忍者ブログ
泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
[53]  [52]  [51]  [50]  [49]  [48]  [47]  [46]  [45]  [44]  [43
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

好 / 嫌

書庫内のひんやりした空気が彼女は好きだった。
もらった城は、そもそもは狩猟時にのみ使う別荘だったような場所だったから、もちろん書庫は改装してつくったものだ。が、中々の出来だ、と彼女は思っている。
書庫というだけあって、この部屋に窓は無い。ろうそくの明かりのような頼りない光で本を探すのは面倒だから、彼女はライトの呪文で部屋を明るくする。同じように考えたものは他にも居るらしく、書庫の入り口にはライトのコモンルーンと数個の魔晶石が籠に入れておいてある。いつから置かれているのかなんて、知らない。気づいたときには置かれていた。防犯のぼの字も無いような状況だが、問題は無いだろう。ここがアノスだといっても、勿論盗賊くらいはいる。が、この城にわざわざ乗り込んでくるような物好きの盗賊はそうそういないだろう。まあ、もっとも、彼女にはこれを使う必要は全く無いのだが。
書庫内で、彼女は目当ての場所に程なくたどり着く。本はきちんと整理されていて、非常に探しやすい。名代の神官が丁寧に片付けてくれているのだろう。本当にありがたく、そして。
「気の毒だわ」
彼女は呟くと、暫くその場にとどまって何冊かの本を抜き取ると内容を吟味し始める。
あまりメジャーな話題ではないものを調べるつもりでいるから、本は数冊必要になるだろう。話題が載っているだけマシだと思うしかない。
と、書庫の扉が開く音がした。
彼女はページをめくるのをやめて、暫く足音に耳を澄ます。
あまり聞きなれない足音ではある。しかし侵入者だとすれば足音を立てはしないだろうから、あまり緊張する事も無いだろう。
足音はいったん彼女がいる場所を通り過ぎようとして、戻ってきてとまる。
「フィリスさんでしたか」
「あら、クレア」
通路から顔を覗かせた神官を見て、自分の警戒した顔つきが一気に戻るのが分かる。向こうも似たようなものだったのか、すぐに少し笑って見せた。
「お仕事?」
「いくつか資料を頼まれまして」
神官は手にしたメモを彼女に見えるように少し掲げて見せた。
「アーチー?」
「ええ」
「私に頼んでくれればいいのに」
彼女は口を尖らせると、腹いせといわんばかりに必要ではなかった本を本棚に突き刺す。
「では、もって行くときは一緒に行きますか?」
「そうする」
苦笑する神官に即答して、彼女は本を抱えると神官の元へ向かう。
「さがすの手伝おうか?」
「ありがとうございます」
神官は少し考えてから、頷きながら返答する。メモを覗くとかなりの量の本が書かれていた。
「アーチーったら、女の子を何だと思ってるのかしら」
「仕事って、そういうものですよ」
彼女の感想に神官はとりなすようにいう。
確かに彼は非力だ。幾らその剣技が大陸中に広がっていようが、非力なものは非力なのだ。そこは認める。しかしだからと言ってこんな量を頼まなくてもいい。
「何回かに分けて運びますし」
「うん、そうよねえ、わかってるんだけど。後で怒鳴っとく」


