既に他の全員が集まっていて、遅れてきたイリーナとマウナに早速ヒースが文句を飛ばす。元気に(というかいつもどおりに)文句を返したのはマウナだけで、イリーナは心ここにあらず、と言う顔でふらふらと歩くと、椅子にぺたん、と座り込んだ。
「あれー? イリーナどうしたの? 元気ないじゃん」
ノリスの声に、イリーナはのろのろと視線をそちらに向け、大きくため息をついてみせる。
「本当に調子が悪そうだぞ? 大丈夫か?」
ガルガドも本当に心配そうな視線を送る。イリーナはいつも元気、病気など風邪すらひかない、というイメージが先行するせいか、ここまで元気がないと流石に心配だ。
イリーナはごつん、と音を立てて机に突っ伏す。
「イリーナ姉ちゃん、大丈夫か?」
眉をよせ、パラサは立ち上がりかける。
と。
「ああ、ファリス様。私は知らない間に何かしたのでしょうか。グレートソードを持ち歩くことは罪だったのでしょうか。確かに私はグレートソードを手に入れるためにちょーっと欲深だったかもしれません。だからって取り上げるなんてあんまりです」
抑揚の無い声でぼそぼそと呟く。
「彼女は何を言っているのだ?」
不可解、といった顔でスイフリーは答えを求めるようにその場にいた全員の顔を見渡す。
「単純に言って、グレートソード欠乏症だな。愛しい愛しいグレートソード、初恋の君グレートソード。夢にまで見て手に入れた最新の業物、それを取り上げられて悲嘆にくれているのだ」
ヒースが呆れたような声で返事をする。
「兄さんには私のこの、張り裂けそうな胸のうちなんてわからないんです」
「もともと張り裂ける胸なんてないじゃないか」
「明日の朝グレートソードが帰ってきたら、真っ先に兄さんを真っ二つにします」
「すみませんごめんなさい俺様が悪かったです許してください」
■祝日だったので、うっかり24日が月曜日だったのをわすれていました。
おくれましたが、53話。
めりーくりすまーす。