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ファンドリアを大きな問題もなく通り過ぎ、一行はロマールを進んでいる。
相変わらず、時折野犬や熊、ゴブリンなどに襲われることはあるが、それは旅をしていれば当たり前のことであり、たいした話ではない。ロマールに入ってすぐ、数日雨に降られたことで多少日数はかさんでいるが、長い旅の間では珍しいことでもない。旅は順調といえる。
東に伸びる街道を数日歩いたところで、東からやってくる冒険者らしい一団と出会った。
思えば、ココから面倒な事件は始まっていたのかもしれない。しかしそんなことはそのときの彼らは知るよしもない。
「今からオラン方面へ向かうのかい?」
彼らの中の一人が、アーチボルトたちに声をかけた。
彼らは駆け出しの冒険者というわけではなさそうだった。着ているものは少々くたびれているし、それなりに堂々としている。ただ、全員今は疲れているように見えた。
「そうだ」
アーチボルトは短く答える。
「じゃあ、ココからちょっとだけ引き返してわき道を行ったほうがいいぞ。俺たちもオラン方面に向かって旅をしてたんだが、途中で崖が崩れていてな。引き返してきたんだ」
「最近、雨が長続きしましたもんね」
アーチボルトの隣でイリーナが頷く。男は続けた。
「俺たちは一回ロマールの都に戻ってからもう一回わき道へ向かうことにしたんだ。がけ崩れまで結構距離があってな、戻ってくるまでに無駄に食糧を消費してしまった」
「ソレは大変だったな」
アーチボルトは鷹揚に返事をする。それから振り返って後ろに居たスイフリーに声をかける。
「道を聞いておくか?」
「聞いても問題ないだろう」
男の話だと、この街道に沿うように、森の中を行くわき道がこの辺りにはあるらしい。わき道は貴族の別荘に行くために作られたもので、色々な方面から来る客のためにオラン側に抜けられるようにもなっている。あまり使われない道だから多少歩きにくいかも知れないが、街道で崩れた崖の土砂を通り越すよりは楽だろうということだった。
その場でロマールに向かう一行に別れを告げ、彼らは顔を見合わせる。
「さて、どうしたものかな」
長い旅の間に彼らの中には連帯感が生まれている。最初こそ2つのパーティーが同時に旅をするような感じだったが今ではほとんど同一パーティーといっていい。いつの間にかリーダーはアーチボルトが勤めるようになっていた。
「プラン1。このまま街道を進む、崖崩れはフィリスとヒースのフライトで跳び越す。魔晶石はまだ余裕があるからな。彼らの疲労具合からいって、かなり崖崩れは遠そうだ。確認してから戻ってくるのは馬鹿らしい。プラン2。わき道を行く」
スイフリーは答えてから、ふう、とため息をついた。
「彼らの話を信用するということだな」
「センスライを使うべきだったか?」
アーチボルトとヒースがそれぞれ口にした言葉に、スイフリーは口を吊り上げて見せた。
「そうだな、信用することになるかな。それと、センスライは使っても仕方なかったかもしれない。というわけで、わたしはプラン3、あえてわき道を行くというのを推す」
「プラン2と何が違うの?」
ノリスが首をかたんと傾ける。隣でイリーナも似たようなジェスチャーをしていた。
「ここはロマールだ。今までの静けさから考えて、来るならそろそろじゃないかと思ってな」
「何が」
「あのお方の策だよ」
スイフリーは続ける。
「彼らが真に親切で崖崩れを警告してくれたのなら、何の問題もない。わき道も安全である可能性は高いだろう。だからわき道を行っても問題ない」
「親切でなかったら?」
グイズノーの質問に、スイフリーは口の端を吊り上げた。
「罠があるだろうな」
「分かっていて行くのは馬鹿なんじゃない? プラン1で言った、フライトで飛び越えるで十分だよ」
エキューが眉を寄せる。よほどのことがない限り、自分から危険な場所に行く必要はないだろう。
