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「助けてくれ」
彼のその言葉に、部屋の主であるエルフはあからさまに嫌そうな顔をした。
「何から」
一応聞くが、というような口調でエルフは言う。
「フィリスから」
「他所をあたれ」
「わたしとキミの仲ではないか」
「どんな仲だ。知らんわ。わたしを巻き込むな」
「フィリスが急にやる気を出したのは元はといえばお前がクレアさんとまとまったりしたからだろう! 責任取れ!」
「それは言いがかりだ。それに元はといえばアーチーがフィリスの相手をしないから、フィリスの矛先がクレアに向かい、結果こうなったのだ。単に巡り巡ってお前に戻っただけだろう」
エルフが面倒くさそうに答えている間に、彼はエルフの部屋に逃げ込む。
「……アーチー、本当に出てってくれ」
「お前は、助けを求める仲間を見捨てるのか!」
「フィリスもまた仲間なのだ。どちらにも肩入れしないだけだ」
エルフは答えて大きくため息をつきながら、がりがりと後頭部をかいた。
「アーチー、頼むから出て行ってくれ。次に助けを求められたら、助けることもやぶさかではないし、なんならフィリスに対する様々なことについて色々一緒に考えることもしてもいい。しかし今日はその……まずいというか」
エルフにしては歯切れの悪い言葉に、彼は首を傾げてみせた。
「スイフリーにしてははっきりしない言葉だな」
「はっきりしてるだろう、出て行けと」
エルフは一度ドアを見ると、諦めたように椅子に座った。相手をしてから放り出したほうが、結果的に早いと判断したのかもしれない。
「で?」
面倒くさそうに彼を見上げ、話を促す。
「フィリスに迫られた」
「いつものことだろ」
「明確に要求を突きつけられた!」
「いつものことだ」
「絶対、クレアさんを見てて思い至ったんだ」
「言いがかりだろう」
「お前はわたしを助けるつもりはないのか!」
ほとんど相手をするつもりはなく、とりあえず相槌程度の返答をするだけのエルフに、彼は遂に声を荒げた。しかしエルフはどこ吹く風で、彼の叫びにも「今日のところは持ち合わせてない」などと返答するだけだ。
「……お前、いつもに増して冷たくないか?」
「出てけというのに出て行かない客を見てイラついているんだ」
そこでエルフは大きくため息をつくと、図々しくもついに椅子に座った客人を嫌そうな顔で見た。不機嫌そうなエルフは、口を利くのも億劫だといわんばかりの口調で彼に告げる。
「……数分なら、話を聞く。ただし、一通り話したら出て行ってくれ」
「出て行ったら取って喰われる」
「喰われてしまえ、済し崩されろ。ここらで諦めるのも一つの道じゃないか?」
「お前、わたしを道連れにするつもりか」
「何の道連れだ」
「自分がまとまったから、他人もまとまればいいとか思ってないか?」
「個人的には他人がまとまろうがまとまらなかろうが、どうだっていい。そういう話にちょっかいをかけるのは面白いが、結論は知ったことではないし、第一お前とフィリスは今更だ」
頬杖をついて冷めた目をするエルフに、彼はこれはエルフの本心だろうと考える。自分だって、エルフと名代がまとまったときに、たいした感想は抱かなかった。
……まあ、多少エルフに関しては意外だったし、名代に対してわざわざ苦労をとるのか、と思ったりはしたが。
「フィリスのことは嫌いなのか」
唐突なエルフの問いかけに、彼は「苦手だ」と返答する。エルフは大した感情を見せず、「ふうん」と適当な相槌を打った。
「……お前は?」
思わず尋ねる。
「フィリスか? 嫌いではない」
エルフは表情を変えることなく答える。
「お前は当事者じゃないからなあ……」
思わずため息を漏らすと、エルフは不思議そうな顔をした。
「当事者として苦手な相手かもしれないが、アレだけ好かれるのは嫌な気はしないんじゃないか?」
「迷惑だ」
「ふうん」
冗談じゃない。
彼はエルフの問いかけに思いっきり首を左右に振る。苦手な相手に好かれても迷惑なだけだ。どうしてそのような問いかけになるのか、エルフの考えがさっぱり分からない。
「お前は?」
「何が」
「クレアさんから逃げてただろう? 迷惑ではなかったのか?」
「わたしが逃げていた理由と、お前が逃げている理由は、違う。迷惑ではなかった。逆に迷惑をかけないために逃げていたのだ」
