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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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泡ぽこ 68
「生死に関わるほどまでやらないから。手加減をお互いすれば、結構いい勝負だと思うんだ」
レジィナは食い下がる。
「なぜそこまで試合にこだわるのだ、人間の少女よ」
スイフリーは呆れたように言うと、さらにわざとらしくため息までついて見せた。
「こういう機会がめったにないからだよ。アーチーとじゃ、試合しようとは思わないし、同じくらいの実力の人ってそうそう会えないから」
「そうです! 試合なんて、そう滅多にあるチャンスじゃないですから!」
レジィナの主張に、イリーナも握りこぶしで続ける。
「別に、本人同士がやってもいいって言ってるんだから、いいんじゃない? あんたに利益が無くても、レジィナとイリーナにはあるんだし。まさか二試合もしなくていいでしょ、イリーナも」
「本当はお二人ともと戦いたいですが、欲張りません!」
十分欲張ってると言いたかったが、フィリスが笑顔で脅しているのでスイフリーは口を閉じる。表情はかなり納得していないが、反論するのにも疲れたのだろう。
「ここまで無報酬だったんでしょ? ついででいいじゃん」
ノリスの言葉に、マウナは凄い勢いでノリスを見る。
「無報酬って何!?」
「まだオーファンに居た頃聞いたんだけど、今回の旅、皆無報酬だったんだってー」
「えええええ!?」
悲鳴を上げるマウナに、パラサは笑ってみせる。
「まるっきり無報酬ってワケでもないにゅ」
「そそそそそうですよね!? 魔晶石をあれだけ使って、私たちに報酬までだして、半年以上拘束されて挙句無報酬なんてありえないですよね!?」
「収入は無いにゅ」
あっさりとした返答に、マウナはテーブルに突っ伏したまま暫く起き上がれないでいる。
「よくそれで旅なんてしようと思ったね」
エキューは呆れた顔をする。現実的な彼としてはかなり不可解な話である。アノスの冒険者たちはもっと、現実的だと思っていたが気のせいだったんだろうか、とまで考えた。
「そこはほら、愛にゅ」
げたげたと笑いながらパラサは答えたが、勿論それで納得などできるものではない。もしかしたら、パラサ自身は本当にクレアに対する愛情で無報酬でも平気だったのかもしれないが、他の面子までそうだとは思えない。
「あー、つまりだ」
アーチボルトは眉間を押さえてため息をつくと、そこにいた名代代理に席をはずすように促した。そして彼女が部屋を出たのを確認してから口を開く。
「オーファンまでクレアさんの護衛、オーファンからイリーナたちの護衛、その様々な経費全部、と我々は二連発で無料奉仕した上に赤字で大出費。しかも一年の大半をこれに費やした。見た目では我々には何の利益も無いわけだが……コレで漸くトントンか一個貸しくらいになったと思うぞ。末端の者とは違い、上層部はこの意味合いが分かるはず」
「何のこと?」
首を傾げたのはオーファンの冒険者以外ではレジィナだけだった。
「我々を騙った冒険者の女ドワーフがいたという話を前にしたろ?」
「ああ、うん」
アーチボルトの言葉を引継ぎ、スイフリーが説明する。彼の言葉に、アーチボルトが頷き、クレアがふと視線をそらした。
「あれな。確かに蘇生代金はキチンと支払われてるんだが、それでも法王の仕事を一日休ませ、さらに信者を相当数動員してのかなり大掛かりな儀式を執り行わなければいけないくらいのもんだったらしい」
「え、待ってくださいよスイフリー。それだけの儀式となると、結構な代金になりませんか?」
少し引きつった顔でグイズノーが尋ねる。蘇生の代金については、彼も結構痛い目を見たことがないわけではない。あの頃はまだ駆け出しだった事もあるが。
「48万ほどだ。確かにまあまあの額だな」
48万、の後に続くのは間違いなく「ガメル」だ。その額をまあまあと言い切った彼に、マウナは軽いめまいを覚える。
「が、まあ、別に我々に領収書がまわってきたわけではないから、そんなことはどうでもいい。問題は、法王と信者の時間を拘束したことにある。執務も確実に滞っただろうからな。いいか、コレが我々のせい、になってたんだぞ?」
「あー」
ヒースが低い声でうなる。理解したのだろう。
「理解したか? 我々、この国に多大なる迷惑をかけたことになってるのだ。向こうとしては国の英雄の仲間だから、恩返しにしておこうという思惑があるかもしれんが。こちらに非はなくとも、表向きには我々の仲間の起こした問題だ。我々はこの埋め合わせをしておく必要があったのだ。まあ、今回のことを補填に当てて、どうにかこうにかトントン、か一個貸しくらいだろう」
「そうだな、そのくらいにしかならんな」
「仲間じゃ有りません、っていえばいいんじゃないの?」
「それをいったら色んな人間の面子が丸つぶれだ」
レジィナの質問にアーチボルトが即答する。
「わたしはこの城を将来的に手放さないで済む方法に向けて奮闘しているわけだ。このまま行ったらあと50年ほどで追い出されてしまうからな」
「なんで」
「アーチーに貰ったモンだからだ。アーチーはまだ一代騎士、アーチーが死ねばこの城に住む権利が無くなる。わたしはあと800年は生きられる。どんな手を使ってでもアーチーを永久に騎士資格ありにしてみせるからな」
「でもアーチーが死んだら一緒じゃないの?」
スイフリーにフィリスが尋ねると、「だからそうならないようにしてるんだ」とだけ彼は答えた。
「とまあ、今回の事は決して損はしていない。が、レジィナとイリーナの試合には実がない。だからわたしは反対なのだが、本人同士が納得ならもうどうでもいい」
スイフリーはそういうと、話は終わったとばかりに食事に集中する事にした。




