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「はとこはズルイにゅ」
木の上から降ってきた声に、エルフは舌打ちをする。
「何が」
「だって、さっきの、姉ちゃんに結論全部任せるってことっしょ?」
エルフは目を開けると、木を見上げた。グラスランナーの居場所はすぐに確認できる。グラスランナーが本気で隠れているわけではなかったし、エルフにとって森の木々は友達だったからだ。
「盗み聞きは趣味が悪いぞ」
「盗み聞きなんてしてないにゅ」
大して気を悪くした風でもなく、グラスランナーは答える。確かにエルフはグラスランナーが頭上に居ることを知っていた。そういう意味では、盗み聞きとは言わないかもしれない。かといって、聞かせたいわけでもなかったが。
「姉ちゃんが、はとこのコト好きだって結論付けたらどうするん?」
「言っただろう、断るさ」
「さっき認識しないうちに断っちゃってたにゅ」
「そうだな」
「んー」
グラスランナーは木の枝に二つ折りになるようにぶら下がり、顔をエルフに向ける。
「はとこは臆病だから、姉ちゃんが認識しないうちに芽を摘み取っちゃいたいのかもしれないけどさ」
「誰が臆病だ」
「確かに認識してないっていうのは無いのと同じだから、最良だと思ったのかもしれないけどー。だったら考えろとか言わんでほしかったにゅ」
エルフはグラスランナーの顔をまじまじと見る。
「ではどうするべきだったというのだ?」
「それははとこと姉ちゃんの問題だから、俺が何を言ってもしょうがないにゅ」
「お前何が言いたいんだ」
「んー」
グラスランナーはまた考えるような声をだし、それから器用に木の枝に寝そべる。
「俺はねえ、姉ちゃんのことが本当に好きなんにゅ」
「知ってる」
グラスランナーの、神官への熱の入れようといったら、それはもう、物凄いものがある。どうやら、グラスランナー自身はもっと手足が短いほうが本当は好みらしいのだが(種族的に考えて、当然かもしれないが)それをも凌駕する何かがあの神官にはあるらしい。エルフには全くそれが何だか分からないのだが。
「だから俺はさあ、姉ちゃんには幸せになってほしいにゅ」
「殊勝なことだ」
「だから姉ちゃんが、本当にはとこが好きだって結論だしたら、ちゃんとはとこには向き合ってほしいなあ、と思うのにゅ」
「だから、結論としては断るといってるではないか。クレアに幸せになってほしいんだろう? だとしたら、エルフであるわたしを選択するのは進められない」
「はとこのその理屈も分からないことは無いにゅ。でも、俺にとっての答えとしては、ぜんぜん認めらんない」
少しグラスランナーの声が低くなる。グラスランナーがそれなりに腹を立てているのだ、とエルフは理解した。
「ではどうしろというのだ? わたしに主義主張を曲げて恋人になれとでも言うのか? 人生に付き合ったとしてもせいぜい数十年、エルフには短いからな」
「そんな決着の付け方したら、俺ははとこの首を掻っ切る」
「クレアに幸せになってほしいんだろう?」
「だからにゅ」
エルフはそこで理解不能という意思表示のつもりで、顔を顰めて見せた。グラスランナーはそんなエルフを見て、わざとらしいため息をつく。
「はとこが、エルフとして人間の姉ちゃんを評価する今の思考を捨てて、スイフリーって個人としてクレア姉ちゃん個人を評価してほしい、って俺は言ってんの。エルフじゃなくて。人間じゃなくて。はとこが、姉ちゃんの性格だとか行動だとかで判断して、それでも好きくなれないって言うんだったら、それは仕方ないにゅ。エルフ同士や人間同士や、グラスランナー同士でもあることやもん」
グラスランナーの主張に、エルフは少しだけ黙る。
反論要素をいくつか考えてみたが、上手く頭の中でまとまらず、言葉として口から出すことはできなかった。
しばらくどちらも黙って、風が吹く音を聞いたり、草が揺れるのを見守る。
二人がどんな話をしていても、世界は変わらない。
「はとこはさ」
グラスランナーが不意にまた喋りだす。
「エルフっしょ。だから、姉ちゃんとの壁を越えられるにゅ。俺がどんなに頑張ったってぜーったいに越えられない種族の壁を、はとこは越えられちゃう。俺どんなにうらやましいか。不幸になるとかそんなの、後回し」
「後回しってお前、結構重要だぞ?」
エルフは意図的に後半の言葉にだけ返答をする。その間に、グラスランナーは木の上から飛び降りてきた。地面に着地するまでに一回転し、着地しても音はしなかった。
「種族を言い訳にすんのだけはやめて」
グラスランナーはエルフの顔をじっと見る。
エルフはそれでも返答しなかった。
「はとこ」
「何だ」
「俺ははとこのことも好きにゅ」
「何言ってるんだ?」
唐突に切り替わった言葉に、エルフは訝しげな顔でグラスランナーを見た。
「なんとなく言っとこうと思ったにゅ」
に、とグラスランナーは笑うと、「じゃあ、俺は部屋に戻るにゅ」と宣言し、建物のほうへ走っていった。相変わらず、すごい速さで。
「そうは言われてもなあ」
取り残されたエルフは呟くと空を見上げる。
自分が「エルフらしくない」などという評価をされているのは知っている。
が、そんなこと言われても自分はエルフであるし、事実「エルフらしくなくなった」のは人間の住む町に出てきてからだ。染められたことは別に後悔していない。
しかし、140年暮らしたエルフの村で染み付いた、その生活に対する基本的な考え方や価値観まで、すぐに切り替えられるわけもない。
単純に結論付けられる話じゃない。
「苦手ではあるが、嫌うほどでもない」
呟く。
言葉はシルフの背にのって、でも決して相手には届かない。
■火曜日にラブシックと泡ぽこの両方を更新したので、今回もそうしてみました。
順番を逆にして。
この話は本当に何処へ行くのでしょうね。
自分でもドキドキしながら(主につじつまがあうかどうかで)話を書いてます。
決めちゃうと、かけなくなるタイプなので(笑)
いや、勿論、はずしちゃいけないラインくらいは考えてあるんですけどね。
そのラインをどう走るかは決めてないので、書いてて楽しいです。