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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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裏 / 表

広間に戻ると、ソファに居たはずのエルフの姿は無くなっていた。
彼女は一度大きくため息をつく。それが落胆のため息なのか、安心したため息なのか、彼女自身にも良く分からなかった。
ただ、「話してみればよい」といわれたものの、果たして、エルフがここに居たからと言って何か話を出来ただろうか、と自問自答し、すぐに「否」だと答えを出す。
きっと、何も話せやしなかっただろう。
彼女はもう一度ため息をつくと、テーブルの上に置き去りにしたままだった、グラスランナーからの土産を整理し始める。様々な土地の土産物。見たことの無かった色使いの布や、どう見てもガラクタにしか思えないもの、綺麗な宝石の嵌った指輪。その価値や大きさは様々で、グラスランナーがこれらの物を選んだ基準が分からない。ただ、どれもその土地でしか手に入らないものばかりで、その土地土地の空気を閉じ込めたものであることが分かる。きっと、そういう「ここでは手に入らないもの」を基準に選んでいるのだろう。
彼女はそう結論付けると、彼女は椅子に腰掛ける。
離れた陽だまりに、ソファ。
この距離を、果たして縮めてよいものか、それとも何もしないほうがいいのか。
彼女は無言でソファを見つめながら暫らく考え、そして考えるのをやめることにする。
どれだけ自分が望んでも、相手も望まなければ距離は縮まることはない。
そして、エルフがそれを望まないのを、彼女はもう知っていた。
自覚したのは最近なのに、それよりももっと前から拒絶されている。


なんだ。


彼女はため息をつく。
今度はそれが、落胆のため息であることを自覚した。
なんとなく鼻の奥がつんとする。
目がじんわりとする。
泣きそうだ、と自覚はしたものの、結局涙はこぼれなかった。


その程度のことなのかもしれない。


もしくは、自覚したのがこの瞬間なだけで、何処かではもうずっと前に理解できていて、今更の話なのかもしれない。
結局のところ、自分の気持ちが分からない。
気持ちは堂々巡りして、同じところで足踏みをしただけなのだろう。
彼女はまた、深くため息をつく。


「あまりため息はつかないほうがいいですよ。1回ため息をつくと、1つ幸せが逃げるそうですから」


唐突に聞こえた言葉に、彼女は顔を上げる。
「随分深くお悩みですかね? わたくしが入ってきたのにも気付いてなかったでしょう?」
別の神を信仰する神官がドアの近くから彼女へ声をかける。ちょうど部屋に入ったところなのだろう。彼はドアをぱたんと閉じた。
「悩み事なら、伺いますよ? まあ、聞くだけですけど。結構人に話すと楽になるものですし、話しながら自分の中で整理もつきますしね。……ま、人の悩みを聞くのも我々神官の仕事ですから」
貴女のほうがよくお分かりでしょうけど、と彼は続けると、ふふ、と笑う。その笑顔は少し自嘲的にも見えた。
「悩み。……悩んでいるように見えるのでしょうか?」
「ええ、かなり。ちがったらごめんなさいね」
たいして悪びれた様子もなく、彼は肩をすくめてみせた。
彼女は暫らく彼の顔を見て、そして観念したかのように話し出す。
「他人を好きになるということは、大変なことなんですね」
「そうですね、大変です」
彼は軽い声で言う。
「こちらがどれだけ好きでも、報われるとは限りませんし、まあ、大体わたくしの場合報われないのですけど、だからといってすぐに気持ちがおさまるわけでもなく。でも、そういうものですよ。……恋っていいでしょう?」
「それがいまいちよく分からなくて。多分好きなのだろうとは思いますけど、拒絶されたらそれはそれで仕方ないかと。そしてその程度に思えるということは、実のところはそう好きでもないではないかと考えたり。いえ、拒絶はもうされているようなもので、それでも好きだと思うのは迷惑なのではないだろうかと……」
「想う間は、相手は関係ないでしょう。そこは自分の心に忠実なほうがいいですよ。その後の実行に関しては、相手の意思も重要ですけどね」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。誰かを好きである、というのは自由であるべきですし、尊い感情ですよ。ですから、貴女がスイフリーのことを好きだという気持ちは、貴女自身が大切にすべき感情です。だからといって、思いつめて突っ走って、押し倒したりしたらダメですよ」
ふふふ、と彼は笑ってみせる。
彼女は呆然と彼の顔を見た。
「私、スイフリーさんだなんて言ってないですよ?」
押し倒す、という不名誉な言葉も、それ以上の驚きによって彼女の中には浸透しなかった。ただただ、驚いて彼を見つめる。
「まあ、分かりやすいですし」
彼はそれだけ答えただけだった。
「分かりやすいですか?」
「ええ、とても。貴女が自覚しているかどうか別として、貴女はいつだってスイフリーばかり見てますからね。わたくしやパラサだって、時にはアーチーだって相当悪いことを言ってますが、貴女が反応するのはスイフリーの言葉だけです」
「……」