「彼らが親切でなかった場合。わき道のほうには何らかの細工があるだろうな。が、相手はあのお方。わたしたちがわき道を通った場合でも、街道を行った場合でもそれなりの策を用意してくるだろう。この場合、お勧めがわき道ということになるな」
「なら、お勧めにわざわざ行かなくてもいいじゃないですか」
グイズノーがエキューに賛同した。スイフリーは気にせず続けた。
「崖崩れでどういう策が用意されてるかなんて思いつけないが、本当に崖が崩れた上で策が用意されていたら一つ決定的な弱点がわたしたちにできる」
「何ですか?」
「戦力が3分割される。空を飛んでいる組と、着地地点の組、出発点の組だな。特に初手なんかで何かされてみろ、着地地点には最大2人しか居ないんだぞ、そのときに何かあったらどうするんだ」
「崖が崩れてないっていうパターンは考えられないか?」
「可能性はもちろんある。が、実際に崩れていた場合さっき言った難点がある。予測は最悪側で考えたほうがいい」
「その点、お勧めルートは戦力の大きな分断はないだろう。それに」
「それに?」
「最初から警戒して歩けるという利点がある」
ソレは利点だろうか、と思う人間のほうが多かったが、誰も口にはしなかった。
■昨日から、友人に送っているメールバージョンの「泡ぽこ」を再開しました。
友人たちに擬似戦闘をしてもらったんですけど、スイフリーの戦乙女の槍と敏捷度は凶悪だそうです。
モラトリアムのおっさんも凶悪だそうです。
その場に居ればよかったのですが、残念ながらいられませんでした。ふー。
あっけらかんとした声でレジィナが言う。
「は?」
思わずヒースとエキューの声がはもった。
「い、今ドラゴンとか言いやがりなさいましたか、お姉さま」
「うん、レッサードラゴン」
「だからアレはとどめだけだから、数に入れていいか微妙だろう」
スイフリーが眉を寄せる。が、彼も否定はしない。
「すばらしい! ドラゴンスレーヤーがここに!」
バスが声を大きくする。その声はどこまでも嬉しそうで、楽しそうな響きがあった。
「一体、何があったらドラゴンを倒そうなんて話になるわけだ?」
「目の前に落ちてきたんだよ」
「あの時はもう駄目かと思いましたよねぇ」
「ドラゴンのほうから、倒されるために現れるとは! 英雄をかぎつけたわけですな!」
バスの中では既に歌ができつつあるらしい、にじみ出る嬉しさがわかる。数分後には歌いだすかもしれない。
「そうかー、オレら英雄だったのかー」
「知らなかったなあ」
パラサとスイフリーが苦笑している。
「でも、凄い武勲です! どうして誇らないんですか?」
イリーナは少々悔しそうだ。自分が戦えなかったからかもしれない。
「エルダーにほとんどやられてたからなあ、あのレッサー」
「普通倒そうなんて考えないよな」
「いやあ、生きているってすばらしい」
全員、あまり話したくはないらしい。エキューはそう思ったが黙っておく。
「まあ、ともかく、オランとアノスの間にはそうそう人間は襲わないドラゴンがいるわけで、時折狩りの巻き添えを食うかもしれないから気をつけろという話だ」
「そんな風にまとめていいのかなあ」
「アーチボルトさんやレジィナさんが斬ったんですか?」
「まあ、当てたけど」
「純粋にダメージはそれほど与えてないんじゃないかな。手ごたえはあったが。どちらかというとフィリスやスイフリーだろう」
「いくら出費したんでしたっけ?」
「さあ? あの時は1回1個くらいだったかなあ? 2回だっけ? その後補充したからよくわかんない」
何の1個なのだろうか。
何を補充したんだろうか。
なんとなく答えが分かりそうな気がして、ヒースは聞かずにおく。
「ああいうときは出費を考えてたら生き残れないぞ。基本は素早く全力だ」
「なんか言葉にして聞いてると悪人みたい」
レジィナが嫌そうな顔をする。
「何を言うか。戦わずして勝てれば最良、ノーリスクハイリターンが最終的な夢。戦うことになる前に策をばらまき相手を翻弄、倒れてくれたら僥倖、いざ戦うときは全力で叩き潰して生き残る。どこが悪人だ。生きるための鉄則だろう」