「じゃあ、何故受け入れた?」
「何が?」
「彼女と……こ、恋人になったのだろう? 迷惑をかけないために逃げていたのなら、逃げ切ればよかったのではないか?」
どうして問いかける自分のほうが言葉につまらなくてはならないのだ、と思いつつ彼はエルフに尋ねる。
「……その質問は回答が難しい」
エルフは困ったような顔で言うと、暫らく考えをまとまるためか口を閉ざした。
静かな時間が暫らく流れる。
どうしてこんな話になっているのだろうか、と彼はコレまでの会話を少しさかのぼって考えてみたが、結局よく分からなかった。
「しょうもない言い方をすれば、絆されたというだけかも知れん。悪い気はしなかった、というのも本当だ。逃げ切れないと思ったというのもある。最初はしらばっくれて結論をださないつもりだったんだが、正面からああも真面目に言われてしまってはね。……ダメだな、やはり一言ではまとまらない」
そこでエルフは困ったような顔で笑った。
ソレが彼には意外だった。もっとこう、苦々しい顔をするものだと思っていたのだ。
なのに、あの顔は。
「……まあ、なんだ。色々懸念材料はあるが、最期のときに側にいてやるのも悪くはないさ」
彼はただただ驚いて、エルフをまじまじと見る。
しかしエルフは答えた後、手をぱちんと一度大きく叩くと、彼を見る。その表情は既に先ほどまでとは違い、いつもの平静さを取り戻している。
「話は終わりだ。わたしはわたしの立場と考えを答えたことだし、あとはアーチーが好きに解釈すればいい。それより出て行ってくれないか。本当に、次の機会にはかくまってやるし対処を一緒に考えんでもないから」
「それが今日でもいいだろう」
何かもやもやとしたものを感じながら、彼がエルフを見たときだった。
ドアが軽やかにノックされる。
エルフは非常に苦い顔でドアを見た。
彼もまた、ドアを見る。彼女に見つけられたのかもしれない。
「……あいている」
エルフの声に、ドアが開く。
来客はきょとんとした顔で彼とエルフを見比べ、何度か瞬きをした。それから表情を引き締める。
「すみません。お仕事のお話でしたか? 席をはずしたほうがよろしいでしょうか」
エルフは困ったように顔を伏せ、それから大きくため息をついた。
「……いや、かまわない。アーチーとの話は終わった。お前が席を外す必要はない」
エルフの手招きに、来客は少し戸惑った顔をして、それからぎくしゃくとした動きでエルフのほうへ近寄る。手を伸ばせば届く、という距離まで近寄ったところでエルフが手を伸ばし、来客を引き寄せた。
「と、いうわけだから、アーチー。出て行け」
引き寄せられたほうの来客は、頬を染めつつも、申し訳なさそうな顔を彼に向ける。流石にこの状況で居座るほど彼も鈍感ではない。彼女の脅威は拭い去れないものの、部屋を出る。
エルフの部屋を出て暫く歩いて、彼はため息とともに立ち止まる。
部屋への来客が、一瞬誰だか分からなかった。
いや、分かったが認められないというか、意外と言うか。ともかく、彼の知った顔ではなかったという表現が一番正しかったように思う。
何のことはない、エルフの部屋へやってきたのは名代の神官だ。取り立てておかしなことではない。彼等は恋人同士なわけだし、不思議ではない。
しかし、彼の知っている名代は、前に比べれば幾分柔らかくなったとはいえ、厳しい顔つきをした女性である。先ほどエルフの部屋へやってきた彼女は、すぐに表情を引き締めたとはいえ、彼が知っている彼女とは全く違い、とても柔らかく可愛らしい顔つきをしていた。
恋人のもとへやってくるとき、ああも表情が変わるものなのだろうか。
あのエルフですら、恋人を語るとき照れたような優しい顔をしていた。
(フィリスもわたしが認めてしまえば、可愛らしい顔つきになるのだろうか)
ふと魔術師の事を思い出し、そう考え、慌てて頭を左右に振る。
(ないないないない)
湧き上がった考えを即座に否定すると、彼は足早に歩き出す。
とりあえず、今日は仕事は諦めて寝てしまうことにした。
オマケ。
「アーチボルトさんと何をお話だったんですか?」
「ん? ああ、ノロケ」
「……誰が誰に誰の?」
「秘密だ」
■二話ですー。
ちょっとだけ纏まったスイクレなども公開しつつ。
さて、初日が終わりました。
ここから本格的に動かしていかねばー。予定通り上手くいくかなー?
