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暫くしてイリーナが騒々しくもやってくる。いつものテーブルに近づき、何事かをマウナに言われ、マウナと二人で連れ立ってフィリスの元にやってきた。
「フィリスさん、今日はお土産をありがとうございました!」
「本当にありがとうございます。あのお店、憧れだったんですよー!」
イリーナもマウナも目を輝かせてフィリスに頭を下げる。
「いいのよぉ、女の子ですもん。皆ケーキが好きで当然よー。また一緒に行きましょうねー」
フィリスは組んだ手に顎を乗せて、にっこりと微笑んでみせる。年長者の余裕の笑み。頼れるお姉さまといった風情だ。
「ステキです、ステキすぎますフィリスお姉さま!」
「いいのよぉ、気にしないでねぇ?」
隣で引きつって笑うレジィナ、向かいで複雑な顔をするクレア。対して、全く気に留めず食事を続ける男性陣。
「なんなら、明日女の子だけでケーキ屋さんをめぐってみる?」
と、フィリスが提案する。マウナとイリーナの目が輝いた。しかし、二人とも何かに思い当たったように困った顔をする。
「でも私、ここでお仕事が」
「私も神殿に……」
「マウナは一日お休みを貰うくらいできるでしょう? イリーナもね。イリーナはもちろんのこと、もしかしたらマウナも、あたしたちとアノスまで同行してもらうことになるでしょう? それまでにお互いのことを知っておくのは重要だと思うの」
「そ、そうですね!」
「フィリスお姉さまの言うとおりです!」
「じゃあ、明日は皆でケーキ屋さんをめぐりましょう? レジィナもクレアも来るでしょ?」
「……うん、行くよ」
「……はい」
レジィナもクレアも微妙に返事に歯切れがなかったが、ともかくうなずいた。それを見届けて、マウナとイリーナはいつもの位置に戻る。
「ざっとこんなもんでどう?」
ふふん、とフィリスは笑って全員を見る。
「流石だ、フィリス」
「演技力の勝利ですね」
「姉ちゃん、それをどうしてアーチーに使えないにゅ」
「あ、貴様私をアーチーと呼んだな!」
「今更何にゅ?」
「彼は照れているんですよ、パラサ」
「誰が何に照れたというのだ!」
「フォークを振り回すな。それからそのパスタはわたしのものだ」
いつもの食事風景に戻ったことで、クレアは少しため息をついてからスイフリーを見た。
「あの、私はいつノリスさんをだますようなことになったのですか?」
「心配しなくてもだましては居ない」
「気になります」
スイフリーは抱え込んでいたパスタ皿から顔を離して暫くクレアを見て何事か考えているようだった。
「だからそれはつまり……」
そこまで言ったところで眉をよせ
「なぜわたしが説明せにゃならんのだ。はとこの子にでも聞け」
指名を受けたパラサが顔を上げる。頬までソースがついていたので、思わずクレアはそれをナプキンでぬぐってあげた。
「うん、つまりそんな感じにゅ」
「え?」
「ああ、なるほど」
隣で見ていたアーチボルトが納得した声をあげた。他の全員も大きくうなずいている。分かっていないのは自分だけらしい。
「え?」
「どこでも無意識に親切をばら撒きすぎだという話だ」
スイフリーの苦い顔。
「はとこには死んでもできない芸当にゅ」
にま、と笑うパラサ。すかさずスイフリーの右ストレートがパラサの顔面めがけて飛んでいったが、そもそもそういうものは彼には当たらない。軽く避けられ、スイフリーは舌打ちすると、パラサを殴るために浮かせた腰を椅子に戻す。
「まあ、とりあえずあちらさんのペースに乗った振りをしつつ、丸め込んでいくという作戦でいいんじゃないか」
「それがいいだろうな。自分たちのペースだと思っていたらこちらの思う壺、いーい作戦じゃないか」
アーチボルトが満足そうににやりと口を吊り上げる。
そんな二人の様子を見て、どうしてもっと素直に普通にできないんだろうか、と思っている人間が二人ほど居たが、その声は発せられることなくため息へとかわっていった。
■次回から旅立ちます!