「それはスイフリーだけの鉄則だよ」
「きっとスイフリーさんはヒース兄さんと話が合います。そしてほのかに邪悪の匂いです」
イリーナの目が剣呑な光を帯びてスイフリーを見る。
「心配しなくてもはとこは邪悪にゅ」
「そうそう、彼は邪悪ですよ。……これ以上外付けモラル判断装置を増やしてどうするつもりですか、スイフリー」
「お前ら」
パラサとグイズノーを睨みつけるが、もともとそういうのを気にする相手ではない。スイフリーは舌打ちすると続ける。
「第一、あの言い方はほのかな邪悪の匂いはヒースもしてるということだろう。それに見てる限りイリーナはヒースのモラル判断装置だ。これ以上わたしには増えない」
「悪いこと言っているという自覚はあるんですね」
「意外にゅ」
「……」
反論に疲れたのかスイフリーは何も言わず、もう一度ぎろりと二人をにらみつけると押し黙る。そして疑惑の目がクレアから向けられていることに気づいて舌打ちした。
「俺様のモラルをイリーナが判断しているわけがないだろう。俺様がイリーナの全くない頭脳の代わりをすることがあったとしてもだ!」
「ヒース兄さんぬか喜びの野への片道切符なら私でもプレゼントできますよ」
「嫌だなあイリーナさん、軽い冗談じゃないですカー」
「やっぱり似たようなのを私何処かで見たことある気がします」
「気のせいにしときなさいな、レジィナ。……ファリス神官って大変ねぇ」
フィリスとレジィナがわざとらしいため息をつくのを聞きつつ、一行は進んでいく。
今のところ、旅路は非常に気楽だった。
■レジィナはあんなにあっさり色々ばらさないかもしれないけど、まあ、それはそれとして生暖かい目で見守ったってや。どっちかというと自慢するのはアーチーだったかもなー。
というわけで、次回からTRPGで言うところのイベント突入です。
……って長い前置きだなおい!!!
■この話を友人に送ったとき、スイフリーのセリフを褒められました(笑)
時折ゴブリンや野犬などと遭遇することもあったが、そういうものは敵にならない。大体、足の速い者がさっさと片をつけるため、戦闘があった、という感覚さえない。
「それにしても、まともなレンジャーが居るとこんなに快適なものなのですねぇ」
グイズノーは相変わらず真意の分からない笑顔で言う。
「まだ不意打ちされてませんよ。相手が弱いとは言え」
「レンジャーなしで冒険してたのか」
呆れ顔でガルガドは隣をあるくグイズノーを見上げる。
「ええ、わたくしたちは、どちらかというと街中の冒険者なのですよ。陰謀を暴いたり、攻め込んでくるものを迎え撃ったり」
「それでどうやって名を馳せたのだ」
戦神の神官としては気になる。アノスといえば東の大国。しかもファリスが国教で、オーファンとは違い冒険者には色々厳しい国だ。街中だけで色々解決していても、冒険者が名を馳せることはできない。
「まあ、色々あったのですよ」
グイズノーの笑顔からは、真意は相変わらず汲み取れない。
「では、邪悪とは戦っていないんですか?」
イリーナは首をかしげる。彼女としては自分の武勲はワイバーンだのデュラハンだのバンパイアと戦って得たものであり、冒険とはそういうものである。グイズノーの話の聞き方によっては、戦わずして武勲を挙げたように思える。
「邪悪ですか……そうですねえ、ダークエルフは沢山戦いましたねぇ」
「ダークエルフ」
イリーナはうなずく。ダークエルフは問答無用に悪だ。
「他にはどうですか?」
イリーナの問いに、実は一番目を輝かせているのはバスだったりするが、今のところ誰もそれには気づかない。
「他ですか。派手なところでは……アンデットナイトとか」
「……」
「おや、どうしました、イリーナ。そんな押し黙って」
「なんでもありません」
「あと、何を倒しましたっけ? 派手なのがいいそうですが」
「オレ、魔神倒した!」
「そんなこともありましたねぇ」
