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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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外は雨。
時刻は夜。
久しぶりに城に戻って、しかも全員がそろってくつろげるというのは珍しい。
室内を照らすのはろうそくの黄色く揺れる光。
幻想的な夜。
……なのに。
そこでフィリスはため息をつく。
何もなさ過ぎてつまらない。
アーチーはずっとテーブルで本を読んでいるし(つまり誰の相手もするつもりはない)、スイフリーは窓際に置かれたソファで居眠りの真っ最中(起きる気配はほとんどない)、パラサはずっとクレアにまとわりつき話を続け、クレアもそれを真面目に聞いている(適当にしておけばいいのに、真面目に聞いてしまうあたりが彼女らしい)、レジィナは色気のないことに大剣の手入れに熱中してるし(話しかけても聞こえてないのか返事もない)、グイズノーはさっきからずっと棒を使って何かを作っているらしく、こちらも熱中していて話もできなさそうだ。
「ああ! もう! つまんない!」
叫んだところで、グイズノーが顔を上げた。
「ええ、つまりませんね。ということで、わたくしが皆様に遊びを提供いたしましょう」
などと福々しいが全く誠意のない、不思議な笑顔をフィリスに向けた。
「遊び?」
胡散臭そうなフィリスの目つきもどこ吹く風、グイズノーは棒をテーブルに置くと全員を見回した。
「どうです? 皆さんも遊びませんか? レジィナの剣の手入れも終わりでしょう?」
「うん、もう終わる」
レジィナは答えると、きちんと剣をしまってから立ち上がってテーブルにやってきた。
「何するの?」
「俺も遊ぶー! 姉ちゃんも遊ぶ?」
パラサはすぐに立ち上がり、隣にいたクレアに尋ねた。
「そうですね、たまには良いかもしれません」
クレアはふわりと微笑むと、パラサに続いて立ち上がった。
「はとこ、起きるにゅ!」
ぺしん、と容赦なくパラサはスイフリーの頬を張る。かなりいい音がした。
「なにをするんだ、はとこの子の子」
「みんなで遊ぶから、はとこも起きて参加するにゅ」
寝起きなのと叩かれたのと、そのわりにたいした用事でもなかったことで、スイフリーはかなり不機嫌な目をパラサに向けたが、そもそもその程度のことは気にされない。
「これでつまらなかったら蹴倒すぞ、はとこの子の子」
ふらふらした足取りでスイフリーはテーブルに向かう。
「なぜテーブルに集まる!」
最初からそこで読書をしていたアーチーが遂に顔を上げた。そこをすかさずパラサが本を奪い取る。
「これで全員そろったにゅ」
「あ、きさま、何をする」
「皆で遊ぶにゅ」
「どうせ一人取り残されたらそれはそれでへそを曲げるでしょ」
パラサに続いて、フィリスがぴしゃりと言うと、アーチーは黙った。
「ではルールの説明です」
グイズノーは笑うと、棒を全員の見える場所に並べて見せた。
棒は端っこに「王」という文字が書かれたものと、数字が振られたものの二種類があった。数字は1~6が書かれている。
「この棒を、文字が見えないように隠し持ちます。そして、全員でいっせいに引きます。すると、王の人と、数字の人にわかれますよね? 数字は見せてはいけません。王様は、好きなことを数字の人に命令することができるわけです。例えば、今すぐここへワインを持ってきなさい、とか」
「おもしろいのか、それ」
不機嫌そうな声でスイフリーが言う。
「ハプニング性がおもしろいんですよ」
「できそうにないことは命令しないというルールを付け足してくれ」
「そんな保守的なゲームはおもしろくないですよ。何でも有りだからいいんじゃないですか」
「ではお前、ドラゴンを一人で退治に行けといわれても行くのか」
「行きませんよ。そんなあからさまに無理な話はしないのが前提なんです」
スイフリーとグイズノーの平行線の会話に、フィリスは笑顔を向ける。
「まあ、ともかくやってみましょうよ。私はもう何を言うか決めたわ」