暫く二人で本を探す。
メモの本は多かったが、基本的に似たような位置に配置されているものだったので、大した苦労をせず本を発見できた。しかし、最後の一冊が中々見つからない。ソレらしいものを入れている棚に二人で張り付き、探すが見つからない。
「そうだ」
一度休憩、という事にして彼女は神官に声をかける。ちょうど下のほうを探していた神官は、しゃがんだまま彼女を見上げた。
神官の、真っ直ぐな視線であるとか、少しきつそうな顔つきだとかは変わらないが、それでも雰囲気は丸くなった、と彼女は感じる。
恋って偉大だわ、自覚のあるなし関係なく。
「ねえ」
「なんですか」
「スイフリーと、その後どう?」
「その後、といいますと?」
神官は立ち上がると首を傾げて見せた。確かに唐突な質問ではあったけど、もう少し何かリアクションがあってもよさそうなものなのに、と彼女は思う。
「何かあったりしないの?」
「特には」
先日オランで会ったときのグラスランナーやエルフの口ぶりから、二人が仲間内でもっともこの城に戻ってきていることは分かっている。
が、それはやはり情報収集のためだけだったのだろうか。
確かにエルフは人間との恋愛など絶対にしないと言っていたし、そういうものなのかもしれない。
グラスランナーが喧しく帰ることを主張すれば、戻ってくるのかも知れない。
「んー、そっかー」
とりあえず彼女は相槌だけ打つ。どうやって聞き出すのが効果的だろうか。
「スイフリーのこと、どう思う?」
色々考えた挙句、結局ストレートに尋ねる事にした。この神官は良くも悪くも真っ直ぐで、きちんと尋ねた事には答えが返ってくる。それが分からないことであれば、わからない、ときちんと返す、そういう人だ。
「そうですねえ」
暫く神官は考えこみ、やがて口を開く。
「口に反して、優しいです」
答えに、彼女はまじまじと神官を見つめる。どう返事をすればいいのだろう。神官のほうもどうしていいのか彼女を見つめている。何か言わねば。
「ええと、それ、本人に言った事は?」
「ないですけど」
「どうして?」
「聞かれてませんから」
そうきたか、と彼女は内心ため息をつく。聞かれさえすれば、彼女はストレートにその感情を口にするのだ。当のエルフが聞いたら卒倒するかもしれないような評価を、何の臆面もなく。
「どうして、優しいなんて思ったの?」
何とか、それでも彼女は尋ねる。あのエルフとは仲間になって随分長くなってきたが、彼女の中の評価で優しい、となったことはほとんど無い。確かに頭の回転の速さであるとか、その口の達者ぶりに助けられた事は多々ある。冷静に考えれば、自分たちの評価の大半はそもそもはあのエルフが作ったようなものだ。エルフが仲間でよかった、と思っている。
が、優しいと思ったことは、何度考えても、ほぼ、ない。
全く無い、とならないだけマシなのかもしれないが。
「パラサさんが、色々話を聞かせてくださるんです。コレまでどんな冒険をしたか、とか。パラサさんが大活躍で」
「そこは話半分に聞いていいわよ」
彼女の合いの手に、神官は少しだけ笑って続ける。
「その中で話を聞いていると、スイフリーさんは優しいですよ」
「どこが」
「悪徳商人を最終的に助けたり、トップを助けたり、ワイトに怒りを感じたり、マーマンを助けに行こうといったり」
「ああ、うん、そうね」
そういう風に並べられると、確かに優しいような気がしてきた。
着眼点が違うということだろうか。
「多分口の悪さは、照れ隠しなんでしょうね。まあ、確かに時々とても邪悪な事も言うのは事実ですけど。……おおむね、本質は善人です」
仲間の女剣士からもたらされた情報と同じことを、目の前の神官が口にする。
この言葉をじかに聴きたかった。
目論みはほぼ成功、と言っていい。
彼女はにっこりと神官に笑ってみせる。
「スイフリーのこと、好きなのね」
「は?」
心底、何を言われているのかわからない、という顔で神官が彼女に聞き返す。とはいえ、こういう反応は大体予想していたから、彼女は慌てない。
「だから、スイフリーのこと、好きなんでしょ?」
言われた神官のほうは、予想外の言葉に混乱しているようだった。動きが止まり、ただただ呆けた顔を彼女に向けている。思考は完全に止まっているのだろう。
そういう焦り方が可愛い、と彼女は思う。
「ええと、わたしが、スイフリーさんを好きなんですか?」
「じゃないの?」
おかしな質問だ、と彼女は思うが、とりあえず即答する。こういうのは躊躇してはいけない。
目の前の神官は、右手で額を押さえ少しうつむき加減で何かを考えているような、そのくせ全ての思考がストップしたままのような顔をしたまま、暫くの間動かないで居た。
彼女は神官からの返答をただひたすらに待つ。
「あの」
神官は酷く困ったような切羽詰ったような表情で彼女をみた。
「何?」
「すき、って、どんな感情でしょうか?」
「は?」
あまりに遠い方向からの攻撃に、流石に彼女も間抜けな返事をしてしまう。
間違いなく、目の前の神官は真面目な神官で質問している。
「あ、いえ、その、好き嫌い、という感情は勿論分かるんです。けど、特別誰かだけを好きである、というのはどういう感じですか?」
「今まで一回も無いの!?」
思わず聞き返す。
可能性は二つ。
本当に誰も特別好きになった事がないか、もしくは特別好きであることに気づかなかったのか。どちらにせよ、この子は重症なのではないだろうか。鈍感にもほどがある、というか。
そういえばあんまり外見であるとかに頓着ある感じでもないし(美人なのにもったいない話だ)好き嫌いよりは善不善のほうが重要な感情である気がしないでもないが。
しかし改めて、誰かを特別好きである、ということを説明するとなると、どう答えていいものやら。
そういうのは理屈じゃない。
「んー」
彼女は暫く首をかしげたまま動きを止める。
彼女はアーチーが好きだ。
さて、どこが好きだったのか考えてみよう。