■はい、また変な方向に話が向き始めました。
ちなみに今回の話は、57話あたりで書こうと思って止めた話を再利用したものでした。
実際、やつらが無報酬で働くわけが無いのでした。愛で働く事もあるけど。今回は愛と投資で。

お知らせ。
泡ぽこはあと5話でおしまいです。
今のところ、次に何を書くかは決まっておりません(友人たちに送るお話は現在オリジナルをやっております)
……ラバーズライクを頑張れという話ですな。あはははは……。

何か「こーいうの読みたい」とか聞かせてもらえると、発想のきっかけになるかもしれません。
ちなみに私は勿論泡ファンです。スイフリーとクレアさんとパラサが大好きです。

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泡ぽこ 67
大広間、と呼ばれた部屋は本当に広く、整然と並んだ多くの窓から室内に向けてやわらかな光がさしていた。大きなテーブルが中央に置かれていて、その上には花が飾られ、置かれた燭台のろうそくの光がぼんやりとテーブルと花を照らしている。
「飾り付けると雰囲気違うものねー」
フィリスは感心したように声をあげると、テーブルの花を指でつついた。普段、このテーブルはここまで飾り付けられることがないので新鮮に感じられたのだ。当初は飾り付けられていたが、自分たちの食事の勢いを見たクレアが飾り付けるのをやめてしまった、というのは忘れたことにしておく。
「では食事を運んでまいりますから、ファリス様に祈りをささげていてくださいね」
クレアの先輩、という話の女性はそういうと一礼して部屋を出ようとする。
「手伝います」
クレアが立ち上がると、彼女はクレアを手で制した。
「今回は貴女も使者としての責務を果たしてきたのですから、テーブルでお待ちなさい」
そう言って、悠然と部屋を出て行った。残されたクレアは居心地悪そうにテーブルを見つめていたが、やがて様々なことを諦めたのか、神に祈りをささげ始める。
「神に祈れといわれてもな」
神を信じない種族であるスイフリーとパラサは疲れたような表情を見せ、ファリス以外を信じる信徒たちはそれぞれの神に祈りをささげ、それといった信仰を持たないものたちはとりあえず祈った振りをしておく。形式だけはともかく大事だ、というのはファーズに居る間に学んだことだった。