「わざわざ言ってもらわなくても、あんたの言うことはわかってる」
その言葉はじわりじわりと、私の中を広がっていく。
静かな湖に、小さな小石を投げ入れたときに広がっていく波紋のように。
波のように。
ただ静かに。
「この目が悪人の目に見えますか?」
「自らの正義のためには、人の作った法をあえて破らねばならぬこともあるのだ」
その波紋はいくつもいくつも私の中に広がっていく。
共鳴して大きくなる。
静かだった湖面に、波はどんどん広がって、重なり合っていく。
確かにそれは、最初とてもかすかなものだった。
けれど、かすかでも、確実に存在した。
その小さな波に押されて私は行動した。
きっかけは小さなことだったかもしれない。
どうして助けようと思ったんだっただろう。
「わたしの帰りを気長に待っていて貰おう」
そう。
かすかな、
でも確実な波がそこにあった。
それは人にはかすかでも、
私には衝撃だったのかもしれない。
声が耳の中で反響する。
それはいつか行った海の、潮騒のように続いていく。
いつしか、それが当たり前になる。
悪い気持ちではない。
冷たく静かだった湖面は、今は波立ちざわめき、
でも穏やか。
人はこの心の波立ちに、恋という名前をつけるそうだ。
■クレアさんです。
前々から書いてみたいなあと思っていた話を書いてみたのですが、
違う!
こんな甘い話にするつもりは毛頭なかった!
というかこの話、別にクレアさんじゃない人で書いてもよかったのでは?(我に返るの、遅すぎ!)
平坦な街道を一週間ほど歩いていくと、やがて小さな村にたどりついた。都から離れているといっても、ファリス信仰はしっかりと根付いているらしく、村の真ん中には大きくはないとはいえ、しっかり神殿が存在し、その建物を中心に村は発展している。
遠くに見える城が、目指すストローウィック城で、その大きさからまだ暫らく歩かなければたどりつかないだろうことが想像できる。
村には小さな酒場はあるが、冒険者が泊まれるような宿はない。そもそも、あまり冒険者がやってくるような土地ではないのだ。
農業を中心とした穏やかな村は、周りに遺跡もなければ洞窟もない。ファリス信仰が根付いているとはいえ、全く揉め事がないわけではないが、基本的に穏やかなものだ。大体、ここを治めているのはアノスの英雄である騎士で、わざわざこの場所で厄介ごとを起こそうとするような者は居なかった。現在はその領主は城を留守をしているが、代わりに城に常駐している名代がこれまた腕の立つ騎士で、しかもファリス神官でもあることから、困ったことがあれば城に直訴に行くというスタイルが確立しており、村は平和そのものだった。冒険者が迷い込んできたら、村長の家に泊めるか、もしくは城に泊まってもらうかするようにしているため、冒険者と村人たちにあまり摩擦も起こらない。
平和そのもの、という村である。
「まあ、つまりわたしの治世がうまくいっているということだ」
城に帰ってからの食糧を調達するため、暫らく村にとどまっている間に、アーチボルトは村と城の関係性をオーファンの冒険者たちに説明した。
「わたしの治世って……実際に働いてるのはクレアさんじゃない」
呆れた声をだすのはレジィナだ。
「でも、大体の指示はアーチボルトさんがしてくれますし」
クレアは謙遜するでもなく、ただ事実を述べる口調で話す。
彼らは現在、村の中心に近い酒場で休憩を取っている。村人たちは久々に帰って来た領主や名代の前に列を作り、それぞれ挨拶をして戻って行く。時々、採れたての野菜や、自家製の酒を置いていくものも居る。中には要望や希望を述べるものもいたが、その要求も大して難しいことではなかった。
「愛される領主様っていうのも大変だなー」