「派手なのをピックアップして過去から並べると、精霊使いの敵である魔術師・某国の特殊部隊……はそう派手でもなかったか。ワイト・アンデットナイト・アザービースト・マリクドライ・ジャイアントオクトパス・駄目な魔術師、あともう数忘れたがダークエルフ。奴らは定期的に戦ってるからなあ。あとはザワンゼンとかか?」
スイフリーが指を折りながら淡々と魔物の名前を挙げていく。
「珍しいですね、スイフリーが武勲を自分から言うなんて」
「なんとなく、今言わないとずーっとそこのファリス神官が『何を倒したんですか?』とまとわり着いてきそうな気がしたからだ。そしてお前に任せるといらんことまで言いそうだからだ」
「そんなこと……ちょっとしかしません」
苦い顔のスイフリーに、イリーナが少し顔を赤らめる。グイズノーはたいして気にした様子もなくはははと笑う。
「何だか知らない名前が一杯です」
「とりあえず、強い悪魔だと思っとけ」
イリーナが眉間の辺りを抑えるのを見て、ヒースはため息混じりに答えておく。自分たちも派手な戦いをしていたつもりだったが、あちらさんも上位悪魔と何回も戦っている。有名な冒険者というのは、やはりウソではないらしい。
「いっちばん派手なのはレッサーじゃないの?」
「あれはとどめだけだから、数に入れていいのか微妙だろう」
レジィナの言葉に、スイフリーがため息をつく。
「レッサー、の後が気になりますな」
バスが目の輝きを倍にして言う。
「色々あるよな」
■中途半端だけど、ここまで。
この会話が終わったらそろそろイベント突入してみる。
出発は次の朝になった。
ヒースたちが荷馬であるジェイミーを連れてきたことに少々アノスの冒険者たちは面食らったようだったが、結局何も言わなかった。逆にヒースたちから言えば、あまりに身軽そうな彼らの姿に驚いたのだが。
「しかし」
グイズノーは全員を見て福々しい笑顔のまま、嬉しそうに続ける。
「14人も冒険者がこうやってそろうと、圧巻を通り越してちょっと呆れてしまいそうになりますねえ。他人から見れば、多分冒険者には見えませんよ」
「何に見えるというのだ」
「……難民?」
アーチボルトの質問にグイズノーは答えると、ふふ、と笑う。その笑いの意図が分からなくてマウナは眉を寄せたが、アノスの冒険者たちは皆何も言わなかった。慣れているのだろう。
「隊列とか、どうしますか?」
困惑しつつも、マウナはアーチボルトを見上げる。自分たちは実質彼らに雇われたのであり、彼らのリーダーがアーチボルトであるいじょう、彼に聞くのが良いのだろうと判断した。
「イリーナが客人である以上、中央にいてもらうしかない。前後を我々が固める。君たちはスイフリーとフィリスに雇われたのだから、彼らの護衛をしてもらおう。フィリスは戦闘能力がないし、スイフリーは体力がない」
戦闘能力がないわけじゃないんだ、とマウナは少し意外に思いながら離れた位置にいるスイフリーを見る。確かに、エルフだけあってあまり頑丈そうではない。
「えええ!? 私はそれじゃ邪悪と戦えないじゃないですか!」
聞いていたイリーナが驚愕の声をあげる。しかもかなり不満そうに。背中に背負ったグレートソードなど見ていると、まあ、戦いに重きをおいているのだろうとはすぐに分かったが。
「いや、君に傷つかれると困るのだ」
「邪悪には負けません!」
「この鉄の塊がどこをどうしたら怪我をするっていうん……のわぁ!」
言いかけたヒースにイリーナの裏拳が容赦なく飛んでいく。すんでのところで避けて、ヒースはしゃがみこむ。
「なんか、どこかで似たような光景を見たことある気がします」
「気のせいよ、レジィナ」
レジィナに、フィリスは冷静に答える。
「参考までに君たちは普段どうしていたか教えてくれたまえ」
アーチボルトの問いかけに、ガルガドが答える。
「イリーナの強さを盾に、罠感知のためにノリスがイリーナとともに正面に立つ。中央をマウナやヒース、それからエキューだな。しんがりはワシやバスだ」
「大体似たようなものだな」
