泡だとかぽこだとか。時折ルージュとか。初めての方は「各カテゴリ説明」をお読みください。
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「クレアの気持ちは分かった。が、わたしはそれを受け取れない。それがわたしの答えの全てで、それ以外の答えの持ち合わせはない」
「私の今の問いかけには答えになりません」
「受け取る気持ちが無い以上、わたしの感情がどこに存在していてもそれは関係のない話だ」
「受け取っていただけないのはどうしてですか?」
「何度も答えたと思うが。エルフと人とは幸せになれないからだ」
「やってみないとわかりません」
随分前と同じ返答に、彼は内心苦笑する。
こういう展開なら、多分上手く諦めさせることが出来るだろう。
「分かる。なぜなら、幸せにしているエルフと人を見たことが無い」
「これから見るかもしれませんし、知らないところに入るのかもしれませんよ」
「その理論は証明不可能だから却下だ」
「では、貴方の言っていることも証明不可能ですよね?」
「……」
「それに、もしかしたら貴方と私がその最初かもしれません」
「違う可能性のほうが大いに高い」
「幸せになれないから、ダメなんでしょうか?」
切り口が変わった問いかけに、彼は少し戸惑いながら返答する。
「それ以外に何が?」
「私だって、そう子どもでは有りません。私が好きだからといって、貴方が私を好きであるとは限らないことくらいは分かります。ですから、貴方自身が私を嫌いなのであれば、それは仕方ないことですし、時間をかければ諦められる日もくるでしょう。でも、貴方は、幸せになれないからダメだと答えるだけで、私自身がどうである、とは答えてくれていません」
「……」
「幸せになれなくてもいいから、というのではダメですか?」
「どうせなら、幸せになるほうがいいじゃないか」
「どうしてエルフと人では幸せになれないんですか?」
「ちょっと考えれば分かるだろう。生きる時間が違う。どちらか一方だけがどんどん年老いていくというのは、残酷な話だろう。年老いていくほうは、全く変わらない相手に時間の隔絶を思い知らされる。そして変わらないほうは、変わっていく相手についていけないだろう。理性で分かっていても、感情はすぐには切り替わらない。変貌するのが女性ならなおさらだ。もし変わらないほうが気にしないと言っていても、果たして信じられるかどうか。女性というのは永遠に若く美しくありたいものだろう? 隣に何もしないでも変化しない奴がいるというのは残酷であり腹の立つ話だ」
「私あまり自分が年老いることに恐怖はないですけど」
「一般論だ」
「……私は、あなたがずっとそばに居てくれれば、それで幸せだと思えます。こういう考え方でも、エルフと人は幸せになれないでしょうか?」
まっすぐな瞳で、彼女は彼を見る。
どうしてそんなことを、ストレートに口にできるのだろう。
臆面も無く。
聞いているだけで恥ずかしさがこみ上げる。
そして同時に。
素直に嬉しかった。
……だからこそ。
彼はその質問に答えず、話を続ける。
「それ以外に、子どもの話もある。生まれるのはハーフエルフだ。エルフからも人間からも受け入れてもらえない、気の毒な種族。そうなるのを分かっていて産むのは罪悪ではないか?」
彼女はまじまじと彼を見た。その表情は、きょとんとしていると言ってもいい。
「あの」
「なんだ」
「一つ勘違いをされています」
「何が」
「もしも、ですけど。……貴方と私が結ばれて、子どもができたとしますよね?」
彼は彼女を見て頷いた。仮定の話なら、聞いても問題ない。
「生まれてくるのは、気の毒なハーフエルフじゃありませんよ」
「何を言ってるんだ?」
人間である彼女と、エルフである自分。生まれるのはほぼ間違いなくハーフエルフだ。
彼女の真意が分からず、彼は首を傾げる。
「生まれてくるのは、貴方と私に愛される、貴方と私の子どもであって、ハーフエルフなのはたまたまです」
彼は呆然と彼女を見た。ハーフエルフを「たまたま」で片付けられてたまるか、と思いもするが、それ以上に、単純にその発想の転換に驚いた。
