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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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泡ぽこ 8

ヒースの顔が引きつる。
「ははは、下っ端とか言うのはかなり正直むかつくが、俺様たちを雇う金が本当にあるのかね? 俺様たち、本当に高いぞ? 最近は」
「変なところだけ正直ね、相変わらず」
マウナの突っ込みをとりあえず無視してヒースはスイフリーに目を向ける。スイフリーは暫く腕組みをして考え込んでいた。
「アノスまで4ヶ月。彼らの実力をかんがみて、一回3万6千くらいか。危険手当と長期保証して、多少色をつけるとして……。はとこの子よ、いくつ持ってる?」
「来るときそんなに使わなかったから、10個かな?」
「フィリスは?」
「そうねー、私もあんまり使わなかったから、8個」
「わたしは7個だ」
何の話をしているのだろうか、とヒースは思う。
「1人1個、6個でどうだ? イリーナは別会計だからな」
「はとこがの分がなくなっちゃうにゅ」
「フィリスに2人したっぱーずを持ってもらうとして、2個出してもらう。私はとりあえず残りの分をだそう。で、はとこの子よいくつか貸してくれ。帰ったら返す」
「別にかまわないけど」
「フィリスは?」
「私はそれで問題ないわよ。足りなくなったらパーティー内で融通しあうのは基本よ」
「では商談は成立だな」
「成立してないでしょう」
エキューがむっとしたように言う。エルフ相手でも、言うときは言えるのだ。
「いや、君たちとではなく、我々の中での商談だ。君たちの事を、わたしたちは雇う準備ができた。いや、もちろん君たちが我々の出す提示額で満足すれば、の話だが」
「で、どのくらいの評価をしてくれたのかな?」
ガルガドの言葉に、スイフリーは答える。
「魔晶石を1人1個ずつだ」
「魔晶石!」
一瞬全員の背が伸びるが、すぐにヒースが「いやいやいやまてまてまて、だまされないぞ」と声を上げる。
「だます?」
「実は1個1点ですとかいうオチだろう!」
びしりとスイフリーに指をつきつけて、ヒースは勝ち誇った笑い顔を浮かべる。
「そんなこと言ってだますやつは邪悪なり、だ」
スイフリーは苦笑して、無造作にカバンに手を突っ込むとそのまま机の上に魔晶石をばら撒いた。その魔晶石に、全員の、特にヒースの目が釘付けになる。そこに無造作にばら撒かれた魔晶石は、見慣れた小さなものとは違う。大陸でもめったにお目にかかれないほどの高純度にして大粒の魔晶石だ。しかもそれが、大量にある。
「1個20点を6個。イリーナは我々の護衛対象であって雇う対象ではないからな。買値は24万といったところだろう。売値で言えば半額だが、売って山分けでも物を山分けでも、それは君たちの自由だ。本当に、アノスまで付いてくるなら、わたしとフィリスの護衛という名目でコレを報酬として払おう」
言いながら、ささっと素早くスイフリーは魔晶石を回収した。
「返事は1週間以内だ。わたしたちはこのままこちらの宿に厄介になるから、行くにせよ行かないにせよ、返事をくれたまえ」

 