さようならオーファン!
2007/08/13
夕方に近い時刻になって、冒険者たちは帰って来た。そのままもう定位置になりかけているテーブルについて、マウナから手渡されたメニューを見、今日もまた適当に上から順番に何かを頼んでいたようだった。
「で、どうだった?」
「普通の観光だよ。お城みて、マイリー神殿みて、賢者の学院みて、ファリス神殿見て、ラーダ神殿見て、フランツさんのお店とか有名スポット見て、って感じ」
ノリスはいつものセットを注文してから答える。
「マウナさん、コレお土産です」
エキューは持っていた小さな紙の箱をマウナに差し出す。
「何コレ、すっごく有名なお店のケーキじゃない!」
「おいしい店を紹介しろって言われてね、どうせなら普段入れないような高級なお店を言ってみたらぽんと入って、ここで頼むみたいに適当に料理注文して、皆でばーっと食べたんだよ」
「え、てことは二人ともおごってもらったの!?」
「そだよ」
ノリスの説明とあまりにもあっけらかんとした肯定に、マウナはめまいを感じたように少しよろけて見せた。エキューがそれをすかさず支える。
「それで、仕事でついてこれないマウナがかわいそうだねーって言ったら、じゃあ何かテイクアウトしなさいな、ってフィリスさんが。それでケーキをエキューと二人で選んだんだよー。イリーナの分も入ってるから、あとで二人で食べればいいよ」
「ステキ! ステキよ! フィリスお姉さま! 悪い人じゃないって言った通りじゃない!」
「あ、くそう、また篭絡されたぞ、丸め込まれたぞ、赤貧ハーフエルフが!」
「自分の分がないのが悔しいんだねヒース」
エキューが冷たい視線をヒースに向ける。
「まあ、それはともかくだ。ノリス、バスとともにギルドへ行って来い。何調べるかはバスに道々聞け」
「えー、ご飯食べてない」
「食ってからでいい」
「余裕だ、余裕すぎだぞ、簡単に丸め込める」
スイフリーがマウナの様子を見ていて、口を吊り上げる。クレアの抗議の冷たい目線も気にしていない。
「あたしは別に丸め込むつもりとかなかったんだけどなあ」
フィリスが苦笑するが、それもスイフリーは気にしない。
「それを言うなら、ノリスだって全くその気がなかったクレアが丸め込んだんだぞ」
「え? 私だったんですか?」
「自覚なかったのか」
そうは言いながらも、さして意外そうな顔もせずスイフリーは言う。
「マウナが居ればエキューはまあほぼ問題なしだ。イリーナを丸め込むのも簡単だろう。バスはそもそもイリーナたちの冒険譚を作ることに興味があるんだからさして問題なし。厄介なのはヒースとガルガドだな」
「そもそも、何でそんなに丸め込もうとしてるの? お金で雇うんじゃなかったの?」
顔を寄せ合って策略をめぐらせるアーチボルトとスイフリーに、レジィナは不思議そうな目を向ける。
「そのほうが面白いだろうが!」
と答えたのはアーチボルト。
「金だけならいざという時裏切るかもしれんが、信頼関係は裏切らない」
とはスイフリー。
「丸め込みと信頼は別物にゅ」
「何を言うかはとこの子よ。ノリスはクレアに、マウナはフィリスにそれぞれ憧れを抱いているのだぞ。その相手の言うことなら聞くに決まっている」
「そうかなあ」
レジィナが首をかしげる。
「はとこの子を見ていれば分かるだろう」
「ああ」
「納得されたにゅ!」
がーん、という顔をしつつも、それほどショックは受けてない軽い調子でパラサは言うと笑った。
「イリーナは簡単なの?」
「邪悪を目の前に背を向けるようなファリス神官は居ない。うまくけしかければいいだけだ」
「邪悪です」
クレアの剣呑な目がスイフリーに向けられる。流石にスイフリーは首を縮めた。