1回戦。
「ではスタートです」
全員がグイズノーの手から棒を引く。が、一本あまった。
「ちゃんとアーチーも引くにゅ」
「ばかばかしい」
「ほら、コレがあまりですよ」
グイズノーはあまりの棒をアーチーに渡した。
「王様誰ですか?」
「俺! 俺王様!」
レジィナの質問に、パラサは棒をびしっと見せた。棒の端には「王」が刻まれている。
「じゃあじゃあ、命令にゅ。どうしよっかなー」
パラサは数字を予想しているかのようにじっくりと全員の顔を見た。
「じゃあ、1番と4番は5分間見詰め合う! 笑ったらやり直しにゅ」
「それは本当におもしろいのか?」
未だに半信半疑なスイフリーから声が飛ぶが、パラサは気にせず続けた。
「1番誰にゅ」
「あ、私ですね」
クレアが小さく手を挙げた。
「えええええー! じゃあ姉ちゃんと見詰め合えるうらやましい人は誰!? 4番!」
暫らく返事はない。
「誰も返事をしないってことは」
レジィナは目の前のアーチーの棒を見る。
「やっぱり! 返事くらいしなよ!」
「ちょっとー! パラサの馬鹿―! アーチーとクレアが見詰め合って、恋が芽生えたらどうしてくれるのよ!!!」
「俺だって泣きたいにゅ……」
「クレア、こんな馬鹿げたことはしなくても良いぞ」
アーチーは最後の抵抗とばかりに、クレアに言う。
「ルールですから」
規律を旨とするファリスの神官は、あっさりと答えるとアーチーの前に移動する。
「では、時間を計ってくださいね」
「姉ちゃん、俺のこともあとで見つめたってね」
パラサは泣きそうな声とともにため息をついた。
アーチーとクレアは無言で見つめあう。
クレアのほうは淡々としたものだが、アーチーのほうは途中から息苦しいものを感じ始めていた。理由はフィリスとパラサからの重圧と、クレアの目のせいだろう。ファリス神官の、不正は一切許しませんという目が自分を見据えているというのは、なかなか恐ろしいものかもしれない。いくら後ろ暗いことがほとんどなくても、だ。
内心少々スイフリーに同情する。もしかしたら彼らの間には恋とか愛とかあるのかもしれないが(本当のところは全然分からないが)、あったとしてもこの目はかなりきついのではないだろうか。特にスイフリーには。
「はい、5分」
不機嫌なパラサの声で、解放される。
「ね、おもしろいでしょう?」
「どこが」
グイズノーの言葉に、フィリスとパラサ、アーチーの声が一斉に反論したが、彼はその全てを黙殺した。
「はい、二回戦二回戦」


2回戦
「おや、王様はわたくしでした」
グイズノーが棒を見せて笑う。
「では、2番は5番をおぶって、部屋を一周してください」
「それっておもしろいの?」
「パラサが下になったらどうするのだ」
レジィナとアーチーが一斉に口を出す。
「パラサが下だったら、番号を変更します」
「それって、パラサは絶対に下にならなくてお得じゃない」
返答に今度はフィリスが突っ込みを入れたが、彼は取り合わず全員を見た。
「で? 2番と5番は誰です?」
パラサとスイフリーが手を挙げた。
「わたしが5番だ、何が悲しゅうてはとこの子の子をおぶって部屋を一周せにゃならんのだ。しかもこの部屋、城で一番広いじゃないか」
「はとこ、ゲームゲーム」
おんぶ、と言いながら手を広げるパラサの額に、一度チョップを入れてから、スイフリーはパラサを背負う。
「うひょー、いつもより視点が高いにゅ。はとこ、右、右。右からー」
「あとで覚えとけよ」
足をぶらつかせ、ご機嫌な声で方向を指示するパラサに、低い声でスイフリーは返事をすると、それでも歩き出す。非力なエルフといえ、背負っているのは更に非力かつ小さなグラスランナー。それといってハプニングも起こらず無事に部屋を一周してテーブルに戻ってくる。
「これはちょっとおもしろかった」
「ね、ハプニング性でしょ?」
にやにやするフィリスに、同じくにやりと笑ってグイズノーが答える。テーブルの下でスイフリーはグイズノーのスネを蹴ろうとしたが、ちょっと遠かったから断念した。


3回戦。
「では三回目ですよ。王様はどなたですか?」
「わたしだ」
スイフリーが棒をテーブルに放り投げた。
「言うことは決めてある。寝起きでノドが乾いてるんだ。さっき無駄に部屋も歩かされたしな」
舌打ちするとスイフリーは全員を見る。
「4番、水持ってきてくれ。飲む」
返事もなく、すくっとクレアが立ち上がる。
「姉ちゃん、どうした?」
「4番なので」
「ついでに菓子かなんかもほしい」
「夜遅いですから、食べないほうがいいですよ」
追加注文したスイフリーに、クレアは答えると部屋を出て行く。暫らくして戻ってくると、それでもトレイの上には飲み物のほかにラスクが数枚載せられていた。
テーブルに戻ってくると、飲み物をスイフリーの前に置く。
「コレでよかったですか?」
「ああ」
渡された水を飲み、スイフリーは椅子にだらしなくもたれかかる。
「何かすごーく詰まんないにゅ」
「そうね、コレは詰まんなかったわね。もっとドラマチックなことしなさいよ、二人とも」
「そうは言われましても」
困惑しながら、クレアは席に戻る。
「他に何も言われてませんし」
「あーん、詰まんない! 次行こう次!」



■そもそもは、自分の絵板http://www10.oekakibbs.com/bbs/magumagu/oekakibbs.cgiに落書きした、パラサをおんぶするスイフリー、というのものに端を発するしょーもない話です。
友人が「王様ゲーム?」と言うてくれて、それが面白そうだったから採用しただけです。
したらば、思わぬ長さに。
というわけで、後半に続く。

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