いつもの勢いで食事をするわけにもいかず(慣れたクレアならともかく、あの先輩なる人は絶対に怒るだろうということくらい、簡単に予想できた)運ばれてくる食事の説明など聞きつつ、今後のことを話し合う。
「とりあえず、テレポートのスクロールはすぐに用意できるのだが、いつ使うかね? 暫らく滞在するというなら、それはそれで構わないのだが」
アーチボルトがヒースを見る。メインの招待客はイリーナだが、スクロールを使えるのはオーファンの冒険者の中ではヒースだけであるし、彼らの中でリーダー格であると理解しているからだ。
「そうだなー。まあ、とりあえず今日は時間も時間だから、流石に一泊はしたいな。その後のことはまたそのうち考える」
「お城のなか、案内してもらいたいんですけど、いいですか?」
マウナが遠慮がちに手を挙げた。
「あー、ボクも見たい。すごいもんねー、お城を探検できるなんて、そうないからねー」
ノリスがマウナに続いて勢い良く手を挙げる。城自体はオーファンとアノスで一応出かけたことはあるが、決まった場所しか通ってないから、行ってないのと同じだ、という考えがあるらしい。
「マウナさんがいくなら、僕も行きます!」
しゅた、とエキューが手を挙げた。
「ではあとで案内しよう」
重々しくアーチボルトは返事をした。
「でも、城を見たって一日はつぶれないよな。明日の午後には帰るか。ファーズも観光したし、アノス巡礼は終わった。オランもエレミアも通るとき堪能したし、ま、いいだろう」
軽い声のヒースに、他の全員が頷く。返事をしないのはイリーナだけだ。
「イリーナ、何か遣り残したことがあるのかの?」
ガルガドがイリーナを見ると、彼女はこくりと頷いた。
「アノスはとてもすばらしいところでした。ファーズは美しく、国の人は皆ファリス様を深く深く信じていて、とってもいい感じでした」
「じゃー何が足りないの?」
ノリスの質問に、イリーナはアーチボルトとレジィナを見る。
「私も、アーチボルトさんやレジィナさんと手合わせしたいです! あの冒険者の人がうらやましくてうらやましくて」
「……ある意味イリーナらしいというか」
マウナが呆れた声を出す。
「断れ」
アーチボルトやレジィナが口を開くより先にスイフリーがぼそりという。
「何でですか!?」
「利益がない」
悲鳴めいた声をあげるイリーナに、スイフリーは即答する。
「利益って……」
レジィナががっくりしたようにスイフリーを見る。
「別に私が勝手にするなら問題ないよね? 私は構わないけど。アーチーは?」
「わたしか? わたしはやめておくかな。それこそ利益がない」
じとっとした目でレジィナに見上げられ、アーチボルトは目をそらす。
「あの冒険者がよくてイリーナが駄目な理由って何?」
レジィナは食い下がる。
「アレはまだそれほど実力者でもなかったから、アーチーも手加減して戦えたが、イリーナ相手だとそうはいかないだろう。怪我だとかもろもろを考えると、いいことなんてないぞ。死んだらどうするんだ」
スイフリーはため息をつく。



■しばし忙しく、更新が今になりました。
まあ、そういうこともあるさ、と生暖かく見守っていただければ、幸い。

■ちょっと中途半端だけど、今日はここまで。
おかしいなあ、また「レジィナを活躍させようの会・会長」の命令であるところのレジィナの活躍がなかった。
んー。
そして全然意図しない方向へ話が進んでいった。

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「まだ冒険し始めたばっかりのとき、ライトニングのコモンルーンって、あったっしょ?」
「ああ、そんなのもあったな」
ここはオランのとあるお店。パラサとスイフリーはその一角で互いに食事をしているところだった。
現在、旅の仲間はこの二人だけ。が、もうそろそろ、全員そろうことになるだろう。オランには現在劇団が来ていて、「バブリー・アドベンチャラーズの帰還」という劇をやっている。どう考えても自分たちを刺激する為の罠。アーチーは絶対来るだろうし、フィリスもそうなったら着いてくるだろう。レジィナ辺りは罠の可能性は考えないだろうけど、自分の所属するパーティーが取り上げられている劇であれば、小劇団出身でもあるし、きっと見に来る。グィズノーは一応レジィナと行動中らしいから、多分引っ張られてくるんではないだろうか。来ないかもしれないが、探せば見つかるだろう。オランには居るらしいと聞いている。
「で? そのライトニングのコモンルーンがどうした」
スイフリーはいつもどおりパスタの皿を一人抱え込んで食べている。二人しか居ない上に、パラサの前にはやたら食べ物が並んでいるにもかかわらず、だ。クセというものは恐ろしい。大人数で食事をしていたときから、彼は食べたいものをさっさと抱え込み、他のものには目もくれないという食事方法をずっと採用している。無用な争奪戦に巻き込まれたくないだけなのだが。
「あれって、もう手にはいんないかなあ?」
「禁制品だぞ、手に入るものか」
「いくらか積んでもだめ?」
「ダメなんじゃないか? 面子ってものがある」
「おもろかったのに」
「まあ、お前がライトニング使えたら、ラクはラクだが」
「クナントンに聞いてみるにゅ」
「聞くだけ無駄だろうよ」
そこでスイフリーは大きくため息をつく。窓の外は曇り空で、しかし妙に明るい。空気は水の匂いを含んでいる。
「雨が来る」
「はとこが言うんだから、間違いないにゅ」
頬に多くの肉を放り込んで、パラサは外を見た。程なくして雨粒がぱらぱらと空から落ちてくる。ソレはすぐに大粒の雨になり、世界を白く染め上げるほどの大雨になった。さらに空を引き裂き、空気を震わせるような大きな雷の音。
「うぉお、すっごいにゅ」
「窓閉めろ」
窓に張り付いて外を見るパラサに、スイフリーの冷たい声が飛ぶ。が、パラサは気にせずしばらく外を見続けた。
「やっぱライトニングのコモンルーン欲しいにゅ。フィリス姉ちゃん作れないかなあ」
「聞くだけ無駄な気がするが」
「どっかの遺跡に落ちてるとか」
「二人では拾いに行けんぞ」
「クナントンを脅せば何とかなんないかにゅ?」
「無いことになってるもんをくれるわけ無かろう。諦めろ」
パラサは窓から離れると、再び自分の席に着く。
「つまんないにゅ」
「で? もしそのライトニングのコモンルーンを手に入れて、どうするつもりだ」
「撃つ」
「今は極力戦わないようにして旅をしてるのに、何に撃つつもりだ」
彼等は今二人行動だ。そしてそのどちらもが回復能力を持たない。二人とも神を信じないし、スイフリーは精霊使いだが男性だ。ゆえに、戦わずにすむならそうしているし、戦いになりそうでも二人が全速力で逃げれば、大抵逃げ切れる。
「はとことかにいたずらで」
「死んでしまうわ」
すかさず言うスイフリーに、パラサはにやりと笑ってみせる。
「とりあえず、雨がやんだら賢者の学院に行ってみるにゅ」
「頼むからやめてくれ」


