泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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「あまり他人のことに首を突っ込んで、引っ掻き回さないほうがいいですよ」
廊下に出てすこし行ったところで、仲間の神官が呆れた顔をしているのに出くわす。
「分かってるわよ、そんなの。……立ち聞きなんて趣味悪いわよ」
「聞こえただけです」
神官は済ました顔で答えると彼女に肩をすくめて見せた。
「ただ、あの子の場合、相手に任せておいても、ぜーったいに前に進まないから」
「そういうのが余計だというのですよ」
彼女の返答に、神官は再び呆れたように言うとこれ見よがしにためいきをつく。
「押していけばどうにかなるというのが幻想だということくらい、貴女自分のことでわかってるでしょう?」
「うるさいわよ」
キツイ眼差しで彼女は神官を睨む。音がつくとしたら「ギッ」というような視線に、神官はすこし後ずさった。
「ちょっと話を聞いただけじゃない」
「そしてクレアさんをたきつけて、スイフリーに迫らせる、と。スイフリーはアーチーと性質が似てますから、押してもだめだと思いますけど」
神官は冷めた目で彼女を見た。
「あんたそんなに冷静に観察できるなら、自分のことも観察すれば? ラーダのあの子も振り向いてくれるかもよ?」
「うるさいですよ」
彼女の思わぬ反撃に、神官は引きつった顔で答える。
「ともかく、私はクレアとお喋りしただけよ」
彼女はにっこりと笑いかける。その笑顔が、おもちゃを前にした子どものそれとよく似てる、などとは神官は言わない。言ったりしない。怖い。
「クレアさん、許容範囲を超えてたみたいですけど?」
「邪魔はしてないわよ。多分」
「多分、ね」
ははは、と神官は乾いた笑い声を上げる。
彼女はいつだってこういうことに関してちょっと出力が大きめだ。そのせいで、本人が思うような結果が出てないのだが、まあ、黙っておく。
「押し切らせるつもりなら本人、受け入れ態勢を整えてあげるつもりなら彼をつつくといいですよ」
「なによ、なんだかんだ言って口を出すつもり満々なんじゃない」
彼女が呆れた声をあげると、神官は真意のうかがい知れない笑みを浮かべ答える。
「おもしろそうですし……人が幸せになるのは良いことですよ。……あんまりやり過ぎないようにしてくださいね」
「グイズノーはどう思う?」
「何がですか?」
「スイフリーとクレア」
「理屈が先行して実際が伴わない思春期真っ只中のガキと、純真を通り越して鈍感にも程がある女性の、かみ合わないことこの上ない、見てる分には喜劇的な二人組み」
さらりと酷評してみせる神官に、彼女は呆れきった目を向ける。
「二人とも、純粋培養ですからね。かみ合わないのは当然なのかもしれませんが」
言いつくろうつもりなのか、それとも説明するつもりなのか、ともかくよく分からない言葉を神官は付け加えた。
「純粋培養?」
あのエルフのどこに純粋なところがあっただろうか、と彼女はすこし考える。
「スイフリーはあれで根っこはかなり純粋にエルフですよ? 見える範囲はほとんど人間というかダークエルフというか、ともかくエルフっぽくはないですけど。自分の種族がどういう位置づけなのか、ちゃんと分かってるというか……。無茶とかしたがらないでしょ? エルフとしては型破りかもしれませんけどね、我々と比べるとやっぱり保守的ですよ」
「まあ、言われればそうかもしれないけど」
そういえば、グラスランナーもエルフを似たように評価していたな、と彼女は思う。
「クレアさんはいつから神殿に住み込んでいるのかは知りませんけど、かなりまっとうなファリス神官です。良いと悪いの二極しかなくて、どちらでもない、というような考えをしないですし。特に彼らファリス神官は教義を守るのが第一で、他人の心に鈍感になりやすいんです」
「アンタも似たようなもんだとおもうけど」
「わたくしも真理を得るために様々なことに没頭してますからね、順序がおかしくなることもあるでしょう」
「褒めたつもりはないわよ」