「ま、まあ、ともかくだ。その内容が憧れであれ信頼であれ、仲間が増えるのは心強いことではないか」
「んー、まあ、そうだけど。何かだましてるみたいで嫌だなあ」
レジィナの言葉に、クレアが大きくうなずく。
「だましてるわけじゃないわよ。私がケーキをおごったのは本当のことだし、それで慕ってくれただけの話でしょ。クレアがノリスに何をしたのかは知らないけど」
「……何も、してないはずなんですけど。本当に私がノリスさんを?」
「そうだ」
「そうにゅ」
クレアは眉を寄せて暫く首を傾げて考える。
心当たりは全くなかった。
「まあ、心当たりがなくても、クレアさんが悪いことをしたわけがないですよ。気にすることはないのです。それより料理がきましたよ」
同じ神官であるはずのグイズノーから、何の憂いもない言葉が響いた。
■そろそろまた脳内萌え分が減ってきました。
どこかにかーいらしいクレアさんとか凛々しいクレアさんとかいないでしょうか。
……誰かかいてくれませんかね。絵板にでも。
2007/08/10
次の日。
裏を取ろうにもアノスが遠すぎるのが問題だ、とヒースは思いながら本をめくる。
今日はアノスの冒険者たちは全員連れ立って街の観光に出て行ってしまった。今日の案内人はそういうわけでエキューとノリスが二人で着いていった。相手は7人だが、全員が本当におのぼりさん状態で歩くだけという話だ。
街をよく徘徊しているがいかんせんおつむの回転がよろしくないノリスと、常識人ではあるが基本的部分で冷めたエキューの二人でも何とかなるだろう。
しかし、これ以上打つ手はないのだろうか。
街の中の人間であれば、簡単に裏は取れる。盗賊ギルドが口を濁す場合もあるが、そういうのも大体は相手も保護を受けているからであって、ギルドに不利益を与えなければ裏は何とか取れるものだ。
しかしいかんせん、今回は相手が遠いところから来ている分厄介だ。
「どうしたのかね、浮かない顔をして」
遂にはハーフェンに声をかけられる。
「別に? 俺様いつも絶好調だぞ」
「それならいいんだけどね。さっきから本のページがおんなじだよ」
「……なあ、ハーフェン」
「なんだい」
「アノスの魔術師ギルドと連絡って簡単に取れたりしないのか?」
「あんまり横連帯ないからねえ。そんなに簡単には取れないよ。アノスは遠いしね。何かアノスに関連した困ったことがあるのかい?」
「イリーナがいつかアノスへ巡礼に行きたいなんて抜かしやがってくれましたので、現在情報がわかったらいいんじゃないかなーとか思わないでもないわけだ」
「まあ、彼女はファリス神官だし、巡礼したい気持ちは分からないでもないなあ。んー、アノスねえ。……噂はこの前聞いたかな」
「どんな!?」
思わず背筋が伸びる。
「もともと、アノスはファリス信仰の国だしね、魔術師ギルドはあんまり権限ないんだけど、結構前に魔術師がらみの嫌な事件があって今はますます肩身が狭いらしいよ」
「何があったんだ?」
「さあ?」
「あーもうつかえねえなあハーフェン!」
「ごめんごめん。ヒースはいつも元気がいいなあ」
ハーフェンがニコニコ笑っているのを見ていると、気恥ずかしくなってくる。ああ、もう、と内心毒づいたところで急にひらめいたものがあった。
「ハーフェン俺様ちょっと出てくる。今日は戻らん」
「そうかいそうかい。気をつけていってくるんだよ」
学院を出て、いつもバスが歌っている広場へ向かう。相変わらず人だかりができていて、結構な額を稼いでいる。
まだまだ歌は続くらしいから、手だけ振って青い小鳩亭へ向かう。
「いらっしゃいませー……ってヒースか」
「最後まで気合入れて仕事しろ赤貧ハーフエルフ。ところでアノスの冒険者たちは?」
「全員観光よ。わたしも何かしたいわ」