■2月29日更新、なんて4年に1回しかいえないから更新しておきます(笑)

ライトニング、撃ってみてええ。
楽しそうですよね。人生の役には立ちませんけどね。
SWで遊んでても、あんまりソーサラーをしないので、ライトニングは虚構の世界でも撃ったこと、あんまりないのです。
……おかしいなあ、ソーサラーLv5くらいまで遊んだことも昔はあった気がするのだけどなあ。ライトニング、使ったっけ?

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泡ぽこ 66
虎を伴って現れた少女はオーファンから来た冒険者たちにぺこりと頭を下げて、リズという名前を名乗る。
「私が昔お世話になってた旅芸人の一座の、娘さんなんだー」
そういいながらレジィナはリズの頭をぐりぐりと撫でる。少女のほうはレジィナのことを本当に慕っているのだろう、ぎゅっと抱きついて嬉しそうに「おかえりなさーい!」などと笑う。
「……なんか、またでかくならなかったか?」
スイフリーは眉を寄せて不可解という顔をしてリズを見る。
「確かにおっきくなったね、リズ」
「レジィナお姉ちゃんが旅に出ちゃってる間に、5センチ身長伸びたんだよ!」
えへんと胸を張るリズに、レジィナはニコニコ笑う。
「1年程度で5センチ? ……人間ってホントに早いな。おかしくないか?」
「エルフと一緒にしちゃだめですよ」
不可解すら通り越して既に意味不明、という表情のスイフリーにグイズノーは笑う。
「人間に言わせれば、あなた方エルフの寿命の長さのほうが不思議ですよ。それより中に入りましょう。わたくし、荷物をおろしたいです」