「イリーナは正面に立たせることを薦めるぞ。あんたらから言えば客人で、怪我をされたら困るのは分かるが、イリーナに魔物と戦いもせずじっとしてろってのは、無理な話だ。いつか鬱憤たまって爆発して暴走する」
「……そうか」
アーチボルトが遠い目を一瞬してイリーナを見た。ヒースは思わず同情しそうになったが、事実しか述べてないあたりがそれを阻む。
「結局、大所帯といえど普通に考えたらいいんじゃないか? 戦闘能力があるものが盗賊とともに前に出る。今からは街道だから、レンジャーとして警戒できるものも重要だろう。後ろも戦えるものが居て、真ん中に魔法使いだろう。特にわたしはひ弱だから、中にしてもらえるとありがたい」
スイフリーが隣から声をかける。
「それしかないだろうな」
ヒースの同意に、他のものもうなずく。
結局全員で話し合い、先頭はイリーナがノリスとパラサとともに歩いている。
「どうしてかしら、あの三人が並んでると物凄く不安なのは」
「心配するなマウナ。全員不安だ」
マウナの呟きに、ヒースはひきつった笑みを浮かべつつ答える。
「すぐ後ろを歩いているエキューとクレアさんに期待だ」
■20回目にして、実はこのタイトルは名づけてもらいました。
海の近くのスタバで、Rちゃんにつけてもらったのでした。
「バブリーズさんの泡と、へっぽこのぽこで、泡ぽこ」
以降、それ以上いい感じのタイトルもないため、そのままです。
2007/08/16
そうこうしているうちに、そもそもの約束だった一週間の期限がやってきた。
ヒースたちから言えば、結局つかんだ事実は彼らが自分たちの前に現れる3日も前からファンの街に居たことと、ずっと同じ名前を名乗っていることくらいだった。バスの言葉を信じるならば、彼らが名乗っているのは有名人の名前だ。有名な分、実入りも大きいだろうが、リスクも大きい。従って、わざわざ有名人を騙るのはあまり得策といえない。もちろん、オーファンはアノスから随分離れているから、ばれる可能性は低いかもしれない。しかし、顔を知っている人間というのは、居ないとも限らない。つまり本物と考えてもいいだろう、というのが最近のヒースの感想である。考えるのが面倒くさくなった、とも言う。
アーチボルトたちから言えば、そもそもイリーナだけを護衛していく仕事である。彼女の仲間たちが一緒に行くことになったのはさして問題はない。彼らも実力があるのは調査したことでわかっているから、自分たちを付けねらうダークエルフなどが出てきても慌てることにはならないだろう。彼らを丸め込もうだとか言っていたのも、単なる暇つぶしのようなものであったし、実際信頼してくれるようになれば実入りはある。ファンの街での滞在を伸ばしたことは結果的には良かったといえるだろう。まあ、もっともマウナは半分以上こちらの金遣いに圧倒されているだけだといえるし、ノリスやイリーナは基本的にそう他人を疑わないだけだったのかもしれないが。ヒースやガルガド、エキューあたりは警戒心を持ったかもしれないが、そもそも自分たちは現在裏がとりにくい依頼人といえるわけで、そういう相手を疑えるような冒険者なら、一流といってもいいだろう。つまり、まあ、心配は要らない。最後のところで大雑把なのは自分たちの悪い癖かもしれないと思いつつもアーチボルトは
安心していた。
第三者的な立場でいえば、結局腹の探りあいが中途半端で終わったともいえるが、双方その辺りは気づかない振りをしている。
再び青い小鳩亭のVIPルームで彼らは顔を合わしている。
相変わらず、依頼人側にはイリーナが座り、請け負う冒険者側にはアーチボルトたちが座っている。総資産では絶対逆だ、とマウナはいつまでたっても慣れないふわふわのソファで落ち着かない気持ちで相手を見ていた。
「では、もう一度簡単に説明させていただきます」
クレアが地図を取り出しながらイリーナに説明を始める。
「申し訳ないのですが、アノスまでは徒歩移動となります。街道の最短ルートを行きますので、途中ファンドリア、ロマール、オランなどを経由することになります」