VIPルームに取り残された面々は、全員で顔を見合わせた。
「魔晶石……あんなに……初めて見たわよ、あんな大きいの。あんな数も……」
「マウナさんしっかり!」
「しかも、彼らの口ぶりからいうと、パラサというグラスランナーが10個、フィリスという魔術師が8個、スイフリーというエルフが7個、計25個持ってることになるぞ?」
「そりゃ10個くらいなんでもないのかもねー。帰ったら借りた分返すって言ってたし」
「皆はもらえるからいいじゃないですか。私は別会計という名の下、無収入です」
「いや、報酬よりいい待遇かもしれんぞ?」
「ねえ、アノスってそんなにお金持ちな国なの? ファリスは食わねど高楊枝じゃなかったの?」
「それはイリーナだけだ」
「いやいや、多分彼らは特別ですぞ」
「バスさん、何か知ってるの?」
「アーティストとして、彼らの噂を聞いたことはありますぞ」
「どんな噂ですか? やっぱり、ファリス様の騎士として、ステキな功績とか!」
「そういう話は聞かないですな」
「じゃあ、どういうのだ?」
「とりあえず、私が聞いた彼らの話としては、まず、メンバーは間違いありません。クレアという女性神官は、彼らの仲間ではありませんから、彼女の護衛に来たというのも間違いないでしょう。アーチボルトさんはあのローンダミスと同等といっていい力量の持ち主です」
「そ、それは戦ってみたいです」
「腕相撲くらいにしとけ、イリーナ」
「レジィナさんも似たような強さで、しかもバードとしての能力も一流です。パラサさんはその気は全くないでしょうけど、盗賊ギルドの頭目とやりあっても余裕でしょう。小さな規模の盗賊ギルドであれば、もしかしたら頭目でも一撃かもしれません」
「そんな風には見えなかったけどなあ」
「グラスランナーはそういう序列などには興味がないでしょうからな。グイズノーさんはラーダの高神官です。あまり重用はされていないようですけど。アノスという国柄かもしれませんな。それからフィリスさん。彼女も導師級の力の持ち主です」
「俺様だってそうだぞ」
「試験で落ちてますけどね」
「だったら、そのフィリスだって同じじゃないか。冒険者してるってことは、そういうことだろう」
「目指してないだけかもしれんがな」
「エルフさんは?」
「精霊使いとしても戦士としても一流のようです。一行の参謀だという話もあります。で、全員あまり良い噂は聞きません」
「え? 例えば、どういう話ですか?」
「金にがめつい、悪趣味、厚顔無恥、などですかね。スイフリーさんにいたっては、付け耳疑惑であるとか、ダークエルフ疑惑であるとか」
「肌、白かったわよ」
「理由は私はわかりませんぞ」
バスは苦笑する。
「とりあえず、魔晶石はちょっとかなり魅力だ。受けてもいいような気がしないでもない」
「ではとりあえず、盗賊ギルドですかな」

 

 


 

■ようやくバスがしゃべったが、しゃべったらしゃべったで、なんか口調が怪しい(苦笑)


■最近拍手をしていただいてるなあ、嬉しいなあと思っておりましたら、なんとうちのようなブログにリンクをしていただいておりました。
しかも日参させていただいておりますサイト様で(ブックマークなどはマメにチェックしないので気づくのが大層遅くなったのです)
ありがとうございますありがとうございます。
皆様Halcyon様へれっつごー。

うあああああ、どうしよう、もっとヒース兄さんを格好良く書かねば!

しかし実はこの文章は友人にメールで送っているのを時間差でアップしているだけで、実際のお話はもう38話だったりするからもう軌道修正はきかない!(笑)しかたなし!


2007/07/20

拍手[0回]

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泡ぽこ 7

マウナはクレアたちには見えない角度からエキューの背を叩きながら、相手の出方を窺った。
「別に名前くらいいいんじゃない?」
若い女性が、周りを見る。どうやら、彼女が一番普通に話せそうだ。
「まだ完全にアノスに連れて行くと決まったわけではないから、名乗る必要はあまりないと思うが」
とはエルフ。
「でも、依頼人の素性がわかんなかったら、気味が悪いでしょ? だから、名乗るべき」
「そういう考え方もあるか」
エルフは少し口を曲げてからうなずいた。どうやら名乗る、という方向で決まったらしい。「わたしはスイフリーだ」とだけ言う。
「何か無愛想な挨拶ですねえ。あ、わたくし、グイズノーと申します。ラーダの神官をさせていただいております」
小太りの男が、福々しい笑顔とともに言う。笑顔なのに、微妙に怪しいのはなぜだろうか、とマウナは思うが黙っておく。
「オレはパラサ! パラサ・ピルペ・パンにゅ!」
グラスランナーが右手を挙げて、左手で自分を指差しながら言う。初めてグラスランナーと正式に喋ったわけだが、「にゅ」という独特の語尾は何だろうか。グラスランナーは皆こうなのだろうか。後でヒースに聞いてみるのもいいかもしれない。ただ、あの男が正しいことを言うかどうかは、また別だろうけど。
「私はレジィナ。バードだよ」
若い女性がにこりと笑って言う。背中のグレートソードは何なのだ、と突っ込みたいがぐっとこらえる。バードなんだろう、本業は。
「私はフィリス。こっちは使い魔のデイル。ソーサラーよ」
髪の長い女が妖艶に微笑んだ。
「さて」
騎士がこちらを見る。
「とりあえず、連れて行く連れて行かないは別として、君たちの名前をお聞かせ願えるかな?」