ヒースは休む間もなく村人たちの話を聞いているアーチボルトとクレアを、頬杖をついて見守る。微妙に、クレアに話をしにいく村人のほうが多いような気がする。名代としてずっと城に居るクレアのほうが、村人たちにとっては馴染み深いのかもしれない。もしかしたら、領主だと思われているんじゃないだろうか、と思ったがそれは言わないことにした。
村の人間の挨拶なども一段落して、酒場が少し静かになった頃、ようやく食糧を仕入れに行ったメンバーが戻ってきた。
「人数が人数だから、量も多いし、馬車借りてきたけど、大丈夫だった?」
「構いませんよ。戻しに行けばいいですから」
フィリスの質問にクレアは答えると、窓の外を見た。小さな馬車が止まっている。アレのことを言っているのだろう。
「では、休憩したら参りましょう」
■短い間ではありましたが、無事「アーチーを活躍させようの会」は活動を終えました。
皆様ご協力感謝します。
会長にはお褒めのことばをいただきました。
彼は逃げていた。
騎士であれば、逃げるという行為は推奨されないかもしれない。
が、彼は冒険者だった。
生き延びるために逃げることが、不名誉であるとは思わない。
必要ならば、逃げることは恥ではない。
そう自分に言い聞かせ。
彼は逃げていた。
考えてみれば、特に逃げる必要は無かったような気がするが、あの時は逃げるしかないと思ったのだ。
とはいっても、駆け足ではない。姿はあくまで歩いている。ただ歩幅が大きくやたら早足ではある。
長い廊下を、彼はともかく歩いていた。
窓の外は暗く、夜も随分更けてきたことがわかる。立ち止まれば、空に瞬く星の美しさに、もしかしたら気付けたかもしれないが、今の彼にそんな余裕はない。
追っ手の足音が聞こえないのが、彼に多少の安心感を与える。しかし気をぬいていられない。いつ、どこから、どういう邪魔が入るか分かったものではないからだ。
彼が現在居るのは、彼の家でもある地方の小さな城。
その自分の家で、彼は何から逃げているのかというと、つまりは仲間の女魔術師から逃げているのだ。
事は半刻ほど前にさかのぼる。
久々に帰り着いたわが家で、彼は名代から様々な連絡事項を聞き、それを元に書類に目を通していた。
執務室はどっしりとした机とそれに見合った豪華な椅子が置いてあり、そこに座り書類に目を通していると、気持ちが引き締まる思いがした。
小さいとはいえ、彼は領地領民を抱える領主でもある。
故あって城に長期滞在は出来ないが、滞在している以上はきちんと働こうという意思があった。もともと、事務処理であるとか、高い地位、などが嫌いではない彼である。城に戻り、血なまぐさい冒険をしばし忘れて「領主仕事」に精を出すことはとても好きだった。
名代が部屋を辞してから、暫らくすると仲間の女魔術師が部屋に入ってきた。彼女もまた、城の所有者であるので入室を拒む手立てはない。基本的に彼が仕事をしているとき、彼女が彼の邪魔をすることはないので放っておくことにしている。
彼女のほうもそれは理解しているので、邪魔することなく来客用のソファに半ば寝そべるように腰掛けると、黙って本を読み始めた。
沈黙は長く続いた。
が、いつまでも続くものではない。
「ねえ、アーチー」
彼女の声を、彼は無視する。気付かなかったといえばいい。書類に目を通しているのは本当だし、少々込み入ったことが書かれていて、気を抜けないのも事実である。
「ねー、アーチー」
再びの声も無視すると、彼女は暫らく口を開かなかった。
彼は、彼女の、魔術師としての力を評価している。
自分が挫折した道を(先天的な何かが決定的に欠落していたのか、彼は魔術を身に着けることが出来なかった)彼女は確実に進み、極めつつある。まだオーファンに居るという魔女ほどではないのだろうが、いつか彼女もその高みに到達できるのではないか、と思う。
しかし。
その人物像を、どのように評価したらよいのか、彼にはわからない。
