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泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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愛 / 憎

探しているときに限って、大体その相手に会えないもので。
グラスランナーはもう随分長い間、あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している。大広間には居なかったし、部屋ももぬけの殻だった。書庫と、執務室も見てみたけど、やっぱり居ない。
そうなると、もう外くらいしか探すところはない。
グラスランナーは城をでて、庭を探索し始める。
庭は広いが、大体相手のいそうなところはわかる。白粉だのつけ耳だの、色々からかっているものの、なんだかんだで相手はエルフであり、樹のあるところがすきなのだ。自分が、街が好きだが草原も心惹かれるのと同じだろうと思う。
と、なると探さなければいけない場所は数箇所しかない。グラスランナーの足は自然とはやくなる。仕舞いには走り出したが、足音はしなかった。


件のエルフは、グラスランナーの予想通り、城の裏手にある大木の根本で横になっていた。
庭園の美しさも分からないではないが、人の手が入りすぎていて、木々も土もあるのに精霊たちに元気がないのが好きになれない。その点、この樹はのびのびしていて良い。精霊たちが活発に動き回っているのを感じながら、うとうとする時間が好きだ。街も嫌いではないし、人間を観察するのも面白いが、やはり自然の中にいると落ち着く。色々言われても結局自分はエルフであるし、どれだけ人間世界に慣れても、この感情は失われないだろうと思う。
そのまま意識を手放すことにする。
暫らく眠ろう。
シルフのささやきを聞きながら、ぼんやりと意識がたゆたうのを感じているのは、悪くない。


エルフを発見した。
予想通り、大きな樹の下で、すーすーと寝息を立てている。
それを見て、グラスランナーはにやりと笑う。いたずら心に火がついた。
それでなくても足音がしない歩き方をしているのに、意識的に足音を消して歩く。彼が歩いているなんて、見ていなければ分からないだろう。
エルフの真横にたどりつく。
あまりの熟睡っぷりに、このエルフはダークエルフに狙われているのを忘れたんではなかろうか、と思う。
グラスランナーはおもむろにジャンプすると、

エルフの胸めがけてダイブした。


「……~~~っ!?」
衝撃に意識は無理やり覚醒状態になった。
痛み。
驚愕。
混乱。
その中でエルフはそれでも懸命に手足を動かし、胸の辺りにいる何かを捕まえる。
目をあけて、胸の上に馬乗りになっているグラスランナーを発見する。
ダークエルフでなくてよかった、という安堵が一瞬脳内をよぎり、その後グラスランナーに対する怒りがこみ上げてきた。
しかし、すぐには動けない。
息が詰まり、呼吸がきちんとできない。一刻も早くグラスランナーを胸の上から排除したいが、「どうすれば」それが出来るのか、考えられない状況に陥っていた。
ただ咳き込み、その間にひゅーひゅーと嫌な音がする浅い呼吸をくり返し、グラスランナーを睨みつけるしかない。
「……はとこ?」
流石にやりすぎたかとグラスランナーは恐る恐るエルフに声をかける。ジェスチャーが「どけ」と言っているようだったから、とりあえずグラスランナーはエルフの隣に座った。エルフはそのままごろりと寝返りを打ち、グラスランナーに背を向けた状況で、体を曲げて暫らく咳き込み続けた。あまりに長い時間そうしているので、このまま死ぬのではなかろうか、とグラスランナーは流石に緊張する。
やがて呼吸が落ち着くと、エルフはのそりと体を起こし、傍らのグラスランナーに叫んだ。
「殺す気か! はとこの子の子の子の玄孫!」
エルフのグラスランナーに対する怒りの深さは、どれだけ「関係」が遠ざけられるかによって類推することが出来る。今日はその記録を更新した。「子の子の子の玄孫」なんて、もう他人だ。随分前に、女戦士が言われていた「全然遠い人」とどっちが遠いだろうか。
「殺す気なんてないにゅ。だってそんな気あったらはとこ今喋ってないし、第一もっと上手くするから、はとこは自分が死んだのも気付けないって」
元気そうなので、さっきの緊張や反省は全て彼方へ放り投げてなかったことにして、グラスランナーはエルフに笑って見せた。あまりにあっけらかんと言い放ったグラスランナーに対し、エルフは暫らくぱくぱくと口をあけたり閉じたりしつつ何か言おうと努力したようだったが、やがて脱力したように肩をがっくりと落とし。
「それもそうだな」
と搾り出すようにして答えるにとどまった。