「俺様今からちょっくら調べごとしに行くんだが、お前も参加しないか?」
「何を調べるの?」
「入国記録だ。アノスからきたって言うんだから南のほうの門だとは思うんだが、他にも北とかあるからな。手分けしたほうが早い」
「入国記録?」
「奴らがいつ入ったのか。ちゃんと一致する名前があるか。だな」
「今名乗ってるのが偽名だとして、入国のときから偽名だったら分からないわよ」
「だとしても、いつ入国したか分かる。俺様たちのところに一直線に来たかどうかだな。もし、どこにも名前がなければ、非合法な入国してきたことになるだろう。そうすれば何者かって締め上げられるぞ」
「……24万もぽんと出してくれて、毎日物凄い量のお金をだしてくれる人だったら悪人でもいい気がする」
「落ち着けマウナ。死んだら金はもう貯められないんだぞ」
「うるさいわよ分かってるわよそんなこと」
ぱこん、とヒースの後頭部でお盆がいい音を立てた。
小鳩亭を出たところで、こちらに向かってきていたバスと合流することができた。合流はしたが、すぐに手分けすることになったからあまり意味はなかったかもしれないが、全体的な労力は少し減ったともいえる。お互い主要な門の入国記録を調べて落ち合うことにして分かれた。
結果、分かったことといえば彼らは光と闇の街道を通ってファンドリア方面からやってきていた。名前は現在名乗っているものと一致している。堂々と本名を名乗っているのか、常日頃偽名生活なのかはさておき、アノスからは最短距離の街道を来たのだろう。ファンドリアは暗黒的な国だが、通過するだけならできる国だ。永住や定住には向かないが。ふれこみが正しければ、彼らは腕に覚えもあるだろうし、あの金のつかいっぷりから、ファンドリア国内では安全を金で買っていた可能性もある。ファリス神官であるクレアをどう納得させたのかはかなり謎だが、謎だらけである現在、もうその程度の謎は瑣末な問題な気がしてきた。
ただ、問題は、彼らは自分たちの前に姿を現す3日も前からオーファンに来ていた。コレはどういう意味なのだろう。
「こりゃまた盗賊ギルドかな。あんまり情報くれなさそうだが」
「そうでしょうな」
「というわけだからノリスが帰ってき次第、バスとノリスで行ってきてくれ」
■ハーフェン導師が大好きだ。でも口調がまったくわからん(笑)
すげーうそくさくなった。反省。
2007/08/08
「と、まあ、そういう感じでね、ファリス神殿に行ったんだよ。着いてからはクレアさんは熱心にお祈りしてたし、パラサさんとスイフリーさんは座って待ってたよ」
「私もクレアさんと一緒にお祈りしました! 熱心なファリス神官さんです。疑う必要はないですよ!」
すっかりクレアを信じるノリスとイリーナに、ヒースは冷めた目を見せる。
「丸め込まれやがりましたな、ガキんちょが。……クレアさんが熱心で疑う必要のないファリス神官っていうのは分かったとしてだ。クレアさんがいい神官さんだからと言って、一緒に居る冒険者がいい冒険者とは限らないぞ? 現にエルフは法皇に一つ貸し、とかいったわけだろ?」
「それは問題発言です」
イリーナが向こうに座るスイフリーに剣呑なまなざしを向ける。
「もしかしたら、クレアさんを全員でだましているかもしれない」
「そう考えると、僕らの報酬24万分の魔晶石もウソだと言うことになるよ」
エキューが言うと、ヒースは暫く考えて
「一緒に行く振りをして、途中で追いはぐか、それは」
「邪悪です」
声とともにイリーナの裏拳がヒースの胸を打つ。ヒースは胸の辺りを押さえて暫くうめいていたが、それでも言葉を続ける。
「本当にクレアさんがだまされていた場合、それは追い剥ぎではなく、だまされている人を救うということになりますまいかね? 俺様そう思うわけ。そして法皇にたてついたエルフを成敗できるぞどーだイリーナ」