冒険者仲間として知り合ったときは簡単だった。彼女は家出した放蕩娘であったし、魔術の力も目を見張るようなものは何もなかった。彼も駆け出しでたいしたことはなかったが、その世間知らずな発言も伴ってとりあえず、評価するほどの人物ではないと思っていたのだ。
更に言えば、家出した関係か、ともかく彼女はお金と地位にこだわっていた。どちらも実家に持ち合わせがあった彼は当然のように狙われた。もともとそういう方面に恵まれていた分、お金や地位に執着することはあまりスマートではない、という感覚もあって、彼女のガツガツした部分には閉口した。それを知ってか知らずか、彼女は湯水のように「好き」という言葉を使い、事あるごとに話を恋愛感情につなげた。ともかく、彼にとって彼女は非常に扱いにくい存在であった。
やがて冒険者として力をつけ、少なくとも彼女は貧乏ではなくなった。地位も、ないわけではない。今や名の通った冒険者であり、魔術師である。
もう彼を狙う必要は全くないはずなのである。
が、彼女は今も彼についてくる。
一度は見放されたはずなのに、だ。
全く、複雑怪奇なものである。
「ねえ! ってば!」
遂に彼女が大声を上げ、彼とて顔を上げないわけに行かなくなった。仕方なく思考をきりあげ書類から目を離し、彼女のほうを見る。
「何だ」
しぶしぶ返事をすると、彼女は彼を見た。
「欲しいものがあるの」
「自分で買え」
ここで不用意に「何が?」と聞かなくなっただけ、彼もいろんな意味で成長したといえる、かもしれない。
「買えないものなの」
「ではわたしにどうしようもない」
「キスして」
彼の返答など聞こえなかったかのような顔で彼女は言う。
彼は勢い良く椅子から立ち上がると
部屋から飛び出した。
■不定期連作と言うことでひとつ。
ラブシックほどは長くないかもしれません。過度の期待はご遠慮ください(苦笑)
泡ぽこが終わったらどうしようねえ、とか言ってる今日この頃ですが、友人のところへ「泡さんたちの長い話」を送ることになりそうなので、もしかしたらそれをアップすることになるかもしれません。ならないかもしれません。
……ごめんなさい、タイトル付け忘れてたことにほぼ一日たって気付きました。
今つけました。ごめんにゅ。
「言っておくが、今のは警告だぞ。どう少なく見積もっても、非がそちらにあるのは明白だ。しかるべき訴えをすれば、この国の神殿にお前を捕まえさせることなんか簡単なんだぞ。そのあたり全部を不問にしてやるというのに、何が不満だ」
「はとこ、もっと逆撫でしない言い方しなきゃ」
後ろでパラサが呆れた声を出したが、スイフリーは黙殺する。
「まあ、決定権はアーチーにあるんだし、ルール違反がないならわたしはこれ以上何もしない」
「はとこだってルール違反好き……」
「わたしはちゃんとルールには従っている。……ルールの範囲内でできる最大のことをしているだけだ。盲点があればついたりもするが」
スイフリーはパラサに返答した後、アーチボルトを見る。
「……あとは任せる」
アーチボルトはその言葉に頷く。
スイフリーはそれなりに気を悪くしている。別に利益がないからではない。彼はあれで仲間や知人が傷つくことを嫌う。マーマンのブルボンの時だってそうだった。今も多分、それで不機嫌なのだろう。
「別に、わたしは何度戦っても構わないが、君が勝つ可能性はゼロに等しいと思う」
アーチボルトは戦士を見据えて静かに話しかける。
「別に驕って言うわけではないが、君の実力ではまだわたしには勝てない。君は体格もいいし、筋だって悪くない。きっと経験を積んで、運に見放されなければ、もっと強くなるさ。が、今のままではこれ以上試合をしても意味はない」
言うと、剣を一度振る。ひゅ、と鋭く風を切る音とともに、刀身の血が飛ばされてなくなった。それを確認すると、アーチボルトは剣をしまう。
「同じ武器と防具でも、きっと試合にはならない。君は冒険者なのだろう? 実力を把握するのも重要だぞ。はっきり言って、今みたいに誰彼構わず噛み付いていたら、切り捨てられても文句は言えない」