家柄。

「えぇーとねえ」
スタートは悪かった。でもその後色々可愛いところだとか情けないところだとか、全てひっくるめていとしいと思うようになったような。
認められたり、頼られたり、助けられたりして嬉しかった。
「誰かの事だけを、特別に感じる事。その人のために、何かをしてあげたい、って思うこと」
「……」
「……かな?」
自信がなくなって、最後はごまかすように笑って言うと首を傾げてみせる。その様子をまじまじと見つめていた神官は、小さくため息をついて見せた。
「わかるようなわからないような」
「うん、だって」
彼女は指を神官の額にまず持っていく。
「頭じゃなくて」
それから指を胸元に移動させる。
「ここで感じる事だから」
神官はまじまじと彼女の指先を見て、それからのろのろと視線を彼女の顔まで持っていく。
「私はスイフリーさんを好きなんですか?」
「それはクレアが決めることだから」
答えて、ふと視線を本棚に向ける。
アレだけ探して見つからなかった最後の一冊が、目の中に飛び込んできた。
「本、あったわ。私持っていくから。アーチーとお喋りしたいし」
「ええと」
「仕事の話でも、他の女の子と喋ってるのをみるのは、あんまり嬉しくないのよ」
ふふ、と笑って見せ、彼女は神官から残りの本を受け取る。
「ま、ゆっくり感じてみるのも、いいんじゃないかしら?」
それだけ伝えると、軽い足取りで書庫を後にする。
残された神官は、力が抜けたように床に座り込むと放心したような顔で天井を見上げた。
考えてみる。
特別に感じた事は?
何かをしてあげたいと感じた事は?

ないわけではない。

でもそれは、自分の信心から来るものだと信じていた。
神から与えられた試練だと。
確かに嫌いではない。
でも、他の面々も嫌いではない。
その感情に差があるなんて考えた事もなかった。
「……良く分からない」



■何を書いてるんだか分からなくなってきました(笑)
クレアさんはそこまで鈍感ではないんじゃないだろうかと思わないでもない。本当は。
盛り上げ?るため?に鈍感で居てもらいます。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
忍者ブログ / [PR]

photo by 7s
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
カウンター
WEB拍手
2007.12.24変更
メルフォ。
プロフィール
HN:
こーき
性別:
非公開
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
忍者・1人目
忍者・2人目