「あー、そうだな」
思わず頷いてしまう。しかし、ここで言い包められる訳にはいかない。
「しかし、親がそう思っても本人がどう取るかは別だ。考え無しに気軽にそんなことを言うな」
「私が考え無しなら、なおさら、隣にいて私を止めてください」
彼女は彼の言葉に平然と答える。彼が相手の言葉を瞬時に予測し論を組み立てるのと同じように、彼女もまた彼の言葉を予測し、答えを考えてきたのだろう。
長い時間をかけて。
「それに、そういうのは嫌いですけど、子どもを産まないという選択肢もありますし」
「あー」
思考が追いつかない。
ただ、毒気を抜かれたのは確かだ。
「時間の問題は仕方ないですよ。その時どうであるか、なんてそのときにならないと分からないですから。私、小さい頃は自分が結婚したいという気持ちになるなんて思いもよりませんでしたし、もし、万が一そういう気持ちになるとしたら、同じファリス神官か、もしくは信者だろうと思ってましたから。だから、どうなるかなんて、今から考えても仕方ないんです。そう悟りました」
最後のほう、少し遠い目を一瞬したのは、気のせいにしておきたい。
神殿のエリートコースを転落して、こんな田舎で名代をする、なんて未来は想定していなかっただろう。
つまりはそういうことも含んで話しているに違いない。
「ですから、聞かせて下さい。貴方は、私のことをどうお思いですか?」
沈黙が長く続いた。
彼は大きくため息をつく。
コレは、多分何を言っても負けるのだろうと悟る。
そもそも、気持ちを捻じ曲げている時点で、負けは確定していたようなものなのだろう。
あの騎士は良く逃げ切ってるな、などと頭の片隅で思う。
「嫌いではない」
答える。
真っ直ぐに答えるのは癪に障るから、せめてもの抵抗を含めて。
「どうお思いですか?」
「嫌いではない」
再びの問いかけに、同じように答える。
彼女が眉を寄せる。真意を測りかねている、ということかもしれない。
「スイフリーさん?」
「嫌いじゃないといってるだろう」
彼女はいまだよく分からないという表情で、彼の言葉を聞いている。
「どういうことでしょう?」
「……」
彼はソファから勢い良く立ち上がる。そのままローテーブルに足をかけ、一気に彼女に近寄ると、その耳元に口を寄せる。
「好きだという意味だ。察しろ」
小声で言う彼の顔を見ようと、彼女は首をめぐらせる。
長い耳が、頬に当たる。その耳が熱かったので、彼女は彼の表情を見ることをやめた。
見る必要はない。
きっと彼は真っ赤になっている。
前触ったとき、彼の体温は低かった。
「お前の人生に、付き合ってもいい」
再び、耳元で声。
「多分、あと五十年くらいだ」
「貴方にとっては、きっと短い、一瞬でしょうね」
口に出し、その差を改めてかみ締める。
なんと言う隔絶だろう。
しかし、それで良いと自分はいったのだ。
「そうだな、一瞬だ」
その言葉に失望する。
一瞬だからと認めたのか。
どうせすぐに終わる熱病だ、と。
愕然とした心に、次の言葉が届く。
「……お前の一生なのにな」
少し寂しそうな声に、彼女は泣きそうになる。
小さく頷く。
寂しそうにしてくれるだけで、今は嬉しい。
「多くは望みませんから、今よりもうちょっとだけ、ここに帰ってくる回数を増やしてください。それから、必ずここへ戻ってきてください。……旅先で、死んでしまわないで下さいね」
ずっと言いたかったことを口にする。
「……善処する」
「それから」
彼女は苦々しい声で答える彼の体に腕を回して抱きしめ、それから小声でささやいた。
「テーブルを飛び越えるなんて、お行儀がわるいですよ」
「やかましい」
■前回の続きです。
先週アップしてか後半部分に手直しをちょっといれて、何か気付いたらとんでもない文字数になってました。
今回だけで3000字越えてますよ(苦笑)
と、言うわけで、次回が最終回です(今回じゃないんですよ)
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