「……」
考え込むイリーナにエキューが冷たい瞳を向ける。
「男とは言えエルフさんを疑うなんてどうかしてるよ」
「エルフなら全て善というお前さんもどうかしとるぞ」
ガルガドの冷静な声。エキューはふ、と遠い目をして返事はしなかった。
一方、バブリーズの食卓でも話し合いは始まっていた。
「で、どうだった、首尾は」
アーチボルトは全員の顔を見る。
「そういうアーチーはどうだったのだ」
「変わったことは無しだ」
「そうでもないわよ、アレクラスト周遊記とか面白かったじゃない」
フィリスの前には相変わらずの酒瓶の数々が既に転がっている。そのくせ顔色がまったく変わらないのだからたいしたものだ。
「つまり、目新しいことはナシ、と」
「ヒースに昼飯をおごったくらいだな」
「そっちも赤字か」
スイフリーが苦い顔をする。
「そっちも、とは?」
グイズノーが首をかしげる。珍しいことを言うものだ、というくらいの反応かもしれない。
「人情で人を助けるとたいてい赤字だという話だ。まったく迷惑な」
舌打ちせんばかりの表情でスイフリーが言うと、クレアが無言でそのスイフリーを見つめる。無言の抗議だ。少々目が冷たい。スイフリーは頬杖をついてふい、と横を向く。
「イイ一日だったにゅ。ね? 姉ちゃん」
「概ねは」
クレアは暫く抗議のまなざしをスイフリーに向けていたが、やがて諦めたように冷たい目をやめる。
「イリーナの神殿での評価なども分かりましたし」
「明日は街で聞き込みにゅ。オレ明日も大活躍!」
「期待しています、パラサさん」
「まかせときー!」
パラサはVサインをクレアに向ける。クレアは力なく微笑んだ。
「よろしくお願いしますね」
「まあ、それでだ」
アーチボルトが再び全員を見る。
「あちらさんは多分我々を案内という名で監視を続けるつもりだろう。明日以降も乗っていくか? まだ契約関係ではない以上、こちらが断れば彼らがついてくる理由はなくなるわけだが」
「のってやっても問題はないだろう。不利益はない」
「だったら、案内の人間を変えましょうよ。こちらが指定した人がついてきてくれるみたいですし。……今日、わたくしはエキュー君と行動したわけですが、彼はまだまだ子どもなので色々と不都合なのです」
「不都合などこへ行こうとしたのよ」
レジィナが半眼で睨むと、グイズノーは素早くあさっての方向を見る。
「それにはわたしも賛成だ。ノリスという少年は既に丸め込んだ」
「いつの間に」
クレアが呟く。スイフリーは聞こえない振りをした。
「そうねー。もう賢者の学院も見なくていいし。私もヒース以外がいいかな? アーチーと二人でもいいけど」
「冗談じゃない」
「じゃ、ま、のっていくってことで」
パラサはいいながら、漸く運ばれてきた料理に目を向ける。
「食べるにゅ」
■「ノリス」とパソで打つときに二割くらいの確率で「ノシル」と打ってしまいます。
いい加減、学習したいです。未だに直りません。
2007/08/07
ロープの端を持って、穴の中に降りる。子どもには確かに上れないだろうという深さだったが、盗賊であるノリスには問題が無い。すぐに穴の底に下りる事が出来た。穴の中はかなり狭くて、三人もいるとかなり息苦しい。
「先にでてるにゅ」
パラサはそういうと、するするとロープを伝って穴から出て行った。
「多分、後ちょっとで助かるからね」
ノリスはとりあえず子どもに言う。子どもはこくんと頷いた。
「おい」
穴の上からスイフリーの声がして、ノリスは顔をそちらに向ける。穴の底にいるのに、聞こえる声が全く反響してないところから見て、多分彼はウインドボイスで話しているのだろう。