「ふぁんどりあ……」
イリーナの目に剣呑な光が浮かびかけたのに気づいてヒースはその後頭部を軽くはたいておいた。
「私もファンドリアには個人的に思うところは色々あるので、イリーナの気持ちは分かりますが、今回はアノスへの無事到着を考えて自重してください」
ぴしゃりとクレアに言われて、イリーナは罰の悪そうな顔をする。
「あと、少々こちらの状況の関係上、ロマール、それからオランとアノスの国境あたりでは警戒をおこたらないでくれ」
アーチボルトの声にヒースが眉を寄せて見せると、アーチボルトは苦笑した。
「少々、恨みを買っている。ロマールでは表立っては何もないだろうが、あのお方が見逃してくれるとは思えない。アノス方面ではいろいろあってダークエルフと全面対決中だ。我々と見れば襲い掛かってくる可能性はある」
「ロマールはよくわかりませんが、ダークエルフは邪悪です! 殲滅しましょう!」
「……ファリス神官として正しい台詞だ」
「はとこ、そこで嫌な顔しちゃだめにゅ」
「そうですよ、いくらお仲間といえど」
「仲間じゃない」
背後で始まったスイフリーとパラサ、グイズノーの話を咳払いでやめさせるとクレアは続けた。
「アノスでは準備が整うまで神殿付近の宿で宿泊していただきます。準備が整い次第法皇様との謁見になります。わたしたちは、イリーナのアノス出国までを護衛させていただきます」
「ということは、帰りは俺様たちだけでなんとかしろ、ってことか。片道4ヶ月かかる道を、片道だけ護衛っていうのは少々問題ないか?」
ヒースは不満な顔をクレアに向ける。
「何を言うんですかヒース兄さん。法皇様にお会いできるだけでも十分光栄じゃないですか! 帰りの4ヶ月は邪悪を退治しながら戻ってきましょう!」
「お前だけでやれ、そんなこと。大体、俺様たちの報酬は24万分の魔晶石、拘束期間ほぼ1年じゃ割に合わんぞ、今気づいたが」
「今気づいたの……?」
エキューが呆れた声を出す。
「それについては、言ったような気もしないでもないが、帰り道については考えがあるのだ。ファーズから1週間ほど行った田舎にわたしの城があるのだが、そこにテレポートのスクロールがある。それを使いたまえ」
「アーチーの城じゃないにゅ」
「みんなの城です」
後ろからの突込みを全て無視してアーチボルトは続ける。
「まあ、スクロールを売り払って自力で歩いてかえることについて我々は何も言わないが」
「でもそんな便利なものがあるなら、どうしてファンからファーズまで一気に飛ばないんですか?」
マウナの質問に、フィリスが答える。
「今、スクロールの手持ちが1本しかないのよ。イリーナをアノスから無事にオーファンに帰すために、帰り道に使ってもらおうと思ったわけ。当初はイリーナ一人を連れて行く予定だったから」
なるほど、とマウナは頷く。
「他に質問はあるかね? なければ明日にでも出発しよう。スイフリー、彼らの報酬を前払いしたまえ」
「なぜアーチーのに命令されているんだ?」
言いながらもスイフリーは約束どおりの魔晶石をごろごろとテーブルにばら撒いた。
「あ、質問なんだけど」
ノリスが手を挙げる。
「さっき言ってた、ロマールのあのお方って、誰? 僕が聞いてなかっただけ?」
スイフリーとアーチボルトが目を見合わせた。そして
「ああ、言ってなかったか。軍師だよ。ルキアルだ。ちょっかいかけてこない限り、こっちからは何もしないから安心していい」
聞きたくなかった。
それがヒースの正直な感想だった。
■この回は書く時間があまりとれず、19-1と19-2として2回に分けて送信した模様です。
ちょうどヒースの声が子安さんだと判明した頃で(5月17日でした)私の脳内では松本保典さんだったよー、とか書いてありました。
あと、アーチーは大塚さんだそうです。
過去は過去として、まあ、うん、今もそうかも。
明日はお休みします。
ちょっと出かけるので。
2007/08/14