「俺を切り捨てられたっていうのか?」
「そうだ」
アーチボルトは即答すると、大きくため息をつく。
「戦いの最中にわたしが考え事をしてるのには気付くくせに、どうして簡単なことから目を背ける」
戦士は不機嫌そうな顔をしてアーチボルトを見上げた。が、言葉は出ない。
「まあ、暫らくの間は、まだアーチボルトのほうが強いだろうの。ただ、確かにお前さんは腕は悪くない。普通に修練すれば数年でいい試合くらいはできるだろう」
ガルガドはそういうと、戦士にキュアウーンズをかける。折れていた腕が元に戻り、戦士はそれに対して短い礼を述べた。
「もう一回勝負できないか」
「いつ」
「今」
諦めが悪いのは、冒険者としてはいいことなのかもしれないが、実力差を分かっていてもなお挑むのは、単純におろかだ。
思わずため息をつく。
「勝負はしない。勝負にならないからだ。悪いが、今の君では多分ここに居る戦士の誰にも勝てない。だが、君がもう少し戦士として力をつけたら、再戦することは約束しよう。その日がきたと思ったら、いつでもわたしの城を訪ねればいい」
「アーチーだけの城じゃないですよ」
「みんなの城だよ」
「いい話をしているときに茶々をいれるな! ……ま、ともかく、普段わたしは城を不在にしているが、そのときはわたしを城で待てばいい。クレアさん、かまわないだろう?」
「問題はありません。彼が待てるというのであれば、その間は滞在していただいても大丈夫です。……アーチボルトさんがお戻りまで、私がお相手しても構いませんし」
真面目な声でクレアが答える。戦士は少しむっとした顔でクレアを見たが、彼女は特別気にした様子はなかった。
「言っておくが、彼女も相当強い。……今のままじゃ君は勝てないから、そういう喧嘩を売るような顔はやめたまえ」
アーチボルトは苦笑すると、戦士をもう一度じっと見て、それから口を開く。
「そういえば、名前を聞いていなかった」
「サフィレスタスだ。いずれ大陸中に名を馳せるから、覚えておけ」
「努力しよう」
その返答に、戦士はむっとしたような顔をして、何かを言おうと口を開きかけたが、いきなり首根っこをつかまれ、言葉は発せられなかった。
「本当に、本当にご迷惑をかけました! うちの馬鹿にはあとで懇々と説教しておきます。心の広い、大人な対応をしてくださいまして、本当にありがとうございました」
彼の仲間で、ずっと後ろで見守っていた髪の長い女性が、戦士の頭を無理やり下げさせながら、同じようにぺこぺこと頭を下げる。
「いや、かまわんよ」
唐突な出来事に軽く面食らいながらも、アーチボルトは何とか返答する。
「他の仲間の皆様方にも、ご迷惑をおかけいたしました! 戦神の神官様も、平等な審判をありがとうございました!」
「礼なんて言わないでもいいじゃないか!」
「馬鹿かお前は! 迷惑かけたら謝るのが筋ってもんだ!」
女性は戦士の後頭部を思いっきり殴ると、再びアーチボルトに頭を下げる。
「もう、本当にあとでこの馬鹿は折檻しておきますから」
「や、程ほどにしておいてやってくれ」
後頭部を抱えしゃがみこんだ戦士に軽い同情を覚えながらアーチボルトは引きつった笑顔を向けた。
■友人が傷つけられたら追っ掛けていくってのがエルフの習性だってスイフリーが1巻で言ってたのでああいう感じにしてみましたが、なんかすげぇ嘘くせえのはなんだろうね。
■どうでもいいはなし。
戦士の名前は友人が付けてくれました。サフィレスタスくんです。
どうでもいい話としては、後から出てきた髪の長い女の子が、パーティーリーダー。
以下、軽い設定。
レスタスくんは専業戦士。レベルは4。筋力15くらいを想定。
単純なお馬鹿さん(知力も低い)で、成り上がるのが夢。
女の子は筋力18くらい。拳で語る神官戦士。生まれは悪党で口は悪いが、仁義に厚い。