「で? 何の用だ」
「おしゃべりしよー」
「それだけのためにわたしはあんな目にあわされたのか」
呆れたようにエルフはグラスランナーを見る。グラスランナーはにぱりと笑って見せた。エルフはその全てを無視することに決め、再び体を横にする。拒絶のジェスチャーのつもりだったのだが、何を思ったかグラスランナーはエルフを下敷きにして折り重なるようにうつぶせになる。二階の窓から見たら、二人はちょうど十字に見えるだろう。
「何のつもりだ」
「俺のはとこに対する愛ー」
「いわんわ」
「じゃあ、憎しみー」
「更にいらんわ」
「ねーはとこー」
拒絶したのを軽く無視し、グラスランナーはエルフに話しかける。
「なんだ」
イライラしながらも返事をするあたりがエルフのお人よしな所だ、とグラスランナーは思いつつ、続ける。
「俺にだって限界ってのがあるにゅ」
「何の話だ」
「姉ちゃんとはとこのこと。姉ちゃんがかわいそうにゅ」
「言っただろう、お前も聞いてた通り、わたしはアレの思いは受け入れない」
「種族とか言い訳にせんといて、って俺も言ったにゅ」
グラスランナーはエルフの顔を見る。とはいえ、見えたのは顎くらいなものだった。しかし、くっついている分、エルフの鼓動はきちんと聞こえた。
少し、早くなった。
「種族は、……十分な理由になると思うぞ。いいことなんてないんだ。幸せになれない。お前は、クレアが好きなのだろう? 幸せになってほしいのだろう?」
「姉ちゃんが、はとこのこと好きでも、はとことくっついたら、不幸なん?」
「その時は良くても、後々は必ず」
「……俺ね、はとこのことも好きにゅ」
「さよか」
「はとこは気持ちを曲げるの平気なん?」
「……」
エルフは少し身を起こしてグラスランナーを見た。真剣な眼差しが、エルフを見据える。暫らくエルフはその瞳を受けて黙っていたが、やがて息を吐くようにして笑った。
「せいぜい長くても50年。その後の空白の長さを思えば、知らないほうがマシというものだ」
グラスランナーは返答を聞いて、失望の目をエルフに向ける。
「ダメだなあはとこは」
「ダメで結構」
開き直るエルフに、グラスランナーはそれでも食い下がる。
「本当に、エルフと人は、幸せにはなれない?」
「フィリスにも同じことを言われた」
「なんて答えたにゅ?」
「わすれた。……わたしは、わたしの都合だけしか考えてない、と言われたな。確か」
「実際その通りにゅ」
「だが、長く生きるのはわたしのほうだ。自分を優先しても良いだろうよ」
「残すのと残されるのと、どっちが不幸なのかなあ」
「どっちも似たり寄ったりだろ」
エルフはグラスランナーを押しのけ起き上がる。髪についた草を払い、大きくため息をついた。
「はとこー」
まだ寝そべったままのグラスランナーが、こちらを見上げる。
「何だ」
「姉ちゃんのこと、好き?」
「嫌いではない」
「にゅう」
グラスランナーは困ったような声を出し、勢いをつけて立ち上がった。風が心地よい。
「俺も姉ちゃん好き」
「知ってる。……お互い難儀なことだな」
「にゅ」
エルフの呟きに、グラスランナーが頷く。
グラスランナーは人間が好きで、その人間はエルフが好きで、そのエルフは好きなくせに答えるつもりがなくて。


不毛な話だ。


「はとこ、姉ちゃんを幸せにしたってよ」
「しつこいぞ、はとこの子よ。わたしでは無理だと言っているだろう。近い未来に確実に破綻するんだ」
「破綻しないかもしれないにゅ」
「そういう希望は持たないほうがいい。一瞬だけ幸せでも、その後不幸なら、それはやはり不幸だ」
「俺、それでもいいと思うんよ。一瞬でも、幸せなのには違いないにゅ」
「グラスランナーはそうだろうな。結婚して、子が出来て、その子がある程度成長したら一家離散なのだろう?」
グラスランナーは頷く。それは種族として当然の生き方だ。面白いことが世界にたくさんある以上、いつまでも同じところへとどまっているなんて無理だ。そして、その面白いことは、いくら家族でも同じように面白いとは限らない。だったら、それぞれがそれぞれの面白いところ目指して旅するのは仕方ない。
「エルフはそうではない。別れを前提にしない。一度誓ったならばそれは生涯続く。……人間は様々らしいが、あの窮屈な神のことだ、似たような考え方だろうよ。それならば、破綻が見えているものを追い求めることはしないだろう。愚かなだけだ」
「どうかなあ。よくわかんないにゅ。……姉ちゃんが、はとことのことを希望してるって明確にわかっても、はとこは受け入れないの?」
その質問に、エルフは長い時間黙っていた。眉を寄せ、少し不愉快そうな顔をする。グラスランナーがいい加減沈黙に耐えられなくなった頃、エルフが口を開いた。
「わからない」
長く考え、挙句結論は出なかったらしい。
「わかんない?」
「わからない」
エルフは頷く。
本当に、どうなるか自分で想像が出来なかった。
ただ感情的にぶつかってこられたなら、それは理性的にあしらって拒絶することは平気で出来ると思う。事実、一度はそうした。
そしてそれが、自分が彼女に出来る精一杯の誠意であると思う。
どう考えても、エルフと人が幸せになれるとは思えない。
だったら、最初から始めないほうがいいのだ。
考えは変わらない。
しかし。
もし、感情的ではなく。
ただ切々と理性的に、その思いを告げられたなら。
そのとき、自分がよろめかないなんて、断言できるものではなく。

「わからないな」
ふう、とため息をついたエルフを、グラスランナーはにやにやと見る。
「はとこ」
「何だ」
「俺ははとこの、そういうところが好き」
「何が言いたいんだ」
冷たい瞳を向けるエルフに、それでもグラスランナーは笑って見せる。


「それは秘密にゅ」

 


 



■今回の見所は、パラサのスイフリーに対するフライングボディプレスであり、あとは全て蛇足と言っても良いでしょう(苦笑)うはははは。

無駄に長くてごめんなさい。

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