胸を張る神官に冷たく言い放ち、彼女はため息をつく。
「あの子が多少他人の気持ちに鈍感なのは認めるわ。最初に会ったときなんて、特にそうだったし」
「だいぶ丸くなりましたよね」
「でも自分の気持ちにまで鈍感なのってどうなの?」
「それが個性ってもんじゃないですかね。自分の気持ちに正直すぎる人だとか、自分の気持ちを捻じ曲げて理解してる人だとか、自分の気持ちに鈍感である人だとか、自分の気持ちを理性で押さえつけてる人だとか、色々ですよ。だからこそ、わたくしは見ていておもしろいのですけど」
ふふふ、と笑って見せる神官に、彼女は誰のことを言っているのか尋ねるのはやめておくことにする。
「あなたとアーチーのことは時間が解決するかもしれないですけどね、スイフリーとクレアさんに必要なのは時間じゃないですよ」
「自覚? 信頼? 相互理解?」
「そういうのも、勿論必要ですけどね。その辺は前提条件では?」
「じゃあ、何?」
「覚悟」
神官の答えに、彼女は眉を寄せる。
「それこそ前提条件じゃない」
「ええ、そうですよ。その上で、彼らには究極の命題ですよ」
そこで神官は、久しぶりに神官らしい顔をする。
「十年もすれば、嫌でも時間が種族の違いを突きつけてきます。変わってしまう相手に、変わらない相手に、代わってしまう自分に、変わらない自分に、最後まで耐えられるか」
神官はそこで彼女を見た。
「互いに未知の領域ですからね、保障なんてないんです。スイフリーが、不確定なことを嫌いなのはご存知でしょう?」
彼女は頷く。
「ですから、無責任なことはしてはいけないんです」
「……うん」
彼女は少しうなだれる。
もしかしたら、あの子に悪いことをしたかもしれない。
「ただ」
そこで神官はにやりと笑う。
「あれでスイフリーは情に弱いところがありますし、やるとなったら徹底的ですからね、いざ心を決めてしまえば相手を大事にするタイプだと思いますよ。我々は本人たちに気付かれないところでそーっと見守っていればいいんですよ」
■グイズノーは、時と場合によって、本当に邪悪だったり、すごい聖人だったりしてなかなかにして面白いひとですよね。
今回は聖人バージョンで(笑)
廊下に出てすこし行ったところで、仲間の神官が呆れた顔をしているのに出くわす。
「分かってるわよ、そんなの。……立ち聞きなんて趣味悪いわよ」
「聞こえただけです」
神官は済ました顔で答えると彼女に肩をすくめて見せた。
「ただ、あの子の場合、相手に任せておいても、ぜーったいに前に進まないから」
「そういうのが余計だというのですよ」
彼女の返答に、神官は再び呆れたように言うとこれ見よがしにためいきをつく。
「押していけばどうにかなるというのが幻想だということくらい、貴女自分のことでわかってるでしょう?」
「うるさいわよ」
キツイ眼差しで彼女は神官を睨む。音がつくとしたら「ギッ」というような視線に、神官はすこし後ずさった。
「ちょっと話を聞いただけじゃない」
「そしてクレアさんをたきつけて、スイフリーに迫らせる、と。スイフリーはアーチーと性質が似てますから、押してもだめだと思いますけど」
神官は冷めた目で彼女を見た。
「あんたそんなに冷静に観察できるなら、自分のことも観察すれば? ラーダのあの子も振り向いてくれるかもよ?」
「うるさいですよ」
彼女の思わぬ反撃に、神官は引きつった顔で答える。
「ともかく、私はクレアとお喋りしただけよ」
彼女はにっこりと笑いかける。その笑顔が、おもちゃを前にした子どものそれとよく似てる、などとは神官は言わない。言ったりしない。怖い。
「クレアさん、許容範囲を超えてたみたいですけど?」
「邪魔はしてないわよ。多分」
「多分、ね」
ははは、と神官は乾いた笑い声を上げる。
彼女はいつだってこういうことに関してちょっと出力が大きめだ。そのせいで、本人が思うような結果が出てないのだが、まあ、黙っておく。
「押し切らせるつもりなら本人、受け入れ態勢を整えてあげるつもりなら彼をつつくといいですよ」
「なによ、なんだかんだ言って口を出すつもり満々なんじゃない」
彼女が呆れた声をあげると、神官は真意のうかがい知れない笑みを浮かべ答える。