彼は彼女を見る。
彼女は「拒絶されている」と評していたが、そんなことはない。
エルフはアレで彼女をきちんと評価しているし、自身が殺されそうになったことも既に昇華されてしまっている。
もし、彼女が思いを告げていたとして、それを拒絶した理由も彼には分かる。
エルフの、彼女に対する非常に密やかな想いを聞いてしまったからだ。
エルフの中には明確な線引きがあって、そのラインを越えるつもりがないだけなのだ。
そう、
例えどれだけ彼女のことを好きだとしても、
好きだからこそ、
エルフはそのラインを越えるつもりはない。
単純に、そのことを告げただけだろうと思う。
説明を省いて、拒絶の言葉だけを。


「わたくしはね、そりゃもう報われない恋ばかりしてますけどね、それでも誰かのことを好きでいる時はとても幸せですよ。無責任なようですけど、これだけ世の中には人間が生きているんです、報われる人ばかりじゃありません。だからといって、人を愛さなくなるのは愚かでしょう? 別れを告げられたり拒絶されたときは、そりゃ落ち込みますし、世の中の全てを恨みたくもなりますけどね」
「私が、スイフリーさんを好きなのは、彼にとって迷惑ではないでしょうか?」
「さあ? それはスイフリーに聞かないと分からないですよ」
「人とエルフでは幸せになれないから、首を縦に振らない、とおっしゃってました」
「迷惑だとは言ってないみたいですよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ。それに、スイフリーが言っているのは一般論でしょう? 貴女とスイフリーがどうなるかなんて、誰にも分からないです。乗り越える知恵だって、無いとも限らない。それに……」
彼は暫らくこの言葉を言って良いのかどうか考え、やはり口にすることにする。
「幸せになれないからダメだ、というのは、勿論彼自身が幸せになりたいからだ、というのもあるでしょうけど、同時に貴女を不幸にしたくない、という意思表示にも取れますよね?」
彼女はその言葉を聞くと、陽だまりにあるソファに目を向ける。
誰も座っていないのに、なぜだかとても愛しく思えた。
「どうでしょうか? この国でエルフの方を見る機会がほとんどなかったのでよく分からないのですが……本当に幸せになれないんでしょうか?」
「幸せが何かによるんじゃないですかね。確かに困難は避けられないと思います。異種族であることによる考え方の違いだとか、生命の長さであるとか。……でも、男女である以上、それ以前に他人である以上、困難がないわけないですしね。それを乗り越えられるだけのことがあれば、大体どうにかなるもんですよ」
「例えば?」
「一緒に居るだけでもいい、という考え方であるとか。ただ、人は欲深ですからね、一つ望みが叶うとまた一つ望みを持つ。最初は一緒に居るだけでよくても、そのうち触れたくなるだろうし、子どもだってほしくなるでしょう。多分、人間のその変化の早さにエルフはついていけなくなり、結果不幸になることがあるんでしょう。ただね、その変化の早さこそ人間の強みであり、また魅力だとわたくしは思います。エルフの永遠にあこがれないわけでもないですけどね」
彼女は彼を見た。
その真っ直ぐな瞳を彼は見つめ返す。
泣きたいのかもしれないな、
と思った。
「私はどうすればいいのでしょう?」
「それは貴女の心次第でしょう。ただ、もう貴女の中で答えは決まっているように思います。でしたら、全てを感情に任せてしまってもいいんじゃないですかね」
「突っ走ってはいけないんじゃなかったですか?」
彼女は少し困ったような顔をして尋ねる。
彼は笑って見せた。
「いいんですよ、時には勢いだって必要です。アレでなかなか情に厚いですから、ふらっとすることもあるかもしれませんよ」
「騙すみたいで嫌な感じです」
「恋愛はね、騙し騙されですから。騙したほうが勝ちなんです。そして、惚れさせたほうが勝ちですよ」
「……」
「それじゃなくても、女性のほうが偉いんですから、貴女は堂々と、スイフリーに愛をささやけばいいんです。フィリスみたいに」
「……そうですか?」
「そうですよ。女性はね、生きてるだけで偉いんですから」

 



■遅くなりましたが、とりあえずラブシックです。
……先週、妥協してアップしないでよかったです。ちゃんとグイズノーが言って欲しかったセリフを言ってくれました。先週のでは言わなかったんですよー……。
まあ、個人的な満足だけで、多分どっちをアップしてもそんなに変わらなかったのかもしれませんけどね。
ボツ文?
あー、データはありますけど、非公開。


……そろそろタイトルに付ける単語がなくなってきました。
今日のはこじつけとしても酷いな……(←タイトル付けるの苦手)


粗製乱造ですみません。
他所様のサイト様を見ていると本当にそう思います……。更新速度とか、内容とか……。

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