「私はイリーナです!」
「いや、知ってるから、君はいい」
アーチボルトがイリーナに手を向ける。「大体のことは調べてきた」と、付け加える。
「イリーナのことを調べたなら、俺様たちのことも分かってるんじゃないのか?」
ヒースが疑いの目を向けると、アーチボルトは苦笑した。
「まあ、隠しても仕方ないだろう。名前くらいは調べてある。大体の戦果もね。が、誰が誰だかは、予想しかできていない」
「予想?」
「例えば、彼女」
アーチボルトはマウナを手のひらを上に向けて指し示す。
「ハーフエルフは彼女だけだから、彼女がマウナさんだろう。それから君」
今度はヒース。
「君はイリーナさんの事を妹分だといっていた。だから、ヒースクリフ君だろう。そういう予想だ」
その説明を聞きながら、本当のところは全員の名前くらい分かっているのだろう、とヒースは予想する。相手の言い分が正しければ、彼らは自分たち同様、アノスの危機を救った英雄ということになる。となれば、いくら国は違うといえどオーファンについてから色々情報を手に入れてから、ここへ乗り込んできた可能性は高い。グラスランナーは生まれ付いてのシーフだから、きっとその辺りからの情報を手に入れているだろう。ノリスもバスもギルドに上納金を納めてはあるから、そんなに情報は出なかったかもしれないが。
そんなことを考えているうちに、仲間はあらかた自己紹介を終えていた。アーチボルトをはじめ相手の冒険者たちは事後確認のようにうなずいているだけだった。
「何かご質問は他にありますか?」
クレアが凛とした声で言う。
「あ!」
イリーナが手を挙げる。
「なんでしょう?」
「アノスって、遠いじゃないですか? 時間ももちろんですけど、お金もかかりますよね? わたし、アノスまでの旅費があるかどうか……」
「新しいグレートソード用の貯金を崩せば?」
「そ、それは……」
眉を寄せるイリーナに、クレアは少し微笑んだ。
「心配要りません。イリーナはアノスの正式な客人です。旅費はこちらもちです。詳しくは封書の手紙をお読みください」
「それって、僕らがついていくのは勝手だけど、僕らの旅費は出ないってことだよね?」
ノリスの言葉に、クレアはうなずく。
「……イリーナ、俺様のことを雇え! アノスからの帰り道に役立つぞ!」
「兄さん……」
恨めしい目をするイリーナと、そのイリーナの肩をバンバンと叩くヒース。
「そっか、お金が出ないのはつらいわね。イリーナが私たちを雇えるとは思えないし……。何せ私たち、相場が高いし」
「マウナまで……」
泣きそうな目のイリーナに、クレアが何か言おうと口を開いたときだった。
「別に、わたしが雇ってもいいぞ」
意外にも提案をしたのはスイフリーだった。クレアどころか、全員がスイフリーを見る。
「一体、どうしたというのですかスイフリー。まさか彼女の窮地を救ってあげたいとか思ったのですか? 悪いものでも食べましたか?」
「あのな……」
本気で心配そうな顔をするグイズノーに、スイフリーは苦い顔をする。
「普通に、わたしは彼らを雇ってもいいなあ、と思っただけだ」
「やっぱり何か悪いもの食べたにゅ。はとこ、パスタの前に何食べた?」
「アノスは遠い。こっちへ来るまでにうっかり一度死に掛けた生命力の低いわたしとしては、単にしたっぱーずが居ると命の危険が減るというだけの話」
「あ、それならわたしだってしたっぱーずを雇いたい」
スイフリーの言葉に、フィリスが手を挙げる。
二人はヒースたちを見た。
「君たちは強いのだろう? そしてアノスへ行ってみたいと思っている。同時に、我々は君たちを雇うことができる。利害は一致したといえるな。但し」
そこでスイフリーは意地の悪い笑顔を向けた。
「君たちがオーファンで英雄だろうが、雇われたからにはわたしの下っ端だぞ」