「おもしろそうですし……人が幸せになるのは良いことですよ。……あんまりやり過ぎないようにしてくださいね」
「グイズノーはどう思う?」
「何がですか?」
「スイフリーとクレア」
「理屈が先行して実際が伴わない思春期真っ只中のガキと、純真を通り越して鈍感にも程がある女性の、かみ合わないことこの上ない、見てる分には喜劇的な二人組み」
さらりと酷評してみせる神官に、彼女は呆れきった目を向ける。
「二人とも、純粋培養ですからね。かみ合わないのは当然なのかもしれませんが」
言いつくろうつもりなのか、それとも説明するつもりなのか、ともかくよく分からない言葉を神官は付け加えた。
「純粋培養?」
あのエルフのどこに純粋なところがあっただろうか、と彼女はすこし考える。
「スイフリーはあれで根っこはかなり純粋にエルフですよ? 見える範囲はほとんど人間というかダークエルフというか、ともかくエルフっぽくはないですけど。自分の種族がどういう位置づけなのか、ちゃんと分かってるというか……。無茶とかしたがらないでしょ? エルフとしては型破りかもしれませんけどね、我々と比べるとやっぱり保守的ですよ」
「まあ、言われればそうかもしれないけど」
そういえば、グラスランナーもエルフを似たように評価していたな、と彼女は思う。
「クレアさんはいつから神殿に住み込んでいるのかは知りませんけど、かなりまっとうなファリス神官です。良いと悪いの二極しかなくて、どちらでもない、というような考えをしないですし。特に彼らファリス神官は教義を守るのが第一で、他人の心に鈍感になりやすいんです」
「アンタも似たようなもんだとおもうけど」
「わたくしも真理を得るために様々なことに没頭してますからね、順序がおかしくなることもあるでしょう」
「褒めたつもりはないわよ」
胸を張る神官に冷たく言い放ち、彼女はため息をつく。
「あの子が多少他人の気持ちに鈍感なのは認めるわ。最初に会ったときなんて、特にそうだったし」
「だいぶ丸くなりましたよね」
「でも自分の気持ちにまで鈍感なのってどうなの?」
「それが個性ってもんじゃないですかね。自分の気持ちに正直すぎる人だとか、自分の気持ちを捻じ曲げて理解してる人だとか、自分の気持ちに鈍感である人だとか、自分の気持ちを理性で押さえつけてる人だとか、色々ですよ。だからこそ、わたくしは見ていておもしろいのですけど」
ふふふ、と笑って見せる神官に、彼女は誰のことを言っているのか尋ねるのはやめておくことにする。
「あなたとアーチーのことは時間が解決するかもしれないですけどね、スイフリーとクレアさんに必要なのは時間じゃないですよ」
「自覚? 信頼? 相互理解?」
「そういうのも、勿論必要ですけどね。その辺は前提条件では?」
「じゃあ、何?」
「覚悟」
神官の答えに、彼女は眉を寄せる。
「それこそ前提条件じゃない」
「ええ、そうですよ。その上で、彼らには究極の命題ですよ」
そこで神官は、久しぶりに神官らしい顔をする。
「十年もすれば、嫌でも時間が種族の違いを突きつけてきます。変わってしまう相手に、変わらない相手に、代わってしまう自分に、変わらない自分に、最後まで耐えられるか」
神官はそこで彼女を見た。
「互いに未知の領域ですからね、保障なんてないんです。スイフリーが、不確定なことを嫌いなのはご存知でしょう?」
彼女は頷く。
「ですから、無責任なことはしてはいけないんです」
「……うん」
彼女は少しうなだれる。
もしかしたら、あの子に悪いことをしたかもしれない。
「ただ」
そこで神官はにやりと笑う。
「あれでスイフリーは情に弱いところがありますし、やるとなったら徹底的ですからね、いざ心を決めてしまえば相手を大事にするタイプだと思いますよ。我々は本人たちに気付かれないところでそーっと見守っていればいいんですよ」
■グイズノーは、時と場合によって、本当に邪悪だったり、すごい聖人だったりしてなかなかにして面白いひとですよね。
今回は聖人バージョンで(笑)
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