グイズノーの提案に従ったわけではないが、一行は城の中に入る。
エントランスも立派な、ゆったりとした空間が取られている。二階建てで、左右に廊下が伸びていっている。エントランスから奥にもいけるようになっていて、かなり奥行きもあるようだった。
「お帰りなさい」
城の奥から一人の女性神官が現れる。クレアの代わりに城の名代をしていた人間だ。
「ただいま戻りました。……随分ご迷惑をかけてしまいました」
クレアが頭を下げると、神官は「いいのよ」と彼女に笑いかける。
「皆様もご無事で何よりです。まずはお部屋に荷物をおろしてきてください。クレア、貴女も。オーファンからのお客人は私がご案内しておきます。後で大広間にお集まりください。ささやかですけれど、歓待のご用意をしておきました」
「本当に何もかもすみません」
クレアがもう一度謝ると、神官は手でそれを制する。
「いいから荷物を置いていらっしゃい」
神官がきびきびとイリーナたちを案内していくのを見送ってから、城主たちはそれぞれの部屋を目指す。
「姉ちゃん、さっきの人、誰?」
「ファーズで神官を目指し始めたときの先輩です。何かとお世話していただいて……オランの方へ神官として出向なさってたのですけれど、お帰りになってたんですね」
パラサの質問にクレアが答える。少し懐かしそうな目つきに、パラサは少し口を尖らせた。
「姉ちゃん、あの人と一緒に行きたいにゅ?」
「なぜですか?」
クレアは首を傾げて笑って見せる。
「懐かしいっしょ?」
「ええ。でも、パラサさんも、昔のお友達がこのお城に来たと知っても、別に追いかけなかったでしょう?」
「だってこっちのほうが面白いにゅ」
その答えを聞いて、クレアは立ち止まる。いつの間にか彼女の部屋の前まで来ていた。
「私も同じですよ」
答えて、部屋の中に消えていく。かちりと鍵がかかる音がした。
「にゅう」
パラサはほんの数秒ドアを見つめてから、自分の部屋へ向けて歩き出す。別に鍵は開けられるが、そんなことはしない。クレアの前で鍵をあけて見せるのは、遺跡探検のときだけで十分だ。
「同じ、かあ」
面白い、と彼女が評したものが何なのか。ここでの暮らしなのか、それとも仕事か。もっと別のものなのか。
「ま、知らないほうがいい事だってあるにゅ」
自分の部屋に入ると、彼は肩をすくめた。


一方。
「……お金って、あるところにはあるのねえ」
マウナは通された個室のベッドに腰掛け、大きくため息をつく。
二階の一室からの眺めはとても良く、広がる平原や麓の村の様子、遠くに見える山々が一つの絵画のようで、その美しさには息を呑む思いだった。
それだけではなく、部屋の調度品も古いものだが質はよい。決して主張しすぎないが、一つ一つはとても品がよく、また美しい。
「城主のアーチボルトさんは割りとナンな趣味だったのになあ」
少し笑ってから、大きく息を吐く。それから、反動をつけて勢い良く立ち上がる。
「大広間行かなきゃ」
隣の部屋のイリーナを誘いに廊下に出る。廊下は真っ直ぐで、白い壁と細かい装飾のついた柱。窓も綺麗な枠に彩られていて、落ち着いた色彩のカーテンがかけられている。ちょこちょことブラウニーが動くのが感じられる。その感情は暖かく、彼らがこの城を気に入っているのがよくわかった。知らず知らず笑みがこぼれてくるのを、隠すことなくイリーナの部屋に到着する。ドアをノックしようとしたところで、イリーナがドアを開けて外に出てきた。
「あ、マウナ」
「一緒に行こうと思って誘いに来たの」
「ありがとうございます。お部屋すごいですね! ファリス様のご威光がばーっと光り輝いている感じです!」
ひょい、と中をのぞくと流石にメインの招待客であるイリーナの部屋は、マウナの部屋より更に豪華だった。部屋の一角には小さな祭壇まで見える。
「アンタの部屋、私の部屋よりすごい」
「え、そうなんですか?」
「あとでしっかり見せて」
「了解です。わかりました」



■一日遅れです。
昨日が水曜日だと忘れていたのです。というか火曜日の心算でいました。
ごめんなさい。
あ。
Loverslikeは続きを思いついたときにまた更新します。その程度ののんびりさ加減で行きます。


長々と書こうと思えば、多分いくらでも長くかけると思うけど、とりあえずあんまり蛇足が長くても仕方ないと思うので、ストローウィック城での話は短めに終わらせたいと思います。