今日はここまでー。
まだバスしゃべってないー(笑)


■前回の「泡ぽこ」、拍手が5もあった!
何方か存じ上げませんが、ありがとうございます。

……感想などいただけると非常に嬉しいです。


2007/07/17


拍手[2回]

泡ぽこ 6

クレアにつれられてVIPルームに入る。別に入るのは初めてではないが、やはり緊張する。ここにつれてこられるということは、相手がかなりの地位があるか、金をもっているか、その両方かのいずれかであり、そういう相手の依頼というのは得てして危険極まりないことが多い。
「あの、席が違いませんか?」
VIPが座るほうの席を勧められ、イリーナが困惑した声を挙げる。
「いえ、コレで正しいです」
クレアたちが普通は依頼を受ける冒険者が座るほうの椅子に腰掛け、イリーナたちは依頼者が座る椅子に腰掛ける。ふかふかのかなりいい座り心地の椅子に、全員妙に緊張する。結局全員が部屋に入っていた。
クレアはイリーナたちを一度見渡してから、話し始める。
「私は先ほども申しましたが、クレア・バーンロードと申します。アノスで神官騎士をしておりました。現在はある城で名代をやっております」

城!

その単語に、マウナをはじめ全員が背筋を伸ばす。それと同時に、一体何が自分たちに起こるのだろうかとかなり不安な気分になったのも確かだ。
「そして、こちらはアーチボルト・アーウィン・ウィムジー卿です。アノスの騎士で、今回の任務にあたっては私の身を守ってくださっています」
クレアは隣に唯一座っている男性を紹介する。他の冒険者は立っているからだ。
「騎士って、一人だけ? 貴女を信じていい理由は?」
エキューが率直に言う。
「ファリス様の聖印を身に着けている人に悪い人は居ません!」
イリーナがエキューを振り返る。
「いや、イリーナ的にはそうかもしれないけどさ」
エキューが困惑して答えるが、アノスの騎士たちはそれほど驚いた表情はしていなかった。予想済みの反応なのだろう、と判断する。
「我々は元はオランの冒険者でね、君たち同様アノスの危機を多少救った功績が認められて騎士に叙勲してもらったのだよ。ご存知の通り、アノスからオーファンは遠いのでね、少数精鋭でこちらに来させてもらった。君たちが疑う気持ちは分かるが、護衛の騎士が少ないことに、それ以上の理由もそれ以下の理由もないよ」
アーチボルトと呼ばれた騎士が答える。「多少」で騎士にはなれないだろうから、多分コレは謙遜なのだろう、とヒースは判断した。
「イリーナ、貴女の噂はアノスにまでたどり着いています。マイリー信仰の土地において、ファリスの教えを広めた功績が法皇様のお耳に届きました」