「ロープはしっかり持ったか? 子どもは拾ったか?」
「大丈夫だよー。ロープは体に巻きつけたし、子どもはしっかりおんぶしてくよー」
「よろしい。では引っ張ることにするから、そちらも登ってくれ」
スイフリーの顔が引っ込むと、とたんにロープが引っ張られている感覚がした。ぐずぐずはしていられない。子どもを背負って、しっかりと捕まっているように言ってから壁を登り始める。
危なげなく穴の壁をのぼって外に出ると、少し太陽が眩しかった。
ロープの端は、クレアとスイフリー、パラサ、それから見ず知らずの男が3人ばかり握っていた。ノリスが出てくるのを見ると、スイフリーはさっさとロープから手を離し、見ず知らずの男たちに何かを手渡していた。
「怪我はありませんか?」
クレアが近寄ってきて、ノリスと子どもに尋ねる。
「ボクは無いけど、子どもは怪我してるよ」
「見せてください」
クレアはすぐに子どもの側にしゃがんで、それから治癒の魔法を使う。それから子どもの頭を何度かなでて、「良く頑張りました」というような事を言って笑った。少し冷たそうな人だと思っていたけど、笑うと結構優しそうだと思う。
同じファリス神官でも、イリーナとは随分違うな、なんて思った。
「あのね、お姉ちゃん。ありがとう」
子どもがクレアに言うと、クレアは笑って「いいんですよ」とだけ答える。
「神官様に、魔法を使ってもらうのって、お金が要るんでしょう? ボク、お金持っていないの」
「心配しなくて良いのですよ。私が自分の信仰に従ってした行動ですから。どうしても貴方がそれでは納得できないというのであれば、ファリス神殿に行ってお祈りをしてくださいね」
クレアは言うと立ち上がる。そしてもう一度子どもの頭を撫でてから、こちらを振り返った。
「お待たせしました」
「姉ちゃんは優しいにゅ」
「では行こう。時間をロスした」
「……はとこ、邪悪」
「失礼な。無報酬どころか出費しつつ作戦を立てただろうが。ああ、働いたなぁ」
スイフリーはわざとらしくため息をついてから首をこきりと鳴らした。
「では、ノリスさんお願いしますね」
クレアの言葉で、全員また歩き出す。
「ねえ」
ノリスはパラサに声をかける。
「にゅ?」
「クレアさんって、優しいね」
「あったりまえにゅ!」
にぱっと笑って返事をした後、パラサははっとしたような顔をしてから、鋭い目をノリスに向けた。
「姉ちゃんはわたさないにゅ」
「狙ってないよ!」
一瞬殺気のようなものを感じて、ノリスは首がちぎれるんじゃないだろうかというくらいの勢いで首を横に振った。
「じゃ、いい」
パラサはぴょんぴょん飛び跳ねるように歩いて、少し前を背をピンと張って歩くクレアに追いつく。
「あ、ねえ」
気になって、今度は少し後ろを歩くスイフリーに声をかける。
「なんだ」
「さっき、男の人たちに渡してたの、報酬?」
「そうだ」
「僕らを雇うことになったら、また出費するわけだよね? イリーナの護衛って、そんなに報酬でてるの?」
「クレアには神殿から出てるだろうが、額はしらん。今回は無報酬だ」
「え?」
絶句する。
「魔晶石を24万ガメル分も、ぽんと出しておいて、無報酬?」
「今はな。……帰ったらぜったい収支は合わせてみせる。すくなくとも、現在既に法皇に一個貸しだ。どうとでもできる」
小声で言ったあと、にやりと笑ったスイフリーを見て、ノリスはこのエルフだけは敵にまわすまい、と寒気を感じながらおもった。
■先週は体調が思わしくなかったので、毎日更新なんて言いつつあまりアップできませんでした。
今週は、元気だといいなあ。
あいかわらず、戦闘のためのダイスは振れてません。
敏捷度27とか、楽しそうだから振ってみたいのに。
2007/08/06