悪趣味な城主たちの割りに調度品の品がよいのは、単に前の持ち主であるカルプラス伯の趣味です。

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泡ぽこ 65
到着した城を見て、オーファンから来た一行はただただぽかんとしてその建物を見上げるしかなかった。確かに麓の村からでも見られる程度の大きさを有した城ではあった。しかし、報酬で貰ったという話から、その大きさを多少小さめに想定していたのだ。
が。
目の前にある城は、高さは優に15メートルある頑丈な城壁に守られており、見渡す限り続いている。右手側も左手側も、緩やかなカーブも手伝って先が見えない。周りは確かに沼地ではあったが、頑丈な木製の橋が城門まで架けられていて通行に支障はない。その城門もどっしりとした造りの見事なもので、両方を開け放てば馬車は悠々と通り抜けられるだろう。現在は城主が留守だからか城門は閉められているが、その傍にある通用門は通れるようになっていた。
「城門開けてきます」
クレアとレジィナがその通用門から中に入っていき、暫らくすると城門がゆっくりと開く。どうやら、何か機械仕掛けが組み込まれていて、少人数でも簡単に開けられるようになっているらしい。そもそも、この城自体が狩りのときの休憩用に建てられたというものなので、少人数対応なのだという話だそうだ。
微妙に圧倒された気分のまま、城内に入る。
城壁の中は、広い庭になっていた。遠くに厩舎のようなものが見える。その周囲は馬の運動のためか土がむき出しになっているが、城門から城の正門までは石造りの通路が延びていて、その両側には花が植えられている。小さいが庭園もあり、手入れされた木々が植わっているのが見えた。
城は少々古めかしい建築様式ではあるが、装飾などもしっかりと施された、二階建てのなかなか洒落た建物だった。一角にはステンドグラスがはまっている。多分、そこは小さな礼拝堂のようになっているのだろう。都から離れていても、現在の城主が全く神を信じていなくても、ここはアノスであり、元の持ち主はそれなりにちゃんと信者だったのだろう。
「広いですねー」
はあ、と感心したようなため息とともに、マウナはあたりをぐるりと見渡す。手入れされた庭園はどこまでも続いているのではないかという錯覚さえ覚えそうだ。
「それにしてもひっそりしてるな。やっぱ城主が留守だからかー?」
ヒースもあたりを見ながら軽い口調で言う。確かに、手入れが行き届いているわりには人気は感じられず、寂しい雰囲気がある。それは荘厳な遺跡などに出向いたときの、時間が止まっているような感覚に似ていた。
「そもそもあまり人は居ないからな」
アーチボルトはさして気にした様子もなく返事をする。
「普段から居るのはクレアさんと、あと座長一家で、四人だ」
「四人でこれだけの城を維持してんの!? それは人件費けちりすぎじゃない!?」
あまりといえばあまりな発言に、マウナは思わず悲鳴を上げる。
「ブラウニーくらい呼んだし、庭の手入れなんかは村人を雇う。基本的に4人だけが働いてるわけじゃない」
「あ、そうか、ブラウニー。そうよね」
呆れたような口調で言ったスイフリーに、マウナは落ち着きを取り戻したかのように胸を押さえ、息を吐き出す。
「慣れてしまえば、平気なものですよ」
クレアは少し首を傾げて、笑って見せた。
城を前に、しばらくそのような立ち話を続けていると、城の角から子どもが一人歩いてきた。
「リズ!」
それに真っ先に気付いて声を上げたのはレジィナ。
「あ! レジィナおねえちゃん!」
向こうもその声に気付いたらしく、大きく手を振りこちらへ歩いてくる。その後ろをのっそりとついてくるのは大きな虎だ。
「虎!?」
素っ頓狂な声をノリスが上げる。
「ああ、平気、あの子は」
最後まで聞かず、イリーナが駆け出す。しっかりと手にグレートソードを構えて。そして、行き着く前にずべっとこけた。
「あ、ノーム」
ぼそりとエキューが言う。隣でスイフリーが挙げていた手を下ろしたところから見て、多分スネアを唱えたのは彼だろう。
不思議そうに起き上がるイリーナに、レジィナから声が飛ぶ。
「その子うちで飼ってる虎だからー!」
「えええええ!?」
イリーナ以外からも驚きの声が上がる。
「アレは虎じゃなくておっきな猫よ」
「助けるためにどれだけ奔走したと思ってるんだ。魔晶石だって使いつぶしてるんだぞ。殺されてたまるか」
フィリスとスイフリーがそれぞれぼそりという。
「それにしてもトップはオーファンの方々と本当に相性がわるいですねぇ」
グイズノーがははは、と軽い笑い声をあげた。





■今日は何だかながくなりました。まあ、そんなこともあるさ。

ところで、バブリー城もとい「ストローウィック城」ですが、大きさは第3部を参考に書きました。
3部での城は「直径1キロ(周囲約3キロ)の城壁に守られている、内部の土は乾いていて、馬なんかの乗り入れオッケー」でした。
それが4部になると「周囲1.5~2キロ、15メートルの高さの城壁にまもられている」に変更になってます。小さいよりは大きいほうがかっちょいいので、広めのほう採用にしました。でもSWは後出し優先の法則があるので、本当は小さいほうかもしれないよ。
で、直径1キロっていうとね、うちの団地よりでかいんですけど。周囲2キロだとしても、多分うちの団地より大きい(笑)

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