何がどう伝わったらそうなるのだろう、と全員が思ったが黙っておく。

「そこで」
クレアは一枚の封書を取り出すと、イリーナの前に差し出した。
「法皇様が、じきじきに貴女に会いたいとのことです。我々は使者であり、アノスまでの道の護衛としてまいりました」
「えええええ!?」
予想外の展開に、イリーナたちはただ悲鳴を上げるしかなかった。が、それをも織り込み済みなのか、騎士含みの冒険者たちは涼しい顔をしている。
「ああああああああの、本当の話ですか!?」
なぜかマウナが声をあげたが、クレアは気にせずうなずいた。
「法皇様の名を騙ってウソを言ったりしません。封書も本物です。内容はイリーナに読んでいただくとして、お返事は1週間以内にお願い致します」
「そんなに猶予をくれる理由は何だ?」
ガルガドの鋭い視線に、騎士がすこし笑って答えた。
「旅立ちの準備には時間がかかるだろう? 特にイリーナ殿は高名な神官戦士なのだから、仕事を割り振るのも大変だろう。それに、我々とてはるばるオーファンまで来たのだから観光くらいはしたい」
「じゃあ、1週間後には返事をすればいいんだな」
ヒースの言葉のあとに、ノリスが続いた。
「ところでさあ、僕ら話聞いてノリノリになってるけど、呼ばれてるのイリーナだけだよね? 僕ら、ついていっていいの?」
はっとして全員がアーチボルトとクレアを見る。
「ついてくるのを止めたりはしないが……」
「うわーい、じゃあ、僕ついていこうかなー!」
「そして二度と帰って来んでもいいぞ」
「ひどいよガルガドー!」
「それより、あのさあ、騎士さん以外の名前を聞いとくとか、色々あるでしょ皆。特にエルフさんとかエルフさんとかエルフさんとか」
エキューの言葉にグラスランナーは噴出した。
「はとこに興味持つなんて変にゅ」
「ああ、気にしないでください、この子はエルフと見れば大体こんな感じです」
「そんなことないよマウナさん、ハーフエルフもばっちりです!」



■今日はここまでー。

14人もいると話さない人だらけだー(笑)
そしてアーチーはもっと偉そうだー(笑)失敗したー。

暴露。
バスはまだしゃべってない(笑)


2007/07/11

拍手[1回]

泡ぽこ 5

結局、例の冒険者の金髪女性が接触してきたのは、彼らの食事がきちんと終わり、さらにイリーナの食事も終わってからだった。その頃は客も少なくなってきており、マウナも同席することが出来た。
「イリーナ・フォウリーですか?」
女性はイリーナをまっすぐ見つめて尋ねる。イリーナはうなずいた。
近くで見ると背がすらりと高く、女性らしいラインの体をした、なかなかの美人である。金髪だが、キレイな弧を描く眉は黒い。脱色をしてるのか、とヒースは思う。茶色の目はどこまでもまっすぐで、真面目そうな顔つきがいかにもファリス神官らしい。見慣れたファリス神官であるイリーナとは、雰囲気が似てるともいえるし、全然似てないともいえた。
(コレで金持ちだったら、わりとストライク)
などと思っている間に、金髪美人の自己紹介が始まる。
「私はクレア・バーンロードと申します。貴女と同じファリス神官をアノスでしております」
「アノス!」
数人の声が重なった。
イリーナの目が輝く。日ごろからアノスに巡礼に行きたいと言っている、彼女憧れの土地・アノス。その地名が出てきて多少舞い上がっているように見える。
逆に、ヒースやエキュー、ガルガドはアノスの遠さを考え目の前の女性がにわかに胡散臭く思えてくる。そんな遠いところから本当に来たのだろうか。ウソならなぜその地名を出すのか、そもそもファリスの聖印というのも怪しい。本当なら、それはそれで何の意図がある。警戒心。
「貴女にお話があります。部屋を押さえてありますので、話を聞いていただけますか?」
「もちろんです! で、お部屋はどこですか?」
「VIPルームよ」
マウナの答えにイリーナは一瞬固まって、それからクレアと名乗った女性を見た。
「本当ですか?」
「もちろんです。虚言を弄したりしません。少々込み入った話になりますので、安全を確保できる部屋を用意したまでです」
ガタガタガタ、と椅子が音を立てた。見ると、例の冒険者たちが連れ立って立ち上がっている。彼女とともに部屋に行くのかもしれない。その音に、イリーナは反射的に身を硬くした。
「ご安心ください、彼らは私の……」
クレアはそこで一瞬つまり、何かを考えたようだった。
「私の護衛……です」
「なぜそこで声が小さくなる、ファリス神官」
ガルガドが怪しむ目つきを向けると、クレアが少し困った顔をする。
「心配は無用だ、兄弟。我々は護衛で間違いない」
「そうにゅ! オレら姉ちゃんの護衛にゅ!」
助け舟がエルフとグラスランナーから出る。しかしガルガドはまだ信用しないのか疑いの目を向ける。エルフが苦笑した。
「そうだな、『今回は』護衛だ。普段はそういう関係ではないのでな、馬鹿正直なクレアは少々答えに窮したのだ。怪しまなくてもいい」
そうはいわれても、と言う前にすかさずグラスランナーがエルフのスネを蹴り飛ばした。
「はとこ! 姉ちゃんになんてこと言うにゅ!」
「真実だろうが! お前こそ、なんてことをするんだはとこの子の子!」
にらみ合うエルフとグラスランナー。
「あー、話はイリーナだけが聞けばいいのか?」
とりあえずにらみ合いを無視することにして、ヒースはクレアを見る。クレアは少し首をかしげた。
「……あなたはどなたですか?」
そういわれて、初めて名乗ってないことに気づく。まあもっとも、そこでにらみ合っているエルフとグラスランナーも名乗っていないのだが。
「俺さ……俺はヒースクリフ・セイバーヘーゲン。魔術師だ。イリーナは俺の妹分で、冒険仲間でもある。クレアさんと言ったかな、あんたが何者か分からないのに、ちょっと揮発性の頭をしているイリーナを一人連れて行かれるのは俺としてはかなり心配だということで、できれば同席したいのだが」
いつものように「俺様」というのをとりあえず自重し、ついでに「将来有望」だとか「天才的」とか言うのもやめておいた。なんとなく、身の危険を感じる。
「ヒース兄さん、揮発性の頭ってどういうことですか!」
「言葉通りだ」
クレアのほうもヒースとイリーナの言い合いはあまり気に留めず、視線をエルフに向けた。エルフは視線に気づいたのか、グラスランナーとのにらみ合いをやめてクレアのほうを見ると、くるりと宙に視線をさまよわせてから答えた。
「かまわんだろう。別に仲間内であれば聞かれて問題のある話題でもあるまい」
「どうしてエルフのお兄さんに相談するの?」
ノリスの質問に、エルフはにやりと笑った。
「さあ? なぜかな?」
その答えに何か言おうかと口を開きかけると、VIPルームから声が飛んできた。
「二人とも何してるのよー。そんなんじゃいつまでたってもクレアの仕事がおわらないでしょぉー? 早くいらっしゃいよー」
髪の長い女性が、部屋から顔だけ出してこちらに言っている。その下から若い女性も顔を出した。
「はやく終わらせるなら、クレアさんを呼びに行くのをスイフリーとパラサに任せちゃ駄目ですよ、お姉さん」
仕事、という言葉にガルガドの眉が跳ね上がる。しかしその疑問はその時点では解決しなかった。髪の長い女性が続けて声をかける。少々声のトーンが低くなった。
「ともかく早くいらっしゃい」


■バブリーズ関連を書くたびに拍手をしてくださる方がいるのが嬉しいです。
もしかしたらお友達かもしれませんがそれでもかまいやしません。

2007/07/07

拍手[2回]

泡ぽこ 4

彼らの元に料理が全てそろってからは圧巻だった。
大柄の男と若い女性、グラスランナーが入り乱れて肉の争奪戦を始めたのである。恐ろしいまでのスピードでフォークとフォークが激突し牽制しあっている間に、すかさず空いたもう一方の手で肉を掻っ攫っていく。そんな大柄の男と若い女性のその争奪戦の最中に、グラスランナーは隙を見つけては横から大物をどんどん取っている。
髪の長い女性はにこにこ上機嫌のまま、ワインを次々と空にしながらその様子を見ているし、小太りの男は争奪戦になっていない皿から次々と肉をとっていっている。エルフは我関せずといった様子で、パスタの皿を一人で抱え込んでもくもくと口に運んでいる。なんとなく、金髪の女性が疲れたような感じなのが印象的でもある。
「なんか、技能の無駄遣い?」
様子を見ていたノリスが首をかくんと倒しながら苦笑した。とりあえず、自分たちはああいう取り合いに発展するような食事にならないだけマシかもしれない。
「でもかなりのスピードだよ。もしかしたら強い冒険者かもしれないね」
エキューはちらちらと視線を向けながらも、自分の食事に集中し始める。見ていたところで何も分からない、という結論に達したのかもしれない。
「ま、とりあえず、イリーナに用があるのなら必然的に俺様たちにも接触を図ってくるだろう。それまで静観だな」
「そうだね、見てるだけでちょっと面白いかもしれない」
エキューの視線の先には、相変わらずフォークで壮絶な争いを続ける男女と、パスタを抱え込んだエルフが居た。

 

「こーんばーんわー!」
無駄に元気の良い挨拶とともに、遠慮という言葉をもう少し知れ、というくらいの勢いでドアが開いた。中に入ってきたのはもちろん有名なファリスの鉄塊娘。良く見れば「もっと静かにドアは開けんか」と説教をするドワーフの神官戦士。コレで青い小鳩亭の有名冒険者たちは全員そろったことになる。
「今日も一日ファリス様の御許で有意義な時間をすごすことができました!」
そういいながらいつものテーブルにやってくる。
例の冒険者たちは動きを止めてこちらを見ていたが、やがてまた何事もなかったかのように食事に没頭し始めた。そんな動きを知ってか知らずか、イリーナは椅子に座る。
「ガルガドさんとはさっきお店の前で会ったんですよー」
「おやっさんそれは災難だったな」
「どういう意味ですかヒース兄さん」
「なんでもございません」
いつもどおり、マウナが水を持ってやってくる。
「注文はいつもどおりでいい?」
「うん、ありがとうマウナ」
「それから、イリーナにお客様がきてるわよ。今からイリーナが来たことを伝えてくるから、ちょっと心の準備をしときなさい」
「心の準備って、何?」
イリーナが微妙に不安そうに尋ねると、マウナは少し眉を寄せた表情をしてからイリーナの耳元でそっとささやく。
「冒険者だとは思うんだけど、なんかちょっと変な感じなの」
「邪悪ですか?」
イリーナの目が光る。
「ファリスの聖印をしてたから、それは無いと思うけど……」
マウナはそれだけいうと、「ともかく声をかけてくるから」といって例の冒険者のほうへ歩いていってしまった。
「ファリスの聖印をしてイリーナに会いに来る? ファリスの猛女を聞いてファンにでもなったかの?」
「ガルガドさん、それってちょっとひどいです」
イリーナの抗議の目に、ガルガドは苦笑した。
「ちなみにあの冒険者たちだよ」
ノリスが視線だけ例の冒険者たちに向ける。マウナが金髪の女性に何か声をかけているのが見えた。マウナの話を聞いているのはその女性だけで、相変わらず肉やら魚の争奪戦は続いている。エルフのパスタはいつの間にか種類が変わっていた。
「なんか、凄い戦いです」
「まざりたい?」
ノリスが笑って尋ねると、イリーナは激しく悩んだ挙句とりあえず首を横に振った。

 




■今日は短め。

エキューの口調はもちっと丁寧だという話です。以後気を付けたい。

小鳩亭でテーブルをくっつけたバブリーズメンバーですが、とりあえずパラサではないのは確かです(笑)
たぶんレジィナでしょう。

まあそんな感じで。

2007/06/28

拍手[1回]

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